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ナタリアへの疑問


水族館近くの食堂で海鮮丼を食べたナタリアは上機嫌だった。昨日の天ぷらの時といい、和食にハマっているらしい。


「いいわね、シオンの教えてくれる場所にハズレはないわ」


「はあ………」


 とはいっても過去に橘家に案内してもらった場所だが。


「あの………」


「せっかくだから小樽を見て回りたいわね‼シオン、おすすめのスポットとかないかしら」


 最初から観光する気が満々だったのだろう。小樽の観光スポットを載せたパンフレットがナタリアのバックから見えかくれしている。


「あの、ナタリアさん……」


「ナタリーでいいわよ、シオン」


 昨日、その名前で呼ばれて怒っていなかったか??


「ナタリーさん……今日はなんで…」


「観光よ。半分は、ね」


 そう言ってウインクしてみせる姿はどこか昴と似ているような気がした。そもそもナタリーの愛称で呼ばれて怒るのは、呼んだ相手が昴の時限定らしい。

 昴さん、ナタリーさんに何をして嫌われたのですか?

 いや、気にするのはそこじゃない。


「半分は、って………」


「もちろんビジネスもあるわ。でもまだその時間じゃないの」


 まるで遊びにいくような言い方で緊張感がない。いや、緊張感を感じさせないから周囲の一般人に溶け込めているのか。


「私なんかより昴さんの方が案内は………」


「ダメよ」


 即答である。


「あんな奴に案内を頼むくらいなら死んだ方がましよ」


 忌々しげな話し方。本気で嫌らしい。

 本当になにをすればここまで嫌われるのだろう?

 気になってつい聞いてしまった。


「あの、昴さんってナタリーさんに、なにを………」


  しかし聞いたのが間違いだった。

  訊ねられた途端、よく聞いてくれたと言わんばかりに眼は爛々と輝き、話し方に力が入っていた。


「聞いてくれる?昴ったら私のスープや紅茶にハバネロを入れたり、友達に変装して私をからかったりしてたのよ?‼」


 ………それに怒るのはともかく、やり方が幼稚すぎな気が。

 紫音が黙っているとナタリアはまくしたてる。顔は赤くなり始め、呼吸は乱れてきている。話す内容はすべて昴がしてきた仕打ち。このままでは気に入らない箇所のすべてを語ろうとして酸欠になりかねない。


「私のデザートを盗み食い、あろうことか私の寝てる様子を写真に撮っては見せつけて‼大体、あのすました態度でそんなことをしてくるらこっちは………!」


 立ち上がりそうな勢いのナタリアを手で落ち着かせる。

 それにしても妙だ。あんなに殺意を持っていたナタリアなのに昴を殺そうとするほど憎む理由がわからない。今話してる内容も、殺意の決定的理由には程遠い気がした。


 とはいっても盗み食いや盗撮によるちょっかい………


 (昴さん………意外と、やることが子供だなぁ)





「うん。悪くない出来だ」


 倉庫の電気は弱く、倉庫全体は薄暗く見える。パーシヴァルの導線をセットした昴は愛機の処理・動作の速度を何通りか試して確認した後、練習用のライフルを拾い上げた。中にはペイント弾が装填されている。


「千晶。ちょっと手伝ってくれないか」


 黙ったまま首のチョーカーに手をあてる千晶。倉庫の奥に隠してある狂犬の相棒・白夜が、アイスリンクを走るような軽やかな動きで主人のもとへとやってきた。

 何をすればいい?と妹から瞳で問いかけられる。


「動作と照準の速度チェックを実戦的に行いたいんだ。相手役として、殺す気で僕に近づいてよ」



    殺す



 その言葉に反応したのか、肌を刺激するような圧力が生まれた。圧力の出所が妹からだと判断したのは最初から。彼女の実力はよく知っているつもりだ。


「………いいの?」


 白夜が千晶を背後から抱き締めるかのように胸のハッチを開け、包み込む。千晶のチョーカーに流れる電気信号を利用した遠隔操作と瞬時に装着出来る可変式外骨格が白夜の特性のひとつだ。


