行進曲
ブレーメンの目的などを主にした回です
特殊テロ国家・ブレーメン
その実態は謎のヴェールに包まれている。
突如紛争地帯に現れては姿を消し、またあるときはテロ国家を襲撃してこれまた姿をくらませる。そういった行為を繰り返しているそうだ。
テロ国家を狙う行為が多いため、国連は彼らを危険視はしなかった。しかし過去にはインドネシアを襲撃したこともあり、以来テロ国家として認定されている。
特殊の二文字がついているのは、テロ国家として特定の領土を占拠していないこと、主にテロ国家相手に動くことが多いので、テロ国家として見なすかどうかの判断に迷った末の判断だと考えられる。
人員数・不明
保有兵器・不明
指導者・不明
「見事になにもわからない存在なんだね」
「ああ。テロ国家としても目立たないから俺も知らなかった………」
端末に送られてきたデータを見る兄弟の後で、囚われの金髪男性は柱に縛られていた。体から僅か二ミリずれたヶ所に無数の刃物を突き立てられた状態で。
「テメェら、こんなことして無事ですむと思うなよ‼」
威勢は良いが脅えているのか呼吸に乱れが生じている。将斗が、昴が振り向く。昴の手にはヘンリーの傍に突き立てられてるのと全く同じデザインのナイフが握られていた。
「お、思わねーで、ください………」
昴が投擲の練習として投げつけたのは28本。その回数でヘンリーの心は既にズタズタにされていた。乱暴な言葉とおかしな丁寧語を織り混ぜる程度に。
考えてもみてほしい。縛られてる上に自分に向かってナイフが投げられるのだ。それも体からスレスレの位置に刺さるように。
いくら度胸があっても足りない。あと命も足りない。
「で、君らはブレーメンの戦闘員なのか?」
「へっ、それに答える義理もねぇよ!」
おー、仲間の事となるとたちまち強気な………
「さぁて、次はどこ狙おう?耳かな?」
「お、おい。兄貴……」
「将斗もやるかい?どうぞ」
「おい待てえええっ⁉」「やらねえよっ⁉」
ヘンリーが脚をばたつかせながらもがく。
「俺はあの嬢ちゃんと交換される予定なんだろ⁉そんな俺にこんなことしていいのかよ⁉」
「人質風情がいい気になるなよ」
「ひっ⁉」「兄貴、キャラおかしくなってね⁉」
昴からは妖しい空気が漂っていた。そう言えばヘンリーは初対面だから気付かなかったのだが昴は普段よりも目付きがおかしい。据わってる、と表現すべきか。
「折角旅行に持ち込めたのに………僕のフラグを全部台無しにしてくれたよね」
「ふ、ふ、フラグ?」
「だからやめろってええっ!」
ナイフが6本、いずれもヘンリーの体からスレスレの位置に撃ち込まれた。
(ユウヤさん、すいません………生きて帰れないかもです!)
