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王手

ピンチな展開になってます。



「仕事上、生憎と君たちみたいな存在には敏感なのだよ」


 タバコを灰皿に擦り付け、ウィルは白い煙を吐き出す。


「まぁ、キツネの事を聞くまで君に対しては完全に油断していたがね」


「そうでしたか。てっきり、僕がなにかしらのミスをしたんじゃないかと不安に思っていたのですが安心しました」


「……否定しないのかね」


「否定しても悪足掻きでしかありませんよ」


「その悪足掻きをしてくると、私は践んでいたのだが?」


「心外ですね。貴方は僕を高く買ってくださっていると思っていたのですが?」


 視線がぶつかり合う。陰謀と策略、そして相手の深意を探りあうが無言のままでは話が進まないと察してウィルは首を横に振った。


「そうだな。現に君はこうして認めているのだ。私も野暮な真似はよそうではないか」


 少し緊張しているのか、タバコを吸う頻度が上がってきた。新しいタバコに手を伸ばし、火をつける。


「それで………どこまで話したかな?」


「モルモットのくだりだったと思いますが」


「そうだったな。まぁ、そういったものを取り扱っての研究が主だから、堂々と発表は出来ないだろう。ラットとかを使っての臨床実験を、人体を使うことで極限まで早く終わらせたのだ。使用されたモルモットの数も尋常じゃないだろう」


 臨床実験に犠牲はつきものだ。だが犠牲になるのが人間なら、世界からは道徳性を問われるだろう。


「しかしなぜゴーストを使用したと?」


 レストラン内にジャズが流れ始める。それは緩やかなメロディであったが、どこか悲しげで、切なさを感じさせるものだった。


「ATCやナノマシンの産みの親だ。正体を知られたらどうなるか、君なら予想は浸くんじゃないのか?」


 その優秀な人材を物にしようと、あらゆる国家は実力を行使してでも動くだろう。あのテロ事件だって、ATCとその作成者を手に入れるために起きたのだ。想像は難しくない。

 だからウィルはその正体を探る手がかりをビジネスに変えることが出来たのだ。

 OOの手がかりとなる情報、証拠。それらの果てに謎の科学者の正体があるのだとすれば、あらゆる国家は戦いという手段を用いてでも動く。そして戦いが激化するほど、武器をも取り扱うウィルの商売は潤うのだ。


「そうなると、科学者を巡っての争いが起こり続ける方が、商売は捗るでしょう」


「君はいちいち鋭い。だからこそ私の下に加えたいと思っている」


「光栄ですが僕は既に勤めてる会社がありますゆえに」


「そうか。その会社とは……FBIかCIAかね?」


「どうでしょうか。

 しかしそうなると、貴方としてはうまい具合に情報をリークしてくれる存在が必要ですね……

 ああ、まさか今回の取引相手はそれに応じなかったのでしょうか?」


 昴のビショップが進められる。


 チェック


 ここでキングを避難させたところで、ウィルの敗北まで残り5手といったところか。


 実力さは歴然。

 それなのにウィルが笑みを絶やさないのは何故か?


「鋭すぎるのだよ、君は」


 レストランに新しく客が来た。

 大柄で、グレーのスーツを着た男。

 ウィルは既にその来客に気付いていたらしい。


「遅いじゃないか、モーリス」


「失礼。かなり抵抗されたものでして」


 昴は深くため息を吐いた。







 デヴィの咎めるような視線を受け止める。なぜこのような態度を取られているか理由はわからないが、レストランで話した時点で彼の気に障るような言動をとったのだろうと判断する。


「えっと……」


――お姉さんは――


 遮られた。


――保有者ホルダーとして、どこまで理解してる?――


「ぇえ?私の体質のこと?」


――自分自身の能力をどこまで理解してるの?――


(どこまでって………)


「私のは触った人の感情とか記憶を覗き見るって程度で……」


――自分の能力を制御する方法とかは?――


「……気合いとしか…」


 もしかして能力に振り回されてばかりの自分に呆れていて、あんな無愛想になったとか?

