間話[夜のコール]
「キャシー、グッドイブニング」
『急な電話ね、どうしたのかしら』
「情報は見つけたよ。今夜中にでも乗り込む予定だ」
『流石、早いわね。それなら私からも報告させて頂戴。貴方の町には気になる人物がいるわ』
「急いでるから、後にしてくれない? ダンスでも食事でもデートでも付き合うからさ」
『いいから報告させて。気になる人物っていうのは2人いるわ』
「へぇ、2人も」
『送った封筒、手元にあるかしら』
「あった。既に開いたよ。顔と経歴はもう記憶したからシュレッダーにかけてる」
『容赦ないわね……まぁいいけど』
「でも経歴的にもあまり目立つわけじゃない。片方は武器の入手に携わった程度で、むしろこちらの世界に手を伸ばす理由がわからない」
『理由はわからないわ。ただその人物の不審な処は武器の入手だけでないわ』
「そんな記述はなかったよ。キャシー、わざと書きもらしたのかい?」
『当然。その人の経歴に…………………………………………』
「なるほどね、たしかに気になる。わかったよ。イヴァン・ベルキナと天田悠生。この2名の警戒をするよ」
『お願い。それからイヴァンだけど、ロシアのクレムリンは知ってるわよね? 昔、教えたこともあったんだし』
「あ、覚えてたんだ。てっきり……」
『スバル……さっきの書き漏らしの時といい、まさか、私のボケを疑ってない?』
「まさか、ミスキャシー。僕は50代後半の貴女が年齢と疲れで記憶を失う病にかかったのかと心配しただけさ」
『……意外と正直なのね、貴方。で、イヴァンがそのクレムリンの一員ってわけだから、もしも奴が仲間を連れているようなら、必要以上に警戒なさい。いくら"パーシヴァル"があるとはいえ、連中を大勢相手にしたら……』
「……そうだね。気を付けることにするよ」
『……意外ねぇ』
「そうでもないよ。僕だって命は惜しい。ねぇキャシー」
『なにかしら?』
「実の弟とそっくりな真面目系ヒロインと、妹そっくりな天然系ヒロイン。どちらを選ぶか選択肢があるんだけど、キャシーはどっちを選ぶ?」
ーさて、誰とデートに行こうか……ー
→クラス委員長だろ
今日は天然に癒されたい
『電源を切って現実に帰るって選択肢はないのかしら? あと、急いでるなら恋愛ゲームやってる暇なんて……』
「キャシー……よく面白くないとか、いじり甲斐があるって言われたことない?」
『貴方には関係ないわ』
電話はそこで切れた。
あと、上司もキレた。
◇
『聞けばMI6とアクアフォレスト・カンパニーが今回の秀英運輸の密輸と香龍会の関連性に乗り出している』
「……いいの? イヴァン。手を引かなくて」
『北海道には世話になってるからな。私だって、君の故郷のために動きたい気持ちはある』
「そんな事……イヴァン……ウオッカ飲み過ぎたの?」
『……そうかもしれない。任務に支障はないから平気だ。それよりルスランを同伴させなくて本当にいいのか?』
「……倉庫にATCがあるなら……生身のルスランが一緒なのは危険だから」
『仲間が死ぬのが嫌いなのはわかるが……』
「私達は消耗品。でも意志と願うことは自由だって教えてくれたのはイヴァンだよ」
『変わったな……ティーナ。クレムリンにいた頃の君とはまったく別人のようだ』
「私もウオッカを飲んでるから、変なこと言ってるかもしれないね」
『………………任務に支障は無いよな?』
「平気平気。ATCで飲酒運転の法はまだ無いから」
電話が切れる前、イヴァンから微かに笑う声が聞こえたような気がした。
次回、長くなります。
最凶の兄妹喧嘩の幕開けです。
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