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特殊テロ国家・ブレーメン

ユウヤの仲間とかが出てきます





「将斗!」


「そいつから離れろ、紫音」


「ふざけたことをぬけぬけと……やはりシオン、お前は保護すべきだ」


「なにが保護だ。拳銃を懐に隠すような奴、信用出来るかよ」


「信用出来ないのはお前も同じだ。わかりやすいくらい殺気を出すなんざ、まともな人間に出来ない」


 一触即発のにらみ合いの中、互いの殺気がぶつかり合う。ユウヤは懐に手を添えるが、将斗がそれを許さない。僅かに屈んだ姿勢で出方を窺っている。

 肌を刺すような殺意が立ち込める中、紫音は将斗の背後に迫る気配に気付いた。席を外していたポニーテールの女性がこちらに向かって走っている。

 その手には銃が握られていた。


「将斗‼‼」「ユウヤ‼‼」


 女性の声を合図に2人が動く。


 将斗はすぐさま間合いを詰め寄ると拳銃を抜こうとする手を掴み、レジ袋を振って缶ジュースをユウヤのこめかみに打ち付けた。怯むユウヤの重心を利用し、一気に腕を捻って背後に回り込む。

 しかしユウヤも負けじと頭を後ろに打つ。後頭部は将斗の顎を直撃し、流れるような動きはストップする。


「っ、この‼‼」


 捻る手を離すまいと粘るが、既に遅かった。腕から逃れたユウヤは将斗に掴みかかる。それを将斗は掴み返して防いだ。

 今度は殴り合いに発展する。紫音では目も追い付けぬ速さで二人は殴り、蹴り、防ぎ、そして風に吹かれる葉のように舞う。

 コンマ数秒毎に立ち位置は何度も入れ替り、繰り広げられる攻防。カンナは未だに銃を撃てずにいた。入れ替わりの激しい殴り合いに下手に銃をぶっ放せば味方に当たる可能性が高いからだ。


 ここまでのやり取りは互角に見える。しかし数でいえば明らかに将斗達の不利だ。もしもユウヤに組み付かれたり、隙を見せようものならカンナの標的にされてしまう。

 紫音にはそれを固唾を呑んで見守ることしか出来ない!


