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動く影

戦闘はおふざけしかありません。ごめんなさい。


「それじゃあ早めに話をしよっか」


 駅の中にあるコーヒーショップで佐江と千晶は向き合っていた。


「えっとね、千晶ちゃん。紫音ちゃんについてなんだけど」


 佐江の切り出してきた話題が千晶のそれと近いらしく、コーヒーを飲みながら「おや」と思った。


「単刀直入に聞くけど紫音ちゃんってさ……過去にいじめとか……受けてた?」


 もう一度「おや?」と思ったがすぐに思い直す。

 なるほど、彼女は愛花と紫音との共通点を探っているのか。


 つまり佐江は。


「ニェット。貴女が聞きたいの、違う」


 カップを置いて否定した。


「他の共通点としてですが……変わった体質を持っていて、それに悩んでいること………というのがあるんじゃないかと」


 完全にアタリだった。佐江は目を見開き、口をわななかせている。

 その反応だけで充分だ。千晶はコーヒー代を置いて立ち去った。


 ………。


「悪いね、紫音ちゃん。僕のわがままに付き合わせて」


「いいんです。こちらこそ、なんだか気を遣わせてしまって……」


 車のギアチェンジをしながら昴は答えた。

 2人の乗る車は積丹への海岸沿いを走っていた。


「……何があったかまでは訊かないんですね」


「無理に聞き出す気はないからね。それに………弟達を気にせず紫音ちゃんと2人きりでデートなんて、滅多に出来ないから」


 顔が熱くなる。自分より年上で、教養も良く、紳士的。

 やっぱり女子としては憧れる要素の持ち主である昴にそう言われると、ドキッとしてしまう。


「あの………昴さん………」


 なんて返せば良いのかわからなくなり、ドギマギする紫音。

 一方、昴は………


「紫音ちゃんとデート………つまり海かなぁ、ソフトクリームを一緒に食べるのもありだよね‼どうしよう、調査は20分で切り上げて岬にでも………!」


 テンション最高潮での、にやけ具合。ジェントルマンという姿はどこへかなぐり捨てたのだろうか。

 ドン引きして目を〈●〉〈●〉にする紫音に対し、慌てて言い訳をした。


「紫音ちゃんは将斗といつも一緒だからね。てっきり僕の事はそういう風には見てないと思っていたんだ」


「そういう風って………」


 昴はもう一度紫音を見る。彼は信号を確認しながら答えた。


「君が思ってる通りの意味だよ。僕にもチャンスがあるって知らなかったからね。嬉しいんだ」


「………」


「正直、将斗とケンカしたならそこにつけこんでチャンスを作ろうと考えてたけど」


「えげつない作戦ですね………」


「でもそれも必要ないみたいだ」


 昴は笑って前を見た。紫音も前を向く。

 目の前に広がる世界に気付き、紫音は表情を堅くした。


「昴さん………そろそろ」


「ああ………」


 昴も目を鋭くさせる。


 海岸沿いに見える、崖、崖、崖………

 彼らの目指す場所はすぐそばだった。


「もうすぐ事故現場だ」


 ………。


「………と、将斗」


 倉庫で仕事用の服に着替えていると、まだ制服姿の千晶が尋ねてきた。


「……ん?」


「元気ない。何かあった?」


 薄手の防弾チョッキの上に黒いジャケットを羽織る。


「………なんも」


「…そう」


 千晶も無理に追求はしてこなかった。が、その場で服を脱ぎ出したので思わず吹き出してしまう。


「な、なにしてんだ‼」


「え?着替え」


「んなの見りゃわかる‼更衣室があるんだ!そこで着替えろ‼」


 長い部隊生活では着替えの時間も恥じらいより効率が重視されていたのだろうが、ここは部隊ではない。千晶は素直に応じ、前のボタン全開という一部の人間(おもに昴)が喜びそうなスタイルのまま更衣室へと歩いていった。

