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新たな嵐、到来

大変遅れました。財閥対談編スタートです。

決してデータが飛んで遅れたとかではありません。



「む。日下部」



 千晶と一緒に昼食を取っているときだった。和泉と伊織が見かけない生徒を後ろに連れて通りすぎようとして、2人に気付いた。



「こんにちは」



 最近、少し話すようになった二人に対して紫音は挨拶をする。千晶も頭を下げた。



「まぁ、日下部さん。こんにちは」



 伊織の後ろには見かけない生徒がいた。茶色の髪を下ろし、綺麗に切り揃えている。綺麗な顔立ちで、見た目だけでもかなり品のある人物だと紫音は思った。



「紹介しますね」



 視線に気付いて伊織が体を少し横にずらした。


「本州の学校から交換留学生でやってきた光石みついしさん。光石さん。こちらは日下部さんとその妹分の千晶さん」

「はじめまして。光石琴禰といいます」



 マナー教育にありそうな綺麗なお辞儀をした。柔らかい雰囲気を纏った人だ。優しそうな眼差しを向けられ無意識に警戒を解かれてしまう。



「まだ北海道や学校に慣れてないもので、九条さん達に案内してもらってたところです」

「こちらに来るのは初めてなんですか?」

「ええ。他の県なら親の仕事の都合で転々としたことはありますが」



 ということは、家族が転勤族ということか。



「慣れないことばかりで迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いしますね」



 そう言って差し出された手を握り返し、紫音は笑い返す。手は千晶にも差し出されたが、なぜか千晶はそれを握らず頭を下げただけだった。

 もしかしたら初対面の人と握手することに抵抗があるのかもしれない。彼女のそんな一面を見るのは初めてな気がした。それを見て伊織は小さく笑っている。



「ふふっ、橘さんも初めての人相手には緊張するのかしら」

「……橘?」



 なぜか琴禰が食いついてきた。



「橘千晶さん?」

「?はい」



 琴禰の表情に驚きの色が浮かんだ。千晶の顔を食い入るように見つめ、何かを言おうと口を開いては閉じてを繰り返す。

 皆が首をかしげた。紫音は視線で千晶に「知ってる?」と尋ねるが、全くもって初対面である。千晶は首を横に振った。



「……私と同い年のお兄さん、いない?」

「将斗? それなら兄ですが……」



 「ですが」の時点で琴禰は千晶の手を取り、輝くような笑顔を弾かせた。いきなりの事態に千晶は顔をひきつらせてしまう。



「将斗の妹さん! 会いたかった‼」



 千晶は顔をひきつらせたまま、紫音達は硬直し、揃って



「はい?」



 と間抜けな声を出すのだった。




 


 橘家では怪しい空気が漂っていた。原因はもちろん琴禰である。将斗に会いたいと懇願してきたために紫音と千晶は彼女を招いたのだが、将斗に気持ちが傾いてる紫音としても、将斗と紫音の仲を応援してる千晶としても、彼女の来訪は複雑な気分である。客用のソファに琴禰は腰を下ろし、向かい合う将斗はそんな千晶と紫音の醸し出す不穏な空気に辟易してしまうのだった。



「えっと……」



 茶を差し出しながら将斗はぎこちない挨拶をする。



「……久しぶり」

「うん、本当に久しぶり!」



 一方の琴禰は明るく返してくるのであった。



「どうして北海道に?」

「親の仕事の都合もあって、交換留学生として来たの。将斗は元気にしてた?」

「もち……元気だよ」



 幼馴染みと妹の「説明してもらおう」という視線を受けて将斗は困ったように話す。



「琴禰とは軽井沢で知り合ったんだ。よく遊んだ仲で……な」



 紫音の事が好きだとこの間自覚した手前、琴禰に関する説明に迷ってしまう。お茶を持ち上げながら琴禰は笑顔を弾かせた。



「手紙のやり取りもしていたの。最近では千晶ちゃんやお兄さんと3人で暮らしてることも聞いていたわ。いつも兄妹でご飯しているって聞いて、仲良くやってるみたいで安心したのよ」