「ユウヤ‼」


 不意にカンナが叫んだ。


「あと16秒持ちこたえて‼」


 その言葉が意味するのを紫音はすぐに察した。

 遠くから黒いワゴン車が猛スピードで迫ってくる。


 援軍だ‼


「させるか………よっ‼」


 将斗がユウヤの喉に肘をいれた。浮き上がるユウヤの体から拳銃を抜きとり、間髪いれず安全装置を解除する。

 だがユウヤもタダでは倒れない。将斗が安全装置を解除すると同時に右腕の時計のボタンを素早く押した。


 その場に強い光が発生する。近くにいた紫音の目が、耳が急に悲鳴をあげた。


「閃光弾?‼」


「くっ………!」


 紫音はその場に踞り、将斗は片腕で目を覆ってしまう。視界と音が殺された空間の中、車は乱暴にブレーキをかけ中から男が一人降りてきた。金髪の若い男性だった。


 ユウヤが吠える。


「彼女を保護する‼手を貸せ‼」


「了解‼‼」


 ユウヤの右手が紫音の腰に回された。そのまま軽々と持ち上げると車に向かって走り出す。閃光弾の中、片目を閉じていたのだろう。彼の足取りはしっかりしたものだった。


「今だ‼‼」


 咆哮を合図にカンナが後退しながら拳銃を構え、将斗へ向かって1発撃った。弾丸が左肩を掠める。


「ぐっ‼‼」


 援軍の男がカンナと入れ替わり、将斗に銃を向ける。その隙にユウヤは車まで追い付き、紫音の体を乱暴に押し込む。

 まだ回復していない視界の中で将斗は銃を撃った。弾丸は援軍の男の太股に直撃する。

 男の悲鳴があがる。


「あああっ!」


「ヘンリー‼」


 ユウヤが叫ぶがヘンリーは気丈に立ちふるまい、ユウヤに笑いかけた。


「大丈夫です!それより早く‼」


 視界が戻ってきた将斗は車輛に向かって走り出す。ユウヤは歯軋りをした後、ヘンリーと呼ばれた男に向かって


「必ず助ける‼待ってろ‼」


 そういい残し、カンナが乗り込むのを確認してからドアを閉めた。車が動き始める。


「まちやがれ………!………っ⁉」


 追いすがろうとする将斗に向かって銃弾が飛ぶ。当りはしなかったが、ヘンリーが撃ったものだろう。


「行かせるかよ‼」


「邪魔を………するな‼」


 横に跳んで追撃をかわし、まだ霞む視界で集中してヘンリーの手に照準を合わせる。将斗の撃った丸はヘンリーの銃を弾き飛ばした。


「紫音!」


 敵が痛みで踞るのを確認した後、直ぐさま車の方を睨む。しかし車は既に遠くへ走り去ってしまった。


 紫音が連れ去られてしまった。


「くそっ‼」


 やり場のない怒りに思わず悪態をつく。

 しかし将斗はクールダウンが済んでない頭を無理に働かせ、すぐさまヘンリーのもとへ突進。彼に立ち直らせる隙を与えることなく、その首に手刀を叩き込む。ヘンリーの体は将斗の足元で崩れ落ちた。


 視界が戻るのを待ちながら、撃たれた肩を押さえる。あまりに早く進みすぎた展開に理性が追い付いていないのか、苛立つ気持ちが爆発しそうになる。


(落ち着け………!落ち着けよ………‼)


 肩で大きく呼吸し、意識を保つ。ようやく戻った視力で辺りを見渡してから端末を取り出した。相手は勿論、頼れる変態………もとい兄だ。


「兄貴、俺だ………ああ、まずいことになった………すぐ来てくれ」


 一刻も早く体勢を立て直すべく、彼は焦る気持ちを無理に押さえ込む。

 今は我を失った方の敗けだ。









『……ええ、そういうわけなんですよ』


「………お前達らしくないな。2人いながら紫音をみすみす敵に奪われるなど」


『恥ずかしながら僕はその時、母の関係者に会いに行ってましてね…2人だけにさせてしまったんです』


「………ぅうむ」


 相変わらずの飄飄としたしゃべり方だが、節々に怒りの炎が感じ取れる。天田は唸るとパソコンを開いた。北海道に潜伏するテロ国家の戦闘員や関係者のリストが並ぶが、近辺にそれらしい者はいなかった。


「………例の……ヘンリーとやらからは何も聞き出せてないのか?」


『ただいま絶賛尋問中ですよ。ですがこいつ、口が固くてですね……』


 口が固いと言うわりには電話の向こうからは何度も「やめろー!」とか「ぎゃあああー!」とか悲痛な叫びが聞こえる。

 おそらく尋問ならぬ拷問に走っているのだろう。しかしこのままだと誤って殺してしまうのでは?


「………殺すなよ?」


『あははっは、僕がそんなヘマをするとでも?』


『おい、兄貴‼なに人質相手に投擲の練習してんだよ‼』


 将斗の声が聞こえた。どうやら昴はトンでもな手段で尋問していたらしい。


「………怪しい奴がリストにないのも事実で………な」


『そちらの情報網にも引っ掛からないのですか?弱りましたね~』

 