 とはいっても即席の更衣室は防音設備もなっておらず隙間だらけなので、外にいる将斗と会話もできる。


「元気ない理由、紫音ちゃん?それとも、愛花ちゃん?」


「………つくづく、お前を敵に回したくないと思ったよ」


 将斗はナイフの点検をしながら尋ねた。


「あいつさ………俺たちみたいに親を喪ってるんだ。小さい時に事故があって、それで母さんを喪ったらしい」


 ナイフに映る将斗の目には力がなかった。


「それが原因で家族とうまくいってないらしい。俺はそんなあいつに慰めの言葉もかけてやれなかった」


 千晶は更衣室から出てきた。全体的に黒い服なのは将斗と一緒だった。


「俺は何を言えば良かったと思う」


「わからない」


 あまりにアッサリと千晶は答えた。


「でも、今は任務が大事。気になるなら後で聞けばいいと思う。将斗が私にしてくれたように」


 1年前、千晶を呼び戻した将斗のやり方は荒療治ではあったが、たしかに効き目はあった。さすがに愛花にあんなやり方をするわけにはいかないが、本音を聞き出すという意味でなら。


「お前はあのやり方で良かったと思うか?」


 暗に、愛花にあんな喧嘩ができるか?と皮肉を込めて笑って見せるがそこに悪意はない。そのことを知っている妹は笑い返しながら両手に小さな瓶を引っさげた。


「やり方だけなら、私達だったから良かったんだよ」


 スミノフの瓶を受け取り、蓋を開ける。仕事前の酒は判断力に影響を与えるかもしれないが、神経質にカリカリしすぎるのも良くない。


「お前らだから殴れたんだよ」


「ん、マシな顔になった」


 そう交わして兄妹は瓶に口をつけ、一気に飲み干した。


 ………。


「よくこんな崖にトンネルを掘りましたよね」


「そうだね………あまり地盤が安定している土地ではないと聞いてるけど……」


 古いトンネルはすでに封鎖され、立ち入り禁止になっている。その近くに、その慰霊碑はあった。遺族や地域の者からの花束はこの時期、絶えることはなく、今も新しい花束が添えられていた。


「この辺は小さな記念公園にもなってるんだね」


「そうですね………ですが資料館のようなものは見当たりませんね」


「たしかに。だが問題はないよ」


 相変わらずの余裕な態度の昴。情報収集のあてならいくらでもあるのだろう。


(でも……)


 紫音は慰霊碑を見た。来る途中車の中ですこしばかり調べていたのだが、事故前からトンネルの安全性が問題視され、新しいトンネルの開発が予定されていたらしい。新装のプロジェクトが進められる中で事故はおきたのだ。

 遺族でもない紫音からすれば、遺族の痛みを理解することは出来ない。しかし親しい人を失った辛さに重ねて考えると、他人事のようには思えなかった。

 崖の形には歪さが見られた。まだ崩落の面影が残っているのだ。


「あら………この辺では見かけない顔ですね」


 不意に声をかけられ、2人は振り向く。花束を抱えた老人の乗った車イスを押す中年の女性がニコニコとした笑顔でこちらを見ていた。声をかけてきたのはこちらの女性らしい。車イスの老人は唸るように呻き声をあげていた。

 病気か何かで喋れないらしい。

 でも大丈夫。挨拶をしているだけだからと付け加え、女性は2人の前を通って慰霊碑に向き合った。老人から花束を受取り、慰霊碑に添える。女性の穏やかな笑みとは反対に老人の表情は険しいものであった。


「こちらの友人に会いに来たついでに……そちらは?」


 昴が話しかける。


「おじいちゃんはね、事故で亡くなった方のご家族と親しかったの。だからお花を添えてるわけ」


「そうだったんですね……」


「ああ、気にしなくて大丈夫よ。それよりお友だちって?」


 そこで昴は迷いなく行村佐江の名をあげた。情報が見つからない場合は愛花か彼女を探して聞くつもりだった。佐江をあげたのは千晶が彼女と連絡先を交換した直後で、印象に残っているのもある。


「行村………」


 町が小さいから、少し変わった苗字はすぐに覚えられやすいのか。女性は佐江を知っている様子である。聞いてみると佐江の家族は地元では人気者らしい。すかさず昴がさりげない質問を投げ、佐江の家の場所を聞き出す。

 ここから先は昴の話術に頼ることになる。紫音は老人に視線を向けた。苦々しそうに老人は慰霊碑を見つめていたが、潮風で冷えるのか寒そうに震えていたので傍にしゃがみこみ、小さな声で尋ねた。


「大丈夫ですか?」


 何が気に入らなかったのか、老人は紫音をチラリと見ると不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。

 下手に関わるのはよそう。そう思った時だった。


「愛花ちゃんなんかを庇わなかったら文句なしなのに………」


 女性の言葉に昴は反応を見せなかったが、紫音は目を見開き、驚いた。なぜその名が?


