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将斗の稽古

今後の設定に必要な要素として書き上げました。




『こっちはいつでもいいぜ』


『こっちもだ』


『ダー』



 深夜零時。暗闇に包まれた日高の大地にはテロを企てる集団が旧式のATCに身を包み、起動訓練を行っている。その上空に舞うヘリで紫電を纏った将斗は兄と妹に通信を送っていた。

 敵はキュプロクス18体に工作員7名。3人がかりで挑めば問題はないだろう。

 ヘリを操縦している山縣が将斗に告げる。



「ポイントまで10秒。カウント開始」



 思えば3人同時にキュプロクスで闘うのは初めてか。そんなことを思いながら瞼を閉じ、静かにカウントを始める。



「8.7.6………」



 普段の任務ではしっかりと連携は取れるが、キュプロクスになると要領はまた変わる。従来のと比べ性能も勝る3人のキュプロクスがあれば、1機だけでも十分な活躍が見込まれる。しかしそれ故に単独行動に走りがちになる可能性が高い今、今回の任務の着眼となるのはやはり連携と呼べるのだ。



「3.2.1……開始する」



 ヘリのハッチが開かれた。前屈からはいるスカイダイビングの要領で跳びだし、地上へと落下する。

 赤い瞳と黒い機体が入り交じり、一筋の光は紫の稲妻となって広い大地に落ちた。


 着地点は群れの目の前。直前にホバリングし、落下の勢いを殺して着地する。突然の襲来に怯んだ鉄の機体の群れは僅かに怯んだ様子を見せるも、すぐに統率の取れた動きで機関銃を構えた。


 刹那、警戒すらされていなかった方角から銃弾が飛び、テロリスト達の構える銃を弾く。その方角からは低空飛行しながらライフルを構える赤い機体、パーシヴァルがいた。



『存分に暴れていいよ、将斗』



 言われずともそうするつもりだ。

 モーターをフル稼働し大地を蹴りあげる。紫電は宙に舞い、敵の背後に回り込む。銃を取りだし、照準を合わせて間接部に鉛の弾を撃ち込んだ。防弾チョッキの素材は旧式には使われていないので、間接部からは鮮血が弾けとぶ。


 着地すると今度は対甲ブレードを取り出して切りかかる。たかが鉄の装甲。バターのように切り裂かれ、低い声の悲鳴があがるがかまわない。将斗はそのまま対甲ブレードを振り回し、数体のキュプロクスを切り伏せた。


