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殺意と想い

えす!にも書きましたが

Twitter始めてみました。


 移動中、車の中で千晶は昴に端末を手渡した。天田が用意してくれた、白鷺の部署に所属する人物のリストである。

 それに目を通し、昴は息をのむ。


「光石……なぜ……」


「財閥の人じゃないかって思ったのは、裕福な家庭の人だと気付いた時。あと、最初に会ったときに少しだけ血の臭いがした」


 最初、千晶は琴禰に対してあまり良い印象を抱いていた様子がなかった。

 あれは琴禰から自分達に近い匂いを感じ取ったからである。

 だが極めて薄いものだったし、一見しても同じ世界の人間とは思えなかった。しかも琴禰は千晶にベタベタしてくるため、苦手意識がついたのである。


 だが学校で良い身分の者だと知って、五木、山縣に確認を取った。


 そして千晶の些細な好奇心は見事にビンゴした。


 彼女は水森財閥の仲間である。


 それだけでなく、彼女が来た時期と調査員が殺された時期が極めて近い。


 だから昴と合流し、確証を得るために動こうとしたのだがその矢先に昴は真冬に襲われてしまった。


 携帯をポケットにしまう千晶を尻目に昴は苦笑いを禁じ得なかった。


 自分は勝手な理由で妹の情報を無駄にするところだったのか。


「裏切りの理由、目的、そういったのはわからないのかい?」


「……わからない」


 昴は口に片手をあてる。

 財閥での立場を見ても理不尽な仕打ちを受けたりはしてなかったらしい。だから財閥への私怨とは考えづらかった。


「でも、なぜ財閥は彼女の存在に気づかなかったのかな?」


「シラサギ、は九家の人。諜報・情報の部署」


 簡潔な返答に昴は「ああ……」と納得してしまう。


「信頼できる九家の部下……九家の存在が隠れ蓑になったわけか」


「そういうこと」


 昴はハンドルを切る。

 ひとまず倉庫で武器を補充し、光石琴禰を調べなくてはならない。武器はまた真冬に襲われたときのためである。

 だが倉庫の前で2人は「おや?」と目を見開いた。

 

 人が立っていたのである。


 紫音だった。


 車から降りた2人を正面から見据え、紫音は言い放つ。



「光石琴禰が裏切り者です」



 開口一番に2人がさっきまで話していた人物の名前を出してきた。



「彼女はこれから将斗と会います。

 保有者ホルダーの手口もわかりました。


 今回の任務に私も加えてください。


 証拠も、私が揃えます」



 真っ直ぐで、覚悟を決めた眼だった。











 そして今……………………………………………。



 千晶と真冬の刃が火花を散らす。ナイフの長さは普通のよりもいくらか長く、1本の柄は赤く、もう1つは黒く塗装されていた。

 どちらもATCの対甲ブレードである。昴と将斗の。白夜のブレードは兄たちのよりも短いのだ。

 リーチが長くなる分、重さにいくらか動きが制限されるはずだが千晶はそんなのを感じさせないくらい軽やかな動きでそれを操っていた。


 真冬の太刀筋を防ぐ頑丈さと長くなったリーチ。

 例え呼吸が似ているとはいえ、昨日のような闘いづらさは全く存在しない。


 絶え間なく繰り出されるブレードの剣擊。それは昨日よりも重く、速く、真冬に襲いかかってきた。


 だが真冬も負けてない。互いに闘いの呼吸は同じなのだから。


 防げない攻撃ではない!!


 互いの攻撃を防ぎ、隙をつき、また防ぐ。昨晩よりもそれはスピーディーに進み、2人は一定の距離を保ったまま公園の中を駆け回る。


 何度も刃がぶつかり合う衝撃が、将斗達にも伝わってくる。


「やめろ!!……止まってくれ!!」


 だが攻防は止まる様子を見せない。それどころか段々とスピードは増してゆき、瞬きをする間もなく遠ざかって行く。


 離れた場所では昴がパーシヴァルで構えていた。普通の銃弾では真冬に傷1つ与えることはできない。

 とはいえへカートを撃てば弟妹が巻き込まれるだろう。


 だから銃弾よりもずっと強力で、尚且つ鋭い一撃を求める。


 構えているのはライフルなんかではない。パーシヴァル用にカスタムした拳銃。

 それに……



 ――セカンドセーフティ・解除――


 ――パーシヴァル・パンドラ起動――



 パンドラで強化された拳銃の弾は極めて高い貫通性を誇る。ライフルと違い周囲にエネルギーを発散させることがないから、ピンポイントの狙撃にも最適だった。


 千晶への援護のタイミングを見計らいながら、琴禰の動きにも注意する。


 手口は紫音から聞いた。もうあんなヘマはしない。


(階級だけ見たら財閥側としても、捕虜で留めておきたい相手だろうけどね)