「愛花ちゃん?」


「知りませんの?佐江ちゃんのお友達なんですけどその子、一時は化け物って呼ばれて………」


「………」


「佐江ちゃんの家はその子を庇うように面倒を見ていたことがあるんですよ。それで………」


 女性は昴と紫音が耳を疑うような話を始めた。

 人間とは思えないような記憶力。一部を除き家族からも町の人間からも不気味がられ、迫害さえ受けてきた過去………


「っ‼」


 愛花の昔話を聞いて体が嫌な反応を見せる。


 迫害


 それは過去の紫音と通ずるものだった。

 家族からも見放され、周囲が拒む。

 あの苦い日々を、幼馴染みと一緒に明るく笑っていたあの少女は受けてきたのだろうか?


 疑問を抱いたとき、老人が険しい表情のまま車イスの向きを変えた。老人の脚が、動揺している紫音の腕に触れ………


 記憶が流れ込んでくる。


 気持ちの切り換えが出来ていれば防げただろうが、愛花の過去に自分を重ねていた紫音にはそんな余裕などなかった。


 ………。


「………ウオッカはもう飲まねー」


「コンビニで1本300円くらいで売ってるスミノフはジュースだよ。簡単に酔うのおかしい」


「悪いな、単純に相性の問題だ。……ちくしょー、ウオッカがダメだなんて……人生の大発見だ」


 その大発見には酷い脱力感を伴った。車の中で将斗は瞼に手を添え、シートにもたれるように座っていた。隣で千晶が首をかしげ、理解不能の意を表す。


「でも将斗、お酒強いよね」


「人によっては日本酒とか果実酒だけが苦手、ってのもいるんだよ……」


 酒の国ロシアには下戸がいないのか、妹が酒の相性という概念を持ち合わせていないのか。


 多分両方。


「将斗がいつもどおりなら伝えたいことがあったんだけど、こんな様子じゃ無理だね。任務すら遂行、怪しいし」


「おいおい、なんだよ急に……言っとくがウオッカはお前が……」


「自滅したの、将斗だよ。イッキしなければ良かったのに」


「ぅぐ………」


 なにも言い返せない。


「忘れ物ない?装備は?カムフラージュも大丈夫?」


「保護者かよ……」


「違う。ここで将斗が動けないなら、私ひとりで遂行する方が確実」


 真剣な目を受けて、茶化せなくなる。


「……平気」


「ならいいの」


 千晶は携帯をサイレントモードに切り替えた。


「………着くぞ」


 前の座席に座っていた天田が声をかけた。2人の放つ空気が一気に変わる。

 任務内容・武器の密輸、売買の連中の始末

 今、彼らの乗る車が先頭に、続いて五木の大型車(ATCが積んである)、山縣の軽トラ(こちらはバイク)が一列になっていた。

 海岸沿いに続く石狩の道路。それぞれが付近の敷地の駐車場や小道に隠れ、夜を待つ。


 もうしばらくすればターゲットは来るはずだ。



 2時間ほど張り込みをつづけた結果、奴等は来た。港近くの広い駐車場にはいくつも無人の車が置かれており、隠れて様子を見るには絶好の場所である。


 大型トラック一台に軽自動車一台。少し時間を置いて、軽自動車が一台入ってきた。

 遅れて入ってきた軽自動車には4名、若い男が乗っていた。トラックから中年の男が降りる。若い男の1人が分厚い封筒を差し出すと、中身を確認して中年の男は頷いた。そしてトラックと一緒に来た軽自動車に乗る。こちらは運び屋か。

 若い男四人は2人ずつに別れ、無人になったトラック、そして乗ってきた軽自動車にそれぞれ向かった。


 15メートル離れた車両の影に隠れた2人は、軽いジェスチャーをして行動予定を伝えあった。

 問題はない。このまま………………


 ヴヴヴヴヴヴ‼ヴヴヴヴヴヴ‼


「………………」


 鳴り渡るバイブ。千晶の残念そうな瞳。口パクで「サイレントマナー」と投げ掛けられた。


 酔ったのもあって設定を忘れてました。サイレント設定。


「……すまん」


 残念な兄妹の方に、男達は拳銃を向ける。


「誰だ‼」


 まだ姿を見せない。

 兄妹の小声トーク。


「どうする?」


「銃を向けられたんだ。手加減はいらないだろ」


「ダー」

 