 そんなことを考えていると、納得いかないとばかりにデヴィは首を横に振っていた。


――わからない。なんでそんなお姉さんが……――


「えっ?」


――能力の理解も管理も出来てない。僕らと違って苦労もなしで、それなのにいい人達に囲まれて……――


 ………まさか彼には能天気な人間として認知されてたとか?

 しかし理由はわからないまま、デヴィの顔は悔しさと怒りで歪みつつある。


「気に入らないことをしたのならごめんなさい。でも貴方を怒らせた理由がわからないの」


――ズルイよ。僕らはあんなに辛い思いをしてきたのに、優しくしてくれた人はパメラだけだった――


「パメラ………」


 またその名前。


「その人は、あなたの友達?」


――友達……じゃない。でも僕らの面倒を見てくれた。僕らのことを気持ち悪がらないし、なぐったりもしなかった――


「殴ったりって………」


 背筋が寒くなる。


(もしかしてこの子……)


 自分でもどうかしてると思う。

 他人の記憶なんて、気安く覗いて良いものではない。

 しかし確かめたかったのだ。


 少年の受けてきた仕打ちを。


 無理矢理腕を掴まれたデヴィの表情に不愉快の色が走るがかまわない。

 紫音は持てる集中力をその腕に注ぎ込む。

 すぐさま映り込んでくる、ノイズ混じりの情景。



 それは想像していたよりも残酷なものだった。


――――――――


 閑散とした建物。


 周りにはぼろ切れのような服を着た子供たちと、こん棒を振り回す男。


 子供が男から暴力を受け、血まみれになっている。


 浴びせられる罵声。



「化け物の中でも出来損ないのお前達だ‼今死んだって誰も泣いたりしない‼」



 泣き叫びながら連れていかれる子供。


 血まみれの部屋。置かれているのはメスなどの器具。


 台の上に横たわる子供は首から下が………


 ………………


 赤い髪の女性が、優しく頭を撫でてくれた。


 この人がパメラだろうか。



「化け物なんて思わないわ。私は貴方たちの力を魔法だと信じてるのだから」



――――――――



 デヴィが弾けるように離れる。何を見られたか察したらしい。そして見られた過去に思うところがあったのか、その表情は絶望に満ちていた。

 無理もない。紫音だってネグレクトの頃を見られたら辛い思いをするだろう。嫌な過去を露見されて良い気になるほうがおかしい。


「まさか………」


 あなた達がそんな目に遭っていたなんて。

 しかし紫音が声を出す前に、デヴィはあらんかぎりの力強い声を届けてきた。


――わかるもんか……見たってお姉さんにわかるもんか‼――


 涙混じりの声には彼の感情がつよく乗せられている。取り繕いもなにもない、彼の本心だ。


――僕らは明日も生き残れるかわからない毎日だった‼お姉さんみたいに自分の力ともまともに向き合わないで、なのに幸せで‼――


 その言葉はデヴィだけでなく、彼の記憶で亡くなっていた、価値のない人生を強いられていた子供達の叫びだと、紫音は理解した。

 同時に察する。


 なぜデヴィが不機嫌になっていたのか。

 力を持ったにもかかわらず周囲に恵まれた紫音と相反し、彼らは力と向き合いながらも与えられた幸せはまったくといって良いほど無かった。


 ないものねだり。


 八つ当たり。


 ひとくくりに言ってしまえばそうなるが、だからといってそれらで一蹴して良いはずがない。

 自ら血で手を汚す世界に踏み入った紫音たちと違い、彼らには選択すら与えられなかったのだから。



 命が軽い世界でしか生きることしか出来なかったのだから。


 最後にデヴィは紫音に憎悪の限りをぶつけて走り去ってしまった。



――何も知らないくせに‼――



 見るだけ見てしまった死への恐怖と絶望。

 幼い少年から感じ取ったそれらの余韻に浸りながら紫音はその場に立ち尽くす。




 ……………。



 これは自分のミスだ。


 ハッキリとそう思える。

 単独行動に勝手な仲間割れ。


 リカバリーのしようもない失態。


 これは仲間から見棄てられてもおかしくない。