自分達が連れ去った少女がどんな存在だったかは知らないが、生ける屍はヨロヨロと次のナイフの用意を始める。生気の失せた目は光っていた。
「もし紫音ちゃん………が………なら………僕………は、ははは、は………」
(や、ヤバイ、こいつ………)
うわ言は止まらない。
「………月夜の下で告白………あは、あはは、あははは」
「………悪い、兄貴がこんなに狂うの初めてだから、止めてやれるか自信がない」
「あ、いや……お前は意外と冷静だな……」
「幼馴染みが連れてかれたんだ。生きてるかすら今は怪しい。落ち着いていられるわけないだろ」
ヘンリーはパチクリと目を開くと、
「本気で言ってんのか?」
と尋ねた。
「当たり前だ」
己の実力不足で幼馴染みが奪われた怒りを露に拳を握る将斗を、ヘンリーは食い入るように見つめていた。
その将斗の背後でユラリと動く屍
「さぁて……次はどこを狙おうかなぁ……」
「ひぃっ?‼‼」
「兄貴………少し休んでろ‼」
屍の首根っこを引きずるようにさて将斗はその場を去る。1人残されたヘンリーは2人の背中を見つめていた。
…………。
(ブレーメン……もしかしてテロ国家?‼)
数歩後退り、周囲を確認する。敬礼を解いた兵士達は紫音という来客に不思議そうな視線を向けつつも、危害を加えるような素振りは見せていない。
しかしいずれも普段から鍛えているのか逞しい体格をしており、紫音が逃げようものなら直ぐに取り押さえることが出来るだろう。
そもそも敵の船に乗せられている時点で逃げ道などなかったのだ。
今は逃げることを考えず、情報を集めることを優先するべきだと判断する。
今、何処にいるのか。これはレーダーマップを見てすぐにわかった。苫前町の沖から5キロ以上離れた場所がマークされている。
次に連絡手段………が、端末は既に奪われており、操縦室の器機は経験的な問題で取り扱えそうにない。他にパソコンがないか調べるべきだろう。
「緊張しなくていい」
ユウヤの声で我に帰る。
「お前を傷つけるつもりはない」
「じゃあ……なぜ……?」
「それは勿論お前を救いたかったのと、協力をお願いしたいからだ」
「協力を?」
返事の代わりに辺りを確認するユウヤ。やがて何かを確かめ終えたのか目を閉じる。紫音はすぐにわかった。
また意識に介入するつもりなのだと。
しかしそれは今までのと違った。地平線の世界には今まで二人きりになっていたというのに。
紫音、ユウヤ、船の中で確認した人が10人以上………
そう、人数が今までの比ではないのだ。
「これは………?‼」
「まぁ、仲間がこんなに揃うのは施設かこの船でない限り、ありえない」
「まさか今いる人全員………」
「ああ。俺達の船の乗員1/4は同じ保有者だ」
今、介入はしてないがまだまだ仲間はいるぞ。そう笑うユウヤの声は優しかった。
「何を目的に活動してる?」
ヘンリーの口元にサンドイッチを運びながら将斗は尋ねた。時刻は夜の7時だが、まだなにも食べていなかった。
「俺が答えるとでも?」
「あっそ」
サンドイッチを持つ手を引っ込め、一口で食べる将斗。ヘンリーの顔が怒りに歪む。
「俺のサンドイッチを‼」
「だって答えないし」
「悪魔‼………おい!また食うな‼俺の分‼」
「腹減ってるからな」
「俺だって減ってるよ!」
最初は口が固かったが、昴の拷問を機にタガが外れたのだろう。本当はよく喋る人間なんだろうと将斗は推察している。
なら昴のやり方を撤回し、欲を突いた訊問に移るべきだ。レッツトライ。
「そういや意外と旨いよな、この生ハムチーズサンド……全部食っていいか?」
「やめろぉっっ!」
相手が紐で縛られて動けないのを良いことにサンドイッチを掴む将斗。空腹のヘンリーは子供みたいに怒りを撒き散らす。
「畜生っ!水責めは経験したがこんな拷問、初めてだ!」
「まぁ、そんなに俺のやり方が気に入らないなら兄貴と交替するよ」
