戦・2
「ギャハハ!見ろよ頭!この女の苦悶の顔!この顔のまま殺すの大変だったんですぜ!」
「ジャーン!これぞ本当の肉便器!まだ生きてるけどしっかり魔法で四肢を土台に固定して感度と性感帯も馬鹿みたいに上げてあるんですぜ!これを売れば…グフフ…」
下卑た声と会話が村の中央から聞こえる。四肢を失ったミロは光のない目で眺めていた。
(どうせ死んじゃうんだ…アイン…会いたいよ…)
グルグルとアインの顔が頭の中で現れては消える。
殺されるのかどうかも分からず何も考えないようにぐったりしていると突如盗賊達の宴の真ん中に一つの影がたった。
ズドオオォォン!という轟音を鳴らし、一つの人影がそこに立ち上がった。
その人影は…
「アイン‼︎」
「姉さん生きてたんだね…取り敢えず二分待って…この塵どもを始末するから」
アインの口から飛び出した言葉に一時は呆然としていたミロと盗賊達だが、直ぐに気を取り直す。
「アイン!逃げて!死んじゃうんだよ⁉︎」
「ギャハハ!このガキなんだ?売り物になりに来たのか?いやいや…もしかしてこの使い捨てのオ○ホでも拾いに来たのかにゃ?ぎゃーはっはっはっ…は?」
男の声は最後まで紡がれることはなかった。
ゴンッと鈍い音が響き、男の頭がスイカ割りのスイカめいて砕ける。
聞くに耐えないその声と姉に対する侮辱と凌辱に耐えきれず、18.5ミリ特殊徹甲拳銃を抜き撃ち抜いていたのだ。
ビチャリと湿った音を立て、胸骨の上をから全てを失った身体が仰向けに赤い池を作りながら倒れる。
「あ、アイン?」
「姉さん…ゴメン。俺は人じゃないんだよ…でも…でもさ?俺の身内を…姉さんを苦しめる奴は俺が細切れにしてこの世から消してあげるから」
アインはそう言うと服を脱ぎ捨てた。
その下から出て来たのは嘗てのインプラント兵の時と同じ特殊装甲。所々から人工筋肉が覗く。
関節のクリアパーツからは青色の光が漏れる。
「珍しいガキだ!取っ捕まえて売りさばくぞ!」
「「「「「おおおお‼︎」」」」」
副官らしき男の怒声とともに盗賊達の雄叫びが村に響く。アインは慌てることなく腰から赤外線カメラ内蔵式の面を取り出すと顔にあてがう。
後頭部からケーブルが伸び、バシンと音を立てながら接続していく。
胸部にあった顎部保護装甲がパシュっと面と繋がる。
アインの目の神経と接続され、今までも既に大量のウィンドウが開かれていた視界にさらに大量のウィンドウが展開される。
「…お前達は三つミスを犯した」
「は?ミス?そんなもんね…えげぇ⁉︎」
「臭い口を開くな」
右で構えていた男の鼻っ面に電熱式超高熱ブレードナイフを叩き込む。刺さった面から漏れる血が焼き固められジュウジュウという。肉も焼き固められ地を吹き出すことなくその盗賊は生き絶える。
「一つ目」
「早く捕らえろ!捉えた奴はこいつを売った時の金を全額やるぞ!」
「乗ったぁぁぁぁぁぁ…あばぁ⁉︎」
「チェストォォォォオゲェ⁉︎」
「根本的に俺を怒らせた」
前から飛びかかって来た盗賊の頭をバイブレーション・ニホントウで撥ね、細切れにスライスする。
その後ろに控えていた男には回し蹴りを鳩尾に叩き込む。ミシミシといい同時に中からブチブチ…グチャッ!と骨と内臓がグシャグシャになる音がする。
そのまま蹴り抜くと男は腹を背中から爆発させ民家の壁にグチャッと潰れて広がる。
「二つ目」
ミロは呆然と見ていた。目の前の鬼気迫るこの人物は自分の知る弟なのか?その疑念に駆られていた。
「「うおおおおぁぁぁぁぁぁ‼︎」」
双子の盗賊が同じ形のトマホークを同じタイミングで振りかぶり、振り下ろす。
「俺の平穏を乱した」
「「な…ば、馬鹿な⁉︎」」
振り下ろされたトマホークを二本とも片手で受け止めていた。しかも双子の盗賊がいくら引き抜こうとしても動かない。
「化け物‼︎」
「頭!副長!助けてグベッ⁉︎」
「ぶばっ⁉︎」
双子が副官らしき男と頭と呼ばれたスキンヘッドの男に助けを求めるが、その隙に回し蹴りを受け、首を変な方向に捻じ曲げながら倒れる。
「ほらどうした雑魚共?俺はたかだか七歳のガキだぞ?まさかここまで村を蹂躙した盗賊様ともあろう人共がこんなガキ相手に負けるのか?」