 いくら仲間があの道化師クラウンだからとて、こんな状況の自分を救い出すには難易度が高すぎるだろう。


 デッキの手すりに手錠で繋がれたまま、血まみれの体を潮風に晒すのはなかなかにしてつらい。剣山で身体中を刺されているかのようだ。

 手錠を破壊しようにも、武器も隠していた工具も奪われてしまった。脱出は絶望的である。


 しかし後悔はしても、嘆きはしない。


 自分のミスでこんな結果になってしまったが、彼なら何とか逃げ延びてくれる。自分が彼の情報を漏らさない限り………


 自分のせいで仲間が危機に陥る事がない限り、きっと強気であり続ける。


 ナタリアはそう信じていた。


 信じていたのに………


「こちらです」


 あのボディーガードの声。どうやらウィルを連れてきたようだ。

 最期に彼等の顔面に唾でも吐きかけてやろうかなんて考えていると、ボディーガードの背後には第3者が、そして最後にウィルがついてきていた。

 背の高い、眼鏡をかけた第3者を見てナタリアの顔は驚愕に変わる。

 そして恐怖と絶望に声を震わせた。


「なんで………」


 見捨てればいくらでも打開策はあったはずだ。

 あんなことを言ったのだから、自分に対して見切りをつけても良かったはずだ。

 守りたい人がいるのならなおのこと………


「あなたの飼っているキツネで間違いはないですね?」


 昴はナタリアを見つけると顔色ひとつかえず、臆することもなく。


「ええ」


 と返した。



「………さすがにこれは否定すると思ったんだがな」


「ここで否定しても、何のメリットも僕にはありませんよ」


 一見しても絶体絶命。勝算すら見つからない状態にもかかわらず、昴の態度は飄々としていた。


「なんで……」


「ああ、ナタリー。すまない。来てしまったよ」


「どうしてよ!」


 口に溜まった血を吐き出しながら叫弾を放つ。


「貴方だけでも逃げれば!まだ可能性はあったのに!」


「それについては謝るよ。でも君に死なれたら、キャシーに申し訳ないからね」


「そんな義理………」


「あるさ」


 きっぱり言い切るその表情に、普段のはぐらかすような飄々としたものは無くなっていた。そしてナタリアの方へ足を進める。


「ここで死なれたら僕の誓いは果たせなくなる。それに………」


 残り10メートルといったところでモーリスが剣を向け、歩みを止めるよう態度で示したので脚を止めた。


「僕のもうひとつの家族を。こんな外道に奪われるのは我慢ならない」



 嘘だ。



 だってこいつは、任務のためなら仲間を犠牲にする男だ。

 犠牲にされたあの人は、こいつの家族だったのに………


 この男の人間性を信じるのはあの時、やめたはず。


 それなのにナタリアの胸には、救ってほしい。助けてほしいと彼にすがる思いが芽生えていた。



「もう同じ失敗をするつもりはない」



 道化師が目にも止まらぬ速さで銃を取りだし、グリップをモーリスの剣に打ち付ける。峰に当たり、剣はモーリスの腕を引っ張るようにして上へと弾かれた。






「………!」


 通信機から剣撃が聞こえてきた。慌てて耳に取り付けると、昴が何者かと交戦しているらしい。

 こんな派手な打ち合い、ダンスホールでは騒ぎになってしまう。ならば人が少なく、なおかつ広い場所………


 デッキか。


 自分も向かおうとするが、デヴィの捨て台詞が紫音を引きとどめようとする。


――なにも知らないくせに――


「………………っ」


 正直、デヴィに会いたい。

 話を聞きたい。

 出来ることなら謝りたい。


 だが紫音にはそんな感情を押し殺してでもやらなくてはならないことがある。


 後ろめたさを感じつつ、紫音は脚を進めた。


 細い通路にヒールの音を響かせながら。


 ……………。



「貴方のように華麗な動きをする人間は初めて見る‼素晴らしい‼」


 振る剣が昴を何度も襲う。突きを後ろに跳びながら避ける。拳銃を剣の峰に打ち突けて軌道を逸らす。時折懐から取り出したナイフを投げつけるが剣で払われるか、硬く作られた体で弾かれてしまう。

