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暴風の町

留萌方面を寂しいと表現していますが、ごめんなさい。

作者は留萌・苫前が大好きです。





「よう」


 友達みたいな軽いノリの挨拶で、ユウヤは声をかけてくる。


「………………」


「どうした。また会えたのに」


「……しらばっくれないでください。こうして私に干渉しているのは貴方がそうしているからじゃないですか」


 保有者ホルダー同士は意識に干渉できる。しかし紫音はそのやり方を知らないため、向こうから会いに来てる(と、表現すべきかは微妙だが)と見るのが妥当であった。

 しかしユウヤはつまらないことと言わんばかりに肩を僅かに上下させるだけで、悪びれた様子でもなかった。


「それは否定しないよ。俺は確認したいことがあってこうしてお前の意識に介入しているからな」


「確認したいこと?」


「そうだ。オリジナルなんて科学者の格好の的だからな」


 紫音が思い浮かべたのは、かつて彼女を商売用具として捕らえようとした商人のような人物だった。


「……ユウヤさんは保有者ホルダーの施設にいた子供ですよね?」


「なんだ。仲間に会ったことがあるのか」


「ええ。その子から色々聞きました。施設のこと。能力のこと……」


「その子は今………」


「………寿命と言って………」


「そうか………………」


 するとユウヤは目を伏せた。仲間の死に思うところがあるらしい。まだ数回話をした程度だが、彼は悪い人間のようには思えなかった。


「貴方の首にも、あるんですよね?番号………」


「当然だ」


 あっさりと答えるとユウヤは服の襟を引っ張る。むき出しになった筋肉質な首の下には「A2134」と書かれていた。


 確かデヴィの首に書かれていたのも、一文字のアルファベットと4桁の数字であったはず。どんな判断でそれらが割りふられているのかは解らなかったが、彼がデヴィと同じような施設の出というのは確からしい。

 紫音の反応から彼女が理解したと判断したユウヤは襟を戻し、真剣な眼差しで問いかけてきた。


「知ってるなら話は早いな。率直に聞こう。お前は監禁された環境や、毎日苦痛を伴うような検査はされてないのか?」


「私が……モルモットにされてると疑っているのですか?」


「今の世界が俺達に与えた価値は所詮その程度だからな」


 確か、デヴィも施設とやらで虐待に遭っていたのだっけ。だとしたらきっと、彼もだろう。


「もしそうなら………助けに行く。


 俺達が仲間を助けたいんだ」


 辛い目にあったからこそ、同じく残虐な仕打ちを受ける仲間を助けたいと彼は言う。嘘のない言葉。真っ直ぐな瞳。

 この世界は自分達を見捨てたと言い切ることの出来るユウヤ。

 だが紫音は違う。あの時橘3兄妹が手を差し伸べてくれたから。見捨てられなかったから。だから彼みたいに言い切ることは出来ない。それにユウヤの真っ直ぐな眼差しに下手な返事を突きつけたくなかった。

 かつて紫音は同じ保有者ホルダーのデヴィに、救いを求める眼差しを向けられたことがある。しかし仲間の存在も、その仲間がどんな仕打ちを受けてきたかも知らなかった紫音は曖昧な受け答えをし、挙げ句理解する努力をしなかったがためにデヴィの反感を買ってしまった。

 その結果、彼の記憶から現実を覗き見るまで彼女は自身みたいな天性的ではなく、後から能力を付与される後天的な保有者ホルダーの実態を知らず、みすみすとデヴィの身体がガタを迎えるまでなにも出来ずにいたのだった。

 ここでユウヤの問いかけにイエスかノーで答えるのは簡単だ。しかしきっと彼も思うことがあってこうして会いに来てくれているのだろう。易々とした返事でデヴィの二の舞になるような行為は避けたかった。


「?シオン………どうしてなにも言わないんだ?」


 考え込んでしまった紫音を不安げな目で見つめるユウヤ。


 そこへ霧が立ち込めてきて………




「………ん…、……音………、紫音」


 肩を揺さぶられ、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

 自分は確か、ドライブ中に眠たくなって、それで………


「将斗………?」


 隣に座っている将斗の肩に頭を持たれかけるようにして寝ていたらしい。肩は将斗の腕に密着し、体温さえ伝わっていた。


「大丈夫か?昨日は仕事が立て込んでたし………寝不足じゃないのか?」


「え?………あ………いえ!」


「どうした?」


「いえ………ごめんなさい………」


 寝起きでボーッとしていたために時間を要したが、男子に密着する羞恥心と言うものが込み上げてきて慌てて将斗の体から離れる。将斗が名残惜しそうに肩付近を見つめたが、紫音はそれに気づくことはなかった。昴が声をかけたからだ。


「紫音ちゃん、外見てごらん」


「え………、ぁ………」


 言われるがままに窓の向こうを見ると、どこまでも続く青空を純白の海鳥が舞い躍り、そして海の世界が大陽に反射して煌めきながら広がっていた。

 稚内から石狩湾にかけての日本海側の道路は一本道である。時々サイクリングの大会にも使われるこの長く果てし無い海の景色と道をオロロンラインと地元の人は呼ぶのだ。

 思わず将斗の膝を乗り越えるようにして外を眺めてしまう。


「凄いです……こんなに広がってるなんて……」


「積丹も綺麗だったけど、壮大感ならこっちだね」


 積丹が綺麗な海を眺めて堪能するものなら、こちらは海の地平線と………


「せっかくだから窓を開けてみるかい?」


「え……?………きゃあっ‼」


 風力発電が盛んな日本海側の特徴は、やはり風の強さと呼べるだろう。今通っているのは発電用の風車を持たない石狩市の町だが、それでもかなりの風力だ。開けた窓に入り込む強風に一瞬だけ呼吸が出来なくなる。