 ドスッ‼‼『ぎゃあああっっ‼‼』


「………一旦、手を止めろ」


 忠告の後、天田はパソコンで北海道地図を開いた。苫前から一番近そうな場所にいる危険因子と照合させるためだ。

 しかし一番近そうなので稚内か旭川。方角が途中で大きく変わるため、しらみ潰しに当たろうにも時間がかかる。


「………相手の方からの接触は?」


『まだですね。おそらく逆探知されるのを避けてるのでしょう。クズ………いえ、ヘンリーの端末には未だに連絡はありませんし』


『おい、兄貴。言い直す必要はあるのか?そこ』


『将斗は手厳しいね。でもね、本音と建前の使い分けは重要なんだよ』


『クズはお前r………(ゴスッ!)イギャアアアア‼』


「………だから手を止めろと」


 どうやら相当冷静さを失っているようだ。皺の深い眉間を押え、天田はタバコに手を伸ばす。こりゃあ落ち着かせるのに手が折れそうだ。


「………一度、クレムリンにも聞いてみるべきか……だが……」


「マスター、少しいいですか?」


 手の空いた五木が横から入る。


「………五木か」


「スピーカーモードにしてもらって良いですか?そうそう……あ、昴さん?私です、五木ですぅ~」


『ああ、五木さん。なんだい?』


「もしかしたらなんですけどね、紫音さんを拐った連中、海に逃げたんじゃないかなって思うんですよ」


『海に………?』


 昴の声が、天田の顔が凍りつく。しかし兄弟は直ぐ様否定した。


「………ばかな。海に逃げたなら怪しい船が目撃されるはずだ」


『ああ。それにまだ近辺に隠れてる可能性も……』


「だからですよ~」


 五木はニコニコと笑いながら


「海なら苫前から近いでしょう?彼らが人質を取り返したいのなら町からあまり離れず、それでいて直ぐに移動できそうな場所……海が一番楽じゃないですか」


『だが、そんな近くにいるならこっちからだって……』


「潜水艦、とかなら昴さんたちに見つかりづらいんじゃないですか?」


『?‼』「?‼」


 昴は自分が抱いた危機を思い出した。広大で、政府の手の届きにくい日本海。もしそこから潜水艦が入り込んだら………


『………調べてもらっていいですか?』


「………ああ………30分待て」


 天田は電話を切ると、持ちうる全ての情報源にメールを打ち始めた。潜水艦を持ちうる組織のリスト、動向………

 しかしメールを送りつつも1つの確信がある。

 もし五木の言う通りだとしたらそんな組織はひとつしか思い浮かばなかったからだ。









 頭が重い。寝覚めは頭痛とはまた違う不快感に襲われていた。


「………っ………んん………」


「め、目を覚ましたのですね?」


 幼い声に意識が引っ張り戻される。ぼやけた視界には質素な天井と小さな女の子が………


 女の子?


「へ?」


「薬を一気に摂取したせいで、なかなか目を覚まさなかったものですから…ヒヤヒヤしましたよ~」


「え?」


「睡眠薬って、過剰摂取すると神経に悪影響を与えるじゃないですかぁ。カンナさんたち、慌てて大量に布にかけちゃったって言ってたし心配したんですよ?」


「ぇえ?‼‼」


 起きると目の前にいたのは白衣を着た少女………を、通り越して幼女。見た目からして小学校の低学年くらいか。大人物の白衣はサイズが合わず、袖の半分以上がぶら下がっている。

 サイドテールにまとめた髪をピコピコと今にも効果音がつきそうなテンポで揺らし、ピンポン玉のように大きな目をくりくりとさせ………

 どうみても幼女。狭い部屋でベッドに横たわっていた紫音の近くに、幼女がいた。

 何度でも言おう。幼女が!幼女が‼幼女が‼‼


「……なんか馬鹿にされてる気がしますぅ……」


「え?ち、違いますよ⁉ただ、急にこんな所で目を覚ましたので驚いて………」


 苦し紛れの言い訳の最中で、はっ、と思い出す。

 あのとき、潰された視界の中で紫音は車に乗せられ、布を口に押さえられたのだ。すると意識が遠退いて………

 ゆっくりと辺りを見回す。狭い部屋に置かれた棚にはいくつもの瓶が並べられてる。いずれも薬品のようだ。

 となると、医務室だろうか。


「そうです!なんとナノマシン治療も可能な、見た目のシンプルさの割りに高性能な場所なんですよ‼」


 なぜか誇らしげに胸を張る幼女。出るところは一切出ていないが、精一杯胸を張っているのがひしひしと伝わってくる。


「……また馬鹿にしましたね?」


「してませんよっ?‼」


「しーまーしーたっ!さっきの視線、あれはオギノを馬鹿にするときのです!いつも皆さんが私に向けるものですぅーっ!」


 顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうに激昂する幼女。どうやらオギノとは彼女の名前らしい。