 モニター越しに真冬の姿を見る。間違いなく昨日の男だ。


(2人を……生かしておくのはハイリスク過ぎるよね)


 何度も飛び散る火花と殺意。

 刀をかわし、防ぎ、斬りかかりながら千晶は真冬を睨み付けた。


 琴禰への注意は兄に任せているので自分は真冬との闘いに専念できる。

 真冬の強さは千晶も理解している。琴禰の能力の危険性も。野放しにしておくには危険すぎる強さ。


(こいつを先に仕止めて、次にあの女!)


 殺し屋兄妹の思考が同調を始める。


 兄妹ゆえに、同じ殺し屋ゆえに、ここでしくじったら将斗にまで危害が及ぶ事を理解し捕虜という選択肢を完全に破棄する。



(ここで確実に刀の男を仕止めて、すぐに光石のご令嬢を殺す!)


(どちらか片方残るだけでも危険過ぎる!)


(今後態勢を立て直すチャンスは与えない!)



     ((今ここで殺す!!))



 ォォオオオオオオオオオオッッッ!!!




 ATCを使ってないにもかかわらず千晶の遠吠えは人の肌を刺すような圧力プレッシャーを与える。


 殺意と気迫の暴力に、離れた場所で将斗達が震え上がっているが気にしない。


 今は目の前の男を殺す!!



「日本でこんな強者つわものと闘ったのは……初めてだ!!」


 真冬は一瞬の隙を突いて千晶の左手に蹴りを見舞わせた。人工四肢で無いほうの足だ。千晶の手からは対甲ブレードがすっぽりと抜け、後ろに飛ばされる。


 がら空きの体に真冬は右フックを入れた。だが千晶は跳び跳ねるなりその右腕に両足を絡め、真冬にとって反時計回りに身体を捻る。

 人工四肢は人体との接合部が脆い。肩を襲う痛みに真冬は表情をひきつらせる。


 ミシミシと音を上げる接合部。このままでは千切れてしまいそうだ。

 真冬はそれを防ぐべく、同じ方向に自ら回って受け身を取った。


 人工四肢に組みつかれたら不利なので先に受け身を取っていた千晶はすぐに起き上がり、真冬から離れる。同時にワイヤーを飛ばして蹴り捨てられた対甲ブレードを回収していた。

 起き上がろうとする真冬に襲いかかる、一筋の殺意。



 ――パーシヴァル・パンドラ起動――


「っ!!」

 


 反射的にその場を飛び退いたので命拾いをした。

 弾丸が地面を大きく穿ち、余熱で地面を溶かしている。


「………はぁ……はぁ………」


 初めて息をついた。


「やっぱり一筋縄ではいかないか」


 千晶は返事もせず、再び真冬に襲いかかる。

 昨日と形勢は逆転していた。



 その様子を眺めていた琴禰に、新たな侵入者の声がかけられる。


「やはり貴女の眼で追い付けない動きには、能力は使えないみたいですね」


「?!紫音………」


 将斗の後ろには携帯を片手に握った紫音が立っていた。丁度、将斗は琴禰と紫音の間に立つ形になる。


「……紫音ちゃん……」


 貴女も、だったのねと琴禰の視線は問いかけてくる。



「昨日車に乗っていた貴女には、建物の窓から見える姿しか見えなかった。


 だから真冬さんに千晶ちゃんを窓際まで追い詰めさせて、姿を見えるようにしてもらったのですね。


 そして千晶ちゃんの動きを止めさせることで貴女は能力を使えた」



 雪見が身構え、琴禰がため息をつく。


「そこまで知られていたんですね……そちらの情報力を甘く見ていました」


 あのとき、昴は窓の死角にいたし千晶の動きは速くて琴禰の眼では追い付けなくなっていた。

 だから真冬は千晶を窓際に追いやり、つばぜり合いに持ち込むことで琴禰が能力を使える時間を作っていたのだ。


 時間稼ぎ。真冬の言っていた意味はそれだった。



「紫音ちゃん。貴女も保有者ホルダーだったんですね………」



 言葉に悔しさは感じられない。ただ淡々とした口調だった。


「琴禰……なんでだ……」


 将斗の悲痛な声に琴禰は顔を上げる。


「そういう将斗は?なぜこちら側に?