兄貴の単語にヘンリーは肩を震わせた。どうやら兄の投擲技術は思った以上に彼にトラウマを植え付けたらしい。あんな芸当、そこらのテロ国家の戦闘員なんかじゃ出来ないしな。
「………ひとつ」
「ん?」
「目的については話す‼だからひとつくれよ!空腹で死んじまう‼」
さぁ話せと、サンドイッチを手に構える。ヘンリーは観念したように話し始めた。
「……俺達はリーダーの仲間や、テロ国家に領土を奪われた難民の救済を目的としてるんだ」
「救済?」
「ああ。そうだよ」
「だがテロ国家を倒して、お前達にはなんの利益がある?」
「それは俺も知らないよ………」
「ああ、とりあえず話してくれてありがとうな。約束通り、サンドイッチ………の、片面のパンだけプレゼントだ。ほい、」
「あっ!きたねぇ!わかったよ、テロ国家に捕らわれたり、散り散りになった仲間を集めるためだよ!テロ国家が保有者を捕らえてるケースは多いんだ‼」
チョロいぜ。
「だからってテロ国家を相手に?大きく出たな」
「俺だって最初は信じられなかったよ。勝てるのかって。でもリーダーの人柄を知れば、やってのけるって思えたさ」
口調は誇りにさえ充ちていた。おそらくはあのユウヤという男がリーダーなのだろうが、こうも人を惹き付けるというのはカリスマの持ち主なのかもしれない。
こうして名誉のごとく目的を話すのも、一種の義賊みたいな立場だと思ってか。
「そういやリーダーの仲間って言ったな……もしかしてリーダーは保有者って存在なのか?」
「?‼………」
すると急に黙ってしまった。今回ばかりはサンドイッチをちらつかせても吐かない。
向こうはパンドラの存在を知っていた。恐らくは保有者にも詳しいのだろう。だがリーダーの秘密ともなると言うことが出来ないらしい。最高機密というやつか。
「なら質問を変えるぞ?お前達は紫音に接触してきたよな。初めからあいつに会うために来たのか?」
「……日本に来たのはたまたまさ。そこでリーダーが仲間の気配に気付いたんだ。一週間ぐらい前だよ。で、その仲間が安全な環境にいるか確認するために探していたんだ」
「………」
仲間や能力については話さないが、おそらくあの男には保有者を見つける力があるようだ。彼らとしてはあの場で紫音を保護しようと声をかけたのだろうか。
「サンキュー、ほら。あげるよ」
ヘンリーは一気にサンドイッチを平らげると、満足げに息を吐き出した。
「生き返った………」
「よかったよかった。教えてくれた礼に兄貴は呼ばないのと、もうひとつあげよう」
そう言って自分のサンドイッチも与える。ヘンリーはそれにかぶりつきながらも将斗を不思議そうに見つめていた。
「……意外と優しいんだな」
「厳しくしてほしいならするが?」
「いや、やめてくれ」
差し出された紙パックのジュースを飲み始める。
「まさか野郎に『あーん』することになるとはな」
「今更それ言うのか……」
「人質のもてなしかたは学んでないんだ。悪い」
「ナイフ投げの的にされるよりマシだよ」
「そう言ってくれると助かる」
「なぁ、お前らって何であの女の子に拘るんだ?」
「?」
「あの子が拐われて、お前の兄はかなり取り乱してたよな。お前も落ち着けないって言ってたし、あれか?そんなにあの子の能力が大事なのか?」
腹に物を入れて余裕が出来たのかヘンリーはずけずけと質問を投げてくる。
「いや、幼馴染みであって………つか何で保有者の保護に躍起になるんだよ?仲間とは言え見ず知らずの相手だろ」
「知らないのか?科学者に売り付ければ億単位の金を貰えるんだ。だから逃げた保有者を見つけたら大抵の奴は目の色変えて捕まえようとする。中には解剖して、能力を悪用しようとする奴だっている。人殺しに特化した能力なら尚更だ。リーダーはそれが許せないから戦ってんだよ」
将斗の無知に呆れるかのようにベラベラと喋るヘンリー。
ほう、それは良いことを聞いた。お礼にもうひとつサンドイッチを与える。
「それはユウヤが俺からパンドラの気配を感じたのに嫌悪したのと関係あるのか?」
「あたぼうよ」
なぜ江戸っ子な口調?