 一方の昴は………


「いいよ」


 狂犬が牙を剥いて襲いかかってきた。なめらかに地を滑るローラー。赤い瞳の残光が線となってこちらに迫ってくる。

 昴は銃を構えた。ペイント弾だ。相手の額に当たっても問題はない。照準はすぐに狂犬の額に定まった。引き金を引く指に力がこもる。

 だが弾は狂犬に当たらなかった。進行する軌道をスピーディーに変えたのだ。また照準を合わせる。今度は胸。

 ギャンッ‼とモーターが悲鳴をあげる音とともに狂犬の体は宙に舞っていた。また弾は外れたが、宙に浮いてる今ならチャンスはある。

 もう一度銃を向けた。空中なら身動きはとれないだろう。だが狂犬はワイヤーを昴へ投げつけた。パーシヴァルの腕に巻き付け、一気に距離を縮める。

 懐に飛び込まれた。ライフルでは狙いを定められない。


 千晶が訓練用のナイフを首に向けるのと、昴が拳銃を咄嗟に抜いて相手の額に突きつけたのは同時だった。


「………引き分けだな」


 天田がコーヒーを淹れながら下す。先に攻撃の姿勢を解いたのは千晶であった。

 白銀のフォルムが剥がれ落ちるように離れ、中の人の姿を現す。


「昴兄ぃはパンドラを使わなかった」


「千晶だって使わなかったろう?」


「でも、昴兄ぃのは計算が速い。ある程度予測できたんでしょ?」


 にやり、と昴は笑った。

 パーシヴァルには銃の照準補助能力がある。高性能の演算装置だ。

 並行処理を行えば相手の動きから次の行動を予測することも出きる。最後に拳銃を取り出せたのはそのためだった。

 演算装置をもつパーシヴァルを使いこなすにはこれらの情報を一度に、大量に見定め、処理する必要がある。それが出来るには昴みたいな判断処理の速度に優れる人種だ。


「予測しても対応が出来なかったら意味はないさ。それに千晶は速すぎるから、先手を打つことも出来ない。先回りして撃つなんて無理だ」


「………昴の方は将斗との闘いで知っていたが狂犬、お前もパンドラを使えるのか」


「………………」


 千晶は黙ってしまった。昴はATCを纏ったまま、妹に抱きつこうとした。


「どうしたんだい?機嫌悪そうだね、美人が台無しだ………ぶっ‼」


 白夜が主の危機を察知し、赤い鎧に右フックを入れたのだ。









「昴兄ぃの携帯?」


 一般的に使われるシンプルな着信音に耳をたてる。胸ポケットから取り出すと見慣れた番号が表記されていた。


「……だね」


「出なくていいの?」


 昴は腰をあげた。


「席を外すよ」


 それだけで機密事項の匂いを感じ取った千晶は黙ってうなずいた。

 倉庫から1名が退出すると、あと残るのは千晶と天田、そして3機のATCだ。そのうちの1機・白夜は千晶の隣に立ち、主によってメンテナンスを受けていた。


「………なぜ先の問いに、答えなかった」


 沈黙を破ったのは天田だ。


「答える必要ない。そう思っただけ」


「………そうか?………まるで、お前が何かに怯えているように見えたが………」


 プレッシャーすら感じさせる殺気が襲ってきたがかまわず話す。


「………あそこまで自在に操ることが出来て、パンドラを使えないはずがない………お前は今、3人の中で最もパンドラの真実に近いんじゃないか?」


「だとしたら?」


 次に放つ言葉によっては殺意を以て排除することも辞さないとばかりに狂犬が唸る。普段は感情の起伏をあまり見せないためか、こうして殺気を放つとかなり迫力がある。なるほど、ロシアの特殊部隊にいたと言われても納得である。

 だが天田には確認しなくてはならない理由があった。


「………言いたくないことがあるのなら無理には聞かないさ」


 すると扉が開いた。電話を終えた昴が携帯を手に入ってきたのだ。思ったよりも早い戻りに千晶は「おや?」と首をかしげた。


「仕事?」


「ああ。申し訳ないのですが天田さん、一時的に僕の組織での任務に紫音ちゃんをお借り出来ませんか?」


「………情報収集か?」


「いえ」


 不敵な笑みが浮かんだ。


「潜入です」







「昴さん。私は無事だったのですし………」


「そうよ、スバル。確かに任務をお願いするつもりでシオンと接触はしたけども、観光の道案内を、あっ………あづっ‼」


「確かに紫音ちゃんは無事だ。怪我ひとつない。じゃあなぜ僕が怒っているのかわかるかな?」


 車のシートベルトと手錠に固定され、身動きの取れないナタリアは必死に抵抗の意を示していた。そんな彼女に昴は熱々の紅茶の入ったティーポットを傾ける。


 なんとも卑猥な光景だ。ジェントルマンもくそもない。しかも熱い紅茶を飲めば火傷で悶えるし、かといって避ければ身体に落ちてどのみち熱い。R指定が入っても文句の言えない拷問であった。

