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だって僕はNPCだから 2nd GAME  作者: 枕崎 純之助
第三章 『光の聖女ジェネット』
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第3話 双子の素性

 ジェネットが呼んでくれたトラブル・シューターのアビーはミランダの治療を快く引き受けてくれた。


「はいは〜い。お仕事承りましたよ~。少々お時間いただきますね~」


 そう言うとアビーはミランダの体に顔を近づけ、その鼻でクンクンとにおいをぎ始めた。

 そうか。

 犬族だからその抜群の嗅覚きゅうかくを使って不具合を見抜くってことか。

 アビーはミランダの全身をくまなくぎ回ると、腰を上げた。


「ここからは殿方はちょっと席を外してくださいねぇ〜」


 気さくな態度でそう言うとアビーはミランダの頭の上に両手をかざした。

 するとアビーの両手から赤い光が照射され、ミランダの体を包み込んでいく。

 途端にミランダの着ている深闇の黒衣(ヘカテー)が消えて彼女は下着姿になってしまった。


 はっ?

 ちょっと何コレ?

 あまりにも突然のことに驚く僕の首をジェネットがつかみ、グイッと無理やり自分のほうへ向ける。


「見てはいけません!」

「あぐぅ!」


 激痛っ!

 首に激痛っ!

 ちょっとジェネットさん。

 それは殺し屋が標的の首をひねって殺す時の暗殺技ですよ(泣)。


「乙女の着替えを見てはいけませんよ。アル様は私を見ていてくだされば良いのです」


 そう言うジェネットの顔には満面の笑みが広がっていて、それが返って怖かった(汗)。


「は、はひっ」


 それから僕はジェネットに連れられて再び自分の宿直室に戻った。

 アビーによるミランダのフィジカルチェックは少し時間がかかるので、とりあえず僕らは宿直室で待機することにしたんだ。


「ところでアル様。その腕輪はどうされたのですか?」


 部屋に入るとジェネットは僕の左手首にはまっている黄色いIRリングを指差してそうたずねてきた。


「ああ、これ。ミランダがジェルスレイムのお店で景品として当てたんだけど、いらないからって僕にくれたんだ。これを装備していれば僕でもミランダやジェネットの戦いの役に立てるかもしれないんだよ」

 

 そう言って僕はIRリングが回復アイテムを不可視エネルギーに変えて少し離れた場所にいる仲間を回復することが出来るという効能を持つことをジェネットに伝えた。


「なるほど。それは便利なアイテムですね。それにしてもミランダはあの手この手でアル様を手なずけようと躍起になっているみたいですね」

「え? い、いや。単にいらないからくれただけだと思うけど……」


 僕がそう言うと何故かジェネットはハァ〜とため息をついた。


「アル様。ミランダが起きていたら今ごろ噛みつかれていますよ。まったく。少しミランダに同情します」

「えっ? 何で?」

「いえ別に」


 そんなことを話していると、ジェネットのメインシステムにある人からのメッセージが着信した。

 ジェネットは受け取ったメッセージの中身を確認すると僕を見る。


「我が主からの連絡です。あの双子の素性を調べてもらいました」


 神のしもべたる聖女ジェネットの主は文字通り神様だ。

 神様には現在、例の双子のことを調べてもらっている。

 双子の姉妹。

 姉の魔獣使い・キーラ。

 妹の暗黒巫女(みこ)・アディソン。

 エネミーNPCであるこの2人は最近、ちまたを騒がせている。


 プレイヤーの使うキャラクターをNPC化させるシステムを推進する彼女たちのクラスタはここのところ、このゲーム内での最新トレンドだった。

 ジェネットは神様から受け取った資料データを僕のメイン・システムにも送ってくれた。

 双子の写真付きの資料を見る僕にジェネットは言った。


「この2人、元はプレイヤーだったようですね」

「え? そ、それじゃあ……」

「ええ。NPC化システムを利用してNPCに転身したようです」

「ってことは双子がNPCになったのは割と最近じゃないか」


 NPC化システム自体が稼動し始めてまだそれほど時間の経ってない新しいシステムだ。

 それを利用するってことは、つい最近の話だろう。

 それにしても驚いたな。

 NPC化を勧めるクラスタの主催者である2人も元々はプレイヤーだったなんて。

 僕らはじっと資料を見つめながら話を進める。


「この2人をプレイしていたプレイヤー達は?」

「彼女たちを元々プレイしていた人たちは、すでにアカウントを削除しています。このゲームから離れてしまったかどうかは定かではありませんが」

「新たにアカウントを作成して、NPC化した双子を操ってるってことは?」


 僕の問いかけにジェネットは静かに首を横に振る。


「サポートNPCならともかく、エネミーNPC化したキャラクターに干渉してその行動を操ることはプレイヤーには出来ません。そうすると本来ならばあの双子はエネミーNPCとして、それらしい振る舞いをするはずなんですが」