「パンドラを持つのは大抵、科学者や軍部の人間だ。そいつらは保有者の確保を目的とした任務が多いんだよ」
ブレーメンの機密には反しないのか、随分と教えてくれる。しかし将斗にとってそれは大きな情報だった。
お礼にもうひとつ。ヘンリーの胃袋はすっかり懐柔されていた。
「だから保有者を保護していたのですか?」
「ああ。もし捕まれば生きたサンプルとして徹底的に研究される。この世界は保有者を人としてではなく、モルモットとして扱うんだ」
ユウヤは苦虫を噛み潰すかのように顔をしかめる。
「オリジナルはそのなかでも特別レアな存在だ。能力を使うのに代償が少ない。軍事に使えるならより研究に力が入る」
人ではなく、物として扱われる。あの日ユウヤが、世界が保有者を拒んでいるかのような言い方をした理由がわかったような気がした。
「一緒に来てくれたら真実がお前にも見えるはずだ。だから紫音。頼む。俺達と共に来てほしい。力を貸してほしい」
「なるほどね。だから紫音ちゃんに拘ったわけか……」
「ああ。それで仲間を保護している。保有者を捕まえようとするテロ国家に敵対しているのも納得だ」
「義賊としての活動か」
ヘンリーを残し、兄弟は丘の上で海を眺めていた。時間も過ぎて昴はすっかり落ち着きを取り戻したらしい。潮風の影響か海岸側は高い木は生えず、膝程度の高さで笹みたいな葉が生い茂っている。
ブレーメンの連中は今もあの海からこちらを監視しているのだろうか。
「ヘンリーって奴はあの組織で仲間を助けるって使命に誇りを持っている様子だった。あの組織で生きる道を幸せに感じてる。きっとあの仲間達も同じだ」
「そうだね。連中にとってはそれが大切な事なんだろう」
昴は同意を示しつつも、
「だが僕はこの世界での誇りというのに興味はない」
厳しく、残酷な評価をくだした。
「いくら義賊でも、やることは僕らと同じ人殺しだからね。……奴らと敵対することに躊躇してるのかい?」
「今日の兄貴は厳しいな」
いや。厳しいのが当然である。
いくら義賊とはいえ彼らはテロ国家。将斗達の憎むべき敵だ。それと対峙することに感情を持ち込んでは、つけこまれる危険性だってある。そして昴はそれを弁えているのだ。
「厳しくて結構。可愛い弟たちの無事のためなら、僕は悪魔にもなろう」
「ようやく頼もしさが出てきたな」
将斗は小さく笑う。二人の下に、トラックが停車した。
「感傷に浸るのはおしまいだ。そろそろ動こうぜ」
「そうだね。ここから先は任務だ」
車輌に乗っていたのは山縣であった。
「お待たせしました……戦闘の準備は万端ですよ」
協力できるわけがない。ユウヤには言えてないが、自分はテロ国家と敵対する人間なのだ。
一緒に闘えるわけがないのだ。
しかし敵の中でそんなことを言ってしまえば何をされるかわかったものじゃない。返答に迷う紫音を見て、ユウヤは小さく笑う。
「ま、いきなり言われても困るよな。悪い、返事は今すぐじゃなくていい」
そうして医務室で待機するよう言われ、オギノと二人きり、狭い空間で待ちぼうけをくらうことになった。
今でも彼らに協力する気は起きない。テロ国家の戦闘員や工作員を排除する仕事を始めて数年経つのだ。今さら掌を返すわけにもいかない。紫音にとっての仲間は昴や将斗であって、ユウヤ達ではないのだ。
(でも………)
胸の中で、好奇心にも近い感情が自分を駆り立てるのも事実だった。
デヴィに、仲間を救ってほしいと言われたからかもしれない。
あのとき救えなかった少年の願いを叶えてやりたいと思っているのか。
だが、それは幼馴染みを裏切ってまでできる行為ではないはずだ。
途方にくれていると扉の向こうから子供の声が聞こえてきた。それも、遊んでいる声
丸い窓から覗いてみると、オギノよりも小さい子供達が何人もユウヤに抱き付いてはしゃいでいた。それを相手するユウヤの顔は保有者としてのものでもブレーメンの一員のものでもなく、ただ目の前の子供へ慈しみの笑みを浮かべる、優しい父親のようだった。
「ああ………またユウヤさんは捕まってるのですね」
声だけで察したのかオギノが微笑みかける。
「この船………子供も?」
「そうですよぉ。むしろオリジナル以外で今生きてる保有者は、あれくらいの世代が主ですからね」
