表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/103

それぞれが気付くとき

将斗がダブルデートをしたら?そんな話です。

ダブルデートと言っても修羅場に近いですが


 母から連絡が来た日……


『小樽に新しいレストランが出来たんだって。今度いってきたら?』


「運河のだよな。食レポすればいいわけ?」


 最近、運河の古い建物を利用して洋食店が出来たらしい。

 学校の昼休み、人気の少ない場所で携帯をスピーカーモードにしながら将斗は紙パックのお茶を飲んでいた。


『そ。気になるから味見してきて~』


「母さんが次帰ってきたとき行けばいいのに」


『仕事がたて込んでて難しいのよ、お願い』


「……まぁ良いけど」



 母は新しい店の味がどうしても気になるらしい。しかし将斗が行けそうな日には千晶と昴の任務が重なっていた。一緒に行けそうなのは紫音くらいか。

 ネットでその店の内装や料理に目を通し、紫音に連絡を入れようとする。



『母さんに頼まれてこの店に行くんだけど、一緒に行かないか?』


(……ん?)



 送信ボタンを押す前にひとつの疑問がうまれた。

 2人で行くんだとしたらデートだよな、これ。


「…………」


 一気に緊張が押し寄せてきた。

 デート。デートですね。はい。

 そう意識したとたん、指がめっきり動かなくなってしまった。

 紫音と2人で?昔はよく2人で夕飯を食べたりしたが、ここ最近昴や千晶が必ず一緒にいた。今2人でなんて、紫音はどう思うのだろう?


 嫌がるだろうか?嫌がるか⁉


 紫音が綺麗になってからというもの、将斗は彼女とベタベタ一緒にいることに抵抗感に近いものを感じるようになっていた。

 決して嫌いとかそういうのではないが……


(あれ?なに迷ってんだ、俺)


 そうだ。もしかしたら単にそういうのを意識しやすい年頃なだけかもしれない。こういうときは考えずに……考えずに……


「押せば良いんだろーっっ!」


 送信のボタンに向かおうとする指を必死に引きとどめる異様な姿で将斗は1人わめいていた。

 大丈夫。一緒に食事するだけ!深い意味はない!ないから‼ボタンひとつで万事解決するから‼


「まーさとっ‼」


「ぅわあ⁉」


 背後からのどっきりにより勢い余って押してしまった。ポチってしまった……

 脅かしてきたのは愛花だった。


「なにしてんの?」


「……背中を押してくれてありがとう」


「なんの話?」


 愛花にレストランのホームページを見せた。母に頼まれて食べに行くこと。そのために紫音を誘ったことを話す。


「いいじゃん!美味しそうだし」


「問題はそこじゃなくてな……」


「ん?喧嘩でも?」


「してないわ‼」


 ただ、紫音と2人きりのシチュエーションを想像しておかしくなるだけじゃい‼


「それならおまかせあれ‼」


 愛花は自身の端末に指を走らせ、「よしっ‼」とガッツポーズ。


「え?何?なに?」


「そのデートに私も言っていいか、紫音ちゃんに聞いたの‼」


 私が鎹になりましょう。そう胸を張る愛花へ対し将斗は……


「は?」





「で、来ちゃいました‼」


 将斗と紫音の間に立ち、なぜか変なリポートを始める愛花。そのコケティッシュなキャラに目を点にしながら。


「本当に楽しそうだな……」


「Sure!美味しいのを食べれる予感だからね‼」


 鎹とは何か。本命はグルメだった。


「ありがとうね、紫音ちゃん。私も一緒させてくれて」


「ううん、私も嬉しいから」


 紫音と愛花は同じ保有者ホルダーとして仲が良い。将斗もこうして二人が仲良くしてくれるのはありがたかった。

 将斗をチラリと見る紫音。彼から食事の誘いが来たとき、一緒にご飯をするのはいつものことだし気にはしなかったのだが。

 だが実際、昴と千晶がいなかった。


(まさか最初は2人きりのつもりだった……?)