「それらしい振る舞い?」


 ジェネットの話に僕は首を傾げた。

 そんな僕にジェネットは優しく問いかける。


「エネミーNPCの本分は何ですか?」

「……プレイヤーの敵となって立ちはだかること」

「だというのに彼女たちのやっていることはクラスタを立ち上げてNPC化を推進するという一種のプロモーション活動です」


 ジェネットの言わんとしていることが何となく見えてきた僕だけど、まだ心に引っかかることがあって、その疑問を口にした。


「で、でもNPCでもクラスタを立ち上げて仲間を募ることはあるよね?」

「無論です。そうしたNPCの自立性こそがこのゲームのセールスポイントですからね。ただ、そのやり方を見る限り、あの双子には後方支援者がいる気がしてなりません」

「さっきジェネットが言っていた何者かの意思が介在する可能性ってこと?」


 眉を潜める僕にジェネットは整然とうなづく。


「彼女たちの活動法則はそのやり方の是非はともかく、このゲームの運営に与える影響といった点において私と似ています。私の後ろに神様がついていてくださるように、双子の後ろにはおそらくこのゲームの中枢ちゅうすうを担う者の姿があるはずです」

「そ、それって運営本部の人が絡んでるってこと?」

「ええ。おそらくですが……我が主にはすでにある程度の心当たりがあるのではないかと私は考えています」


 神様がそう推測してるってことは、おそらく信憑性しんぴょうせいは高いだろう。

 あの人、僕なんかでは計り知れないところがあるから。


「運営本部が……でも何のためにそんなことをするんだろうか」

「前にも申し上げたかと思いますが運営本部も中にいくつかの派閥があります。我が主はこのゲームに対して強い影響力を持ちますが、敵対する派閥からは少々(うと)まれていますから、ゲーム内のキャラクターを使って強いムーブメントを起こすことで我が主を上回る力を手にしようとする動きがあってもおかしくはありません。そのためには多少強引なことでもやってのけるでしょう」


 アリアナをクラスタの広告塔に仕立て上げ、ミランダを負かしてその知名度を上げる。

 そうすることでクラスタの推し進めるNPC化プロジェクトはより一層の成果を得ることが出来る。

 NPC化は確かに魅力的なシステムで、それは間違いなくこのゲームを活性化させるだろう。

 それはいいことだと思う。

 でも……。

 僕の脳裏にアリアナの暗くよどんだ表情がよみがえる。

 

 僕にはどうしてもそのやり方が正解だとは思えない。

 華やかな双子の計画の影でアリアナがあんなに暗い顔をしなければならないことを僕はどうしても納得することが出来なかった。

 そしてお互いの誇りをもってぶつかり合ったミランダとアリアナの戦いに不正な横槍を入れたのだとしたら……。

 ミランダやアリアナは磨き上げた自分の腕に誇りを持っている。

 その誇りを馬鹿にされたようで僕は何だか腹立たしかった。

 僕がそんなことを考えていると、ジェネットが僕のほっぺたを指でツンとつついた。


「ふふ。アル様。男の子の顔をしてますね」

「え?」

「いえ。双子について私たちが見誤ってはいけないのは、ミランダやアリアナに生じている不可解な異変が双子の仕業だと仮定すると、彼女たちは不正な手段を用いている可能性が高いという点です。これを正すという点においてこちらに正義があります」


 そう言うとジェネットは少しはにかんだような照れ笑いを浮かべた。


「私、恥ずかしながらこんな性格ですから正義という言葉があると無性に燃えてくるんです」

「ふふ。正義はジェネットの旗印だもんね。恥ずかしくなんてないと思う。ジェネットらしくて僕は好きだよ」

「へっ? す、好き? 好きって……」

 

 ジェネットがそう言いかけたその時、部屋の外からアビーの声が響き渡った。

 

「シスタ~。応急処置が終わりましたよぉ~。もうミランダさんも着衣しておりますのでアルフレッド様も来て大丈夫で~す」

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