第11話 地底湖の戦い
「ア……アリアナ」
双子の策略によって砂漠都市ジェルスレイムの地底湖に落とされたミランダの前に現れたのは、魔道拳士アリアナだった。
唖然とする僕が見つめるモニターの中、ミランダは怪訝そうな表情でアリアナを見つめている。
『そこの魔道拳士。あんた、こんなところに何しに来たわけ?』
僕もミランダと同じ思いだった。
何でミランダの対戦相手としてアリアナがあの場に現れるんだ?
アリアナが先日、闇の洞窟を去ってから、僕は彼女とコンタクトを取っていなかった。
僕としては彼女が今後の自分自身の生き方を模索しながら、それでも元気に日々を送っていることを願っていたんだけれど……。
まさかこんなに早く、こんな場所で再会するとは思ってもみなかった。
僕が状況を理解出来ずにいると、アディソンの声がモニターから響き渡る。
『驚かれましたか? 下級兵士。アリアナにはあの後、ワタクシたちの考えにご賛同いただきまして、我がクラスタにご加入いただいたのです』
僕は自分の耳を疑った。
そ、そんな……嘘でしょ?
アリアナはあんなにキッパリと双子の誘いを断っていたのに。
僕はにわかには信じられずにモニターに映るアリアナを見つめた。
一方のミランダは怒りの声を上げる。
『私がぶっ飛ばしたいのはあんた達なんだけど? あんた達が降りて来なさい。ケモノ女にネクラ巫女。この私をコケにしておいて、この期に及んでビビッてんの?』
『イキがってんじゃねえよ。決闘戦でそいつを倒せたらアタシらが相手をしてやるさ。ま、そんなことにはならねえだろうがな』
そう言うキーラの言葉に舌打ちをしたミランダはアリアナの様子をじっと窺っていたけれど、やがて手に持つ黒鎖杖をアリアナに突きつけた。
『フンッ。何よ魔道拳士。双子の仲間にはならないって言った舌の根も乾かないうちに、あいつらの軍門に下ったってわけ? ダッサ。ポリシーないの? あんた』
ミランダが挑発的にそう言うと、アリアナは無表情のままこれに答えた。
『……よく考えた結果だから』
そう言うとアリアナは手甲をガチッと打ち鳴らして左右の拳を合わせ、腰を落として戦う姿勢を見せた。
そんなアリアナの様子を見たミランダの両目に好戦的な光が灯る。
『そう。ま、いいわ。あんたはいずれ私に挑戦してくるだろうと思ってたから。イレギュラーだけど、ここで決着をつけようじゃないの』
そう言うとミランダはメイン・システムを呼び出して素早く操作した。
途端に僕のメイン・システムにミランダからのメッセージが送られてくる。
【アル。見てるんでしょ? 今からこの魔道拳士をブッ飛ばすから。文句ないわね? ま、私にコテンパンにされれば目が覚めるでしょ。何を寝ぼけてんのか知らないけど】
アリアナのことを心配する僕をミランダなりに気遣ってくれているんだと気が付いた僕は拳を握り締めた。
アリアナが何を思って双子のクラスタに加入し、どうして今そこでミランダと戦おうとしているのか、それを今の僕が知ることは出来ない。
こんな戦いに何の意味があるのか僕にはどうしても理解が出来なかった。
それでもミランダは戦おうとしている。
だから僕はこの戦いを見守る決意を込めて、ミランダにメッセージを送った。
【うん。ミランダ。君の強さをみんなに見せてあげて】
僕のそのメッセージを受け取ったミランダは口元に笑みを浮かべ、黒鎖杖を構えてアリアナと対峙した。
ミランダとアリアナは互いにメインシステムを操り、今から始める戦闘の形式を選択する。
1対1の決闘戦。
時間無制限。
回復魔法や回復アイテムは使えない。
どちらかのライフが尽きるか、ギブアップするか。
それのみが雌雄を決する方法となる。
闇の魔女と氷の魔道拳士。
僕と観衆が固唾を飲んで見守る中、モニター上でミランダとアリアナの戦いが始まった。
開始早々、ミランダは先日初めて実戦で使ったばかりの新実装スキル・闇閃光を指先から放った。
アリアナは咄嗟に身を伏せようとしたけれど、超高速の闇閃光を避け切れずに左肩を掠めて焼かれる。
『クッ……』
持ち前の反射神経で何とか直撃だけは避けたけど、アリアナのライフがわずかに減少した。
ミランダは間髪入れずに第2射を放つ。
アリアナは身を伏せた状態から地面を転がって回避行動をとるけど、闇閃光は彼女の太もも近くを掠めて地面を削った。
アリアナはまたしても苦痛に顔を歪める。
この闇閃光を実装してから、ミランダは序盤有利に戦いを進められるようになった。