 そう考えると顔が熱くなる。だが二人きりの気まずさやらなんやらを和らげるために愛花が参戦したと言うことだろうか。

 休日の夜と言うこともあり、三人とも私服だった。これで二人きりだったら完全にデートである。


 デート。デート……


(はっ⁉)


 今、完全に意識がドロップアウトしていた。いけないいけない。


 新しく出来たお店の内装はシャンデリアで照らされた、少しレトロな雰囲気であった。奥にはピアノが置かれている。

 ピザを焼いているのか、香ばしい香りが鼻をくすぐる。

 将斗と向かい合う形で紫音と愛花が並んで座った。レコードからジャズの曲が流れ、穏やかな空間を産み出している。


「綺麗だしお洒落だね」


「だな。母さんが好きそうだ」


 愛花の意見に将斗も首肯く。食前に出されたコーヒーを口に、三人は何気ない会話を楽しんだ。


「愛花。家族とは大丈夫か?」


「ノープロブレム!お父さんとはあまり話さないけどね」


「学校での将斗ってどうなんです?」


「相変わらずだよ‼こないだも私に英語の宿題を……」


「おっと、そこまでだ」


「……将斗……」


「いや、ちょっと手伝ってもらっただけだから!」


「紫音ちゃんは?学校では千晶ちゃんと?」


「まぁ、お昼とかは一緒に」


 そんなやり取りをしていくうちにピザが出された。ハチミツをかけて食べるようで、愛花は器用にピザにハチミツをかけていた。


「うんまっ‼」


 女子らしくない言い方に2人は笑い、ピザに手を伸ばした。

 うん、確かに美味しい。母親もこれなら喜んで食べるに違いない。


「チーズが凝ってますね」


「だな。香りが強い」


「将斗。案外ハチミツをかけなくてもイケるかもよ?」


「え?本当か?」


 将斗はハチミツのかかってない箇所にかじりつこうとして……フリーズした。

 愛花が食べていたピースをこちらに向けているのだ。


「愛花?」


「うん?」


 愛花は無邪気な笑顔を向けるだけだ。逆に有無を言わせない圧力を感じる。

 断ろうとした将斗だがその圧力はどこかすさまじく、「食べなかったら殺す」と脅されてるようにも感じた。

 いや、愛花はそんなことは言わないか。彼女はただ、同じ感想を共有したくてそういうことをしてるに過ぎないのだから。

 こっそり紫音を見る。紫音は慌てて目をそらしていた。


 ……仕方ない。


「はい、あーん」


「………………」


 口に運ばれたピザをゆっくり咀嚼する。

 なるほど、確かにこれも美味しい。しかし味がしないような気がするのは何故だろう。


「ねっ、美味しいよね!」


「……オイシイデス」


「なんで棒読みなのさ‼」


 そう言って笑う愛花。紫音は2人に気づかれないようにため息を吐いた。

 もしも紫音に足りないものがあるとすればこの積極性と天真爛漫さだ。普段から将斗達と一緒にいるからかどこか油断していたのかもしれない。


 視線のやり場に困り、将斗は辺りに目をやる。他の埋まってる席の料理を見るためだったが、その人達を見て咀嚼の口を止めてしまう。

 他の客は皆カップルだった。さっき将斗達がやったような「あーん」を平気で行っている。人によってはテーブルの上で手を繋いでいた。


 ……カップルしか来ない店じゃないか。


 紫音も同じように思ったらしく、慌てて自分のテーブルに目を戻し、顔を真っ赤にしている。


「あ、次の料理来たみたい」


 それにしても愛花は強者だ。彼女だって周囲の客に気づいてるくせにうろたえてる様子なんて一切見られない。

 やはり天然は強い。


 出されたのはサーモンのマリネだった。


「美味しそうだね!じゃ、将斗!先陣お願いします!」


「わかったから、あーんはやめてくれ」


「えー?なんで?弟にはいつもやってるよ?」


「お前はお姉ちゃんか‼」


「お姉ちゃんだよ?」


「俺の、って意味だよ‼」


 渋々2度目のあーんを受け入れる将斗。愛花と将斗の姿はこの店に見合うようなカップルそのものだった。


(……何を期待していたんでしょう……私……)


 紫音は情けなくなった。

 よく言えば謹み深い性格とも呼べるが、単に自分から行く努力をしていないに過ぎない。


 愛花の将斗への気持ちは理解している。彼女が壁を作らない性格だと言うことも。


 だが、こういうときに限って紫音は愛花と一緒にいることに劣等感を覚えるのだった。


 親からも見放された自分を連れ出してくれた男の子。いつも自分を守ってくれる彼の存在はメルヘンな表現では王子様でもあった。

 しかし、その王子様は他の人にも好かれている。明るくて楽しくて、いい人だ。

 それに引き換え自分にはなにがある?