 千晶がチラリと紫音を見る。今の話から、手紙には紫音のことが書かれてなかったのだろうと推測できた。

 将斗もそれを自覚しているので、わざと話を逸らした。



「なぁ、真冬や雪見は元気?」

「元気だよ。こっちに来るのは来週になるかな」

「まだお前のガードマンしてるんだな」

「本当は私と一緒に来たんだけど、親の会社の都合で本州に一旦戻ったの」

「そうか」



 紫音は黙って琴禰を見ていた。学校では大人しめのイメージだったが、将斗が絡んでからというもの無邪気にはしゃぐ姿は年相応に見える。

 見た目も綺麗な人だし、何より……



(胸……ありますよね)


「紫音ちゃん?」

「ひぁっ?! 何でもないよ⁉」



 紫音のコンプレックスを再確認させるようなものもお持ちである。



「でも本当にビックリした。千晶ちゃんの苗字は最初知らなかったから、橘って聞くまで全然気づかなかったけど」



 琴禰は千晶に目をやる。千晶は遠慮がちに体の向きを変え、視線が合わないようにした。



「うん。言われてみると将斗と似てるね」

「いつも言われるが、いまいちしっくりこないんだよな」

「似てるよ。目元とか特に」



 琴禰に見つめられ、千晶は紫音のシャツの袖を掴んだ。どうやら彼女に対して苦手意識があるらしい。ここに来る途中の列車でも将斗の妹だからと言う肩書きのせいでべたべたされたのだし当然か。彼女の身の回りにはエレーナや昴のような……異常なまでに距離を詰めてくる人種が多いのも理由のひとつだろう。



「……こんな人見知りな千晶は初めて見た」

「そう? 怖がらせちゃったかな」



 琴禰もベタベタしすぎた自覚はあるのか、あっさり認めた。だが千晶は黙ったままである。

 すると今度は琴禰の興味が紫音に向けられた。



「そういえば日下部さんって千晶ちゃんと仲が良いみたいだけど……昔からの仲なの?」

「ああ。俺達が幼稚園の頃からずっと家に来てた幼馴染だよ」

「でも将斗のお兄さんや千晶ちゃんって2年前まで……」


「「あ」」



 将斗と紫音は声を揃えてしまった。

 今までの話しと二人の様子から琴禰の目が光る。



「……兄妹がいない間も来てたとか?」


「「…………」」



 互いに意識しているのもあってなかなか切り出せない将斗と紫音。そんな反応から琴禰は察した様子で「そうなんだ」と笑う。



「お付き合いしてるんだ?」

「違う(違います)!」



 やや上ずった声で否定。だがしゃべり方にはぎこちなささえ感じられて逆に不自然だった。

 否定するなよと言わんばかりに千晶はため息をつく。


 好き同士なんだから。

 ノリでいいから。


 だから言っちまえよ、めんどくせぇなぁ!


 妹から普段ともまた違った敵意を一身に受け、将斗は申し訳なさそうに頬をポリポリと掻いた。



「家族みたいなものだけど……付き合ったりはしてない」



 これは将斗なりの誠意だった。幼い頃、何度も自分を笑わせてくれた琴禰に嘘をつきたくはなかったし、とはいえ紫音を蔑ろにもしたくはない。

 将斗の様子をしばらく見て、琴禰はにっこりとした笑顔を見せた。



「そっか……よかった。将斗は将斗だった」


(あ……)



 その時の琴禰の表情を見た紫音と千晶は確信する。

 さっきからテンションが高くなってると思っていたしそれらしい節もあったから薄々感づいてはいたが。


 完全にホの字だ。女の顔だ。


 一方の将斗は怪訝そうに眉をひそめるだけ。



「なんだよそれ」

「何でもないよ」



 そう言って流し、琴禰は時計を見る。夕飯時までもうすぐだ。



「じゃあ私はそろそろ帰るね」

「あ、待った」



 時刻は将斗も掌握していた。彼が何を言い出そうとしているのか察していた千晶は慌てて身を乗り出そうとするも……



「飯ぐらい食ってけよ」


(やっぱり!)