「す、すいません、オギノさん……私、まだこんがらがっていて………頭が重いせいでしょうか………」


「え?‼まさか薬の後遺症ですか⁉横になってください‼」


 真っ赤な顔は直ぐ様変り、紫音の安否を心配する。コロコロと忙しい幼女だ。


「大丈夫です。さっきまで寝ていたからかもしれませんが………えと………オギノさん?は、お医者さんの助手さんですか?」


 幼女はキョトンとした表情で


「え?オギノは医師ですよ?ここの主治医です」


 ダボダボの袖を振り回しながら言うのであった。


「ぇ………え?」


「主治医、と言ったんです。助手の専属看護師もいますよ?」


「ぇ………ぇええええええええええええっっ⁉」


 事態への驚愕、己の耳か頭がイッちまったのかと疑う恐怖。

 2つが引金となって紫音の悲鳴を誘発させた。

 だって医師の免許には最低6年は必要だよ?それを幼女が?まだ10歳もいってないだろう彼女が?‼


「むぅっ!やっぱり馬鹿にしてたんですね!これでもオギノは正真正銘、26歳なのですよ⁉酒もタバコもジャパン的法律には許される歳なんですよ⁉」


「ぇええええええええええええっ⁉26歳っっ?‼」


 さっきから逆に馬鹿にされてるような気分である。

 こんな幼女が酒もタバコも可⁉

 もしそうなら終わった………日本は終わった………


「ぅあああん!やっぱり信じてくれないいっ!」


「何を騒いでるんだ、オギノ」


 幼女が泣き出して間もなく、医務室に男が入ってきた。片目の下に傷を持つ男を前に、紫音の背中に緊張が走る。


「ユウヤさん………」


「目を覚ましたのか。………オギノ、いつまで泣いてるんだ?」


「ああアアアアアアんっ‼オギノ、オギノまた、子供扱いされましたでしたああっ‼」


「そうか、じゃあまたレディになる特訓だな。あと言葉がおかしい」


 よしよし、と頭を撫でる行為は相手をレディとしてではなく子供として扱っているものだと気付かず、撫でられる側のオギノは気持ち良さそうにのほほんとした笑顔になった。


「そうだ、オギノ。シオンを借りてもいいか?少し案内したいんだ」


「えへへぇ、オギノ、撫でられて嬉しいですぅ………良いですよぉ」


 懐柔されてる時点で幼いことに気づいてほしい。


「よし………それじゃあ行こうか」


「あの……どちらへ?」


「いい忘れたな。操縦室だ」


 操縦、と聞いて首を傾げる。しかし直後、僅かな揺れを感じ取った。

 何かが倒れたとか、そういうのではない。今いるこの建物全体が揺れたのだ。

 狭い部屋、揺れ、操縦室

 紫音はユウヤを見た。


「まさか………」









「………昴。待たせてすまんな。


 ………ああ、調べものは終わった。五木の言った通り、海に逃げた可能性が高い………


 ………そうだ。奴等は船を有している。それが潜水艦かはわからんがな………


 ………神出鬼没、正体も狙いも不明、リーダーも不明………突如現れては姿を消してを繰り返すのが奴等の手口のようだな………


 ………どのみち、奴等だとすれば見過ごすわけにもいかんだろう。紫音も拐われているんだ。………情報は端末に送らせてもらう。


 ………名前か?奴等の名前は………」




 狭い通路を抜け、連れてこられた部屋で紫音は己の目を見張った。

 航空管制塔にあるような巨大なレーダーマップ。いくつもの通信器機。右往左往する人の群れ。

 それはまるでSFに出てくる軍隊の指令室のような巨大空間であった。


 ユウヤの来室に1人が気付き、敬礼した。すると伝染するかのように他の皆も敬礼を始める。

 多くの敬意を一身に受け、ユウヤは紫音へと振り向いた。


「こんな通信環境………普通の船には不可能なはず……」

「そう。ここは普通の船ではない」


 ユウヤは囁くように言った。


「箱船だ。俺達世界から蔑まれた保有者ホルダーが楽園へ行くための」








「「………その名は、特殊テロ国家・ブレーメン」」






「シオン。俺達は君を歓迎する」

おまけコーナー


五木「作者が………オギノさんとやらを書いてるときが一番楽しそうらしいっす………はい………

 なんで………私、古株なのに………新手の合法ロリに出し抜かれるのでしょう………はい………」


以上、五木のつぶやきでした



山縣「………何だったんだ今のは………?」


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