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邂逅のデルタ 1・邂逅・兄弟



 暗闇であっても紫電は明るく、鮮明な視界を将斗に見せていた。


 突入した世界はSF映画に出てくる武器庫を連想するような光景


 壁を埋め尽くすかのように並べられるヒト型の機体。ATC……


 倉庫の真ん中には銃・弾薬の入った箱が幾つも積み重ねられている。

 

 モニタ越しに視認し、確信する。この倉庫は既に香龍会の秘密兵器の宝庫と化してたのである。そして会社自体、下の者達は自覚していなくても乗っ取られていたのであろうことに。


 突然の襲撃に騒ぎ、慌てふためく者共の顔を、紫電が表示した。


 香龍会。そして香龍会に雇われた戦闘員らだ。


 迷わず、腰からアサルトライフルを外すとフルオートに切り替える。暗闇の中で銃が火を吹き、刹那的な灯りの点滅を繰り返す。


 突如の視界不良の中で銃を乱射され、反応に遅れた数名が胸、腹から血を流して倒れた。反応出来た者は物陰に隠れながら将斗へと銃を撃つ。しかし最新の特殊合金は鉛の弾を弾き、傷ひとつ与える事は叶わない。



 不意に、背後からの熱反応を紫電が知らせる。

 振り向けば……自ら搭乗して闘う事を選んだのだろう。ATCが1つだけの瞳を緑色に輝かせながら体当たりを仕掛けてきた。


 普通の鉛弾では心許ない。将斗は足のウィングを使い、その場で回し蹴りを入れた。

 ウィングの前部は刃物となっている。装甲車をも斬れると言われる、対甲ブレードで出来ているのだ。

 首を守る装甲は容易く破られ、ウィングは首を断ち切り、そして反対側の装甲を裂く。


 首を失った機体と搭乗者は、将斗の脇をすり抜けるようにしてそのまま直進すると倉庫を揺らさんばかりの勢いで壁に激突し、行動を停止した。


 ぬちゃりと音を立て、赤い液体が壁に貼り付けられる。



『イテテ……』



 片足だけのエンジンを動かした回し蹴り。成功はしたものの、まだ機体に慣れていないせいもあって股関節の筋が一気に伸ばされ、悲鳴をあげたのだ。


 ハッキリ言って、



(マジ痛えええっっ!!!)



 股関を押さえながら泣いてしまう。

 柔軟には普段から気を遣っているが、エンジンを使ったストレッチなんてしない。普通はありえないだろう。


 機体に慣れるまで、この手は使いたくないと思った瞬間だった。


 そうしてる間にも、何人かが壁のATCに乗り込み、将斗へ攻撃しようと接近してくる。


 大勢のATC相手に意味の無いアサルトライフルを持っていても時間の無駄。

 すぐさま将斗は、紫電に命令する。


 

『ブレード使用。ハッチオープン』



 ーー了解。対甲ブレード『菊水』使用認識ーー


    ーーハッチ・オープンーー


     ーーセットアップーー



 対甲ブレードは何も、足のウィングだけではない。

 主の命令を、音声及び脳波で受信した紫電は、左腰のハッチを開いた。

 中から姿を現す、ゴツゴツとしたデザインのグリップは、ATCの掌で掴みやすい仕様となっている。


 それに右手をかけ、引き抜くと、中から40センチ程の平たい刀身が露になった。



 菊水を右手で構え、最寄りの機体の懐に入ると、下から突き上げるようにして胸へと刃を刺す。

 相手の装甲を貫き、肉を断つ感触が機械越しに伝わってきた。


 他のATC達が銃を連射してくる。


 ATC相手では鉛弾が殆ど意味を為さないから将斗は武器を替えたのに……



『バカだろ、お前ら……』



 そう言って、突き刺したままの相手の体を盾に前進した。


 敵の弾は、命を落とした仲間の機体に当たっては弾けてを繰り返し、その中で将斗はスピードを上げる。

 菊水が刺さったままの戦闘員の機体ほ、同じ仲間らの機体に体当たりする形となった。

 同じ材質、同じ機体。互いをぶつけ合い、装甲は砕け、中の人は圧死もしくは飛び交う破片が突き刺さって死んでしまう。


 一方、他人の機体を傷つけ、紫電には大した掠り傷も与えていない将斗はケロリとした様子で菊水を抜き、次の獲物へと飛びかかるのであった。



 逃げ惑う戦闘員。立ち向かおうとする戦闘員…………



 それらを追い、対甲ブレードで斬りつけ、殴り、蹴り、木っ端微塵にする。


 次々と戦闘員らの死が積み上げられる中、流れ作業と化した殺戮で将斗の意識は、ボーッと霧が立ち込めるような錯覚に陥る。

 別に、この感覚は初めてではなかった。


 この感覚を初めて手にしたのは、人殺しを続けて暫く経ってから。


 最初は、誰かを殺めた自分の手に目を向けれないほど、将斗の心は『殺し』というものに強い拒絶反応を見せていた。

 相手は犯罪者。テロ国家。国内で野放しにしたらいずれ、第二次世界同時多発テロのような惨劇が起きかねない。

 もう家族を喪う痛みなんてこりごりだ。


 そう思っていたにも関わらず、ある時急に、人を殺しても自分の心が痛んでいない事に気が付いた。

 それどころか、嫌悪感は何処かへ行き、何も見えない霧の中にたっているかのような『無』の感覚を覚えたのである。


 これは、自分が完全に『人殺し』としての仕事に"慣れた"証拠だと……


 最初はそう思っていた。


 しかし回数を重ねるごとにこれが"嫌悪感"とは違ってそれほど痛くなく、とはいえ"慣れ"と違って楽でも無いことに気付く。



 そしてそれらは、兄が。妹が。



 帰ってきてしまったことで気付いた。否、()()()()()()()()