 敵が固まって死角を無くそうとするが、それもうまくはいかない。


 耳をつんざくようなモーター音。まるで血に飢えた獣の鳴き声を思わせるようなそれは機体の間を縫うようにして滑り込み、要塞を内側から崩して行く。

 鉄の装甲をも両断して行く糸が小さな光をあげ、その中心にいる白銀の機体は次の獲物を求めて眼をギラつかせた。

 あまりの気迫と圧倒的な力を前に恐れをなし、テロリストの群れは右往左往に散らばり始める。

 そこから先はネズミを狩る猫のよう。強者は弱者を排除する弱肉強食の世界をそのまま体現するかのごとく、三機のキュプロクスは敵を残らず駆逐していった。


 開始してからネズミを駆除し終えるまでの時間、僅か2分。

 将斗達を迎えるヘリが降りてくる頃、辺りで3人以外に立つものは誰一人としていなかった。


 バラバラになった旧式のキュプロクス、遺体………それらを一瞥し、天田は満足げに息を吐いた。



「………流石だな」



 阿吽の呼吸で連携を取った3人。最初の危惧は考える必要もないと思い知らされた瞬間であった。








 よくトレーニングをする、港駅近くの公園で木刀を眺めながら将斗は考え事をしていた。その様子を見ながら紫音は声をかける。



「昨日は良い成果を出せたそうじゃないですか」


「……まあな」


「天田さんも喜んでましたよ。これなら今後の任務にも良い成果を期待できるって」


「……そうか」


「………………納得できませんか?」



 相変わらず上の空である将斗に不安を覚え、恐る恐る訊ねてみる。



「まあな」


「どういった点で……」



 木刀を軽く振ってみせ、将斗はため息を吐いた。



「稽古が行き詰まってきたんだよ」



 1人で稽古をするということは、アドバイスをしてくれる人がいないわけだ。改善点も自分一人で見つけ、克服しなくてはならない。

 小さい頃に曾祖父に受けた稽古の記憶だけでは克服できない箇所も目立ってきた。

 昴や千晶は専門外だし………



「誰か教えてくれる人いないかなぁ……」



 それは紫音でも解決できない相談である。そうとはわかっていながらも呟かずにはいられなかった。






 将斗の悩みを紫音から又聞きした後、千晶は学校で頬杖をつきながら考え事をしていた。

 剣道に限れば3兄弟で一番出来ているのは将斗なわけで、戦闘における格闘は教えることが出来ても剣道は教育のしようがない。

 そんな事を考えていると教室の扉が勢いよく開かれた。



「橘千晶‼」



 凛とした声は教室の中によく響き渡り、声の主に気付いたクラスメートたちは驚きと畏れで縮こまる。

 長い黒髪を1つに束ね、キリッとした顔立ちの上級生、しかも生徒会長の側近として有名な彼女が前触れもなくやってきたものだから、驚くのも無理ない。


 片手に木刀を下げた上級生はズカズカと入ってくると、どよめく下級生を無視して千晶の机の前に立ちはだかった。



 その顔を見上げ、千晶は



(………名前なんだっけ)


「……今、失礼なことを考えていたな」


「ニェート。名前、忘れたから。待ってて。今思い出す」


「それが失礼なんだ‼和泉‼覚えとけ!」



 わぁ、すごく親切な人。わざわざ自分から名乗ってくれるなんて。



「スパシーバ」


「……礼を言ってくるのが腹立たしいが、私は名前を覚えてもらうために来たわけではない」



 毅然とした態度を取り直し、和泉は千晶を見据えた。



「前回の決闘では惨敗したからな。再戦を申し込みに来た」


「やだ」


「また断るか‼」



 どうも前回の決闘で負けたことが余程悔しかったらしい。あれ以来彼女から決闘を申し込まれる事が多く、その度に逃げては隠れてきたが相手も千晶を逃す気はないらしい。こうして逃げ場のない教室を選定するあたりがそうだ。

 プライドを傷つけられたからとは言え迷惑な話だ。大体、そうやってしつこく追いかけ回す時点で粘着質なんだとわかる。


 