 助手席でそれを見ている紫音としても辛い。女性ならこの拷問は見るだけでセクハラものだ。英国紳士昴はというと、人を騙すことに長けたスマイルでティーポットを掲げていた。


「どうして黙って紫音ちゃんを?」


 しかも気品すら感じさせる笑みだから、余計に怖い。

 ナタリアもこの状態の昴によほどの恐怖心があるのか、ヒイヒイ泣きながら必死に逃げようともがいていた。


「ナ・タ・リ・ア?」


「「ひいいっ‼」」


 笑顔でありながらも黒いオーラを放つ昴に気圧され、ナタリアだけでなく近くにいた紫音まで怯えてしまった。


「き、危害を加える気はなかったわ!ただ、仕事の話をするまえに案内してほしくて………本当よ!」


 ニッコリと笑いながらもどす黒い何かを醸し出して、昴はナタリアに詰め寄る。


「ナタリア。僕は前に言ったことがあるよね?」

「な、なにを?」


「弟妹と紫音ちゃんは僕にとってかけがえのない存在だ。家族に危険を及ぼす存在には容赦はしない」


「え、ええ………」


 ガクガクと震えながら首を必死に振っている。


「たとえ僕の同僚であっても例外じゃない。君は紫音ちゃんを人質に、僕が任務を断れないようにしたんじゃないかな?」


「それは………たしかにシオンがいれば確実にスバルは引き受け………っぶぁ!熱い熱い‼ママの時より拷問のやり方がえげつないわよ!」


「それだけ僕は怒っているんだよ。紫音ちゃんを任務に巻き込んで、もしこれで危険な目に遭ったらどうするんだい?僕の幼馴染みで妹でフィアンセの紫音ちゃんに何かあったらどう責任を?」


「フィアンセ?‼」「違います‼」


「………紅茶のおかわりはどうかな?」


「ノーセンキュー‼ノーセンキュー‼‼あ、あっ、あづぅううう‼」


 自分のために怒ってくれるのは嬉しいが、流石にナタリアが可哀想である。紫音に気付いて昴もポットを持つ手を引っ込める。


「そうだね。これ以上口を火傷させてしゃべれなくなったら支障をきたすからね」


「「………………」」


 昴の怖い一面を見て無言になった紫音。

 前にも似たような経験があったのかトラウマをくすぐられ、小刻みに震えるナタリア。

 ポットをまだ手離さない昴。


 三者の視線が交差した。





 MI6が入手した情報では明日、豪華客船エトワールが小樽港に停まる。その船にて商人ウィル・ハーバーがテロ国家から入手した商品の取り引きを行うらしい。ウィルを始末し、商品の確認をすることが今回の任務だった。

 昴とナタリアが恋人でありフィアンセ。紫音は昴の妹として船に乗り込む。


「僕とナタリアが乗り込むのは当然として………紫音ちゃんは納得出来ない」


「女を2人も連れた優男が殺し屋なんて、疑いづらいじゃない?」


「2人も必要はないはずだ。ナタリア。君は紫音ちゃんを使って思考を盗み見ようとしているんじゃないのか?」


 車を運転しながら問いかける昴の声は明らかに不機嫌そうであった。ようやく彼の機嫌を変えることが出来たのがよほど嬉しかったのか、ナタリアはニヤニヤと尋ね返す。


「あら、シオンの事となると随分焦るのね。貴方本当に………」


「言ったよね。フィアン………」


「違います」


 間髪入れずに否定すると昴は黙ってしまった。今回は不機嫌ではなく、飼い主に構ってもらえない仔犬みたいな、切なそうな眼をして。


「………………………」


「そこまで哀しそうな眼をしていると流石に可哀想に思えてくるわ」


 ナタリアに憐れみの眼をむけられたのがよほど嫌だったのか、昴は不貞腐れてしまった。英国紳士、大人げない。


「………ナタリアのくせに」


「なにその言い方‼いくらなんでも失礼じゃない?‼」


 つっかかろうとしたナタリアを見ることなく、運転しながら片手で後ろにナイフを投げつけた。服を引っ張るようにして後ろのシートに突き刺さる。ナタリアは無血にしてシートに磔にされた。

 大人げない上に実力が確かだから質が悪い。そして怖い。ナタリアは歯をならしながら震え、紫音は昴の隣で縮こまってしまった。


「ナタリア………少し黙っててくれないか?」


 普通に喋ってるだけなのにエコーがかって、まるで死神が語ってきているように思えてしまうのはなぜ?


