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アマンレインの洞窟 終了のお知らせ  作者: 九十五銭
スライム冒険者バラダイン編
9/25

オリジナルダンジョン

変身能力を得たスライムの冒険者バラダインに与えられた時間は6時間だった。

調査初回の目標はその姿でアマンレインの城下町に近づき、可能なら住人とすれ違うなどして正体を怪しまれないか確認をとること。そして目立たずに帰ってくること。


ところがいまバラダインは子供たちに囲まれていた。

野原で棒切れをもってチャンバラをしていた5、6歳の子供数人が丘の上から降りてくるバラダインの第一発見者になった。それで遊ぶのを止めたりはしなかったが、バラダインもわざと避けて通るというのも変だと思ってその横を通り過ぎて歩道まで来ると、そのタイミングで急に集まってきて囲まれていた。


「お兄さーん」

男の子は手に持っていた棒を後ろに隠しながら、身体を横に傾けて声を掛けてくる。

バラダインは返事として何かを言うべきか迷っていたが、声よりも、洞窟で練習したとおりの、何か尋ねられたときの表情を作って声を掛けた子供のほうを向いた。


「洞窟へいったんでしょ。お宝みつけたー?」

「見に行っただけだよ。入れないようになってたけれど、キミは何か知ってるかい」

初めての会話はまともに出来たようだ。変なことを言ってはと心配をしたが子供は無邪気で笑顔のままだ。


「やっぱりそうなんだ。入れないからもう危なくないからここで遊んでもいいって。だからね遊んでたんだけど、ねーねーそれよりお宝とか持ってないの?」

「ごめんね、何も無いよ。それじゃあね」

もう少し詳しく確かめたかったが、この囲まれているという状況は冒険者の姿をしていても緊張度は大きくて、思わず話を切り上げてしまった。


1歩、子供たちの囲みに身体が近づくと、子供たちも珍しいものが見たかっただけのようで、どいてくれた。

バラダインは見た目はともかく心はスライムだ。常に逃げだせなくなるという包囲されるという状況が苦手だった。

見せて貰える物が無いことに興味を失ったのか解散して野原に戻っていく。


解放されたバラダインは遠くに見える城壁を目標に再び歩き出しながら考える。

危なくないとは封印のことだろう。子供でも洞窟の存在を知っていて、この周辺は洞窟が封印されてしまえば子供たちが遊びまわっても危険は無いわけか。


さらに歩道を行くとさきほどまでは畑や果樹園だったが民家が数件見えてきた。

丘の上からみたとき目に入った集落はここだろう。

ここはさきほどの子供たちの親たちがいる住居だろうか、藁葺きの屋根で土と木造で囲われた壁で出来た農家が数件集まっていて、その集落の中央に井戸が見えた。


洞窟では井戸水というキーワードから井戸がどのようなものなのか、かなりの時間をかけて正体を突き止めていた。実物を詳しく見たいバラダインが興味を引かれて足を止めていると、野菜を持って井戸にやって来る中年の女性が目に入る。


「誰かしら?あら冒険者さんね、こんにちわ」

ほどなく彼女はバラダインに気づいて声をかけてきた。緊張感は見受けられず、手もとめず井戸に水桶を落していく。


「こんにちわ。あの、さきほど子供たちをあちらで見たのですが、危なくはないのですか」

バラダインは積極的に情報を集めることにした。もう既に知っていることをあえて聞くことにする。

「もう大丈夫よ。3ヶ月くらい前にね結構危ないことがあったんだけど知ってる?」

「いえ、この町の者ではないもので。封印されているのは見てきましたが、何があったんですか」

汲み上げた井戸水を持ってきたバケツに入れて野菜を入れながら、彼女は実際あったこととそれほど違わない遭遇と封印に至る話を教えてくれた。


「それで登録所のギルド長が領主様に許可を貰って封印することにしたそうよ」

この農婦はずいぶん詳しく事情を知っている。

そして封印の原因は洞窟入り口での事件が誇張されたわけではないと理解したバラダインは、知らなければ農婦からの情報収集もここで諦めるつもりでもう1歩踏み込んでみることにした。

