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 夜の室蘭に広がる数多の光。北海道の夜景に選ばれるくらいだが今はそれを観る暇はない。

 用意されたボートの上で。



「着いた。準備して」


「任せて」


 柔らかくも凄みのある笑みを浮かべた昴の背後には積み荷がある。いや、正確には積み荷ではなく今回の武器だ。


 深紅の装甲。将斗の紫電や千晶の白夜に比べたら大柄なそれは、昴専用のATC・パーシヴァル。


「すぐ終わらせるから」


 ハッチを開いたパーシヴァルは主の搭乗を今かと待ち望んでいる。昴が入るとその戦闘意欲は紅い光となって眼に宿った。

 深夜の海にはなにも見えない。しかしATCを身に纏った今、昴には辺りの様子が鮮明に写し出されてしまう。


 6キロほど離れた先にそれはあった。

 灯りを着けない大型船舶。気配を殺し、隠れるように突き進んでいるがこちらからは丸見えだ。


「これなら一撃で行けそうだね」


 独り言の後にライフルを構える。その動作で船は大きく揺れるが、転覆はしなかった。


『千晶。耳栓はしたかい?』


「ダー」


 妹の耳にゴムの耳栓が押し込まれるのを見て昴は満足げに笑う。そして銃口を遠くの貨物船に向けた。




ーー接続、確認ーー


ーー解除許可、承認ーー


ーーパーシヴァル、パンドラ起動ーー



 肩の装甲が大きく開き、目がつぶれてしまいそうなほど紅く、目映い光を放つ。


 千晶は黙ってそれを(サングラスをかけながら&片目を閉じて)見つめていた。



 情報処理に特化したパーシヴァルだが、エネルギーを専用の銃に移して弾丸を強化することができる。

 アンチマテリアルライフルになればその威力は計り知れない。あの大型貨物船の壁など、ベニヤ板のように潰されるだろう。


『すぐ終わらせたいからね。今回は少しばかり上乗せさせてもらうよ』


 銃に貯まる光が大きくなってゆく。最初に将斗と対峙した時とは比にならない大きさだ。


 やがて昴が引き金を引くと、その弾丸はロケットランチャーのような大きさで、尚且つ流星のような速さで一直線に貨物船へと向かっていった。





~~数時間前~~



 銃声はした。

 だと言うのに弾丸は晴樹を撃ち抜かなかった。

 距離としては外れたとは考えづらい。なら外した?わからずに戸惑う晴樹に背を向け、将斗はそっけない声で言う。


「……行けよ」


「将斗………?」


 彼の怒りも恨みも知っている。それなのに何を言い出すかと思えば。耳を疑ってしまいそうだ。


「何で…」


「密航を目論む鷹山晴樹は殺した。もうここには誰もいない」


「お前………」


 将斗の真意に気付き、口許を綻ばせてしまう。

 しかし礼を言おうと歩み寄ったとたん、将斗は銃だけをこちらに向けた。あくまで晴樹を見ようとはしない。


「さっさと行けよっ!お前なんか知らねえっ!!」


 これ以上は近づけない。近づけば将斗は発砲するだろうし、なによりその行為は彼への裏切りとなってしまう。

 わずかばかりたじろいだ後、晴樹は真っ直ぐに将斗を見据え、そして走り去っていった。


 ありがとう。


 唯一無二の悪友にそう言い残して。





 室蘭の集合場所は朽ちた旧創庫だった。 中には自分よりも見窄らしい格好をした人がいる。マスターはあちこちにも手配していたのだろう。その数総勢40名だった。

 理由は様々。家族に追い出されただの家をなくして行く宛がないだの、中には戦争を体感したいとの過激な思想理由で来た人もいる。

 しかし晴樹同様、この国に居場所がないと実感している人がほとんどだった。

 新天地。中の1人がそう言う。それを聞いてなるほどと納得した。

 確かにもうこの国にいられない自分達にとって、これから行く場所は新天地とも呼べるだろう。


 やがて係の人がやってきて、船が出港する旨を伝えた。それを皮切りに皆が切符を取り出す。晴樹がマスターからもらったのと同じものだった。晴樹もそれに倣い、切符を見せる。


 暖房が効いていない船内で身を寄せ合うようにして寒さを凌ぐ。皆の眼にはわずかばかりの未練が見られたがそれを上回る興奮と未来への希望に船内は満ち溢れていた。

 誰もがこれからに期待しているのだ。中には安堵をしているものもいる。


 感謝しか出来ない。自分をここまで導いてくれたマスターに。

 見逃してくれた将斗に。


(将斗………)


 結果的には喧嘩別れになってしまったが、いつかきっと、面と向かって礼を言いたい。

 絶対に………



 そう思ったのも束の間、船が大きく傾いた。

 鼓膜が痛くなるほどの轟音。そして悲鳴。


(何が………?!)