 千晶が隠れていた車両から腕だけを出し、拳銃で威嚇射撃をした。

 もちろん、これは文字通りの威嚇が狙いではない。拳銃を持った彼らの神経を逆撫でさせて、弾の無駄遣いを誘導させるのだ。

 案の定、彼らは将斗たちが隠れる車両に正面から弾の雨を注がせる。弾切れになれば必ずリロードのタイムロスが生まれる。そこを落ち着いて狙えば………


「なあ、千晶。多分そろそろだよな。弾切れ」


「でも将斗、どうしよう」


「ん?」


 銃の扱いからして相手は素人だ。だからさっきの誘導にもまんまと引っ掛かる。あとはビギナーズラックならぬ、相手にとって運の良い弾丸さえこなければ。

 相手に運がなければの話だ。


「この車……漏れてるみたい」


 ガソリンスタンドでおなじみの匂いだった。

 わずかに車の側面を見ると案の定、ビギナーズラックによって燃料が………


「やばいやばいやばいやばいやばい‼」


「ニェーット…」


 弾丸が降り注ぐ空間に躍り出る。瞬間、隠れていた無人の車両は真っ赤な火柱とともに夜空に舞い上がった。


「ちくしょー、ついてねぇ‼」


「ダー……」


 初心者の運ってこわいね‼


 手頃な車の影に身を隠し、応戦に入る。しかし既に相手はリロードを終えていた。ついでに今爆発した車両の炎が視界の邪魔になってよく見えない。

 正確に狙うには炎の向こうにいかなくてはならなかった。


「将斗!」


 離れた所から妹が呼ぶ。


「こっちに‼」


「………っ」


「将斗?」


 兄の顔がおかしい。今にもなにかを吐き出すような。


「………将斗?」


「っお゛え゛え゛え゛え゛」


「えぇー………」


 吐いた。任務の最中に吐きやがった。どんだけウオッカとの相性悪いのやら。


「まったくもう……」


 兄はもう戦闘出来る様子でないと判断した千晶は迷うことなく炎に突進した。

 将斗を狙いながらも後退していた4人は、それぞれ車に乗り込み始めていた。始めに大型トラックに乗った2人を狙って銃を撃つ。運転席の男の顔面を吹き飛ばした。しかし助手席の男の撃った弾丸が太股を掠める。足の力が一時的に抜け、姿勢が崩れた。

 が、別方向から放たれた銃弾がその男の胸を貫いた。将斗が口を押さえながら拳銃を構えていた。


「………吐いたらマシになった」


 ぅぷっと下品な息をしてその一言。


 そうしている間にも残りの軽自動車は走行を始めていた。


「………追うぞ。五木さん、紫電を………」


 通信機に呼び掛けたら、五木からなにやら不穏な音が………

 どうやらもらいゲロらしい。紫電の運送どころでは無さそうだ。

 すると山縣から連絡がきた。


『俺の方が近いですよ。酔い止めも持ってきますね』


 ………


「撒いたか?‼」


 運転手の男が尋ねる。もう1人が後ろを見て顔をひきつらせた。


「まだだ!」

 


 バイクの前に将斗が座って運転し、後ろには千晶がしがみついていた。2人乗り、ノーヘル、etc ………いろいろ規律違反だが仕方ない。今、彼らに追い付くにはこれしかなかった。ゲーゲー吐いてる五木の元に行ってATCを引き取っていては間に合わなかったのだし。


