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ユウヤ

夢で会っていた男性との接触。将斗がジェラシーを………?‼………しません





 リアル過ぎる夢の世界では話したものの、それが実体を持ってこうして向かい合ってみるのはなんとも不思議な気持ちだ。


「こうして話すのは初めてだよな」


 夢で会ったときよりも堅苦しい口ぶりで挨拶してくる。


「え、ええ……」


「お前に干渉しやすかったのはやはり、お互いの距離が近かったからか……」


「え、距離が関係するんですか?」


「俺達は特にな」


「ねぇユウヤ。この子が?」


 女性が紫音の顔を覗きこみながら尋ねる。まるで品定めをするような目付きにたじろいでいると、ユウヤが返してくれた。


「ああ………同じ保有者ホルダーだ。すまないカンナ。この子と話がしたいんだ」


「わかったわ。何かあったらすぐ呼んで頂戴」


 あっさりと引き下がると女性はどこかへ行ってしまった。


「今の方は………」


「仕事の同僚だ。彼女とは行動を共にすることが多い」


 淡々と返すとユウヤは右隣に座った。近いこともあって彼の目の下の傷がよく見える。


「………………」

「………………」


 ここで沈黙が始まった。将斗といい彼といい2人きりになると会話が続かない人種らしい。


「あの……さっきの距離の話ですが……」

「ああ……それか」


 ユウヤは思い出したように言うと、瞼を閉じた。瞬間、地平線の世界に切り替わる。


「俺らが意識に介入できるのは知ってるよな?」


「はい……」


「その中でも俺や一部の保有者ホルダーは特別でな。仲間がいる場所が通常のよりも遥かに見つけやすいんだ」


「それは……探知機みたいなものでしょうか?」


「そんなものだ。お前を見つけることが出来たのもそのおかげだ」


「だからデヴィも……」


 かつて保有者の少年が紫音を見つけだしたカラクリがわかった。彼はユウヤみたいな探知能力に優れた者ではなかったが、船の乗客の中で的確に紫音を見付けた。

 ユウヤが紫音を見る。


「デヴィ?」


「あ、前にお話しした………」


「そうか……デヴィというのか……」


 ユウヤはまた目元を暗くさせた。しかし紫音には聞きたいことが山ほどある。


「もしかしてユウヤさんの探知は……距離が近いほど精密性が?」


「鋭いな。そうだ。俺は最近、北海道に来た。石狩に足を運んだとき、仲間の気配を感じてな。スイッチは切ってあったが確かに仲間のそれだった。で、何度かシオンの意識に介入を試みた」


「待ってください……」


 石狩?小樽市内ならまだしも?


「言ったろ。俺の探知能力は他の奴より良いんだ」


「そんなに……」


「とは言っても、俺達が介入できるのは僅かな時間だ。今だって、ほら」


 世界が苫前の町に戻る。


「意識の世界からは僅かな要因で引き戻されやすいからな。………デヴィとやらは教えてくれなかったのか?」


「デヴィとは少ししか一緒にいられなかったんです。でも彼は能力の使い方を教えてくれました。彼と同じ……仲間を救ってほしいと」


「仲間………か」


 ユウヤは膝を開き、空を見上げた。


「もう少し早く間に合っていれば……助けてやれたのかもしれない。俺達の力が及ばなかったのか………」


「………………」


「そういえばシオンはオリジナルだが、どんな能力を?」


「私は……意識や記憶を覗き見るような……」


「何っ?」


 ここで初めてユウヤが動揺する。信じられないと言わんばかりに紫音の顔を穴が空くほど見つめ、顔からは血の気が引いている。


「精神干渉だと……?しかもオリジナル……科学者や軍部に知られたら………⁉」


 かつて、悪徳商人に目をつけられたのは言わないでおこう。話を聞く限り彼は仲間の安否をかなり気遣っているようだし。


「でも私の幼馴染みや友達は、無闇にこの能力をばらしたりしません。化け物扱いもしませんし……」


「本当なのか?定期的に変な施設に連れていかれたりとかはないのか?」

「ないです」


 キッパリ言い切る。


「すいません……ユウヤさんが今朝、私にした質問に言い淀んだのは……周囲に恵まれていたからなんです。デヴィから施設出身の子の扱いは聞いていました。本当にひどい目に遭ったのも存じてます……だから………私が恵まれた環境に生きていたんだと言いづらくて……」