(何もない……)


 笑う愛花と悪態をつく将斗から目をそらし、ピザを口に運ぶ。美味しいはずのピザは味が感じられなかった。


 普段みたいに昴や千晶が一緒なら。こんな思いはしないはずなのに。


「ちょっと小さい方を出してくるね」


「オブラートに言え!」


 歯を見せていたずらっぽく笑い、愛花は席を外した。残された紫音と将斗は水を飲みながらも、あまり会話をしない。


「相変わらず騒がしいよな、愛花は」


「……でも、楽しいじゃないですか」


「そうだけど……」


 愛花がいると将斗も遠慮なしに話せる。学校でもこうなのだろう。


 そこで新しい料理が運ばれてきた。

 紫音はそれを見て、一瞬だが愛花がしてあげたような事を自分もやりたいと思った。

 だがそれよりも先に、恥ずかしさと将斗に断られるかもしれない不安が押し寄せてくる。 


「……将斗……」


「ん?」


「……あ、すいません、なんでも……」




 愛花は手を洗いながら必死に口元に力を込めていた。

 思い出しているのはさっきまでの将斗とのやり取りであった。考えるだけでニヤついてしまう。思わず声まで出していた。


「えへへ……」


 しかし思い返して慌てて口を閉ざした。そうだ。自分は2人の鎹ではないか。調子に乗ってはいけない。

 それでも……


「良いよね……少しくらい……」


 そう言って鏡に映る自分の顔を見た。このまま戻ったら自分はニヤついてしまうに違いない。何かで発散しなくては。


(そういえばピアノ、あったよね)




「……やっぱり愛花ちゃんがいないと寂しくなりますね」


「ま、あいつはムードメーカーだしな」


「普段は昴さんが盛り上げますしね」


「兄貴?あれはただの変態だろ」


 そう言って将斗はピザを手に取り、一瞬動きを止めた。

 紫音の元気がない。


「紫音。どうしたんだ?」


「え?なんでもないですよ?」


 慌てて紫音は料理を頬張った。嫉妬していたなんて悟られたくなかった。

 だが慌てたためか喉に詰まらせそうになり、むせ混んでしまう。将斗はすぐさま隣に寄り、背中をさすりながら水を差し出した。


「けほっ……ありがとうございます……」


 水を受け取ろうと手を出し、しかし止まってしまう。

 近くに座っていたカップルの話し声が聞こえたのだ。


「彼氏優しいね」


「ばか。彼女はトイレに行った方だって。さっきまで仲良く話してたろ」


「え?でもあの子、かわいいよ?」


「可愛さなら上だけど、話して楽しそうなのはさっきの子だろ」


 ………………。


 自分は愛花と違って楽しい人間ではない。


 紫音は差し出された水を押し返してしまった。


「大丈夫です……」


「?だが……」


「平気です……ごめんなさい……」


 やはり将斗と愛花がお似合いなのだ。自分では二人みたいになれない。



(……なんか、まずい予感しかしない……)


 明らかに紫音は様子がおかしかった。

 まさか愛花との会話に夢中でおいてけぼりにしたからか?


 将斗は改めて2人の事を考え直した。

 いつも一緒にいる紫音。家族を失って消沈していた自分を支えてくれた人。

 自分の家族だ。何があっても守りたい人で、兄貴も好きになるくらいに自分達を受け入れてくれる人……


 だが愛花も学校で将斗を笑わせてくれた。辛いことがあってもあの笑顔を絶やさず、将斗はそれに憧れさえ抱いていた。彼女を守りたい。あの笑顔をそのままにしたいと思っている。


