激昂
「なにしてんだテメエエエエェェッッ‼」
フル速度で一気に詰めより、ブレードで斬りかかる。しかし振りかぶる時点でユウヤの体は薄くなり、やがて見えなくなってしまった。
虚空を斬るナイフ。気配も姿も完全に消えていた。レーダーにも反応がない。
(高速移動?………いや………ステルスか⁉)
ホバリングが使えない以上、ローラー部だけで高速移動が出来るのは白夜くらいだ。ブレーメンの艦がさっきまで姿を隠していたように、ユウヤも姿を眩ますことが出来るのだろうか。
だがそうなると疑問が出来る。先までの情報では彼のパンドラの能力はシールドの展開。ステルスの能力があるなら、あのシールドはパンドラに由来するものではないはずだ。
出力を上げるのはパンドラの能力だが、昴のパンドラは演算処理。将斗と千晶は………不明。
だがパンドラが2つも能力を持つとは聞いていない。
(兄貴の銃を防げるんだ。あれがパンドラでないはず……)
だが迷う時間が命取りになる。
『?‼』
背中をなぞられたような悪寒に身を震わせ、その場から退避する。将斗のいた場所に、ステルスを解いたライゼがブレードを突き刺していた。
(危ねぇっ!殺気を感じなければ殺されてたぞ‼)
ユウヤは飛行ユニットの上に乗っていた。どうやらあのユニットはATC を運ぶ程度の強度を持ち合わせているらしい。
すかさず他のユニットが将斗へと向かってくる。うち1台を斬り倒し、猛スピードで突きに行く。
ライゼがデバイスを前に移動させた。シールドが展開され、ブレードを防ぐ。まるで斥力のような力に押されるが将斗も負けじと踏ん張る。
力と力のぶつかり合い。先に制したのはユウヤだった。
乗っているユニットを浮遊させ、将斗の体を掬い上げる。地から足を離した将斗の横腹に、他のユニットが突撃した。
装甲のダメージも大きいが、身体の痛みの強さに意識が揺らぐ。肋骨にヒビが入ったかもしれない。
『ぐぅ………っっ!』
崩れた姿勢の将斗へ追い討ちとばかりに、ユニットで飛行したままシールドを押し当てた。構えを解かれた体をその力をもろに受けてしまう。
紫電の身体は弾けるようにして空に舞い、コンクリートの地面に叩きつけられてしまった。
モニターに一瞬だがノイズが走る。やはり昴の支援がなくては厳しいか。
『無駄だ。パンドラをまともに使うことも出来ないようなお前に勝ち目はない』
冷酷な声で告げられ、胸を踏みつけられる。
『ましてやお前1人で複数能力保持の俺相手は分が悪いだろう』
起き上がろうと抗うが、強く踏まれているために叶わない。
そして聞きなれない言葉に耳を疑った。
『複数能力保持だと………?』
同じような疑問が艦内でも。
「なんですか?それは……」
選ぶ言葉に迷うかのように、オギノはあたふたしている。
「えっとですね……ユウヤさんのパンドラは普通のと違いまして、でもそれは最初からそうじゃなかったらしくて……」
「私が話すわ」
助け船を出したのはカンナだった。
「パンドラ………貴女の友人やユウヤの機体が持つものだけど、普通は一つしか能力を持てないの。さっき倒れた貴女の友人は多分……エネルギーの調整技術かもね」
昴が電子戦に臨まなかったので高出力のエネルギーを扱うための力と勘違いしたようだがそれは黙っておく。ある意味、あれだけの力で撃つのだから演算処理でエネルギーの保持をしているのは事実だが。
「だけどユウヤは違う。彼のパンドラは能力を複数扱えるの。とは言っても、高ステルスとエネルギーシールドの2つだけだけどね」
「どうして………」
「私も最初にユウヤと会ったときには、ああだったからわからないわ。でもこれで、私達の勝ちは見えたわよ‼」
操縦室のクルーが歓声をあげる。その様子を黙って見ることしか、紫音にはできそうになかった。
『実力差はわかったな。もう諦めろ』
胸を踏む力が強くなる。ダメージ計測が追い付かず、ノイズの割り込む頻度が上がってきた。このままでは装甲を破られるだけでなく、胸まで踏みちぎられてしまう。
『……笑わせるなよ』
『………何?』
『お前らなんかに命乞いするほど、落ちぶれたつもりはねえんだよ!』
もがく将斗を取り押さえるように、さらに脚に力を入れる。だが漆黒のATCは、諦めない。力の限り吠え続ける。
『なぜそこまで抵抗する?………家族を奪われたからか?』
『ああ、そうだよ!一度に家族を失って、奪われて、再会できたから!だから‼』
『再会?』
いぶかしげな声だ。
『それなら戦う理由などないだろう?なぜ………』
『仲間を救うって崇高な意思をお持ちのお前なんかにはわかんねえだろうな!』
その言葉でユウヤの様子に僅かな焦りが生まれる。
『また失うかもしれない恐さが‼』
片手の銃で周囲の飛行ユニットを撃つ。乱射した弾はユニットを駆逐した。
『失ったからこそ、もう失わないように守りたいって、強く、強く願って‼奪うことしかしないお前らテロ国家に、これがわかるかあぁっっ‼‼』
素直にいえば、感情に身を任せただけの言葉だった。最初に昴と対峙したとき、失望して、自棄になったようなものと似ている。
しかし今は違う。兄妹での幸せをあの日以来、確かに噛み締めることが出来るようになった。
お互いを知ったからこそ、護りたいと思えるようになった。
これは将斗の願いだ。あの日常が続くことを祈る、確かな思い。
もう誰1人欠けてほしくない。今諦めたら昴の命が危ない。紫音まで連れ去られてしまう。
それだけは、嫌だ
――承認・完了――
紫電の胸が急に開き、紅い光が強い輝きを放つ。異変に気付いたユウヤは後ずさるようにして離れた。
『何………っ?!』
モニターが一気にクリアになる。アドレナリンが大量に分泌されたのか、目は一気に冴え渡った。
立ち上がる手足には自然と力が沸き上がる。
まだいける。闘える。
『パンドラを………開放させたのか?』
ユウヤのスキルについて書いてたのに、将斗の活躍が目立ってしまいました。
反省しなくては………
オマケコーナー
ユウヤ「おい、なんで俺の見せ場を、お前が奪うんだ?」
将斗「はぁ?そろそろ俺のパンドラも働かねえと、俺が主人公の座を維持できねえからにきまってんだろ」
昴&紫音「またメタな発言が………」




