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だって僕はNPCだから 2nd GAME  作者: 枕崎 純之助
第五章 『魔獣使いキーラ & 暗黒巫女アディソン』
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第1話 闇の巣窟

「……ここは」


 閉じた目蓋まぶたの向こう側に光を感じて僕は目を開けた。

 ぼんやりと視界の中でいくつもの光が浮かび上がっていた。

 ようやく焦点が定まってきて、僕はそれがやみの中に浮かぶ無数のモニターであることを理解した。

 そして僕は自分が冷たい地面の上に横たわっていることを知った。


「うぅ……僕は何を……」


 ゆっくりと身を起こし、周囲を見回す。

 そこは窓のない部屋だった。

 部屋といっても下は固い土で壁も岩肌だったけれど、そこには作業するための机やソファー、そして何かは分からないけれど大小さまざまな機械がいくつも置かれている。

 僕は何でこんな場所にいるんだっけ……。


 なめらかな岩肌の壁にはそこかしこにモニターが設置されていて、さまざまな映像が映し出されていた。

 それは砂漠都市ジェルスレイムの各所であり、大通りはもちろん、僕が歩いた裏通りや懺悔主党ザンゲストの科学者ブレイディと会ったあの喫茶店などが映し出されている。

 そ、そうだ。

 僕は双子の作り出す奇妙な魔法陣の中に吸い込まれて……ジェネットは……双子と戦っているジェネットはどうなったんだ?

 

 無数のモニターに映し出されているのは大半がジェルスレイムの街中や外の砂漠の様子だったけれど、その中に1つだけ地下のものと思しき映像が映っている。

 それはさっきまで僕がいた地下の大広間だった。

 大広間ではジェネットが双子を相手に奮戦していた。

 とらわれていたNPCたちは既に全員が脱出していて、ブレイディと数名の男性たちを残すのみとなっている。

 彼らはジェネットに加勢しようとしたけれど、ジェネットはそれを手で制して彼らに逃げるように伝えた。

 たしかに懺悔主党ザンゲストの男性たちは体格のいい人達だったけれど、双子とジェネットとの激しい戦いに参戦できるほどのレベルではないみたいだ。

 自分たちでは足手まといになると理解した彼らはブレイディの薬液で再びフェレット化すると小さな穴から脱出していった。

 

 良かった。

 とりあえずNPCたちの救出は成功したみたいだ。

 そしてジェネットは魔力をかなり消耗してしまっているけれど、まだまだ元気に双子と戦っている。

 キーラは得意の中位スキル・爆弾鳥クラッシュ・バードを駆使してジェネットに攻撃を仕掛け、それを華麗な身のこなしで避けるジェネットにアディソンが接近戦で挑みかかる。

 宙を飛来する赤い爆弾鳥クラッシュ・バードが次々と爆発して爆風が舞い上がる中、ジェネットは懲悪杖アストレアを振るい、吸血杖ラミアーを振りかざすアディソンと打ち合った。

 

 猛烈な勢いで攻め立てるアディソンに対し、ジェネットの動きは実に見事だった。

 アディソンの振るう吸血杖ラミアーの力をぐように懲悪杖アストレアで受け流し、相手の力を利用して杖裁きのみならず足技で反撃に転じる。

 アディソンが猛然と攻勢に出ているように見えるけれどジェネットに対して有効打は与えられず、逆に的確なジェネットの反撃を受けるアディソンのライフが小刻みに減っていた。

 

 一方でジェネットは中距離攻撃を続けるキーラの動きにも注意を払っていて、キーラが爆弾鳥クラッシュ・バードを放とうとすると、巧みにアディソンと体を入れ替えてキーラのねらいを外す。