「僕は弟妹と紫音ちゃんに何かがあったとき、弟妹と紫音ちゃんに嫌われたときは気が立って仕方ないんだよ‼」


「極端すぎない?‼」


 ハンドルさばきが怪しくなってきた。怖い怖い、事故が起きちゃう‼


「ちょっと‼全部あんたのアブノーマルな性癖の問題じゃない‼」


「うるさい‼」


 ナタリアは昴の性癖を指摘できる数少ない人種かもしれない。が、火に油を注いだのか車は乱暴な追い越しを始めて意味もなく山の方に向かおうとしていた。確か毛無峠だったか。このままではアタックを始めかねない勢いだ。

 しかしこの車はGTRでなければランエボでもインプレッサでもない。変な運転をしたら仲良くあの世行きになるだろう。

 ちなみに毛無峠はアタックの名所であると同時に急な勾配とカーブのきつさから、事故の名所とも呼べる。その魔境に直行しようとしていることは、この土地に詳しくないナタリアでもすぐに理解できた。


「スバル、落ちつい………」


「ナタリアなんかに僕の気持ちがわかってたまるかぁ!」


「事故る‼事故る‼今の貴方だと間違いなく事故る‼」


「大事な存在に嫌われたんだ!僕は存在意義を失ったんだ‼」


「存在意義?‼」


「僕を構成する全ては弟妹と紫音ちゃんなんだぞ‼」


「ただの他人よね?‼その構成が本当なら貴方は弟妹かシオンでしかないわよね?‼ああもう、手に負えないわ‼」


 昴の暴走にツッコミという指摘を入れている間にも、車は危なげに峠へと踏み込んだ。

 任務や訓練で死ぬかと思ったことは何度もあったのに、不思議。今ほど怖いと思ったことはない。ナタリアは走馬灯を見始めていた。それも、同僚の性癖のせいで。


 揺れる車の助手席で辛うじて意識を留めていた紫音が昴の誤解を解くまで、このデスゲームは続いていた。




 毛無峠の駐車エリアに車を停め、昴は自らを落ち着かせようと肩で呼吸し、ナタリアと紫音は車を降りて外の空気にあたり、散々揺らされたせいでガンガンと痛む頭を落ち着かせていた。


「……まさかスバルがここまで怒るなんて思わなかったわ……」


 ゼェー、ゼェーと息をするナタリアの隣で紫音は頭に手をあてている。


「すごく珍しいです…昴さんがあそこまで怒るのは………」


「怒るというより、狂う、ね………連絡で昴が貴女達を溺愛しているのは知っていたけど、ここまでおかしくなるなんて思いもしなかったわ」


 狂う。たしかにその言葉は昴によく合っている。


「……イギリスにいたときから?」


「まさか。弟達が生きてることを知ってからよ。それまではジョークも言ってはいたけど」


 紫音は、未だ車で荒い呼吸をしている昴の方を見た。家族のこととなると冷静さを失う。暴走、戦闘意欲等………しかし普段は冷静で温厚な人柄。

 考えてみればイギリスにいたときの昴を紫音は全然知らない。


「…ナタリーさん、昴さんって、どんな人だったんですか?」


 疑問を口に出してみる。ナタリアは不思議そうに紫音を見た。


「今の貴女が知ってる通りじゃない?」


「でも…イギリスにいたときの話、昴さんは全然しないんです」


 千晶はクレムリンの話こそしないが、育ての家族と頻繁にTV電話をしているので、交流関係などはわかりやすい。

 だが彼はそれすらない。イギリスでどんなことをしていたか、誰と親しかったか、どんな友人がいるのか。


 それが全く見えないのだ。


 あー、とナタリアは困ったように眼を逸らした。どこまで話せば良いのか迷っている様子だった。

 しかし目の前の少女が本当に同僚を気にかけていることも知っている。ナタリアは言葉を選びながら話してくれた。


「表向きは人当たりの良い奴よ。学校では何でもそつなくこなすし、話上手。クラスの人気者ってやつね。私達仲間には皮肉やジョークも言うけど、仕事の腕は一流だし頼れる人だったわ」


 それは弟妹や紫音が関わらないときの、普段の昴と一緒だろうか。


「常に丁寧な姿勢は崩さない………でも、学校や職場でも彼が本音を見せることはなかったわ」


 任務には潜入調査もある。そして自分の所属は教えてはならない。

いつ誰かを騙し、殺し、逆に騙され殺されるかもわからない世界だ。彼らにとって日常とは溶け込んでも慣れ親しんではならない存在であり、常に仮面を被りつづける必要がある。常に神経を尖らせて生きて行くことを強いられるのだ。


