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コード・オーシャンズブルー

コード・オーシャンズブルーはこれにて完結です。




「吉高はこの辺を疑ったのか?」

「うん、私もそう思うし……」



 将斗と愛花は夜の山で懐中電灯を振り回しながらあちこちを探した。2人で見に行った展望台の近くだ。もうすぐ夜明け。そうなると少し探しやすいが、可能性があるなら速く見つけ出したい。



「なあ、文書ってのについてはなにか説明を受けたことは?」

「ううん。お母さん、使命とはよくいってたけど……」

「じゃあ……特に気に入ってた場所とかは?」

「ん……そこの桜の木の近くかな?おじいちゃんとおばあちゃんがよく一緒にいた場所らしいけど……」

「ここ?………あっ」



 将斗は木の根に不自然な傷跡がいくつもあることに気付いた。埋めたのだとしたらここかもしれない。

 2人は早速シャベルで堀り始めた。



「本当にここなの………?」

「わからないけど………、っ?‼」



 先端が金属に近いなにかとぶつかった気がした。おそるおそる掘り進めると、何重にもビニール袋に包まれたアタッシュケースが現れた。

 ゴクリと唾をのむ。



「………準備はいいか?」

「………うん」



 不安げに愛花は将斗のシャツの裾を掴んだ。

 2人で一緒に中身を見ると、またも袋に包まれた手帳が出てきた。



「これが文書?」

「………違う」

「愛花?」

「違うけどこれ………お母さんが愛用してた手帳」



 そう叫ぶと愛花はビニールを解いて手帳を取り出した。ページをめくる指が震えるが、読まないと言う選択肢はなかった。

 最初はおそるおそる。しかしやがて読む速さは増してゆき、後半にさしかかるころには愛花の目は涙で濡れていた。


 手帳には愛花がその日笑ったこと、気に入ったもの、些細なことが書いてあった。

 買ってあげたぬいぐるみで喜ぶ姿。テストが95点で悔しくて泣く様子などが細かく………


 母は愛花を恨んでなかった。娘への風当たりが自分に飛んでも、娘を守ろうとしていた。

 ただ、娘が好きだから。

 無償の情愛を注ぐ相手だから。

 母の愛花を思う気持ちは丁寧な字で長く書き綴られていた。


 そして最後の2ページ


―――――


 おじいちゃんから授かった使命はもうありません。この世のどこにも。

 文書は燃やしました。あれは人を狂わす、大変なものです。

 愛花なら絶対、文書が無くても自分で選んで歩けるよ。


 ありがとう。産まれてきてくれて。あなたが私の娘でよかった。

―――――


 最後の一行にはこうも記されてた。



 愛花の心がいつまでも、愛花の、お母さんの、私達の大好きなこの海のように綺麗でありますように。



 朝陽が積丹の海を照らす。


 美しく澄みきった青い海を前に、手帳を抱き締めながら愛花は泣き続けた。


 本当に綺麗だと思う。

 この海が、愛花とその母が残した愛情が。


 この手帳から伝わる想いが。


 泣きじゃくる愛花の肩に手を置き、澄みわたる青い世界を見渡していた。










「なるほど、じゃああの老人が、吉高が事故前にトンネル付近にいるのを紫音さんは干渉で読み取っていたのですね」



 積丹から小樽へ帰る道を走りながら山縣が納得していた。



「………ああ。………老人はもう喋れなかったが、紫音は記憶や思考が読める………当時は吉高の献身的な応援もあって、あの老人が吉高を疑っても誰も聞いてくれなかったらしいが………」

「本当に可哀想な一家ですね………孫にまで影響が………」

「………これからが幸せなら………あの子も、その母も報われるだろうよ」



 山縣はそんな天田の笑顔を流し目で見て、小さく頷いた。



「そういえば天田さんさっき、積丹の知り合いに会ってくるって言ってましたよね。会えたんですか?」



 タバコに火を付けて天田は頷いた。



「………会えたさ」





 愛花の祖父、長谷部博隆とは幼馴染みであった。親友であり、悪友。

 そんな彼の孫娘が不毛な扱いを受け、守ってやれない自分に嫌気を覚えていたが、もうこの気持ちに縛られることはないだろう。

 あの娘を真剣に守ってくれる存在がいる。あの時、慰霊碑で会った少女たちは愛花を友として助けてくれるだろう。

 足もろくに動かせず、声も出せない自分には毎月、悪友の墓前に花束を添えることしか出来ない。

 だがそれも長くは続かないだろう。自分もきっと、もうすぐ向こうにいく。体がそう告げているのだ。



「あら、誰かしら。墓前にこんなごみを………」



 車椅子を押している娘が意外そうに声をあげた。見ると墓前にはタバコが1本だけ置かれていた。

 教授になってからの長谷部はタバコを吸っていなかった。

 だが昔から彼を知っていた自分ならわかる。

 彼が右翼の思想を掲げていた頃、喫煙者だった。


 これはゴミなんかじゃない。


 彼の古い知り合いからの手向けだ。

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