俺、更に成長しました
俺が産まれてから更に五年経ち、俺は七歳になった。
この歳になると流石に以前の面影も出てきた。やっぱインプラント用の合成人間作る時にベースを俺のクローンを使っただけあってよく馴染む。
というかさ、まさかここまでそっくりそのまま生まれるとはね…親の遺伝子はどこ行った?
などと考えながら俺は父さんの後を追った。今日は初めての狩だ。獲物はヘラジカっぽいヤツ。
父さんは俺に振り向き、小声で確認をする。
「良いか、アイン?彼奴らは足が速い上に角は鋭い…だから一撃で仕留めるんだ。狙うのは?」
「首」
俺が一言で答えると愉快そうに肩を揺らしながらくつくつと笑い、頭を撫でてくれた。
父さんは背中から弓を抜くと矢をつがえて、引き絞る。おお〜…珍しく、本当に珍しく格好いい。
ヒュッと鳴り、鹿の首…うなじ辺りに矢が突き立つ。鹿は一声も上げずにその場に倒れる。父さんはその後も次々と矢をつがえて撃つ。
「父さん、珍しく…本当に真剣に初めて見たけど珍しく格好いいね」
「喜んでいいのか悪いのかよく判らない回答だね」
「安心して父さん…多分、恐らくは褒めているつもりだと思っているから?」
「最早回答でも何でもないよね⁉︎」
父さん元気だなぁ…若いっていいね。前世と合わせて三百七十二歳の俺には眩しいよ。心はまだ若いけどな。
「父さん、この後街に行くの?」
「ああ、そう言えばアインも出かけるんだったっけ?父さんは行かないけど、ミロと母さんが一緒に行ってくれるそうだ」
マジか⁉︎
「本当⁉︎ねぇ父さん…?」
「どうしたアイン?」
あの二人と出かけれるなら…ね?良いよね?父さん。
「本買ってもらって良い⁉︎」
「また買うのか?もう二十冊はあるだろう?」
「もう読み終わっちゃったんだ…だから新しい本が欲しくて…」
俺がそう言って上目遣いに見上げると父さんは俺を抱きしめる。
…俺にそんな趣味は無いぞ⁉︎
「ああああ!可愛いぃぃ!これが娘なら尚良かったのにぃぃ‼︎」
「父さん俺が娘だったら絶対何かしたよね?ていうかナニをしてたよね?」
「愛があれば何でも出来…ぐはぁっ‼︎」
俺は頬を擦り寄せてくる父さんの顎にアッパーを叩き込む。気持ち悪いっす。さっきまで格好良いと思っていた俺の気持ちを返せと言いたいレベルで気持ち悪いっす。てかキモいっす。
「あ、アイン…愛が痛いよ?」
「安心して父さん…この行動に愛など欠片も無いよ」
俺は倒れる父さんの背中にしゃがんで踏み乗りながら頭を枝でつつき回す。あ、失神した。
暫く俺は失神した父さんをつつきながら父さんの仕留めた鹿を眺めていた。
二時間くらいして父さんが起きた。
「父さん生きてたんだね…仕留めたと思ったのに」
「あ、ああ…何かボソリと言ったか?」
「ううん、何も言ってないよ」
「そうか?ん〜…なら良いか」
勘の無駄に鋭い父さんだ。無駄に良すぎて腹が立つくらいだ。
「父さん、もう帰ろ」
「そうだな、この鹿三頭あれば町にも売りに行けるし暫くは鹿料理のオンパレードだ」
「…ジュルリ…」
「あ、アイン?」
「…何、父さん?」
べ、別に俺はアレだし。鹿を食べられるのが嬉しいわけじゃ無いし。この世界に来て前世から数えて初めて食った肉の虜になった訳じゃないし。
「珍しく目に熱が篭ってるぞ?」
「早く帰りましょう父さん…ステーキが待ってます」
「あっはっはっ!そうかそうか!じゃあ急いで帰らなきゃな!はっはっはっ‼︎」
愉快そうに笑う父さん。この顔でいつも居たら格好良いのに…残念な人だな。
その夜はやっぱり鹿ステーキだった。
「ほーら、アインの好きなステーキよ」
「…ジュルリ…」
「アインかーわーいーいー!」
姉さん…胸。胸がでかい。俺、埋まってるよ?普通の人間なら死ぬよ?
そして鹿ステーキはウマウマでした。
こんな感じでまた何気無く日常は過ぎていった。