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マキシム・セルゲイ

千晶が捕まって直後の小話になります。



 



 クレムリンの戦闘部隊でトップの成績を叩き出した3人はいずれも同期であり、よき仲でもあった。


 近接戦闘では無敗を誇る日本人の女の子。チアキ・タチバナ。戦闘では優れた才能をいかんなく発揮し、ついた通り名は狂犬。実戦になれば彼女に勝てるものはいないと言われる。


 続いてマキシムは銃を使った近~中距離の戦闘と、作戦における部隊の司令塔としてこれまでクレムリンの損害を最小限に留めてきた。指揮官に命じると攻防ともに死者の排出をゼロに近い数値で納めてしまうその実力はどの戦いでも光り、それだけ彼の指揮能力は優秀である。


 さらにルスラン。普段は気弱な彼だが、遠近共に優れた戦闘技術で敵の撹乱に活躍。ティーナと彼の存在はクレムリンの切り込み隊とも唱われていた。


 幼少期より過酷な訓練に耐え、数多の死線を潜りぬけた戦士としての絆だけではない。同期として同じ釜の飯を食い、ある時は衣食住も共にした家族のような存在を、互いに大切にしていたのは誰の眼から見ても明らかである。


 やがてティーナはATC白夜を与えられ、さらに特殊な任務に就くことが多くなった。他の2人も同様で戦闘以外の任務を数多く受け持ち、やがてはイヴァン同様、諜報部として活躍する未来を望まれるような人材へと成長していった。


 ルスラン達の諜報活動が主な任務に変わりつつあった頃、不審な情報が相次ぐことになる。


 


 クレムリンの一員が、テロ国家に与していると 



 しかしいくら見張っても怪しい動きは見られない。目の付け所を間違えたのかと諜報部が首をひねった頃、一件の報告が入る。


 


 ティーナが日本に暮らし始めて3年目になる年だった。


 戦闘員の1人に、テロ国家との共謀罪の疑惑がかけられたのだ。 


 逃走した戦闘員の名を耳にし、ロシア軍の幹部達は耳を疑った。

 彼はこれまで数々の戦闘に貢献した信頼できる特殊部隊、クレムリンの成績優秀者だった。

 今後を期待される若い星



 逃亡したマキシムの捕獲または抹殺は今、クレムリンでも優先度の高いミッションとされていた。











 埃の匂いが鼻をつく部屋には灯りがなかった。土足のまま男は月明かりの差し込む窓に近付き、少しだけ外の様子を伺う。誰も来ていないのを確認するなり上着を脱ぎ始める。広い胸板に被せられたネイビー色の防弾チョッキが汗を含み、じっとりとした不快な感触を男に与え続ける。それを乱暴に脱ぎ捨てると床に転がしてあったスピリタスのボトルを拾い上げ、ひと口含んでから壁にもたれかかる。


 度数の強い酒にやられたわけではない。今、男が見せているのはすぐにでも切れそうな糸のようにはりつめた緊張感と疲れである。

 今、糸を切るわけにはいかない。切らしたら男はきっと脱け殻同然になるだろう。

 しかしこれ以上の緊張感も限界を迎えつつあるようにさえ見えた。


 もう一口飲んで固く目を閉じ、瞑想に入る。彼のまぶたの裏にはどんな世界が広がっているのだろうか。



「……ティーナ……」



 そうして男は、マキシムは薄くだが目を開いた。


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