 剣を振るモーリスの顔には歓喜と狂喜が入り交じっている。


「闘いに快楽を覚えるなんて普通じゃないですね。どこの軍出身ですか?」


「米国の警察ですよ‼厄介なのに巻き込まれて目や腕を失って以来退職して、改造されてからはこうしたボディーガードなんかをしてますがね‼」


「警察?それにしては人を殺し慣れてませんかね」


「今の仕事になってからですよ‼殺すようになったのは‼」


「それで殺人狂に成り果てたのですか。今の仕事、合ってないんじゃないですか?」


 高くバック転しながらナイフと銃弾を同時に放つ。銀と鉛の弾は速度差で互いの距離を変えながらモーリスに襲いかかっていた。

 今のところ、彼の武器は仕込み刀しかない。千晶みたいにワイヤーを使うのだとしたら防がれてしまうだろうが、刀だけで時間差込みで襲いかかってくるこの攻撃を完全に防ぐのは不可能。


「っ?‼」


 しかし息を飲んだのは昴の方だった。モーリスの動きが急に鈍くなったように減速したのだ。

 体力が無くなるにしては早すぎる。ならば単に油断しただけか?


 そう疑ってから考え直すのにかけた時間は刹那。


 モーリスの眼が一瞬だけ光ったかと思うと、目にも止まらぬ速さで腕を振り抜いた。

 かん高い金属音が夜空に響き渡る。


 次の瞬間、彼の足元にはひしゃげた銃弾とナイフが散乱していた。


(ばかな………)


 剣以外の武器を使った様子はなかった。シュプリンゲンを使った形跡もない。

 なぜ?


 あらゆる可能性を考え、消去してゆく。


 ワイヤーのような隠し武器。なし。


 ドーピング。なし。


「その眼……‼」


「よく気付きましたね‼」


 その眼の不自然な輝きは既に失われていたが、モーリスは片手でその目を覆っていた。


「便利な眼でしてね!温度やDNAの探知、解析、ある程度の演算はお手のものなんですよ‼」


 ナタリアが簡単に捕まる理由がわかった。

 温度まで見られたら、変装しているヶ所の不自然さに気付かれてしまう。さらには元警察ときたので、ある程度の鼻や頭の回転も利くのだろう。

 そして身体中がフランケンとなっており、演算装置もあるのなら、それはATCと変わらない完成度の兵器だ。


「こういったのも……ね‼」


 モーリスの身体がまた遅く動き始める。

 演算能力の向上、計算速度についてゆくことの出来る身体。


 弾丸をすべて撃ち落としたあの速度で、モーリスは昴に突進してきた。


「くっ………!」


 ワイヤーを投げ飛ばし、上に縁の引っ掛ける。そのまま上空に飛ぼうとした。


「っ?‼」


 しかし視界の隅でデッキに上がってきた存在に気づき、意識が逸れてしまう。

 迷いこんだのだろうかまだ幼い子供と、それを追う幼馴染みの姿。

 なぜここに?