 アディソンを巻き込む恐れがあるためにキーラも迂闊うかつ爆弾鳥クラッシュ・バードを放てなくなった。

 双子はともに苛立って声を上げた。


「チッ! めんどくせえ尼僧だな!」

忌々(いまいま)しい! 実に腹立たしい! 神の犬風情(ふぜい)が!」


 2対1でも劣勢を感じさせないジェネットの戦いぶりに僕は思わず興奮を覚えた。

 そうだ。

 ジェネットは神聖魔法だけでなく、身体能力も相当に優れたキャラクターだ。

 肉弾戦でも十分に戦えるんだ。

 そしてジェネットに気負いや油断は微塵みじんも感じられない。

 今のジェネットならそう簡単にやられることはないだろう。


 僕はジェネットの戦いを映すモニターから視線を転じた。

 そのすぐ近くのモニターにはオアシスが映し出されていて、そこで戦うミランダの様子が一望できたからだ。

 さっき見たときまでミランダを囲んでいた約30人ほどのNPCたちの勢いはすっかり衰え、その動きが鈍くなっていた。

 そのためミランダが呼び出した魔族タイプの魔神たちを相手に苦戦を強いられている。

 NPCたちの動きがさっきまでと全然違う。

 何があったんだ?

 

 その様子に僕と同様に眉を潜めていたミランダだったけれど、この機を逃すまいと闇閃光ヘル・レイザー黒鎖杖バーゲストの一撃で次々とNPCたちを葬り去っていく。

 するとそれまでミランダの周囲に壁のように群がっていたNPCたちが減り、そこに隙間すきまが生じる。

 これを活路と見たのか、生き残っている8人の高レベルプレイヤーたちがミランダに殺到した。

 ミランダは一転してその目に殺気を宿らせ、これに応戦する。

 8人は全員がレベル50超えの実力者たちで、ミランダは気迫を込めて彼らを魔法で攻撃し、相手の攻撃を黒鎖杖バーゲストで受け止めた。

 

 だけど8人の腕利きを同時に相手にするのはミランダでも容易なことじゃない。

 8人のうち3、4人は闇閃光ヘル・レイザー黒鎖杖バーゲストの打撃で押し返したけれど、残りの4人に斬りつけられてミランダは大きなダメージを負ってしまう。

 それでもそこからがミランダの本領発揮だ。

 

 ライフが残り半分を切ったミランダの緊急モードが発動する。

 彼女のステータス・ウインドウに【解禁】の文字が躍り、第四のスキルである特殊魔法・死神の接吻(デモンズ・キッス)を放てるようになる。

 当然、ミランダは容赦なく死神の接吻(デモンズ・キッス)を放ちまくった。

 魔力が無尽蔵となっている今だからこそ出来る荒技だ。

 彼女の手から放たれた漆黒の霧でかたどられたドクロが次々とNPCやプレイヤーたちを飲み込んでいく。

 約3分1の確率で相手を即死させる恐怖の魔法の連発に、その場は狂乱状態に陥った。

 砂漠のオアシスが大きなどよめきと阿鼻叫喚あびきょうかんに包まれる中、ミランダは嬉々(きき)とした表情で声を上げる。


「どんな腕自慢でも運次第であの世行きよ! 死神に首を刈られる不運な奴は誰かしらね!」


 ミランダは実に楽しそうに伝家の宝刀である死神の接吻(デモンズ・キッス)を連発した。 

 彼女の言葉通り、高レベルプレイヤーたちが漆黒のドクロに飲み込まれて理不尽にも即死していく。

 一度ドクロをすり抜けた人もすぐに次のドクロに飲み込まれ、二重三重の死の網にからめ捕られて続々とその数を減らしていく。

 

 すごいなミランダ。

 ちょっとズルいくらいの強さだ。

 この戦いを見ている人達がリアルタイムで書き込むコメント欄には様々な意見が飛び交っている。


【魔力無尽蔵とか、これミランダに有利すぎるでしょ】

【いやいや。NPCも合わせて150人がかりでたった1人を倒せないとかプレイヤー側が情けないわ】


 そうした賛否両論が渦巻うずまく間もミランダは容赦なく死神の接吻(デモンズ・キッス)を乱れ撃っているんだけど、先ほどまで及び腰に見えたNPCたちがここにきて逆に臆することなくミランダに突っ込んでいく。

 そして次々と死神の接吻(デモンズ・キッス)餌食えじきとなっていく。

 ふ、不自然な動きだ。

 彼らはやっぱり操られているんだな。

 でも双子は今、ジェネットと交戦中でNPCたちを操る余裕なんてないはずだけど、今も何者かが操作しているように見えるのは、あらかじめこうなるようにプログラミングされていたということだろうか?


