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幼馴染・関係・歪み

前話がダブって投稿されてることに後から気づきました。申し訳ありませんでした。



 好きって何ですか?


 あっさりと堂々と。それもナチュラルに言われて。


 将斗は港駅近くの公園でただ茫然としていた。琴禰もボディーガードの双子も帰った後のこと。海が波打つ音が何度も何度も聞こえる。

 紫音がさっきまでいたはずだが、いつの間にか姿も見えなくなっていた。実は将斗に何度か話しかけていたのだが、将斗が全くリアクションを示さなかったために帰ってしまったのである。

 そう。こんな棒のようにただ立っているだけの今の将斗には誰の声も届かないのだ。


 夕方、潮風は寒さとなって肌を刺す頃。「大丈夫?あの子風邪をひくんじゃないの」なんて通行人の心配をその身に受けながらも彼の眼はぼーっと。ただ前を見ているようで全く別の世界を見ていた。


 好きって言われました。

 琴禰から「好き」って。


 



 どう受け止めればいいのでしょうか?





(え?そもそもこの場合の好きってどっちなんだ?)


 告白されてしばらくの時間をかけてようやくそこに行き着く将斗。遅すぎる。


(唯花みたいなやつなら「友達として好き」ってことはよく言うよな…)


 唯花も琴禰のように気持ちはストレートに示すタイプではある。まぁ、2人の違いがあるとすれば唯花は「愛してる」の「好き」をそう簡単に口にする人ではないのだが。だが鈍感な将斗はその違いに気づけるような勘を持ち合わせていない。だからこうして長時間かけて悩んでいるのだが。


(ん?だとしたらさっきの琴禰のは…「友達として好き」って意味でオーケー?)


 そしてこんな勘違いにまで発展させるわけだが。


(じゃあ俺、勝手に勘違いして一人で悩んでたわけ?)


 そしてこんな後々めんどくさくなりそうな展開のフラグを着々と立てるわけだが。


(あ。じゃあ深く考える必要もないよな)


「そっか。琴禰の「好き」は「友達として」って意味なら」


「いいえ、それは勘違いですよ」


 将斗の背後かにはいつしか雪見が立っていた。


「雪見?なんでお前…帰ってたんじゃなかったのか?!」


「少しこちらでお土産を買っていこうと思いまして。真冬と琴禰様は先にお帰りしていただきました」


 雪見の手には港駅近くのショッピングモールにある菓子屋の紙袋が下げられている。


「ああ…お前も大変だな…」


「琴禰様のためなら些細なこと。それより将斗」


 雪見はぐいっと身を乗り出し将斗に詰め寄った。その詰め方が素人のものではないことにはすぐに気づいたが、彼女の仕事柄と剣道のことを思えば当然のように思える。


「琴禰様があなたに向ける好意は本物です。愛と呼べるものです。

 それを友情の一言で片づけようとするのは見過ごせませんね。あなたはそういう人ではないと思っていたのですが」


「いや。待ってくれよ。だってそうじゃないとは限らないだろう?」


 というかなぜ雪見が代弁してくるんだよ?


「そうに決まってます。琴禰様はあなたが送ってくれた手紙を大事にとっておいでです。

 昔あなたと遊んだときにもらった木の実とかもて…すべて大事に保管しているのです」


 その声は優しく諭すようだが、どこか将斗を非難するような目つきに将斗はたじろいでしまう。


「琴禰様はお父様の会社のご都合であまり友達と呼べる存在を得る機会がありませんでした。

 そんな中、部屋に一人軟禁状態も同然だった琴禰様にあなたは手を差し伸べた。かけがえのない友達だと将斗のことをいつも笑って話していたのですよ」


「え…」


 まじかよ。


 聞いてて胸をチクリとした痛みが突く。


「それに将斗にふさわしい女性であろうと、経営学や英才教育を率先して受けてきたというのに」


「は?!経営学?」


「当然です。親の会社を継ぐために」


 軽井沢の別荘からいい家のお嬢様とはわかっていたが、まさか経営学にまで手を伸ばしていたとは。

 いや、それより…


「俺にふさわしいって……」


「当然。あなたとの将来を見据えての理由です」


 一気に体に緊張が走る。

 真っ向から好きという思いを打ち明けられ、その陰の努力と夢まで聞かされ…

 こんな。守るものに迷い、そしてその実力も足りない弱い自分を。


 彼女は。琴禰は愛しているだなんて。


 信じられるはずなかった。


「ふさわしいたって……俺は……」


「歩み寄ってくれる優しい心。あなたは気づいてないかもしれませんが、琴禰様にはそれが何より温かいものだったのですよ」


「…………」


「本来なら琴禰様が自ら言うべきだったのかもしれませんが……老婆心ながら少しだけ、あの方の後押しのために私はやってきました」


 雪見は紙袋からお土産のはずのお菓子を一つ取り出し、将斗に手渡した。本当の目的はお土産を買うためではないとの彼女なりのアピールだった。


「将斗……ここだけの話ですが私は近いうち、海外への出張に行くこととなっております」


「?!雪見…?」


「会社の命令でしてね。帰ってくるのはいつになるのかわかりません。もしかしたら一生海外にいることかもしれません。ボディガードとしては真冬がいますので琴禰様の安全は心配してませんが……」