「……いいから。ほら。見過ごせないって」


 少し強引だが水を押し付ける。とにかく紫音が苦しい思いをする姿は見たくなかった。紫音はあきらめて水に口をつける。少し飲んだら楽になり、呼吸も落ち着いてきた。

 申し訳なさそうに口元を押さえる紫音。


「……ごめんなさい」


「いや、謝んなくっていいから」


「……でも……ごめんなさい」


 参ってしまう。こんな顔をさせたいわけじゃないのに。

 2人に気まずい雰囲気が流れたその時、店内をピアノの音が響き渡った。驚いて跳び跳ねてしまうが見ると、愛花が楽しそうにピアノを弾いているのだ。


 紫音は愛花のピアノを聞くのは初めてだった。他の客も突然の音に驚きつつも、演奏に耳を傾けている。


 美しい音色を奏でる愛花は喜びを曲に乗せていた。リズミカルに、しかし強く鍵盤を叩く指には迷いがなく、聞く者見る者に楽しさを伝える。将斗と近づけた幸せを、音で振り撒く。

 曲の雰囲気なんか無視して心を踊らせるような力を持つその音色に、皆が口元を綻ばせる。


 何よりも楽しそうに奏でる愛花の姿に、皆が感動を覚えるのだった。


「素敵……」


「上手だ」


 そう呟く客は感動さえ覚えていた。


 ある客はムービーを撮り始めていた。


 曲のテンポは早くなってゆく。しかし複雑な譜面を笑顔で弾き続ける愛花は輝いていた。

 ふと、愛花と眼があった。


(何してんだよ)


 視線で訴えるが愛花はニカッと笑い、再び鍵盤に目を向ける。


(いいじゃん‼)


 声が聞こえたような気がした。


(楽しいんだから‼)


 なんとも愛花らしい心理である。彼女は楽しみを独り占めはしない。必ず誰かにも分け与える。

 楽しさを音楽に乗せ、皆に与える。客は全員、そんな愛花の心につられるかのように明るい笑顔を弾かせていた。

 人の心がわかる紫音にはそれがよくわかる。愛花は今、この場にいる全員に幸せを与えている。誰よりも楽しく、誰よりも幸せに。

 