 ……ん?

 そこで僕は先ほどオアシスに現れたばかりのアリアナが、戦いの中心となっているオアシスから少し離れた場所にある建物の屋根の上からじっと戦いを見守っていることに気が付いた。

 彼女は戦いに参加しようとはせず、微動だにしないまま戦闘の様子を見つめている。


 姿はそっくりだけどコピーの彼女はやはりアリアナらしくなく、戦いを見つめるその目もひどく冷淡に感じられた。

 まるで高いところから監視しているような……ハッ!

 もしかして彼女がNPC達を操っているんじゃ……。

 そう疑った僕だけど確信は持てないまま、NPCたちは無謀な突撃を敢行して全員が死神の手でその命を奪われてしまった。


 戦局はいよいよ終盤を迎えていた。

 これでNPCたちはアリアナを除いて全滅し、プレイヤーも残すところ1人だけとなった。

 最後に残ったそのプレイヤーは屈強な男で、全身を耐魔法のよろいで固めた重戦士だった。

 彼は魔法攻撃の威力を半減させるよろいや盾を身に付けているため、ここまでの戦いでミランダの闇閃光ヘル・レイザーをたびたび受けてもしぶとく生き残っていたプレイヤーだった。

 でも、耐魔法の効果はあくまでもダメージに対してのものであり、死神の接吻(デモンズ・キッス)のような即死魔法に対する回避確率を上げる効果はない。


「暑苦しいよろい男ね。さっさとくたばりなさい!」


 そう言うとミランダは死神の接吻(デモンズ・キッス)を放つ。

 重戦士は避ける間もなく直撃を浴びるけれど、彼の命は奪われなかった。

 失敗だ。

 ミランダは舌打ちをすると第2射、第3射を放つ。

 それでも重戦士はそのままミランダに突進し続け、第2第3のドクロに飲み込まれるも、立て続けに死から逃れてみせた。

 

 約3分の1の確率で相手に死をもたらす死神の接吻(デモンズ・キッス)だけど、それはあくまで確率の話だから、こういうこともあるんだ。

 第3射が失敗に終わったことで、重戦士とミランダの距離は完全に詰まった。

 自分の間合いとなった重戦士は、ミランダをに向けて、手にした巨大な斧を振り上げる。

 

「もらったぁ!」

「フンッ。甘い!」


 ミランダはそう言うとニヤリと笑みを浮かべる。

 途端に重戦士の足元から無数の黒い手が伸びてきて、その体をがんじがらめにした。


「ぬ、ぬうっ!」


 ミランダの中位魔法・亡者の手(カンダタ)だ。

 重戦士は無数の黒い手に体中を押さえられて、身動きが取れなくなる。

 

「見てるだけで暑苦しいそのかぶと、脱いじゃいなさいよ」


 不敵な笑みを浮かべてミランダがそう言うと、亡者の手(カンダタ)の手がよってたかって重戦士のかぶとを脱がせてしまった。

 いかつい素顔をあらわにされた重戦士の表情が引きつる。

 そんな彼の顔に向けてミランダは容赦なく闇閃光ヘル・レイザーを打ち放った。

 額を打ち抜かれ、重戦士は白目をむいてガックリと膝をつき、前のめりに倒れてゲームオーバーとなった。


「一丁上がり。これでプレイヤーは全滅ね。残りは……」


 そう言って手をパンパンッと打ち鳴らしたミランダは前方を見据え、少し離れた建物の屋根の上から見下ろしているアリアナをキッとにらみつける。


「そこで高みの見物をしている魔道拳士! 降りて来なさい。お仕置きの時間よ」


 そう言うとミランダは手招きをしてみせた。

 これを見たアリアナは建物の上から大きく飛び上がり、オアシスの岸辺に立つミランダの前方に舞い降りたんだ。

 やみの魔女ミランダと魔道拳士アリアナ。

 灼熱の太陽が照りつける砂漠のオアシスで、2人の少女は三度みたび対峙することになったんだ。

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