「今も失礼なことを考えたな貴様ぁ‼」


「シトー?」


「しらばっくれるな‼」



 和泉は怒ってこそいるがその怒りかたは自分たち兄妹がトンでも事態なことをしたときに注意する将斗のものと似ていた。


 苦労人。この肩書きがよく似合うタイプの人間だ。



「今日こそは受けてもらうぞ‼情けない結果のままでは納得いかないからな‼」



 将斗と似ている。そう思ったとき、千晶は(ん?)と考えた。

 兄と同じ、剣道を習う人。いや、剣道に限って言えば将斗以上の実力の持ち主だ。

 騒ぎ立てる和泉をスルーして、考えを巡らす。あまり凝った考えは苦手だが、これなら………



「………だから決闘を‼」


「ダー。受ける」


「貴様はそうやってまた………………

 ん?」



 和泉が首をかしげた。



「今、なんて………」


「受ける。決闘」



 腰をあげて千晶は向き合った。身長は向こうが上なので、見上げるような形になる。



「でも申し込むの、しつこい。私が勝ったら条件ひとつ」


「ほ、ほう……いいだろう」



 何を要求されるのか、辟易した様子だが和泉は承諾した。


 これは勝たなくてはと決意する。


 兄のためだ。手加減はむずかしいだろうが、確実に勝たせてもらおう。









「………で」


「ダー。将斗の剣を見てくれる人、この人」


「制服からお前の学校の人だとはわかる。剣道の上段者なら連れてきたのも頷ける」



 だがな、と将斗は和泉の顔を見た。

 顎の下には青アザ。額は切れたのか包帯が巻かれ、四肢には打撲の痣と切り傷が無数………



 千晶の襟首をつかみ、頭を抱える。耳もとに口を近づけ、小さい声で尋ねた。



「………何をしたんだ?」


「シトー?」


「すっとぼけはなしだ。どうみてもお前にやられた傷ばかりじゃないか」


「決闘、申し込まれた。だから誠心誠意で返した。それだけ」

「どこが誠心誠意だッ‼」



 どうみてもリンチだよ‼一方的な暴力だよ‼



「得物は?何を使ったんだ‼」


「短めの木刀オンリー」



 木刀だけでどうやって切り傷を作ったかは知らないが、千晶はかなりの本気を出して和泉をボコボコにしたにちがいない。大人げないというかなんというか………

 とにかく妹が傷害事件を起こした以上、被害者である彼女への謝罪が必要だろう。

 思慮に暮れる将斗の背中へ、凛とした声が投げられた。



「何を話しているかは知らないが、剣を教えてほしいと言うのは貴方のことか」


「そうだけど……」


「ならば話は早い。私は貴方の妹との決闘に負け、兄に剣を教えると約束した。そちらの準備さえ良ければいつでも稽古を始める」


「………いいのか?」



 和泉はボロボロの自分を嘲笑うように自嘲の笑みを浮かべ、傷を負った手を見せた。



「ここまで手傷を負わされたのだから私の完敗だ。それに決闘を私からしつこく申し込んだのだから、断れる立場でもない」


「それでいいのか?」



 少なくとも傷害事件としてこちらから医療費を払う必用があるのではないかと不安を抱いたが、和泉は首を横に振るだけだった。



「試合で怪我をするのはよくある話だ。それに剣を教えてほしいというのなら私も快く受け入れるつもりだ」



 頭がお堅い傾向こそあるが、気前のよい性格らしい。

 和泉の厚意に甘え、将斗は彼女から剣を学ぶことに決めた。






「……踏み込みが大きすぎるのが第一だな」



 試しに木刀を振る将斗を見て和泉が言ったのはそれだった。



「そんなにか?」


「太刀のような長さのであれば充分かもしれないが、今使っている木刀の長さだと余計な体力を使う」



 成る程と将斗は頷いた。確かに普段の戦闘に使う対甲ブレードやナイフではリーチが短い分、踏み込みを大きくすることでカバーしていたが竹刀や木刀ではそれが余分になる。

 ならば対甲ブレードのサイズを調整してもらうのがベストだろうか?