 紫音の服も風に煽られ、着ているワンピースの胸元が、スカートがなびいてしまう。

 それをバッチリ。間近にいた将斗は胸元を。運転中の昴はミラー越しにスカートの中を。


「good !!」「あ、おい、兄貴っ‼」


「え?何がです?」


「「いや、なんでもないです」」


 見ていた、となって紫音が妹に報告でもしたらそれこそ後の祭りならぬ血祭り。ナイフをくわえた狂犬マイシスターが今にも襲ってきそうな気がして、兄弟は息の合ったコンビネーションを発揮するのであった。


(将斗もなんだかんだ、紫音ちゃんの身体に興味があるんじゃないか~。熱い目で見つめちゃって‼)


(うるさい‼)


「2人とも……なんで睨みあってるんです?」


「「なんでもないです」」


 紫音は首をかしげるも将斗の膝から離れ、もとの席に戻った。

 北海道は札幌や旭川のような都市以外は閑散とした町が多い。今走っている道だって、人は全然見かけないし建っている家も廃屋が目立つ。

 元から栄えた場所・新幹線の恩恵に輝いた町以外は平成の頃となにひとつ変わってない場所も多いのだ。この町も然り。







 小樽から出発して留萌まで4時間くらいでつくことができた。留萌は石狩よりも風が強く、車から出たとたんに煽られてしまう。よくニュースでこの地方は暴風警報が出されるがなるほど。普段がこれだけの風なら嵐のときはもっと凄いのだろう。


 ましてや今、自分達は留萌駅の付近にいる。この辺は海より離れているにも関わらず、潮風に煽られるのだから海岸沿いはもっとひどいのだろう。


 昴は母の知人に会うと言って菓子の包みを手にどこかへ行ってしまった。合流する時間と場所は既に提示されている。それまで将斗と紫音は留萌の町を見て回ることにした。

 とは言っても、駅の近くにいるわけだが特別な何かがあるわけでもない。既に閉じてしまった本屋や見栄えのしない店が並び、人通りは少ない。通る人も老人ばかりで、若い人は全然見当たらない。道路には飛ぶように車が何台も走っているというのに。


「凄く寂しいところですよね……」


「ああ……すごく静かだ」


「積丹のは穏やかな静けさでしたが……」


 この土地のは、どこか寒さを覚える静けさである。

 得体の知れない寒さに震える紫音の肩にジャケットを羽織らせ、将斗は辺りを見渡した。


「とにかく人の多そうな場所に行こう」


 駅から2キロほど歩いた場所にショッピングモールがあった。とはいっても食品と僅かな衣類、小規模の家電製品が販売されているだけで、映画館やカラオケみたいな娯楽は一切見当たらなかった。一応、連結した通路の向こうにホームセンターもあったが用事はないので見ないでおく。

 一階のベンチに腰を下ろし、自販機で買ったコーヒーを啜る。


「どうやらこのショッピングモールが一番、人が集まりやすいみたいですね」


「らしいな。というよりも、まともに買い物が出来るのはここだけらしい」


 食品売り場は人で賑わっていたが皆、年配か小さい家族連れである。紫音達と同世代の人はバイトらしい子しか見当たらなかった。


「地元の人で私達の世代が遊びに行くとしたら旭川でしょうか」


「直行のバスや列車もあるらしいしな……旭川ならまとまった買い物も出来るし、車を持ってれば楽に行けるんじゃないか?」


 ゲーセンもないこの土地をなお愛するような地元民は、かえって珍しいのかもしれない。もしいたらそれは愛花みたいな人間だ。

 将斗が壁の掲示板に目をやる。地元野球少年団や小学生が描いた交通安全ポスター等々。A4サイズで張られた紙のほとんどが古びており、長らく取り替えられていないのが伺えた。

 まだ真新しいのはバイト募集のチラシと、学校の同窓会の案内だけ。


「番屋ノ沢小学校……来るときは見かけなかった地名だな」


「内陸側にあるのでしょうか?」


「わからんが……とっくに無くなった学校みたいだよな。旧って書いてる」


「やはり少子化が原因で……」


「そうだろうな。この辺りは特に子供が少ないようだし」


「医療技術も交通手段も進んだのに、難しいんですね……」


「積丹もそうだったが、都市部から離れた場所はそういったのが行き届くのも難しいんだろうな」


 結局、昴が来るまでその場で待機した2人。しかしその時すでに、何者かが視線を向けていた事に気づくことはなかった。


おまけコーナー



山縣「留萌………なかなか静かな町ですねぇ………」

五木「作者もかつてお世話になった町みたいですよ。なんとも、現地の人に急におにぎりを手渡されたことがあるとか!」

山縣「本当にこのコーナー………メタな発言が飛び交うよな………」

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