 いや、それよりも彼女達を避難させなくては………


 ……………。


 その時、記憶の奥底から苦い思い出が甦ってきた。


 崩壊する建物


 仲間がこちらを見る眼は敵意に満ちている


 建物が崩れる前に通信機で交わした言葉………………………………



「遅いですよ」


 飛び上がる前にはモーリスがすぐ目の前に迫っていた。


「動きが鈍くなりました。迷いましたか?」


 そうだ。まだ闘いに専念すれば、回避できる可能性はあったのに。


 道化師である師匠を死なせたあの時の迷い。


 それがフラッシュバックとなって昴の判断と動きを鈍らせてしまったのだ。



 せめてもの抵抗で銃を撃つが、すべて防御される。昴の生身の肉体にフランケンシュタインの身体がぶち当てられた。


 その体は船から飛び出し、暗い海へと突き落とされる。


 瞬間、昴の意識は深海のように暗く、冷たい世界へ引きずり込まれて………


 ……………。


 デッキに出る扉の前に子供が佇んでいた。

 痩せ細った体。金髪碧眼。

 しかしその表情には明らかな敵意が浮かんでおり、見ているこちらは寒気を覚えてしまう。


「デヴィ……」


――ここに来たってことはお姉さんも、ウィルを殺そうとするんだね――


「ウィルって……」


 その名を彼が言った時点で驚愕、落胆。そして理解する。


 もし自分達の体質をウィルみたいな人間が知ったらどうなるか。

 彼らみたいな人身売買も行える立場の人間はきっと、ビジネスとして自分達の価値を定める。そして売り飛ばそうとするのだろう。


 デヴィは商品だった。


「好きでウィルと一緒にいるのですか?」


――まさか。僕一人では生きられないから一緒にいるだけだよ――


「でも売られるんですよ?知らない人に」


――それでも生きていけるのなら仕方ない。なにもかも恵まれたお姉さんなんかとは違うんだ――


「そうかもしれない。でもチャンスはあります」


――無理だよ。僕は逃げても………逃げ切っても生きられない――


 扉の方を向いたデヴィの顔は、紫音からは見えない。しかし何かを囁くように呟いた。


――やっと仲間を見つけたと思ったのに………――


「………え?」


 尋ねる前には既にその手は扉を引いていた。扉を開けたことで聞こえてくる銃声。


「‼だめ………‼」


 デッキに脚を踏み入れるデヴィを止めようと、慌てて追いかける。しかし彼の腕を掴んで引き戻そうとしたときだった。


 海に何かが叩きつけられる音と共に、飛んでくる水飛沫。途端、銃声は止んでいた。


「………!」


 周りを見渡すが自分とデヴィ以外にはウィル、スーツの男、そして血まみれのナタリアしかその場にはいない。


 戦闘の気配すら消えている。


(まさか………?‼)