「生きてるのは?どういうことです」
「そのまんまの意味ですよぉ」
笑いつつも悲しげな表情でオギノは語る。
「施設出身の子は大抵、捕まってモルモットにされるのが落ちなんです。解剖、薬漬け………私達の世代の殆どがそれで犠牲になりました。
私もユウヤさんに救ってもらうまで、試験管の中で暮らしてました」
「試験管の………?‼」
ああ、気にしないでくださいと彼女はコーヒーを淹れる。漆黒の液体が白いマグカップを満たしてゆく様を眺めて
「私も保有者なんですよぉ。所持する能力自体は本当に些細なものですが。9歳を迎えた年に施設の研究所に異動して以来、ずっと試験管の中で生活していたんです。ユウヤさんに助けてもらったの、4年前ですよ」
「そんな………!」
オギノが保有者という事実だけでない。
彼女は今年で26と言っていた。つまり試験管での生活を十年以上強要されていたのである。
「どうして………!」
「俺達はいくらでも替えが利くからさ」
子供たちの相手を終えたユウヤが、医務室に入ってきた。
「シオン。お前はオリジナルとそうでない保有者の違いがわかるか?」
「ユウヤさん………替えってどういうことです?」
「そのまんまの意味だ」
ユウヤが、オギノが。首にふられた番号を指でなぞる。まるで自分の存在意義を再確認する儀式のように。
「オリジナルではない俺達はな。施設ではこう呼ばれていたんだ。『造られた子』」
ドクンと心臓が鳴る。
まるで今、踏み入れてはいけない領域に脚を入れたような気がして。
造られた子供。その不吉な響きは、まるで………
「俺達、数字を持つ保有者はナノマシンで人工的に造られた存在だ。DNAデータさえ残ってれば、いくらでも予備は造られるんだよ」
保有者の扱いだけでも衝撃だったのに。
彼らの出生の秘密を聞いたとき、意識がとびそうなくらいショックを受ける自分がいた。
「嘘………」
「ナノマシンで一定以上の臓器器官の形成は本来、禁止されてますぅ………それはその行為が………」
「人そのものの創造として見なされるからだ。国際上、それは強く規制されている」
例えば指の再生。これはナノマシンの治療で承認される。しかし損害の規模が大きくなるほどナノマシンでの治療は徐々に規制を追加し、頭や下半身などといった大規模なものになると人工義肢フランケンが採用される。中にはあらかじめフランケンを望む者も多いが……
クローン技術が発展した時代から言われていた「人体の複製」は相も変わらず禁忌として扱われている。そしてこれにはナノマシンも当然、当てはめられていた。
医療に貢献してきたためにある程度は人体の再生を許されているが、「複製」と認知されない範囲までだ。再生の規模が大きくなるほど、「治療」ではなく「複製」として禁忌に触れてしまうから。
だから万能の器械細胞として君臨するナノマシンに再生できない箇所はないと言われているが、その細胞が失った人を生き返らせたという奇跡はどの文献にも載っていない。
載っていないのに、生きた実例が目の前のそれだなんて
「そんなの……まるで……」
「クローンとでも言いたいのか?ある意味当たりだ。俺達はどっかの誰かさんのデータを元に造られてるんだからな」
「嘘です!だとしたら国連だって黙ってない………」
「国にはどうにも出来ないさ。奴等は知ってて俺達を見放している。前にインドネシアにあった施設を見に行ったら、大統領が自ら施設を訪問していたくらいだ。奴らには保有者を救うなんて意識は微塵もない」
だからインドネシアを襲った、と彼は言う。世界から見捨てられた仲間を救うために。
紫音はまだ知らない。保有者という存在の残酷さを。
まだ見ていない。残酷な運命を、片鱗でしか。
「まだまだ救わなくちゃならない仲間が俺達を待ってるんだ」
紫音の手を握る。ユウヤの表情は真剣そのものだった。
だがそれをぶち壊すかのように、カンナが息をあらげて医務室に飛び込んできた。
「ヘンリーから連絡があったわ!ユウヤ!」
勿論囚われのヘンリーから易々と連絡が取れる筈もない。
人質交換の交渉が始まったのだと、紫音以外の全員が瞬時に理解した。
仲間を救うため、正義を謳うブレーメン
復讐のため、テロ国家には情けをかけない将斗達
どちらが正義か、(書いてる)作者もわかりません