「将斗、まだいける?」


「………おう、運転だけに専念するならな」


 さっきまで平気と言って吐いた兄のことなど信用しない。千晶は早急に終わらせるべく、ナイフを3本取り出した。

 しかし相手もすぐに対抗する。助手席から身を乗り出して銃を撃ってきたのだ。将斗がすかさずかわすが、ナイフをあてようとする千晶にとっては照準が定まらない。

 気付いた将斗は妹に吠えた。


「次の直線で決めるぞ‼」


 両車両はカーブに差し掛かる。変化が多い道上に助手席からの射撃をかわすので、どうにかかわすことで精一杯だ。

 すると、ハンドルを握っていた将斗の右手が急に胸のホルスターにあてられた。


「将斗………もしかして」


「15秒は持ちこたえてやる」


「何から持ちこたえるの?」


 A・吐き気です。


「いくぞ」


 1 .2 .3………助手席からまた発泡してきた。それを大きくカーブを切ることで避ける。

 背の高い木々を抜け、直線の道が見えた。

 4.5.6.7.8.………

 助手席から銃を持った腕が見えた。将斗は両手をハンドルから外し、銃を構えて3発放った。弾丸が手を撃ち抜く。

 9.10.11.12………

 千晶がすかさずナイフを投げた。2発。後部のタイヤを直撃。車が大きく揺れた。

 バイクが斜めに走る。わずかだが運転席が見え、最後の1発を投げつける。ウインドウに亀裂が入った。


「将斗!」


「ああ!」


 将斗が再び銃を構え、千晶も拳銃を取り出す。

 2人乗り。手放し運転。2人とも銃を構える。

 13.14.15。

 あ●ない刑事の主人公もやったことのない荒業だ。


 同時に運転席に銃弾を撃ち込んだ。亀裂の入ったウインドウはすぐに砕けちり、鮮血が車内を埋め尽くす。車はそのままガードレールに衝突し停止した。


 少し離れてバイクが停車する。将斗は近くの排水溝に駆け寄ると、


「お゛え゛え゛え゛え」


 本日2度目。酔い止めが効き始めた時に無茶をしたので、耐えきれなくなったのだ。

 そんな兄を呆れて見ていた千晶だがすぐさま車へ歩いた。

 さっきの銃弾で即死だった。運良く弾が助手席にも届いたのだ。

 車には武器らしいものも、文書みたいなものも積まれてはいない。

 死体の胸をまさぐると、中から財布が出てきた。

 財布には金銭の他に免許証、名刺、学生証が入っていた。


 不思議に思い、もう片方の死体も調べる。こちらも学生証を持っていた。


(これって………)


 昴が先日、吉高の公演に潜入した大学の名前だ。これは偶然か? 

 そしてもうひとつ、名刺だった。

 2人は同じ人物からの名刺を受け取っていた。名前はもちろん瀬良である。

 瀬良の名刺には手書きで電話番号が追記されていた。

 すると、通信機から連絡が入った。


『………運び屋はイゴールが始末したぞ』


 そう、彼にも来てもらっていたのである。


「ダー。イゴールに、名刺とか電話番号のメモがあれば回収するよう、伝えて」


『………わかった。………あと、運び屋のトラックだがな』


 将斗と千晶は耳を疑った。


『………中には何もなかった』


 …………


「愛花ちゃんの家……複雑な事情があったんですね……」


 佐江は今、帰りのバスらしいので仕方なく弟しか帰宅していない速見家に行った。父親は仕事からは帰っておらず、今日は近所の居酒屋に篭る可能性があるらしいこと、母はあの事故で他界していることを弟は教えてくれた。

 だが肝心の愛花について、弟はどこか隠している様子があるし、今日は知り合いに会ってくるらしいと聞いていたので、帰りは遅くなるとか。

 待っていたら不審がられるので、仕方なく今回は帰ることにした。


 丁度余市に差し掛かるとき、小雨が降っていた。小樽の方から雨雲が見える。いつの間に降っていたのか。


「複雑だからこそ、明るく振る舞っていたんじゃないかな……」


 積丹の町で少しだけ聞き込みをしたが、ほとんどが愛花のことを気味悪がり、嫌悪さえ見せていた。そして共通して話題にのぼる、彼女の母が事故で他界した事実にも驚く。

 まさか調べていた事故に、愛花も関与するなんて。


「将斗は……この事は知っているのでしょうか」


「知ってても、将斗はこの事故にはまだ興味を持っていない。だから愛花ちゃんの背後に動く影の存在には気付いてないだろう。さらに、瀬良という男についてもわかっていない様子だからね」


「瀬良……吉高さんの秘書の?」


「そう。僕と千晶は、その男が黒幕だと睨んでいる。そしてその目的を知るために、積丹を訪れた」


 それがトンネル崩落事故。


 駅の資料コーナーなどで見つけてわかったことがある。

 救出活動の際、爆薬を使えば一気にトンネルが崩壊しかねないのもあり、瓦礫を取り除くのは殆どが手作業だったという。

 そうした懸命な救助作業が行われるなか、昔から町で認識されていた吉高が作業員たちのために炊き出しを行っていた。一見すれば献身的なその態度から、彼はこの町の人気者に一歩近付いたのだ。


「でも、トンネルの事故に何の関係が?」


「トンネル崩落事故は、最新のハイテクノロジーシステムが関わった事故としてMI6も調査をしていた」


「え?」


「香龍会は最近になってそれを狙っているのかもしれない」


「昴さん………そろそろ混乱が………」


 昴はワイパーで窓の水滴を弾いた。


「順を追って話すよ。だが僕の推測が殆どだ。


 まずトンネル崩落事故。被害者かはわからないがこの時誰かがハイテクノロジーシステムについて情報を持っていた。

 