以前はライフが半分以下になってから発動する彼女の特殊スキル・死神の接吻の特性もあって、ミランダは戦いの序盤より後半戦のほうがより強かったけれど、アップデートによるスキルの新実装のおかげで戦い全般を有利に進められるようになっていた。
ミランダが撃ち、アリアナが耐える。
そうした攻防がしばらく続くのかと思われたけど、開始から1分が経過したところで戦況は早くも変化の兆しを見せ始めた。
アリアナが初めてミランダの闇閃光を完全に避け切ったんだ。
これにはミランダもかすかに表情を変えた。
『へぇ。まぐれかしら』
ミランダはそう言ったけど、次の一射もアリアナが完全に避け切ったことから、それがまぐれなんかじゃないことは明らかだった。
2人の戦いを見ている観衆からどよめきが上がる中、モニター上にはスロー・リプレイ映像が映し出される。
「す、すごい」
その映像を見た僕は思わず唸ってしまった。
アリアナはミランダが射撃動作に入るとほぼ同時に回避行動を始めていたんだ。
闇閃光を撃たれてから避けるのはとても不可能だと判断して、ミランダの動作から射線を予測して避けている。
闇閃光をたった数回見ただけでそんな芸当が出来るなんて。
Aランクになったアリアナは本当に強かった。
『生意気っ!』
ミランダも負けじとフェイントを交えつつ闇閃光を撃ち出した。
タイミングを外されたアリアナは再び、闇閃光で右の足首付近をわずかに焼かれてしまうけれど、すぐに彼女は拳に冷気を集中させた。
『氷結拳』
アリアナの左右の拳は凍てついた氷の塊となり、信じられないことに彼女はその拳でミランダの放つ闇閃光の次射を払いのけた。
それはまさに神業だった。
避けられる閃光は避け、かわしきれないものは拳で弾くというアリアナの防御スタイルの前に、とうとうミランダの闇閃光は一発も当たらなくなってしまった。
『チッ!』
攻撃が当たらないことに苛立ってミランダは顔をしかめた。
防戦に徹していたアリアナがここで反撃に打って出る。
『氷刃槍』
アリアナの拳から氷の刃が次々と放たれ、ミランダに襲い掛かる。
ミランダは黒鎖杖を握り締めてこれを回避する。
『そんなもん当たるかっての!』
ミランダは威勢よくそう叫ぶと、ステップを踏んで氷の刃を避け、目の前に迫るものは黒鎖杖で打ち砕いた。
だけどアリアナは構わずに猛烈な勢いで氷刃槍を射出し続ける。
『はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
魔力を惜しまないアリアナの連続攻撃に、ミランダは顔を歪めて耐えている。
こ、これはまずいかもしれない。
ミランダ、段々余裕がなくなってきたぞ。
逆にアリアナは氷刃槍を放ちながら、どんどん距離を詰めてくる。
得意の接近戦に持ち込む気だ。
猛然と突っ込んでくるアリアナをそれでもミランダは臆することなく迎え撃った。
魔女だから中長距離戦のほうが得意なミランダだけど、接近戦も決して苦手なわけじゃない。
以前の戦いではあの武芸達者な上級兵士のリードとも互角に渡り合っていた。
だけど接近戦では無類の強さを誇るアリアナを相手にするのはさすがに分が悪いんじゃないだろうか。
僕は不安に駆られたけど、ミランダは黒鎖杖を握って逆にアリアナに向かっていく。
すると猛烈な勢いでミランダが突き出した黒鎖杖を手甲でいなして、アリアナは一瞬でミランダの懐に入った。
やばいっ!
やっぱりあの距離での戦いは絶対的にミランダに不利だ。
『はああああっ!』
アリアナの氷結拳がミランダの腹部をえぐろうとした。
だけど、突如として地面から伸びてきた無数の黒い手がアリアナの体をがんじがらめに掴んだんだ。
ミランダの新実装スキル・亡者の手だった。
「くっ!」
無数の黒い手によって体をがんじがらめにされたアリアナは唇を噛んだ。
そうか。
ミランダはこれを狙っていたんだ。
亡者の手は近距離にいる相手を拘束するスキルで、接近戦を挑んでくる敵に対するミランダの切り札と言えた。
だけど術者であるミランダから半径1メートル以内の距離でしか発動しないという弱点もある。
だからミランダはアリアナに対して敢えて相手の間合いである接近戦を挑んでいったのか。
『あのケモノ女からレクチャーされなかったの? 近付けば何とかなると思ったのなら、お生憎さま』
そう言うとミランダはアリアナの胸元に指先を突き付けた。
『これでチェックメイトよ』




