橘昴・完
完となってますが終わりません。ただのネタ回です。
『シオン、随分やつれたんじゃない?』
パソコンのTV電話で話をしているのは千晶の育ての家、アベルツェフ家の娘にして義理の姉にあたるエレーナであった。今、紫音はいつも通り橘家で夕飯を食べた後、千晶の部屋でくつろがせてもらっている。
「うん……昴さんが珍しく乱暴な運転をしたものだから…」
『スバル………ティーナのお兄さんよね?』
「うん、昴さんの友達が私にちょっかいをかけたら、急に怒りだして………」
話の趣旨が大分変わっているが、紫音のために昴がキレたのも事実だし、なにより「イギリスから来た同僚の女スパイに………」なんて説明を始めたらキリがない。エレーナは千晶の仕事を知ってはいるが昴の組織については知らないはずだし、そこで事実を話したら橘家の複雑な組織事情に頭を悩ませるだろう。昴が弟達を愛するように、彼女も妹である千晶を愛しているのだ。
貴女の妹は殺し屋やスパイの蔓延る家で生活してますよ、なんて言われて心配しない人はいない。
『でもわかるなぁ、お兄さんの気持ち。私も、ティーナが他の人に声かけられていたら嫉妬しちゃうし』
「……だからってあれは極端だよ」
『え?そう?』
「………」
そういえばエレーナも、千晶に関しては昴に近い人種となるのだった。考えているとエレーナが不思議そうに眉をひそめる。
『ねえシオン、今日の貴女の服、すごく可愛いけど……』
「え、ああ……これ?千晶ちゃんのを借りたの」
着ているネグリジェを軽く指差して言うと、エレーナの表情から笑顔が薄れたような気がした。80%笑顔。
『ティーナの?嘘、だってあの子がそういうタイプの服を好むはずが……』
「でも泊まる時はパジャマとか用意してもらっているし………」
『泊まり!』
今にも悲鳴になりそうな声。
40%笑顔。口許は震えはじめ、目が泳いでいる。
『で、でもシオン、それ……、…………ってこと?』
「?何て言ったの?」
『その………ティーナのところに泊まるのは………』
「いつも千晶ちゃんの部屋に泊まってるけど……どうかし………あ」
ようやく紫音は自身の失言に気付いた。
『いつも!!ティーナの部屋‼‼』
眼は光線を放ちそうな勢いで光り、犬歯は剥き出し。叫ぶ声は猛獣のような狂気を帯びていた。千晶loveな彼女には今、紫音は狩るべき存在としか映ってないだろう。
ロシアの狂犬って実はエレーナだったり?
「紫音ちゃん、冷たい飲み物、飲む?………レーナ?」
風呂上がり、まだ濡れた頭にタオルをかけ、両手にお茶のペットボトルを下げて部屋に入ってきた千晶の姿はいつものタンクトップにショートパンツのスタイルだった。
そういえば確かに千晶ちゃんのネグリジェ姿とかは見たことがない。いつ着てるんだろう?
夫の浮気の証拠を掴んだドラマの婦人よろしく、エレーナはギラギラ光る眼で千晶を見た。
『ティーナ‼どういうこと‼‼』
「シト?」
『私に黙って‼夜な夜なシオンと寝てたんでしょ‼私というものがありながら‼』
「エレナ、何の話?」
千晶ちゃんとはそんな関係じゃない。ていうかエレーナ、千晶ちゃんに対して抱く感情がおかしくない?