 記憶の最果てにていつも輝いていた家族達の笑顔。自分が頑張ってきた理由。

 意識の霧は、それらをも侵食していた。


 再会した兄が、妹が。何かを言っても、過去と比べることが……将斗が()()()となる以前の兄妹の顔が、思い出せない。



      ─兄が。妹が。生きていた─


     ─父は死んでしまったけれど……─



        なら。それなら……


 兄と妹の敵討ちを願って、手を汚してきた自分の


   あの最初の頃、頭を悩ませていた嫌悪感に


       なんの意味があった?




 そんな考えに至る度、将斗の中の霧は痛みを隠す。


 その時、漸く理解したのだ。


 この霧は、この感覚は……



 人殺しを重ねる度に、家族との輝かしい日々との差を


 家族の生還を信じないで手を汚してきた自分の愚かさを


 そして……家族が帰って来てしまった事で、自分1人だけが暗殺者という"痛み"に耐えられない。そんな将斗の弱くて醜い部分から目をそらすための、文字通り"目隠し"の役割を果たしていたのだ。


 殺す。痛みは感じない。


 殺す。苦しさなんてない。


 1人。また1人と、殺戮の限りを尽くす。


 移動をしながらアサルトライフルを拾いは上げる。銃口は光の点滅を繰り返し、放たれた銃弾は戦闘員達の胸に彼岸花を連想させるような赤い花を咲かせ、接近する者は対甲ブレードで真っ二つにされてゆく。


 突っ込んでくるATCは拳で腹や胸を貫く。


 霧がかかる意識の中、将斗の駈る紫電は着実に抹殺対象を殲滅してゆくのであった。



 7割は潰したかと言うとき。



   ーー警告。後方、7時の方向より接近ーー



 紫電が新たな敵の存在を知らせる。


 将斗はライフルの発砲を止め、その方角を確認した。



 後方から近付いてくる光──それは将斗のATC同様、赤い瞳の輝きを放っている。



(敵か……?)



 その姿をよく確認しようと目を凝らす。モニターは対象の姿を拡大し、より細かい映像が送り込まれてきた。


 接近してくる介入者は、ホバリングで低空飛行をしながら、大きな銃身が目立つライフルをこちらに……しかし将斗からは逸れた方角に向ける。


 敵の援軍かと思ったが、その様子からすぐに自分の思い違いであることを悟る。



(違う……)



 その銃を。実物を扱ったことはない。しかし上司との座学でいやというほど見せられたことはあるので、銃名を理解するのに数秒もかからなかった。


 アンチマテリアルライフル・ヘカートⅡ


 しかも30メートル未満と、近距離からの射撃であった。

 従来よりもスコープと銃身部になにかしらの改造が施されているらしい、金属類のパーツが取り付けられていた。


 そしてそれを片手に携えるのは血のような、紅くそして黒い装甲。


 将斗の紫電と比べれば全体的にフォルムは角張っており、右肩には何かを隠しているのか、装甲が他よりも厚い。



『悪いけど……』



 冷たく、落ち着いていて、それでいてどこか懐かしい声が将斗の回線に接続される。



『聞きたいことがあるんだ。少しだけ待っててもらえるかな』



 その声に将斗が答える暇もなかった。


 返事を待たずして放たれる銃弾。それは紫電の脇を掠め、轟音と共に将斗の後方の壁に隠れる戦闘員達を木っ端微塵にする。



 爆風が悲鳴と共に背後から巻き起こり、その追い風が将斗の姿勢を崩そうとするのを踏ん張って耐える。


 介入者……赤いATCは将斗の前にて速度を落とし始め、ゆっくりとしたスピードで前進すると、彼からおよそ5メートル程の距離で停止した。


 暴風から数秒。倉庫の中のATCの燃料に引火したのだろうか。先の着弾よりかは遥かに弱い爆発が起き、将斗と介入者の姿を橙色に照らす。


 ホバリングを終えた機体は熱で蒸気と化した緩衝剤を足元から薄く噴き出すと、その地に足を着けた。



『……戦闘員の残りは……まぁいっか……』



 そんな独り言の後、赤いATCは将斗へと意識を注ぐ。



『……何者だ』

『……もしかしたら君達と同じような立場の者……とだけ言っておこうかな』



 介入者は曖昧な返事の後、へカートⅡの銃口を持ち上げ……将斗へと突きつける。



『こちらもそちらの正体が気になるからね。悪いけど、ATCを降りて姿を見せて貰えないかな』



 その声は穏やかでありながらも、脅迫じみたものであった。

まだまだ続きます。

が、通信制限を使い果たしてしまいました。

最悪の場合、次回は来月になるかもしれません、申し訳ありません。

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