 炊き出しに来ていた吉高はマスコミで取り上げられた。吉高はもしかすると犠牲者の誰かが、システムの情報を持ってると思ってやって来たんじゃないかな。それを手に入れたかどうか、その時は不明だが。

 最近になって香龍会がそれを嗅ぎ付けた。瀬良を吉高のもとに送り込み、調べる。

 彼がもしも情報を持っているなら提示するよう脅迫するためにね」


 それがあの脅迫状。

 紫音は指を口にあてて考えた。


「でも……詳しくわからないハイテクノロジーのために……そこまで」


 昴は細部について話すことはしなかった。将斗と紫音はまだ知らされていないはずだ。

 だからオブラートに包むことにした。


「僕もハイテクノロジーについてはわからないよ。ただ、もしそれが軍事兵器になりうるものだとしたら、世界同時多発テロを起こしたテロ国家が知りたがるのも無理はない」


 まさか嫌悪しているあの事件を自ら口にするなんて思いもしなかったのか、紫音は心配そうに昴を見た。彼女のそんなリアクションは想定住みだったので、安心しなよとウィンクしてみせる。


「もしそうだとしても、簡単に香龍会に持ちかえらせたりしないさ」


 少しだけ安堵の表情を浮かべる幼馴染みを見て笑った後、昴は話を変えた。


「ところで紫音ちゃんは、あのお爺さんから何を見たんだい?」


 自分が隠しているように、幼馴染みもあの老人に干渉して見てしまったものがある。昴はそれに気付いていた。


「…あのお爺さん、愛花ちゃんのお爺さんと仲良かったみたいで」


「本当に?」


「ええ。なのでその孫を蔑ろにする態度が気に入らなかったらしくて」


 町人が口を揃えて嫌悪する愛花のことを気にかける人がいたことに、昴は感心した。


「愛花ちゃんが、異常なまでの記憶力を見せたってだけで嫌うのはどうかと思いますが……」


「紫音ちゃん。彼女の母親は名門大学を出ている」

 名門大学を出た天才の娘が勉強の出来る子なら、周りは納得する。勉強の出来ない子なら何故って思う」


 そう語る昴の表情は真剣だった。


「でも、そんな先入観をぶち壊すほどの能力があったから。

 町の人は恐怖を覚えたんじゃないかな」


 将斗達が任務を始める3時間ほど前のことだった。


おまけコーナー


山縣「……もらいゲロしやがって」

五木「………すいませぇん」

山縣「俺が代理で対応するぞ?」

五木「お願いしまぁ………ぅっぷ‼」

山縣「おい、お便りが‼お便りがあああっ‼」




アクシデントにつき、急遽助っ人要請


イゴール「なぜ俺も?」

山縣「すいませんね、相方がアレでして」

相方「ぉ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛………」

イゴール「………そうか(目をそらしながら)」

山縣「ではすいませんがイゴールさん、この作品に対して感じた疑問とかはありませんか?」

イゴール「そうだな………じゃあスバル達の言うパンドラって………」

山縣「ネタバレにつき却下」

イゴール「………天田って何もn」

山縣「却下です」

イゴール「………ネタバレしかねーな………」

山縣「他には?」

イゴール「………んー………そうだな。スバルの上司がまだ姿を見せてないから不審というか……」

山縣「ああ、キャシーさんですね」

イゴール「(お、ついに………)」

山縣「彼女はMI6のリーダーにて昴さんの師であり、育ての親でもあります。容姿については次の章で新キャラと一緒に登場予定ですよ」

イゴール「なるほどな。ちなみにそいつはどんな特技を………」

山縣「ネタバレにつき」

イゴール「またかよ…」



山縣「さあ、次の質問をどうぞ」

イゴール「……テロ国家が香龍会しか出てないのはなぜだ?」

山縣「メタな質問ですね~笑」

イゴール「メタ?‼」

山縣「一応、南米や南アフリカにも多数は存在しますが………作者がネーミングに困ってまして笑」

イゴール「メタいな‼」

山縣「そんなわけで読者の皆様、もしよろしければどの国・どんな名前がいいか、ぜひご意見を‼こちらまで‼」

イゴール「おい‼」





おまけコーナー終わり



実は悩んでます。どんな名前が良いか。

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