 家族は戻ってきたんでしょう?

 なら、こんな世界にいる理由なんて」


「それは……」


「今後も大切な他人を守りたいから、でしょう?

 私も同じ。死の運命から大切な人を守り続けたいだけです。

 だから私はここにいる」


「でもそんなのは……!」


「あり得ない、とでも?」


 琴禰の冷たい言い方に将斗は口をつぐんでしまった。

 嘘を言ってるようには見えないからだ。


「疑うのも無理はありません。もし私がまだあの予言を疑ってるようなら、こんな事はしなかった……


 でも。事実です。


 私にはこの方法でしか貴方を……好きな人を守ることしか出来ないから」


「その事実とは……」


 紫音が口を挟む。



「ゼロ・ユートピア


 …………を指しているのでしょうか?」



 聞きなれない言葉に将斗は「ん?」と首を傾げそうになる。

 だが琴禰はそれを知っているのか、紫音を見て不敵な笑みを浮かべるのだった。


「随分調べたのですね。それに関する資料は私にはもう残ってないのに」


「貴女ではありません。私に情報をくれた人が教えてくれたのです。


 貴女の暴走はそれに基づいているとも」


「誰かに教えたでもないのに……でもまぁ、知っても意味はないでしょうね」


「琴禰様。ここは私に…」


「駄目よ。雪見」


 今にも紫音に襲いかかりそうな雪見を制す。雪見は不服そうに琴禰を見た。



「貴女にも真冬にも、もしもの事があったら終わりです。


 こんなところで私は終わるわけにはいかない。


 ずっと……ずっと一人で頑張って来た。


 必ずやり遂げるって決めたんだから……!!」



 その声は力強く、歯を食いしばる音まで聞こえてきそうなくらい感情に満ちていた。

 雪見は悲しそうに頷くと、真冬の方を向く。

 双子特有のコミュニケーションなのか真冬は察した様子で千晶から距離を取った。


 それに気付いた千晶はすぐに琴禰を見る。おそらく能力を使う気だ。


 だが、誰に?


 自分か、将斗か、昴は隠れてるから無しにして、紫音か………





 ドクン……


 心臓が大きく波打つ。


「!!」



 この感覚は間違いなく、琴禰の能力の前兆である。やはりこの場の戦闘要員である千晶を狙ってきたのか。


 昴がすぐに琴禰に照準を合わせる。このまま撃ち殺して能力を防ぐ気だ。


 だが、昴の体にも異変は起きていた。


 昴だけでない。将斗と紫音にも同じように、体の内側から切り裂かれるような激痛が襲いかかってくる。



「?!!」「まさか!」「嘘…!」『まずい…!』



 紫音、将斗、千晶、昴が息を飲む。


 琴禰による破壊は4人に及んでいた。

 

 身体を覆うような不快感。締め付けられる胸。全身から刃物が突き出てくるような激しい痛み。


 息が出来ない。


 立つこともできない。


 視線が琴禰に集まる。琴禰から目に見えない力が溢れているかのように、彼女の周囲が歪んで見えた。

 真冬と雪見は姿を隠し、琴禰1人だけで無防備にさえ感じさせる。


 しかし、それが何よりの脅威であった。


 彼女の能力は視界に入った人のナノマシンを破壊するもののはず。


 だが今、彼女からは姿の見えない昴にさえもその危害は及び始めていた。


(話と違う!!)


 地に膝を着け、紫音はパニックに陥りそうな頭を必死に回転させる。


 なぜ情報に誤りがあった?


 まさか五木・山縣・そしてあの小夜という少女が騙したのか?

 なんのために!!


(……違う……!!)


 同じ保有者ホルダーの視点で考えてみる。

 紫音の能力は水などを介せば離れた相手にも干渉できる。

 だがそれには身体にかなりのバックファイアが訪れてしまう。


 紫音がなにかを介して大量の人に干渉出来るように。


 彼女もまた、身体への負担を考えなければ大量の人物に能力を使役することが出来たのだとしたら!!