「完璧過ぎるってやつね。おかげで帰国したスバルの変貌っぷりを知って私は度肝を抜かれたわ………今だって」


 紫音のこととなってあそこまで変わる。あれが彼の本音みたいなものだろう。イギリスにいた時には見せなかった顔だ。


「正直ね、今回の任務で貴女の体質に頼りたいって思っていたのも事実よ」


 今は詳しく言えないけど、とだけつけ加え、ナタリアも昴を見た。


「だからもしもの時は貴女の力に頼りたい、って考えもあったんだけど…それは潜入の前線に立つっていうこと。スバルにはそれが受け入れがたいことだった。貴女、本当にスバルに大切に思われているのね」


 あんな一面を見せつけてまで、同僚に拷問まがいなことまでして。それだけ紫音達は彼に信頼され、愛されているとも言えるのだろう。

 昴を見つめるナタリアの表情は、誰かの幸せを純粋に願い、喜ぶ聖母のように慈愛に満ちていた。

 昨日会ったとき、2人に一種の信頼関係を見たことを思い出す。


 信じ合う関係。


 それなのに………………


「ナタリーさんは……どうして昴さんを殺そうと?」


 表情には曇りが見られた。


「昴さんのことを理解しているのに……どうして」


 あそこまで明確な殺意を向けることが出来るのですか?


 その疑問に対し、ナタリアはしばらく黙っていた。

 今、彼らがいる駐車エリアは小樽を見下ろすことの出来る一種の夜景スポットでもある。日は沈み、まばらに灯りが広がってきているが、誰一人としてその光景に眼を向けようとしない。


 ナタリアの顔から表情が抜ける。口が静かに動いた。

 静かに風が吹き、葉の音が伝わる。


 それでも紫音はしっかりと聞き取ることができた。



「信じてるし理解しているからこそ、よ」



おまけコーナー



~ナタリアと紫音はどこを観光したの?~

海鮮丼の後

ナタリア「チーズケーキが美味しいらしいわね‼」

紫音「………運河沿いにその店はありますよ(ぉえっ……)」


ナタリア「小樽では巨大なソフトクリームが食べられるそうね‼」

紫音「ああ、あの店ですね………(ぅぷっ……)」


ナタリア「紫音、小樽にはターキーが美味しい店が………」

紫音「ターキー………トルコ人のことですか?」

ナタリア「満腹過ぎてごまかそうとしてるわね………ダメよ、貴女は華奢過ぎるんだから、きちんと食べないと」

紫音「せめて………時間を………」

ナタリア「そんなんじゃ大きくなれないわよ?」

紫音「やっぱり皆、大きければ良いって思考なんですか?‼」

ナタリア「なに、なに?‼シオンがキレた?‼」


昴と合流するまで紫音は逆ギレを起こし、そして満腹により気絶した。


ナタリア「シオン?‼シオン?‼ちょっと、貴女がいないと私、小樽の道わからないのよ?‼ちょっと‼」






~昴と千晶の模擬戦の後~


千晶「その拳銃も訓練用?」

昴「そうだよ。普段はライフルばかりだから滅多に使わないけどね」

千晶「………実は本物なんてことは」

昴「まさか。滅多に取り出さないからってそんな、替え忘れたなんてミス………」

パァンッ‼

「………」「………」

天田「………それを妹に向けていたのか」

千晶「………正当防衛………」

昴「いや、千晶?今ナイフを取り出してもそれは過剰………」


昴の悲鳴がこだました。




~将斗の出番が少ない件~


将斗「………いつまで素振りすりゃいいんだよ」

愛花「将斗、ペースが落ちてるよ‼」

将斗「野球のバッティングじゃねえんだよ‼………はぁ、いくら今回、俺には任務がないからって………」

愛花「将斗宛にメールきてたよ‼」

将斗「え?なんて?」

愛花「『今回出番がなくてゴメンね♪気紛れを起こしたら次回も出番がないかも‼』だって‼」

将斗「作者あああああぁ‼」



~毛無峠のアタック後~


紫音「無事に帰れました………」

ナタリア「久しぶりにスバルのカーチェイスを体験したわ………」

紫音「以前も似たようなことが?」

ナタリア「ええ。任務でロンドンからベルリンまで」

紫音「………海峡越えてません?‼」


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