「お前ら…この思い上がったガキを殺せ」
青筋を浮かべた副官らしき男の命令が下った瞬間盗賊は死に物狂いで俺に襲い掛かる…が、たかが人間。インプラント兵のアインの速度に勝てるわけもない。
ものの数秒で殆どの頭を斬り落とし、残りは拳銃で頭を弾いていた。
「で?残る塵はお前ら二人だけか?」
「…お前、何なんだ?」
今まで黙っていた頭と呼ばれたスキンヘッドが話しかける。
「俺か?言ってもわかるまい…俺はタイキ・ナルカワ、現在はアインとしてそこの俺の愛しい愛しい姉さんに育てられた。所属は神風重工。ロールアウトは宇宙暦41894年。オーダーメイドだ。タイプはサムライ・ツジキリだ」
「何を言って…」
「で、宇宙暦42060年にスノウ・ストーム重工のトラップにて戦死。現在絶賛第二の人生謳歌中だ」
アインの言葉を聞いているうちにミロは一つの結論に達した。即ち…
「じゃあ…アインは転生者?」
だと。それを聞いて青くなる頭と副長。
「馬鹿な…ならばそのオーバーテクノロジーは…」
「俺の世界の武器だ…しかも俺にしか使えない個人認証機能付だ」
突然狂った様に副長が声を張る。
「…手を組まないか?お前と俺らがいればどこの町…いや!国すら落とせるぞ‼︎」
アインは無言でミロのそばまで行くと、ミロを抱き上げる。
「…馬鹿か?まだ三つ目のミスを言ってねえだろ?」
「三つ目の…ミス?そんな物ない!」
何故か言い切る副長。が、その瞬間彼の左腕は消し飛ぶ。
「は?はれ?俺の腕が消えた?…いいいい…いだい⁉︎痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い⁉︎何故だ⁉︎何をしたというんだ⁉︎それにこれはお前にとっても美味い話じゃ…ぐえぇ⁉︎」
のたうち回る副長の頭を踏み付ける。その姿を見下しながら淡々とアインは言葉を紡ぐ。
「三つ目のミスってのはな…」
「待て…待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て‼︎止めろ!足に力を入れるな‼︎頭が潰れちまう‼︎」
ミシミシと副長の頭蓋から軋む音がする。それでもアインは力を緩めない。
「俺の姉さんに手を出したことがよ!このカスが‼︎」
グシャッといい、副長の頭は踏み抜かれその場に多量の脳漿と血、骨と脳髄が飛び散る。
二チャリと足から赤黒い糸を引きながら足を上げる。
「後はてめえだけだな?だるま野郎」
そう言って刀を突きつけると頭と呼ばれた男は立ち上がり、背中の大剣を引き抜いた。
「致し方ない…俺の部下達の命の代価に貴様の命とその武器と技術…そしてその女の身柄も頂こう」
無表情にそう言って走り出す。アインはミロを下ろすとそれを片手で止める。
その時、男の後ろからローブを纏った魔法使いらしき盗賊が魔法を放つ。
「喰らえ!火炎弾‼︎」
ニヤリと男は笑う。が、アインは落ち着いたまま背中から二本の両刃のマチューテを引き抜いた。
これはアインがタイキの時に使っていた兵装の一つであり、超近接戦時に役立つ兵装だった。
アインは刀を手放し足で蹴り上げそれをそのまま腰にセットした弾薬式居合装置の付いた鞘に滑り込ませる。
そして宙を舞うマチューテの一振りをキャッチし、残り一振りを右腕のアタッチメントに接続した。
そこに出来たのはさながら巨大なカニの様な鋏。
「馬鹿…な…」
その鋏で横に薙ぎ払われる。頭は咄嗟に大剣で防御するも、大剣ごと鋏はその身体を通過する。その横を抜け、アインは魔術師風の盗賊に距離を詰める。
「ひい⁉︎お助…げぇ‼︎‼︎⁉︎」
「俺の母さんがそう言ってお前は助けたか?姉さんが助けてと言った時、助けたか?何の覚悟もしてない蛆虫が戦場に出てくる事や盗賊やる事が間違いなんだよ」
助けを乞う盗賊の首をその鋏で挟む。閉まり出し、首から血が吹き出す。刃は盗賊の首の骨でどうにか止まっている。
バチンと鋏が締まると同時に魔術師風の盗賊の首と頭の上半身が地面に転がった。
「死にたくなければそもそもこんな真似などしなければ良いものを…」
一人まるで何か思い出したかの様に哀愁を帯びながらアインの口から一言漏れたのをミロは聞き逃さなかった。