 和泉は将斗の前に立つと距離を詰めてきた。普段の踏み込みをすれば完全に衝突してしまう距離だ。


 そして踏み込む距離を調節してみろと言う。



「ぎりぎり私にぶつかるくらいが丁度良いくらいだな」


「わかった。試してみるからすこし避けてくれ」


「?何を言う。体感してみないとわからないだろう」


「ごもっともだがそれは………」



 ちらりと和泉の胸もとを見た。既に道着に着替えている彼女の襟は開かれており、そのまま踏み込むということは彼女の胸に体を押し当ててしまうことになる。

 それに気付かないのだろうか。



「心配するな。私の道場ではこのやり方で指導をしている。多少の衝突で姿勢を崩すほどヤワじゃない」



 気づいていないらしい。そもそも彼女の心配と将斗の心配は別方向にあった。

 試しに先よりも浅く踏み込んでみる。彼女との距離をすこし空けるよう意識して、だ。



「今度は浅すぎるな。ぶつかるつもりでもう1回」


「だからそれがまずいんだろ‼」


「?何を言ってるんだ?」



 鈍感なのかあまり意識していないだけなのか、和泉は不思議そうに首をかしげていた。


 ええい、ここまで気付かないなら身をもって学習してもらおう。

 将斗は思いきってもう一度、脚を踏み出した。今度は丁度体が密着するように。

 柔らかい感触が将斗の胸に当たった。あまり和泉を見ないように視線を逸らし、すぐに離れようとするがガッチリと肩を捕まれ、固定されてしまう。

 もう一度言うが、柔らかい感触が胸に当たっているのに、だ。


「そう。この距離だ。刀の長さではこれくらいが丁度良い。よく覚えておくように」

「………わかった。わかったから早く離してくれないか?」

「?なぜだ?顔もそらしているが………」


 気まずそうな将斗の顔を見た。次に将斗の視線の先を探し、何もないことに気付くと今度は将斗の首から下を見る。真っ直ぐな姿勢、きちんと曲げられた膝。そして自分の胸と密着している身体………



 密着?



 和泉の顔がみるみる赤くなって行く。口は魚みたいにパクパクと開閉を繰返し、肩から震え始めていた。


 ようやく気付いてくれたか。



 そう将斗が安堵したのも束の間、和泉の口から言葉が放たれた。



「あ………あ………」



 肩は捕まれたままだ。つまりまだ柔らかい感触が残ってます。

 そして将斗は知っている。こうなったとき、次に自分を待ち受けているのはどんなシチュエーションか。


 詳しくはコード・オーシャンズブルーにて。


 ここに至るまで気付かなかった向こうにも非はあるのだし、自分はこれから間違いなく暴力を受ける。それならせめて、もう少しこの感触を頂戴しよう。その対価として暴力を振るわれると考えることにした。


 というか、そうでもしないとやってられない。



「この……不埒者ぉ‼」



 こうして将斗にとっては新しいジャンルの暴力が断罪として下された。和泉の肩に載せられるようにして後方に投げ飛ばされる。合気道の風車という技の応用らしいが、流派によってまた形が違うらしいので興味がある人は地元道場の体験入門で受けるなりして調べてみよう。



 断じてオススメできる行為ではないが。



 将斗の身体は回転しながら固い床に叩きつけられた。



「へぶぅっ‼」



 紫音から受けたビンタは心にまでダメージを与えられたが、これは違う。


 物理ダメージが圧倒的で、そのまま意識を失いかけたくらいだ。







「やはり飲み込みが早いですね」


「そりゃどうも」


「模擬刀もありますが、試しに振ってみますか?」


「振ってみたい………が」



 木刀を振り終え、和泉のほうを見る。さっきのを警戒してか最初の頃より数歩離れて………壁際に寄ってまで離れていた。しかも敬語だし。他人行儀。


 恋愛ゲームなら好感度は最低値だろう。和泉は模擬刀を貸すときだけ将斗の近くに寄ると、足元に起き、そそくさと壁際まで戻ってしまった。


(溝が深すぎる………)



「悪かったよ、さっきは……」


「別に怒ってなどいません。まさか貴方までそんな人だとは思ってもいなかったと驚いただけです」



 うわぁ、かなり怒ってるよ………


「ん?まで?俺以外にも?」


「関係ない話です……と言いたいのですが、貴方の妹と幼馴染なので隠す必要はありませんね」


「まてまて」



 千晶はわかる。今日の和泉の傷を見るからに、彼女が妹に対しいい感情を抱いていなかった言われても納得出来てしまうが、紫音まで?