「そんな急に…せっかくまた会えたのに…」


「だからですよ」


 話す雪見は笑っているが、どこか寂しそうだった。


「もう会えなくなるかもしれない。その前に琴禰様の願いを一つでも多く叶えたい…それが些細なものだとしても」


 将斗とようやく会えたからこそ。もう会えなくなるかもしれない。だからこそ二人を応援したい。


 まじめな雪見なりの、精一杯の手助けであった。


 そこで過去に、雪見が琴禰の病気を将斗に打ち明けてくれたことを思い出す。あの時雪見は将斗に、琴禰のよき理解者であることを望んでいた。真剣な表情で話してくれた。

 そして今、あの時の表情が再び目の前にある。


「将斗……どうか琴禰様を……よろしくお願いします」


 波が防波堤にたたきつけられる音。カモメの声。


 琴禰が言ってくれた「好き」。脳裏をちらつく紫音や愛花の顔。そこに琴禰の顔がダブり始める。


 どう答えればいい?

 どう返せばいい?


 自分自身に問いかけるが返事はない。あるのはもやもやとした不快感。

 何かを言おうとすると言葉はのどに詰まり、吐き出すことができなくなる。


 自分は……どうしたい?

 

 答えを出せずにいる将斗を見て雪見は苦笑いののち、背を向けてしまった。


「すいません……やっぱ急に言われると混乱しますよね。私はこれで失礼します」


「あ………」


 いまだ返事に迷う将斗の顔を振り返る際にちらりと見る。その横顔はあのまじめな雪見のものとは思えないほど寂しそうで悲しそうで。


「また……会いましょう」


 その言葉がどこか辛そうに聞こえた気がした。


 いまだ立ち尽くす将斗を取り残すように、カモメたちは風に乗って空を駆けてゆく。









「紫音ちゃん?」


 がゃちゃんという食器の割れる音に気付いて昴がキッチンに駆け込む。その後ろを千晶が続いた。

 床には砕けたポット。そこに跪くようにして紫音は頭を垂れていた。ポットに入れてた紅茶が床にあふれ、紫音の膝を濡らしている。

 最初は手を滑らせたのかと疑った。だが紫音の異変に気付き二人はかける言葉を見失ってしまう。


「……っ、……っ!!」


 紫音の頬には涙が伝っていた。食器を割ってしまった罪悪感とは別の、言いようのない苦しみに悶えている。

 千晶がそばに寄ろうと足を踏み入れるが、昴がそれを片手で制した。


「昴兄ぃ……」


「……千晶。悪いけど先に任務に行っててもらえないかな?」


「でも……」

「頼む」


 昴の声は小さく、優しく、しかし重々しさがあった。兄の意外な一面を見て千晶も引き下がることに決める。

 千晶が遠慮がちに出て行ったのを確認して昴は紫音の傍にしゃがみこんだ。

 最初は何かを話しかけるわけでも慰めるという訳でもなく、紫音の顔を見つめるだけだった。だがやがてポットと破片を拾い上げ、いつもの優しい表情で声をかける。


「服が濡れてしまったみたいだね。風邪をひかないうちに着替えなきゃ」

「……」


 紫音はなにも言わない。だが昴は構わず続けた。


「そうだ。今日は任務終わったら遊びに行かないかい?またどこかへご飯食べに行こう」

「…………」

「…………」


 壊れた茶器を置いて、昴は声を小さくささやくようにして尋ねる。


「…………将斗のこと?」


 ここでようやく紫音が反応を示した。ピクリと動いた変化を見逃すことなく昴はやれやれと笑う。


(本当に将斗は……困った弟だ)


「もしかしてこの前の光石さんと関係してる?」


「…………」


「…………ま。何があったか少しは予想できるけど」


 あんなに将斗への好意を示していた子だ。いつ思い人に気持ちを伝えてもおかしくはない。紫音の眼もとにたまっている涙を指で払い、微笑みかける。


「予想はできるから…辛いなら話さなくていい。僕は君の不安も不満もすべて受け入れる」


「…昴さんは…どうして…」


 紫音の言いたいことはわかる。彼は家族に対して歪んではいるものの深い愛情を注いでいる。優しくしてくれる。

 どうしてそこまで優しくしてくれるのか。彼女はそれを尋ねているのだろう。

 普段ならいつもの変態と呼ばれる顔でごまかしてきた昴だが、この時ばかりはそうはいかなかった。

 紫音が泣いている。任務でもなく、ただ女心で。

 そこへ普段のふざけた態度で返すつもりはなかった。


「…決まってる。好きな子が泣いてるんだ。見過ごせるはずがないだろう?」


 紫音が何かを返す前に、昴は紫音の体を抱き寄せ、耳元でそう告げるのだった。



再びのトラブルにつき、今回の話は短くなっております。申し訳ありません。

雪見は軽井沢の話で琴禰のことを話してくれた存在です。主の病気を教える。それだけ彼女にとっても将斗は信頼できる存在だったのです。

そして昴も紫音に告白してしまいました。作者からひと言。


爆ぜろ。

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