「しかしそれではその冒険者登録所が困るのではないのですか。あの洞窟に入れないとなると初心者がレベル2になる方法がなくなってしまうのでは?」

バラダインがそう言うと農婦はカッと目を見開き両手を腰にあてて、

「そうなのよ!せめて長女が登録出来るまでやっていて欲しかったのに、やめてしまったのよーっ」

「えっ!」

十分成長したアマンレインの町が、冒険者の登録稼業を切り捨てる。それは心配されていた答えの1つではあったが、まさかと思って驚きの声をもらすバラダイン。


「まさか登録所も無くなってしまったんですか!?」

「そうなのよ。まったくうちじゃあ学校に入れるほどお金なんてありゃしないのに」

「が、っこう」とセキをするような声がもれる横で同時にため息をもらす農婦は、驚愕のバラダインに同情の目を向けた。

「あら、もしかしてあなたも登録所目当てに来たの?格好は冒険者なのに、もしかしてレベルは1のまま?」

「ああ・・・はい、そうなんです。これは格好だけで。」

このバラダインは冒険者登録を済まして洞窟を訪れた際の姿の写し身だから。

そしてスライムとしても人間としてもレベル1だった。


しかしそれはともかくとして、相手に話を合わせていると、どうやらこちらの持ってる情報をさほど出さなくとも、様々なことを知ることが出来るようだ。長女を冒険者にしたかった農婦が相手だからかもしれないが。

だがそんなことよりも学校とは聞いたことの無い単語。何かの施設か。

「あのそれで、学校と言いましたが、それは」

そのバラダインの問いに。

「失礼ですけれどあなたは」

農婦がそう言って間を作った。さすがに、あっと気づくことが出来た。

こういうとき相手はこちらの名前を聞きたがっているはずだ。

彼女の名前は知らないが、ここは先に言ってもいいだろう。

「あ、申し遅れました私はバラダインと申します」


「バラダインさんね。いいえ、そうじゃないの。うちもですけどね、登録所が無くなって学校に入れるしか冒険者になれなくなってしまったのよ。しかも登録所より掛かるお金が10倍になったていうから、もしかしてあなたもその用意が無いだろうと思ったの。ごめんなさいね」

読み違っていた。

どうやら先ほどからの同情の視線や間は、地方からやってきたのに急に学校に入るお金が必要になたら農婦同様その工面など出来るわけないわよね、という事かららしい。


「ああ・・・それは知りませんでした。残念です私も。でも学校というところで登録すると、洞窟は必要ないんでしょうかね」

「あらやだ学校は登録じゃないわバラダインさんっ、入学するのよお」

これはスキンシップだ。どうやら男女間なら年齢差は関係ようだが。肩をバンっと叩かれるその威力はスライムだったらと思うとゾっとした。


「入学して勉強をしながら学校が作ったダンジョンでレベル5になったら卒業になるそうよ。だから学費が掛かってしかたないんですって。レベル2になったらすぐに稼げる仕事をして欲しかったのに困るのよねぇ」

バラダインは目を丸くして固まっていた。農婦からそれは「そんなのお金がいくらあっても足りないよ、うるうる」という風体ジェスチャーに見えたのかもしれないが、思いのほか簡単に、そして深刻極まりないキーワードオリジナルの「ダンジョン」の存在と共に封印の理由を僅か1時間で知り得てしまったことへの固体化だった。


「あらいけない。ごめんなさいね、夕食これの準備の途中なのよ。あなたももっとちゃんと知りたければ冒険者登録所のあったところに行ってみるといいわ。今は入学案内所になってるから!」

そう言って農婦は野菜入りのバケツを抱え、手を振りあげ、

「ついでにチャンスがあったらギルド長の頭の毛を何本か抜いておいてちょうだい!」

その手が空中で何かを千切りとって、再び手を横に振る。

後者は別れの挨拶だろう。


前者がどんな意味わざかはついに解らなかったが

空気を読んで笑顔で「わかりました」と言っておいた。


スライム冒険者バラダインは元冒険者登録所に向かうことにした。

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