「紫音が何かしたのか?」


「したも何も……伊織さまへの失礼な態度、それに変な噂に甘んじて逃げているから許せないのです」


「伊織さま?」


「……私達の生徒会長です」



 紫音は何かをしたかは知らないが、彼女はその生徒会長とやらを慕っているらしい。そして紫音がその生徒会長に失礼な事をしたと………



「………まあ確かに、紫音はコミュ障なとこがあるからなぁ」



 将斗が言うと和泉は信じられないといわんばかりに驚いた表情を見せた。



「貴方はてっきり彼女を擁護するかと思ってたのですが」


「間違ってる部分があるなら庇うのは逆効果だろ。でも、何をしたんだ?あいつ」


「日下部紫音は……」



 これを幼馴染の将斗に言うべきかで迷った様子を見せたが、意を決したように和泉は語りだした。



「入学当初、伊織さまは以前からの学友を連れて新入生全員に挨拶に行かれました。日下部紫音のもとにも当然。

 しかし伊織さまの握手を拒んだ挙げ句、具合が悪くなったと仮病を言い出し、さらに介抱しようとした伊織さまから逃げ出したのです」


「………………」


「伊織さまは酷く落ち込まれ、その後も何度か彼女に改めて挨拶をしようとしたのですが彼女はその都度逃げるように………流石に伊織さまも苛立ち、どうにかして彼女と仲良くなろうと接触しても迷惑そうな顔をするだけ。その後、彼女の不思議な噂が流れて人が寄り付かなくなったからと伊織さまは気を使っていたというのに………」



 納得がいった。

 大方、保有者ホルダーとしての体質のせいで紫音は大勢の人の感情に具合を悪くしたのだろう。弁明しない紫音も紫音だが、伊織とやらに誤解をされたまま過ごしてきたのか。それにしてもすごいな。全員に挨拶に行ったとは。

 余程高飛車な性格なのかはわからないが、伊織という人も自分の意思を押し付けたがる人間性なのだろう。そんな人と紫音の相性は水と油みたいなものだ。さらにそこに千晶の件があって、和泉の彼女たちへの印象は悪化の一途を辿っているらしい。


 結果だけ見れば両者の性格から産まれた問題だ。


 

「噂で人が寄り付かないのを良いことに、日下部紫音は伊織さまの厚意を無下に……」


「あー……悪いがその噂は本当だ」



 こういった問題に第三者が介入するのはあまり望ましくないが、誤解だけはどうにかしようと将斗はささやかなフォローをいれることにした。和泉は目をぱちくりとし、将斗に「正気か?」と問いたげな眼差しを向ける。



「日下部紫音は人の考えが見えるというのが?」


「そうだな。紫音は人の考えているのがわかってしまうんだよ」


「それは心理学的な?」



 ナノマシンが原因、と言っても信じてもらえないのでここはごまかしておく。



「それはわからんが……少なくとも本当だよ。俺と妹も初めて会ったときから確認してる」



 信じられない、と言わんばかりに首をふられた。まあ、当然か。いくら科学技術が発展したとはいえ、思考を読み取るなんて普通は出来たもんじゃない。

 これに関しては説明がむずかしいところだ。



「じゃあ彼女に考えを見られた人は不幸になるって話も?」


「それは背ヒレ尾ヒレが付いた噂だな。あいつは人の考えがわかってしまって、そのたびに具合が悪くなるんだ。それだけさ」



 納得したのかしてないのか複雑な表情で和泉がこちらの顔色を窺っている。嘘をついているのではないかと疑われているらしいが、こちらとしてはそれしか言いようがない。



「まあ、本当かどうか気になるならそれを確かめるやり方もあるからさ」



 そこで将斗はある方法を教えた。紫音の能力を裏付ける最も確実なやり方だ。


 もしかしたら不気味に思いさらに距離が離れるかもしれないが、それでも噂を疑う和泉も彼女の体質を理解はするだろう。あとは和泉と紫音次第である。



「貴方は……それを知って怖くはなかったのですか?」



 和泉の問いの意味を考えた。確かに思考を読み取られる側としては気味悪いだろうし、やましいことを考えていたなら彼女は天敵みたいな存在である。しかしそこは即答することができた。