「………………」


 真偽を探るような眼差しが向けられる。

 しかしこれが紫音の真実であり精一杯の誠意であった。

 やがて彼女が嘘をついてないと察した彼は息を吐き出し、背もたれによりかかる。


「そうだったのか……」


「……すいませんでした………」


「いや、正直に答えてくれて嬉しいよ。シオンは今のところ、連中に目をつけられてないんだよな?」


 安心した、と吐き出す彼の姿に、一種の優しさを感じる。

 彼は紫音が幸せな環境にいることを手放しに喜んでいる様子だった。


「もしかしてユウヤさん……その傷痕……」


「ん?ああ。これか?」


 目の下の傷痕を指でなぞる。


「施設の暴力で……」


「いや、俺達の施設は比較的優しくてな。今の仲間みたいに体罰を受けて育ったわけじゃないんだ。これは施設から出た時、過激派組織の襲撃を受けて……もうかなり経つ」


「え?………おいくつなんですか?」


 おかしなことを聞くんだな、と笑われた。


「今年で29だ」


「若っっ‼‼」


 なんて若作りだろう。もうすぐ三十路なんて‼25くらいにしか見えなかったのに‼


「はははっ、よく言われるよ。でもまだ若造でな。小さい頃世話になった先輩達の真似をしてやってきてるんだ」


「先輩ですか?」


「ああ。施設のな。今でも尊敬してるよ。落ち着いて物事を判断しようとする人、面倒見がいい人、ムードメーカー……たくさんいたけど、俺は未だにその人たちには追い付いていないんだ」


 語るユウヤの顔は遠い日を懐かしむかのように穏やかで、聞く人の心を引き付けるような魅力があった。

 施設では体罰を受けなかったというが、そういう人たちがいたからこそ彼は紫音の環境を聞いても怒ったり僻んだりしなかったのだ。

 聞いててなごましく思ったのち、紫音は気になっていたことを口にした。


「そういえばユウヤさん、今はどんな仕事を?私が能力を目当てにひどい仕打ちを受けていれば、助けに来るような事を仰ってましたが………」


 思えばそれが本命だったのだろう。本当に紫音が無事かどうかを確認するために声をかけてくれたのだ。

 しかしユウヤの表情がふと引き締まったものに変わったとき、紫音は一種の既視感を覚える。目付きは鋭く、口からは笑みが消える。軽々しく聞いて良いものではなかったはずだ。


「それは……」


 ユウヤが答えようとしたときだった。


「紫音」


 少し離れた場所から声をかけられる。見ると将斗が無表情でこちらを見据えていた。ジュースを買ってきたのだろう、片手に下げるレジ袋には缶ジュースが敷き詰められている。


「将斗……」


「知り合いか?」


 ユウヤに尋ねられ、慌てて返す。


「ええ。私の幼馴染みで、橘将斗って言います。将斗……この人は私と同じ……」


「いや、俺から聞こう。将斗とやら。友達に勝手に声をかけてすまないが……何点か聞いても良いだろうか?」


 その時紫音は、2人の間に一種の緊張感が漂うのを感じ取った。見ず知らずの人が幼馴染みに声をかけたのを心配したのだろうか。それにしては様子が………


「かまわない」


「そうか……お前はシオンの友達のようだが、何か仕事をしているのか?」


「してないさ。俺はただの学生だからな」


「そうか………なら、なぜお前からはパンドラの残り香がするんだ?」


「え………」


 一瞬にして紫音の頭が真っ白になる。



 彼は今、なんて………?



「俺からも聞かせてもらおうか」


 将斗の声は普段のとは違う、任務の時特有の憎悪に満ちたものだった。


「なぜ紫音に接触した?その懐に隠している銃は………何のためにあるんだ?」


 そこでようやく察した。


 ユウヤは仲間を助けると言った。その手段を。


 放つのは殺し合う人特有の、血の臭いに充ちた空気だった。







 一方、モルゲンでは………


「……山縣さぁん……」


「どうした。また合コンに失敗したのか?」


「酷いですね。私だって合コン以外に悩むことありますよ。恋するお年頃なんですし」


「結局は色恋沙汰かよ」


「いや、本当に今回は合コンじゃないですって。将斗さん達、ドライブ中なんですよドライブ。今日は」


「ああ……そういやそうだったか……」


「不安ですよね……」


「不安はわかるが……仕事しろよ。また手が止まってるぞ」


「うあああん!山縣さんの意地悪~‼」


 五木は目にも止まらぬ速さでテーブルを拭き始めた。








「ユウヤさん……」


「そういうことか……シオン」


 人を殺したことのあるだろう眼光が彼女を捕らえた。


「やはりお前は………騙されていたのか」

おまけコーナー



五木「待ってましたぁ、この修羅場‼」

山縣「修羅場は修羅場だがお前が言うと色恋沙汰の修羅場にしか見えん‼」

五木「はたして、紫音さんはどちらを選ぶのか⁉フラれたほうの行く末や、いかに⁉」

山縣「嘘の宣伝やめろ‼」

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