 愛花の笑顔が遠目に見える。眩しいくらいに輝くその笑みを見て将斗の胸は大きく高鳴った。

 素敵。確かにその言葉が似合う。しかしそれ以上に将斗は愛花の魅力を理解してしまった。

 走る指も、楽しそうなその笑顔も。何もかもが美しく、尊いもののように思えて仕方ない。


 だが何故だろう。そう感じたとたん、重いしこりみたいなものを感じたのは。


 演奏が終わると同時に客は立ちあがり、惜しみ無い拍手を送った。将斗と紫音も同じである。拍手をしながらも興奮と得体の知れない重りが交互に将斗の胸で主張を続けていた。




「……愛花ちゃん、凄かったですね」


 帰り、慣れた道を歩きながら将斗と紫音は並んでいた。


「ああ。曲に感動するなんて久しぶりだ」


「そうですね。私も興奮しました」


 お世辞ではない称賛を語り合う。

 しかし紫音は気付いていた。演奏する愛花を見る将斗の変化に。

 あんなに楽しそうな彼の顔を見るのはいつぶりだろうか。自分では出来ないことを愛花はやってのけてみせた。

 やっぱり彼女は自分なんかとはちがう。自分は将斗には相応しくない。そう思うと胸が締め付けられて痛い。


「……やっぱり愛花ちゃんは凄いです」


 それに引き換え、自分は将斗をあそこまで笑わせることができない。


「ああ。まさか勝手にピアノを弾くなんて……大物だよ」


 違う。違うんです。


 しかし紫音はそれを口にしなかった。代わりに精一杯の笑顔を将斗に見せる。


「……楽しかったですね」


 そうだな。そう言おうとして将斗は紫音を見た。

 見たと同時に胸が痛んだ。幼馴染みだ。彼女の異変には将斗も気付いてしまう。

 作り物の笑顔はこの上なく大きな楔となって将斗を痛め付けてしまった。

 なんでそんな無理をするのか。なぜそんな笑顔をするのか。


「…………」


 将斗にはわからない。






 その夜、紫音と別れてからタイミングよく将斗の携帯に連絡が来た。五木からだった。

 見てほしいものがある。そう言われ将斗は1人、倉庫に行った。


「五木さん?山縣さん。何だよ、見せたいものって」


 五木はいつもの口調で説明した。


「見せたいというか、試してほしいものがあるんですよぉ。ちょっと紫電に乗ってくれませんか?」


 意味がわからず紫電を纏った将斗に差し出されたのは、紫電によくにた色合いの長いブレードだった。ブレードと呼ぶには刃の反り具合や細さから、日本刀に近い。


「役に立つと思って。急ごしらえですが将斗さんの新しい武器を作ってみたんです」


『急ごしらえにしちゃ、やけに造りが凝ってないか?サイズとかやけにフィットするし……』


「細かいことを気にしちゃ敗けですって」


 なんか納得がいかない。しかし言われるままに振ってみると勝手が良く、リーチも申し分なかった。

 なんだろう。すごい扱い慣れた武器のように感じる。


「居合いが上達した将斗さんに見合う武器を用意しました。


 ……名前は雷光。まだ最終調節を残してますがね」


 山縣の説明を聞きながら将斗は試しの素振りを繰り返す。剣先は美しい弧を描き、思った通りの動きを見せる。


『……雷光……』


 短い対甲ブレードでは出来ない動きも可能だ。これなら将斗の得意な居合いを十分に活かせる。

 

(新しい武器……)


 それだけで胸が踊る。守りたい人を守ための力にもなる。

 その嬉しさは将斗をさらに活気づけた。振り方を変えたり、間合いを確かめたりする。

 新しい力。これで大事な人達を守れるなら……!


 しかしそう考えた時、真っ先に浮かんだのは紫音の顔だった。


(……え?)


 振る。振る。力を入れる。


 しかし違和感を捨てることは出来ない。守りたい人を守る力を得たと言うのに、なぜ彼女の顔が?



『あ……』


「将斗さん?もしかしておかしな点が?」


『……………………』


 そうか。そういうことか。


『……なんでもない。ありがとう、五木さん。山縣さん』

「ならいいのですが……」


「完成までもう少しかかります。実戦に投資するまで少々……」


『……そうか。ありがとう』


 ようやく気がついた。今まで気づけなかった自分に腹が立ってきた。


 守りたい人。大切な人。すぐに浮かんだ紫音の顔。

 ああ、そうか。だからあの時胸が痛んだのか。

 昴に宣戦布告されたとき、モヤモヤした気持ちでしかなかった。ユウヤが紫音と話していたとき、腹が立った。

 今まで近すぎて気付くことができなかった。


 自分は紫音が好きだ。それでいながら愛花も好きになってしまった。

 胸の痛みはそんな自分への警告だったのか。


 自分の愚かさにやるせない気持ちになり、最後に一度だけ雷光を振る。

 しかしやはり不快感はぬぐえなかった。





 数日後……


「………まず結論から言う。これまでテロ国家に与していた日本の暴力団。彼らは俺の所属……アクアフォレスト・カンパニーによって買収されていた。


 ………ルスランに日本のアジトを提供していたのも同様だ。


 ………それで後日、札幌にあるアクアフォレスト・カンパニーの支社に行くことになった。………社長自ら、お前たちに会いたいらしい………よろしく頼む」



 将斗達がパンドラの真実に近づくプロローグが始まる。






 ネオンに彩られる札幌の繁華街をビルの上階から見下ろしながら、3人の若者が料理を口に運ぶ。男子1名、女子2名という組み合わせだが将斗達みたいに楽しんでる様子は見られなかった。


「札幌の学校には明日。明後日は小樽の観光に行くわ」


 女子の1名……ドレス姿の女性が告げる。頷く男女は黒いスーツ姿だ。


「連絡はいつごろ入れましょうか」


「明日に」


「はっ」


 ドレス姿の女性が鞄から取り出したのは白い便箋だ。送り主は橘将斗……


「将斗、家族と再会できたんだね。よかった……」


 そう嬉しそうに呟き女性は封を置く。

 それには「光石琴禰様」と

ようやく気付きましたね、将斗達が自分の気持ちに。しかし鎹になるといいながら押しの強い愛花は空気が読めないのでしょうか(ひと事)


また、最後に琴禰も出ました。

次回より新章。「財閥対談編」になります。

よりどろどろした関係を描けたらな、と思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