 だから真冬と雪見は姿をくらましたのだろう。一刻も速く、被害の及ばない場所へ。


 昴にも能力が届いているのなら、彼女の能力は最低でも1キロ圏内に及ぶのだろう。そんなものを財閥の目につくところで使えた筈がない。

 しかも財閥は琴禰が保有者ホルダーとは知らなかったらしい。


 たとえ彼女が保有者ホルダーと気付けたとしても、その能力の及ぼす範囲を目にしたことは無かったはずだ。


 なぜなら周囲を巻き込むこの能力を使えばそれだけで大量虐殺の現場が出来あがる。

 そんな惨劇が起きていたなら財閥が察知しない筈はない。


 だから琴禰はこの能力を使わなかった。


 誰にも悟らせず、気付かせず!!


(五木さん達は騙したんじゃない……知らなかっただけ!!)


「愛する人達との、永遠の幸せを……」


 琴禰は静かに呟く。



「私の邪魔は……誰にもさせない」








~~~喫茶店・モルゲン~~~



『………でも、本当に老けたね』


 携帯の画面から山縣の顔をしげしげと観察した小夜の第一声はそれだった。


「待ってください。俺も頑張って来たんですよ?」


『うん。でもおじさん』


 がっくり、と項垂れる山縣。


「ねぇ、小夜さん、私は?!」


『うーん…………


 お兄ちゃん達と同い年がよかった』


「酷くないです?!!」



 冗談だと、真面目な顔つきで小夜は否定する。



『ところで[こっち]は、どこまで進んでるの?』


「紫音さんをブレーメンから無事奪還。


 千晶さん、昴さんの死は回避。


 将斗さんは早くにパンドラ開放。そして今……………


 彼女と闘ってます」


『…………………』



 自らの長い髪を片手で弄り、小夜は考える様子を見せた。山縣、五木は黙って彼女の次の言葉を待つ。



『……使徒が光石琴禰とまだ連絡を取ってる可能性は高い………

 巫女の力があればそれを調べることも出来たけど………


 巫女とは、はぐれちゃったし………』



 

~~~~~~



「っっ……!!」


 ダメージを抜けきれてない千晶は真っ先に伏せてしまった。シュプリンゲンで強化しているだけで、身体中は未だボロボロなのだ。傷を無理矢理えぐり返すようなこの攻撃に耐えられる筈がない。


 額から大粒の汗を流し、痛みに悶えている。ナイフを握る力も無いらしく戦意の炎は消えかかっていた。


 今の琴禰の能力は、体内に激痛を与えるだけのものに留めている。だが既に満身創痍の千晶にはそれが何よりの拷問であった。


 痛みだけとはいえ、身体中の力が失せてしまうくらいのものだ。将斗も片膝を着けて、必死に痛みと闘っている。

 動けない身体ではこれが限界だ。

 

「ぐっ……琴禰……っ!!」


「痛い思いをさせてごめんなさい」


 こんな事はしたくなかったけど、と付け加える。


「ぐっ……!今すぐ……これを止めろ……!」


「止めたらまた殺し合いが始まるでしょう?私だって、貴方の家族を殺したくないもの」


 地に伏せてもなお、琴禰を睨み付ける紫音。琴禰もまた、彼女に目を向けていた。


「一番の予想外は貴女ですね……同じ保有者ホルダーで、私の能力も知っていて………


 もしかして貴女の能力は、保有者ホルダーの能力を知ることですか?」


「そんなの……っ!」


「どのみち、最初から貴女は死なせておくべきでしたね……

 そうすればこんな形で将斗に知られることも、この能力を使うこともなかったのに………」


 そう言って琴禰はポケットから小さい拳銃を取り出す。

 将斗の、紫音の顔から血の気が失せた。


 紫音は将斗達の肉親でもない。だから琴禰にとっては殺すことに躊躇を覚えない相手に過ぎないのだ。


「琴禰……っ、やめろっ!!」


 匍匐するようにして琴禰に近づこうとする将斗。だが琴禰は振り返ることをしない。


 その表情がわかるのは、彼女と向かい合っている紫音だけだ。



「紫音ちゃん……いいえ、日下部紫音。

 私は貴女が同じだと思ってました。


 閉ざされた世界をこじ開けてくれた人。

 守りたい世界。

 守りたい人………


 こんな事がなければ、きっといい友達になれると」


「琴禰っ!!」


「っ………」


「そんな貴女を殺すのは少し惜しいですが……私達の願望のためには仕方ありません」


 引き金に指がかけられる。


 紫音には世界がスローモーションに動いているように見えた。

 将斗が叫んでいる声も聞こえない。


 あるのは目の前に迫る死のみ。


 

「ここで死んでください」

 