 頭で状況を把握しようとする前に、熱い光が発生して………………


 晴樹の意識は光に閉じ込められた。




~~~~~~



 爆発の後、船の半分近くが熱に呑まれ消滅する。僅かに残された船体は大きく傾くと夜の海に眠るようにして沈んでいった。

 沈んでいく名残りの火を眺めながら千晶は痛感する。


「……すごい威力」


『あの時、将斗にこれを撃たなくて良かったよ』


 確かに。将斗のATCも自分たちのと同じ装甲とはいえ、これをまともに受けたらどうなってたことか。


「昴兄ぃ」


『ん?』


「任務完了。報告して良い?」


『勿論』


 千晶は黙って通信機を取り出す。こんな砲弾を繰り出す兄と闘ったら、など想像したくもなかった。







「アマタから聞いたぜ。ここにいるってな」


 何も見えない小樽の海を眺める将斗のもとへ、イゴールは近付く。振り返った将斗の眼は後悔とも悲しみとも呼べる色で曇っていた。


「聞いたよ。友人のこと」


「………………」


「さっき連絡が入った。ティーナ達は任務を無事終えたよ」


「………………」


 そう。全てを終えた将斗が取ったのは、上司への偽りのない報告だった。天田は将斗が晴樹を逃がしたことに何も言わず、ただ「そうか」とだけ述べていた。

 何も言わない将斗のリアクションに困ってか、頭をかくイゴール。


「まあ………お前はよくやったよ」


 それが彼に言える、唯一の労いだった。

 将斗の口が答えるように動く。


「イゴールの………」


「ん?」


「昔の友達の話を思い出していた」


「ああ………」


 表情が曇る。彼としても後味の悪い思い出だったろう。


「晴樹の奴が日本に留まっても、幸せにはなれない。そう考えると、あいつを止めることが出来なくなった」


「………」


 そう。あのとき、将斗は晴樹の今後を考えてしまい、銃を向けることが出来なくなっていた。

 このまま日本にいても生き地獄しか待っていない。テロ国家に生きても幸せが待ってるとは限らないと言うのにだ。

 本当は引き留めたかった。しかしこのまま、弟を死なせた贖罪に悩み苦しむ晴樹も見たくなかった。


「俺は……どうすれば良かったと思う」


 その問いかけは誰にでもなく、ただ今に呆ける自分に向けられたものだった。それは彼もわかっている。

 もう一度頭をかくと、イゴールは将斗に並んで海を見た。


「お前がどう動いても………あの兄弟は助からなかったよ。もし弟が無事だったとしても、あの店は潰された。そうなればお前の友人も、アマタ達に殺されたさ」



 ポケットから缶チューハイを取り出して将斗に放り投げると、今度はタバコを取り出す。


 兄達は確実に晴樹の乗った船を破壊しただろう。バーから見つけたチケットが、彼の行き先を物語っている。

 もう会うことはない。笑って不良と殴りあうことも、ゲーセンに行くことも、またジュースを飲むことも、こっそりタバコを吸うことも。


 家族を不幸の末に失った彼は、テロ国家に明るい未来を抱いたのだろうか。あの人懐っこい笑顔をして、船に乗り込んでいたのだろうか。

 あの海を越えた先に、可能性があると信じて


「イゴール」


「お?」


「タバコ、貰っていいか?」


 未成年のくせに、と笑いながらもタバコを差し出してくる。火を着けてもらい、大きく息を吸い込むと懐かしい香りが肺に貯まった。

 あの時はすぐにむせこんでしまったが、今回は違う。


 細長い煙を吐き出す将斗を尻目に、イゴールはもう一本吸い始めた。


「……人殺しが生業ってのは辛いもんだ」


 吐き終えた将斗は目を固く閉じて


「ほんとだよ……」


 小さな声で返した。


 悪友が吸っていたものよりも苦味の強いタバコはかなり眼にしみるものだ。

おまけコーナー


五木「…生きてましたね。晴樹さん」

山縣「殺されたけどな」

五木「まぁ、細かいことは」

山縣「気にしろよ」

五木「………ま、まぁ次回は遅れての投稿になりますが、新章になります」

山縣「次回、新章『氷雪の音楽隊』………将斗さんたちとテロ国家がついにぶつかり合う話です」

五木「山縣さん………もしかして前回とじ込めたこと、怒ってます?」

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