 勢いよくテーブルに突っ伏す千晶。紫音はギョッとして背筋を強張らせ、琴禰は……



「いいの?!」

「食料ならいつもたくさんあるし、一人ぐらい増えても平気だ。ちょっと待ってろ」

「あ、それなら私も手伝わせて!」



 なんてはしゃぎながら将斗の隣に肩を並べるのである。それを見て紫音は「あわわわ」と狼狽え、千晶は「……ばか」と呟くのだった。





 その頃昴はコンビニに車を停め、タブレットで様々な情報を見ていた。


 かつて師のキャシーが調べ、命を落とした製薬会社。


 あの製薬会社とパンドラの関連性をキャシーは調べていたというが、思い返せば、情報の出所は一体……

 あれよこれよと推理に頭を働かせていると、携帯が小さく鳴り出した。千晶からの連絡である。



『将斗がまた女を作ってきた』



 その一文だけ。

 わずかな間を置いて昴は



「は?」



 間抜けな声を出すのだった。




「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………どうかな」



 琴禰の遠慮がちな尋ね方に3兄妹と紫音は無言の敬意で返す。

 彼女の料理の腕は文句のつけようがないくらいに兄妹達の舌を唸らせた。和食が得意らしく、それだけでも普段の将斗の手料理よりずっとおいしいのである。



(……紫音ちゃんの立場が危ない……)



 千晶の危惧と



(やべー……今後琴禰を下手に夕飯に誘えない……逆に恥ずかしい)



 なんて己の未熟さに不安を募らせる将斗



(……将斗のためにこんな美味しい夕飯を作る彼女。それなら二人を結婚させて僕は、紫音ちゃんを貰ってもいいよね?それなら平和的に解決するし。うん、名案)


「昴兄ぃ……?」

「なんで僕の思考を読み取る能力に長けたのかなぁ、このいもうとは」



 少なくとも皆が美味しいと判断してくれたことに安堵して琴禰は緊張を解いた。



「よかった。将斗にいつか手料理食べて貰いたかったから練習してきたの」


「「ぶっ⁉‼」」



 吹き出す将斗と紫音。しかし琴禰は自分がおかしなことを言った自覚がないのかあっけらかんとしている。

 彼女は一途だ、将斗にホの字だ。

 そしてそれをためらいなく見せてくる手強い相手だ……!千晶は手に力を籠めるあまり握っていた箸をまっ二つにし、紫音は顔を真っ赤に口をぱくぱくさせ、将斗はただ狼狽しながら



「ばっ……そういうことサラリと言うな!」



 なんて、まぁ情けないこと。昴はそんな弟を見て黙々と箸を進めていた。



(……うん、この積極性。将斗が落ちるのも時間の問題かな。紫音ちゃんには悪いけど、二人をくっつけさせて僕は紫音ちゃんに……)


「昴兄ぃ。バカなこと考えない(小声)」

「バカなこと? 真面目な計画さ(小声)」



 千晶は兄の耳に囁く。



「何も感じないの?」

「感じてるよ。紫音ちゃんは立場が危うくなる。だが結局選ぶのは将斗だ。違うかい?」

「……違わないけど……そっちじゃなくて……」



 千晶は兄二人を交互に見て、そして小さく呟くのだった。



「男って……自分のことばっかり」





 琴禰の手料理を堪能した後、連絡先を交換して駅まで送った。その帰り、喫茶店モルゲンに移動し四人は天田から指示を受けていた。



「………まず結論から言う。水森財閥内に裏切り者がいる。………今までのテロ国家関連の手引きを行ったのはそいつだ」

「特定は終わって?」

「………大まかな特定はな。………だが量がある」



 四人の端末に送られたのは大量の企業のデータだった。いずれも財閥が抱える会社で、この中から容疑者を探すなど藁の山の中から針を探すも同然の行為だった。



「こんなにたくさん……」



 昴が顔をしかめる。



「………手分けをして調査を進めてもらう。あと明日は水森社長達に会いに行くわけだが」

「達?」



 千晶が視線を向けた。



「………ああ。パンドラに関する情報は社長だけでなく……彼の側近達も深く関わる」



 天田は四人を見渡して一呼吸置き、そして告げた。



「………水森含む九つの家……九家が今回の対談相手だ」

新たな女が出ましたね。彼女は将斗のメモリアルエピソードの人物です。

そして次回、財閥とようやく対面します。

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