一方の千晶は落ち着いているものの、
「あ、でも……日本語上手になったね、レーナ」
違う、そうじゃない。
『とぼけないで‼私が一緒に寝ようとしたらいつも断ったくせに…』
「レーナのスキンシップが酷いからでしょ」
バッサリ。エレーナはがっくりと項垂れた。
意外と弱い。
『………私、ティーナの服を着せてもらったことないのにぃ………』
しまいにはグズりだした。
『シオンにネグリジェ貸して私には……』
「紫音ちゃんにネグリジェ?違うよ?」
千晶はキョトンとしつつも否定した。エレーナと紫音の目が丸くなる。
『シト?』「え?」
「それ、紫音ちゃんの私物。家で預かってるって聞いてる」
「え、え?ちょっと待って千晶ちゃん。それ初耳。私、この服は千晶ちゃんのだって昴さんから………」
「教えてくれたのも昴兄ぃだけど?」
黙り混んでしまう3者(うち1名パソコンの向こう)。
何が目的かは知らないが、昴の陰謀であることは間違いなさそうだ。
「キャシー。随分やつれたんじゃないか?」
画面の向こうの上司に向かって笑いかける。キャシーの顔色は悪く、頬はゲッソリとしていた。
『理由を言わなくちゃ駄目かしら………』
「大方予想はつく。ナタリーが今日の僕の仕返しを受けて、愚痴でも延々と聞かされたのだろう」
キャシーは黙って金髪の頭に手を添えた。
『……命がいくつあっても足りないって泣いてたわ』
「僕らの世界だ。当然だろう」
『……随分暴れたそうじゃない』
今度は責めるような睨み。しかしそれをさらりと流す。
「僕は家族のこととなるといくらでも暴れるんだ。酒癖みたいなものさ」
『嫌な癖ね………あの子から愚痴を聞かされる私の身にもなってちょうだい』
「親子なら仕方ない」
『だからって………』
「悪いけど切るよ、キャシー」
昴は椅子の背もたれに寄りかかったまま告げた。
「少し殺されてくる」
部屋の扉からは殺気が冷気となって漂ってきていた。
「……詳しい説明をしてもらおうか」
両手を挙げる昴に対して妹はナイフを、(事情を聞いた)弟は拳銃を突きつけていた。どちらも入念に整備されており、埃ひとつついていない。
「はて………」
「家にある紫音ちゃんのパジャマは全部私物だって、昴兄ぃ、私に教えてくれたよね」
獰猛な瞳がギラリと光り、昴を捉える。
だが飄々とした態度は崩されなかった。
「ああ………」
「でも紫音は私物を家に持ち込んでねーぞ?どういうことだ?」
「悪いね、あれは僕の間違いだ」
あっさりとした前言撤回。
「紫音ちゃんが家に泊まりにくる頻度が増えて、専用に準備してもいいかなと思ってね」
「ほう、なら兄貴が紫音の服を用意していたのは認めると……」
「イエス、神に誓って」
「…じゃあ次に。服のチョイスは誰の指示だ?」
………………………………………………………………………………………………。
「………………………お母さんに相談して」
「おい、なんだよ今の間‼間‼」「ニェット、嘘」
流石に痛いところを突かれたのか、
「とはいってもねえ………僕も女子の服を選ぶのは慣れてないし………」
と言う昴は怪しい汗をかきはじめていた。
無理もない。
これまで紫音が橘家で着ていたルームウェア。
ジェラートピケ×2・紫音の肩やら背中がよく見える。
ネグリジェ×1・透けているヶ所が多い。
パジャマ×1・ボタンが少ないデザインで、鎖骨がよく見える。
いくら仲が良いとはいえ、よその子を泊めるために用意するのなら3兄妹の母はもっとまともなのを選ぶはずだ。
「どう考えても兄貴の欲丸出しのチョイスじゃねーか‼」「趣味にしか見えない」
「趣味?人聞きの悪い……僕が幼馴染みである紫音ちゃんに趣味を押し付けるようなこと、するはず………」
「紫音の服のサイズはどうやって?」
「そんなの、目測と普段ラッキータッチが出来たときに計測してるだけで………」
ナイフと銃口が迫ってきた。
性格、しゃべり方の変化。それらを使った話術で切り抜けるのもありだ。
ここは兄としてではなく、MI6のエージェントとして交渉を開始し、どうにか切り抜けるべきである。というか、そうでもしないと死ぬ。切り替えはすぐにできた。
「待つんだ2人とも。僕が紫音ちゃんの服を買っていたのには訳がある。まずは僕の話を………」
「「死ね」」
問答無用、容赦のない死刑宣告。そういえば交渉が通じる相手じゃないもんね、この弟妹は。
「だって紫音ちゃんだよ?!小さいときは可愛い妹みたいな存在だけど?最近綺麗じゃん?!可愛いじゃん?!幼馴染みとしてだけ見るのも大変じゃん?!
