俺、姉さんの暴走止めるのに必死です
王都に向けて出発して既に一週間経っている。馬など無いから専ら歩いている。
…遠い。姉さんは最初は凄いだの疲れないだの言っていたが今は死んだ魚の眼で歩いている。
「アイン…液体電池」
「ほい」
俺が補給用の燃料電池を渡すと二リットルを一気飲みする。…何というか前世のユアンを思い出す。ユアン、良い奴だったのにな…良い奴を亡くしたぜ、マジに。
「アイン?」
「はい?」
ん?何だ?何で姉さんはこんなに笑顔なのにこんなに俺の背筋は凍り付いたみたいに震えてるんだ?というか何でこんなに姉さんのキラキラした笑顔がこんなにどす黒く見えるんだ?
「今、私以外の誰か思い浮かべてたでしょ?」
「ち、チガウヨー?」
「…」
チュンッ!と俺の頬を高速のレールガンの弾が掠る。ひい⁉︎
「正直に言わないと…アインのお腹に大きな穴が空いちゃうかもしれないなー…」
「ヒィィ⁉︎姉さん⁉︎今の当たってたら腹じゃなくて眉間に穴が空いてたよ⁉︎ていうか距離的に吹き飛ぶからね⁉︎」
何で⁉︎まさかこれが噂のヤンデ…
「さぁアイン?正直にお姉ちゃんに言ってごらんなさい?」
「前世の部下を同僚というか酒飲み仲間を思い出してました…酒じゃなくて燃料電池だけど…」
「それって女?ねぇ?女なの?女?女の子?年上?年下?胸は?経験あり?」
姉さんが盛大に壊れたー‼︎しかもヤンデレ化してる‼︎恐ろしいぃぃ‼︎
「と、歳下だよ…?因みに胸はかなりデカかった…経験は…聞いてヒイイイイ⁉︎」
何故今度は俺の頬を拳が掠ってるの⁉︎
「ねねねねねねねね…姉さん⁉︎」
「煩悩退散‼︎」
「俺の頭が退散しちゃうよ⁉︎」
「力加減するから‼︎」
「なんの説得⁉︎」
俺は姉さんの拳をかわしながらツッコミを入れる。いやマジで頭が爆散しちまうよ?
「と、兎に角!王都に着くまではそのことに関してはノーコメントで‼︎」
「王都に着いたらまずどこ行くの?」
うん?そういや考えてなかったな…そうだな…
「宿を取ってから組合とかあったらそこに言って民間軍事会社を作る事を纏めて提出して設立する」
「…難しいな」
「姉さんは宿で寝てると良いよ」
「そーする‼︎‼︎」
力強い返答で…まぁそんだけ考えるのが苦手だったんだな、姉さん。案外脳筋なのもギャップで可愛いな…
って違う違う!俺達は姉弟!そう!一応血も繋がって…いる…筈!
などとしているとまた盗賊に襲われている馬車を…あれは行商だな。
「姉さ…」
「悪・即・滅‼︎」
ドドドドドドドドッ‼︎と巨大なガトリングカノンに変形した姉さんの腕からこれでもかという程の大量の特殊徹甲弾が盗賊達に打ち込まれる。
うん…それ一応、対・特殊装甲多脚型戦車用の徹甲弾だよ?生身の人間に打ち込んだら…
「ピギャァァ⁉︎腕が!俺の腕⁉︎」
「マーカスゥ⁉︎頭がないぞ⁉︎」
「あれ?俺の足が何で俺の前にあるんだ?」
…盗賊達よ…同情はするぞ?まぁそうなるよな。
盗賊達は物の見事に半ミンチになっている。うわ…あれなんかモツ出てんぞ。
「殺」
姉さんはそう言うと腰からマスクを取り出して顔に嵌めた。
俺と同じようにケーブルが伸びてマスクと接合する。
「刻む」
そう言うと姉さんはその綺麗な腰…ゲフンゲフン…の上にある巨大なボルトカッターを外した。
…いやいや…それは駄目だろ。何するか想像ついた分酷えと言う感想しか出てこない。盗賊相手だから止めはしないけど。
バチンと刃を開けると姉さんはアクセレータを作動させて亜音速まで加速する。
「な、何が起きぃィィ?」
一人周りを見ようと土煙の中から飛び出した盗賊の頭がズルリと斜めにズレる。
「ひい⁉︎何…ガァッ⁉︎」
「何が居る⁉︎何なんだぁぁぁぁぁぁアバァッ⁉︎」
「今女見たいのガァ⁉︎」
土煙の中で次々と悲鳴が上がっては消える。当の行商は突然の事態にポカンとしている。
二分後、土煙が晴れるとそこには血みどろで大量の肉塊の上に座る姉さんと、その姉さんに座られている元人間だった挽肉が露わとなった。
「姉さんやり過ぎ」
スパンと頭にツッコミを入れる。勿論、アクセレータを作動させて加速してからの音速ツッコミだ。
「いったーい⁉︎何で⁉︎こいつら盗賊でしょ⁉︎悪・即・殺!これに何の間違いが⁉︎」
「行商いるでしょ⁉︎人いるでしょ⁉︎何してんの⁉︎」
「…あ」
「…あ」じゃないよ…何してんだよマジで。
「き、君達?」
「はい?」
俺が振り向くとオドオドと行商の商人が話しかけてくる。
「さ、さっきの攻撃って…君達の?」
「そうでーす…ッターイ!」
「姉さんは二時間黙ってて」
「何で⁉︎」
「…黙らないと今夜から添い寝無しね」
「黙秘中です…」
「よろしい」
さてさて、もう一悶着行くか?な。