 タバコに火をつけながらウィルは海を向いてほくそえむ。



「チェスは私の勝ちだな」



 ……………。


「昴さん‼昴さん‼」


 必死にその名を叫ぶが幼馴染みが姿を見せる様子すらない。夜空に紫音の声が反響するだけだ。

 モーリスが紫音に近づこうとするがウィルがそれを制する。


「待て。それよりなぜ………」


 紫音とデヴィを交互に見る。

 何の接点があって?と問いたげな顔だ。


「うろちょろしていたデビットを見つけてくれたんですよ、彼女は」


「ああ、迷子と勘違いされたわけか」


――違うよ。お姉さんも僕と同じ保有者ホルダーだ――


「「?‼」」


 2人に驚きの色が走る。特にウィルは、ありえないと首を振りながら言った。


「嘘だ。彼女に番号がふられてなかった」


――オリジナル、お姉さんはそれだから――


「オリジナル………だと?」


――そう。普通に産まれて普通に生きていられる………――


 パシィン‼


 ウィルの手がデヴィの頬を叩いた。音に反応して紫音は咄嗟に振りかえる。


「そんな情報………貴様は一度も言ってなかったぞ‼」


 怒鳴り散らし、倒れたデヴィを蹴飛ばしていた。


「なぜそんな大事なことを伏せてきた‼」


――………――


「今まで貴様の面倒を見たのは誰だ‼誓っていたよな‼面倒を見るかわりに、貴様の知る00の情報を包み隠さず答えろと‼」


――………オリジナルは00と関係がない。だから………――


「ごたくはいい!」


 デヴィの顔面を強く蹴り飛ばす。彼の唇は切れて血が流れていた。ぐったりして起き上がろうとしない。だがそんなデヴィに追い討ちをかけ、蹴り飛ばし続ける。


「くそっ!ちょっと自由にさせたら恩を仇で………‼」


――………――


「まさか、まだ話してない情報があるんだろうな?‼」


――………――


「くそっ、言え‼言うんだ‼」


 冷静を失い、暴力を重ねる。

 自分も、己の力をビジネスに捉える者に捕まっていたらこんな、いや、これ以上の仕打ちを受けていたのだろうか。

 理不尽な暴力、理由のない罵倒。

 殴られた顔はたちまち大きく腫れてきた。


 デヴィが情報を提供しなかったのが癪なのだろうがこのままでは………


「や………やめて‼」


 駆け寄ろうとしたがウィルに頬を叩かれ、その場に倒れてしまう。


「気安く近付くな、貴様も化け物のくせに‼」


 幼い頃の自分に何度も浴びせられた言葉。胸を締め付けられる苦しみが自分を襲うが、かまわない。上体を起こしてウィルを睨み付ける。


「化け物はそっちです!この子を商品だなんて‼」


「奴隷という制度を知らないようだな‼」


 頬を蹴りとばされる。意識が消えそうになったが歯を食いしばって留まることができた。


「そんなの……テロ国家と一緒です‼」


 誰かの意思や幸せなんか尊重しない。ただ自分達の快楽のために支配と虐殺を繰り返している。


「同じで何が悪い‼」


 今度は腹を蹴られた。


「貴様達化け物はどう生きても道具だ、商品止まりだ‼どうせ貴様もこのあと売り飛ばされる‼そこには人格や意思は必要とされない‼誰かの玩具にされる‼玩具は自ら遊ぶ主を選ぶのか?!違うだろ!!」


 紫音も保有者ホルダーと知って、彼女への欲望を裏切られたと同時に、保有者を毛嫌いしている風潮もあるようだ。ウィルがこちらを見る眼は憎悪に満ちており、情けや容赦というものは欠片もなく紫音へ暴力を振るう。



 痛い、痛い、熱い―



 何度も意識が飛ばされそうになるが、その度に次の暴力で我にかえる。

 もはやただの拷問だ。


 背中を何度も踏みつけられているとき、一歩離れた場所からデヴィがこちらを見ていた。蹴られている今、何かを口に出すことも出来ない。


――バカな人……下手に反抗しなければよかったのに――


(そうですね……でも、化け物って……私の力を魔法と呼んでくれた人の言葉を、化け物って片付けられたくなかったから)


 デヴィの眼が衝撃を受けたように丸くなる、


――お姉さんの能力って……まさか――


(………?)


――……ううん、でも魔法なんて普通の人は使えない。どうせ使えるのは化け物みたいな人達だけ。僕らの場合はナノマシンが原因だから、普通の人と大差ないように思えるけど………――


(え?)



 ナノマシン。彼は確かにそういった。



 だがそれは今、世界共通の医療手段であり深く浸透した技術でもあるはず。



――僕ら保有者ホルダーの能力は………覚醒したナノマシンが体に浸透しているからだよ――



 その時ウィルの脚が紫音の意識を刈り取った。

おまけコーナー


将斗「でもよ、さすがに投稿が遅すぎね?」

千晶「………メタい」

紫音「なんか………ハロウィン企画をしたものの、製作がうまくいかず頓挫したとか………」

将斗「やりきれよ、作者‼」

昴「でも本当に危ないよね、今の状況」

将斗「お前がしっかりしないからだろう‼」


紫音「でも………ナノマシンですか」

千晶「医療には普通に使われてるけど」

将斗「でもそうなると、現代では紫音みたいな保有者ホルダーがうじゃうじゃいてもおかしくないよな………」

昴「デヴィ君は、覚醒した、って言ってたよね」

千晶「カクセイ?」

将斗「しまった、そっちまではまだ習ってなかったか………」

紫音「えーとね………こういう字で………」

千晶「(ハッ)?‼私、知ってる………テレビでよく出てくる薬、こんな字だよね」

紫音「………覚醒剤かな?」

千晶「これと同類だよね?」

紫音「シュプリンゲン出しちゃダメ‼」

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