「全然。俺としてはオープンに話せるから気が楽だったよ」



 楽しい思いを知り、分かち合ってくれた。苦しい感情も辛い気持ちも読み取り、理解し、通じあってくれた。そんな紫音だからこれまで一緒にやってこれた。彼女に救われてきたから自分達はここにいる。

 なにより彼女が能力を悪用して自分たちを陥れたことはなかった。


 最近は能力の切り替えも様になってきているし、他の人の感情を誤って読み取ることも少なくなってきているから、後は彼女のコミュニケーション能力次第かなぁ………


 改めて模擬刀を振ってみながら考える将斗の横顔を和泉は真剣な眼差しで見ていた。

 素振りの様子を見ているだけではない。将斗が真実を話したのか、品定めをするような眼差しであった。








「まさか本当だったとは思いもしませんでした………」


「ま、誰もがそう思うよなぁ」



 やり方は簡単だ。紫音と握手した状態で、単語をいくつか思い浮かべる。それを紫音が当てれば良い。初めて会った時、将斗がやった方法によく似ている。

 紫音の百発百中の解答に和泉は驚きこそしていたものの、不気味に思う様子は見られなかった。


 むしろ………



「人の考えをわかってしまうということは、それだけ嫌な感情も理解してしまうということですし……」



 複雑そうに話す横顔には陰りが見えていた。紫音がこれまでに知り得てしまった暗い感情の膨大さは途方もつかない。それを考えると流石に気の毒に思ったのだろう。

 長く一緒にいる将斗でさえ、紫音が感じ取った思考の量はわからないのだ。



 


「だが……伊織さまへの無礼な態度は許せん‼」


「はいはい………」



 将斗は伊織とやらがどんな少女かは知らないし、そこから先は彼女達自身の問題だから自分はこれ以上関与しないほうが良いだろう。



「あ、でも稽古はたまにで良いから続けてくれないか?やっぱり教えてくれる人がいるだけでありがたいんだ」


「無論、そうするつもりです」



 お、あっさりと了承してくれた。



「貴方は橘千晶の兄であることと不埒ものであることを除けば、私にとっては教え甲斐のある人ですからね」



 まて、後者のそれは………

 意外と根にもつ性格らしい。


 それでも教え甲斐があると言われるのは嬉しいことだった。これでセンスもないと言われたら流石に凹む。



「じゃあ改めて………よろしく」


「よろしくお願いします」



 帰り道に交わした何気ない挨拶みたいなものだが、将斗の今後の稽古が約束された1日だった。

おまけコーナー


和泉「こ、ここでは何を話せば?」

山縣「それじゃあ質問に対し一問一答方式で」

和泉「あ、ああ………」

五木「それじゃあ1つ目‼下着はどういうのを好んで着けてますか?」

和泉「ぶっ?‼(咳き込みながら)な、なぜ答えなくてはならない?‼」

五木「パスですか?じゃあ2つ目‼スリーサイズを教えてください‼」

和泉「さっきからなんなんだ?‼このコーナーは!」

山縣「あー、気にしないで。作者も最初は将斗さんとあまり絡ませる予定がなかったのに、路線変更して将斗さんとフラグ建築してたでしょう?」

和泉「?‼あ、あれは事故……」

山縣「で、五木と同じく男とは縁のない人生を送らせるつもりがこの回で撤回され………裏切られた五木は狂っちまったんです」

和泉「丁寧に解説しているようだが失礼甚だしい‼」

山縣「誰も悪いんじゃない。悪いのはこの世です」

五木「すっかり作者からも男と縁のない女として扱われてますからね‼いいでしょう、どこまでもやさぐれてやりますよ‼」



………とまぁ、最初こそ和泉は将斗に剣を教える設定はなかったのですが、予定変更しました。本当は前話の真冬から学ばせるつもりでした。

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