 千晶が痛みの束縛を力づくで振りほどき、駆けつけようとする。しかし彼女の脚力をもってしても間に合いそうではなかった。



「私には……貴女が羨ましかった」



 言葉が引き金を引いた。乾いた発砲音が鳴り渡る。


 公園を、鮮血が舞う。




~~~~~~



『っ…………ぅう………ん?』


 さっきまで身体にのし掛かっていた重圧と痛みが失せて、昴はようやく動けるようになっていた。

 どうにか立ち上がり、身体の具合を確認する。痛みはまだ残っていたが、闘えないわけではなかった。


(……動ける。能力がキャンセルされたのか)


 銃を拾い上げ、立ち上がる。


『何が……起きたんだ?』


~~~~~~




 公園で血は流れていた。


 琴禰の銃口からは硝煙が立ち上っていた。


 だが、肝心の琴禰は驚きに目を見開いている。

 千晶も、同じように硬直していた。


 銃弾が貫いたのは紫音の頭ではない。


 将斗の脇腹だった。


「どうして……」


 琴禰の驚きの声は震えていた。


 紫音はさっきまでいた場所よりも一歩分だけ離れた場所に腰をついていた。彼女がいた場所には、腹から血を流して横たわる将斗が。


 あんな状態で動けた筈がない。力加減は間違ってなかったと琴禰は自信をもって言える。


 だがそんな自信を嘲笑うかのように、彼女の前に倒れるのは紛れもなく、最愛の人だった。


 紫音は目の前に倒れる幼なじみを力ない眼差しで見ていたが、彼から流れ出る血を目の当たりにして目に光が宿る。


「どうして…」


 琴禰と同じ言葉を紫音も口にした。


 張りつめた静寂の中で、将斗の掠れた呼吸音だけが聞こえてくる。


 直後、少女2人の震えた声が、その静寂を破壊した。



「何で、何でなのよっっっ!!」


「いやぁああっ!!将斗っ!!」



 公園に紅いATCと双子が乱入する。


「「琴禰様!!」」


『っ!将斗!!』


 真冬が将斗の方に駆け出すのを見て、千晶は最後の力を振り絞る。


 彼をそのままにしておくと近くにいる紫音が危ない。そしてその予想は的中した。


 器械の手が握る刀は紫音に向けられようとしていた。


「させないっ………!!」


 間一髪。真冬と紫音の間に割り込み、紫音を抱えて跳ぶ。日本刀の切っ先は千晶の背中を切り裂いた。


『っ!……殺す!!』


 ――パーシヴァル・パンドラ起動――


 熱を持った銃弾が真冬に向かって放たれる。前回みたいに刀で一刀両断など不可能なエネルギーだ。


 だが真冬もそれをわかってか、器械の右手を盾にして弾を防いだ。

 造られた指が弾け飛び、合金の一部が溶けて異様な臭気を放つ。


「琴禰様!撤退しましょう!!」


 女性とは思えない力で雪見が将斗を担ぎ上げる。昴はそれを見て千晶が落とした対甲ブレードを拾い上げた。



『させるかあああああっっ!』


「ふんっ!」


 

 左手しか使えないにも関わらず真冬が装甲車のごとく突進してきた。刀とブレードがぶつかり合い、金属音が一帯に響く。


『退けろっ!お前達に付き合う暇はないっ!!』


「その言葉、そのまま返すぜ!将斗を早く治療しないと危ないんだよ!!」


 真冬がチラリと千晶の方を見る。気絶した紫音に覆い被さるようにして倒れる妹の背中には深い刀傷があった。


「今のままじゃ……あの子も死ぬぜ!!」


『っ!!』


 言葉に怯んだ昴の腹を蹴り、真冬は琴禰を半端な右腕で抱きかかえると生身の人間にはあり得ない脚力で公園を飛び降りていった。


 追いかけようとする昴だが、すぐに思い直し千晶のもとへ駆けつける。


 ひどい傷だ。早く治療しなければ真冬が言ったように命の危機に関わる。


(将斗の治療は……向こうに任せるしかないか……)


『くそっ!!』


 悪態をついてすぐに天田達に連絡を入れた。


 千晶は大怪我。将斗も腹を撃たれ、敵に捕まってしまった。



 状況は最悪だ。


おまけコーナー


紫音「でもすごい能力ですよね。ナノマシンを使ってる世代には有利じゃないですか」

琴禰「そう見えるでしょ?でも穴があって……」

紫音「穴?」

琴禰「ナノマシンを使わないために身体に沈着しない世代……おじいさんおばあさん世代には効果がないの………」

紫音「あー……」

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