優しいしさ‼いつもおしとやかなんだけど意外と思いきりがあったりとかもえない?燃えるよね‼僕は萌えてるよ‼
そんな可愛い子がいつも泊まりに来てくれるんだよ?いいじゃん、僕好みのパジャマコーディネートしたって‼将斗だってしたいよね?した………………………………」
紫音が聞いていれば耳を真っ赤にして悶絶していただろう変態紳士の言い逃れが響く。しかし防音機能のある部屋だ。その言い分や断末魔がリビングの紫音に届くことはなかった。
おまけコーナー
~翌日~
紫音「今日もご馳走になります」
将斗「いいって、いちいち。今日の朝食は千晶が担当したんだ」
紫音「ならパンとスープでしょうか」
将斗「正解」
千晶「………(嬉しそうなオーラ)」
紫音「ところで………昴さんは?見えないけど………」
将斗&千晶「………………………」
紫音「??」
紫音の携帯が鳴った。
五木『紫音ちゃん?昴さんが海に浮いてるのをイゴールが見つけたんだけど‼』
紫音「?‼?‼?‼」
~質問コーナー~
山縣「ひさしぶりのコーナーだな………」
五木「今回も作者の身内からしかきてない質問に答えちゃいます‼」
山縣「1通目が………P・N隣の柿はよく客喰う柿だ、さんから………」
五木「ホラーですかね?」
山縣「内容が………『それぞれの機体について教えてください』」
五木「じゃあざっくり説明させていただきますね‼
まず、将斗さんの使う紫電!3機の中で最もオールマイティーに闘えます‼また、最もスピード出力が高いのもあって、カラーリングは黒‼銃や対甲ブレードを使い分けた闘いが可能です‼
しかしオールマイティー故に戦闘スタイルはすべて将斗さんに委ねる形となってしまいます。性能は良いのですが3人の中で最も将斗さんは戦闘経験が少なく、秀でたものがあるわけでもないので見劣りしてしまうかもしれません。
次に昴さん専用機体、パーシヴァル‼
カラーリングは赤‼優れた演算装置を積んでおり、遠距離からの狙撃に最適‼装甲は厚く、対甲ブレードでも簡単には倒せません‼また、昴さんが先読みの達人であることも含め、近接でも相手より一歩先の闘い方で圧倒することができます‼
装甲の厚さのせいでスピードは最もありませんが、昴さんは戦術で補ってるようなものですね。
最後に千晶ちゃんの機体、白夜‼正式な名前はあるそうですがまだ不明です‼装甲は最も薄く、戦闘スタイルも中~近接戦闘しかできません。特に演算装置が優れているわけでもありませんので、扱いづらいともいえるでしょう。
しかし複数のワイヤーを自在に使った動き、ローラー部の多様性を駆使して変則的に動き、屋内や障害物の多い場所では紫電よりも早く動くことが可能です‼
また、千晶ちゃんのチョーカーからの信号で遠隔操作が可能だったり、何故か意思を持ったような動きも見せるので謎が多い機体ではありますよね………」
山縣「あの子はパンドラについても何かを知っているそぶりがあったが、それは関係しているのか?」
五木「私はわかりませんが、作者いわく『秘密こそ理解していないがその片鱗に触れたことはある』だそうですよ」
山縣「作者?‼」




