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スライムの娯楽室

「どうする?」

「どうすればいいと思う?」


思考の始まりから伝播してしまうスライムの特性のせいか、弱い生き物のせいか、

彼らは混乱するばかりだった。


アマンレインの洞窟がいま、封印されようとしている。


どうしてこうなったと事情を知らないスライムが混乱の空気をかもし出すと、

冒険者ではない人間の子供たちの遭遇が原因らしいと伝わってくる。


「でもおかしいじゃないか、封印してしまったら冒険者たちはどうやってこれからレベルを2に上げるんだ」

「冒険者登録所を城下町はやめてしまったのではないか」

「まさか。最近の冒険者の話題にそんなのはなかったぞ」

「本当にそうか?確かめてみよう」


飛び交う思考の伝播。それらを聞くものの一部が、近くにある水の溜まった小さな泉を覗き込む。それから体の一部を少しだけ泉に触れさせると波紋が広がって、映像が映し出された。


その映像は、やがてはっきりとした人の形を作る。

ただしそれは1色だけ色をつけた影絵の形。そこには3人がいた。

やがて彼らの会話が聞こえはじめた。


「弱いな、おもいっきり」

彼らの近くには水溜りのようなものが3つ広がっている。


「この調子でいくか、ハディ」

ハディと呼ばれた者は、剣で水溜りをツンツンとつつきながら

「そうだね、この程度なら洞窟の中でも怖くないね」

その水溜りは洞窟の入り口にいたスライムだった3匹の、溶けた塊だった。


「ミンティはどうだった、怖くもなかっただろう」

「うーん、想像していたよりは、ね。でもロジャー、これを繰り返せばレベル2に本当になれるの?あなたたち一撃で倒したでしょう、それも何の苦労も無しに」


ミンティと呼ばれた者はあまり近づきたくないスライムの哀れな姿に、少し怯えてもいるようだ。


ロジャーと言われた者は、手元に本を出して折り目をつけたところを開いて言う。

「この冒険のしおり、ここにも書いてあるけれど、スライムなら20匹ほど倒せばレベル1の3人パーティなら全員が同時にレベルアップすると書いてあるよ、ほら」


ロジャーはミンティから杖を預かって開いてある本を渡す。

隣ではシュルリと剣を鞘に戻したハディが本を覗き込む仕草をすると、ミンティは少し近くに寄られすぎたと感じたのか1歩下がりはしなかったが、身体をだいぶ引くような感じになった。


ミンティの態度には肩をすくめたが、本の内容はどうでもよさそうにハディは言う。

「さあそろそろ洞窟の中へ入ろう。予約で1ヶ月も待たされたんだ。今日中にレベルアップして帰えれないとまた1ヶ月待つようだぞ!」

彼は洞窟の方向を指さすと、ミンティもうなずいた。

「そうだ、なあ午前中にレベルアップできるか賭けようぜ」

洞窟の中へと足を踏み入れる2人の後ろでロジャーは2人に問いかけたところで、彼らの映像は見ていたスライムによって止められた。


「この情報からすれば1ヶ月後まで年中無休で来るはずなんだけどな」

いつのまにか「射影の泉」の前に集まっていたスライムたちと顔を見合す。


「予約という言葉は昔から使われていた言葉だよな」

「ああそうだよ。冒険者登録所は昔から冒険者を町で待機させてアルバイトとかをさせながら、毎日1組だけ洞窟に向かわせてレベルアップさせる方法だったよ」


「ときどき冒険者が来ない日もあるけれど、それって町の祝日なんでしょう」

「それは間違いない祝日の会話のある記録は・・・」


スライムたちは娯楽室に集まって過去の洞窟を訪れた冒険者の記録リプレイを閲覧することが出来るようだった。


他の部屋でも同様に記録の閲覧がされていて、皆が封印のことに関係がありそうな情報を冒険者たちがこぼしていないか確かめていた。

だが登録所が廃業するといった理由を語る者はいなかったし、いたとすれば彼らとの遭遇を生活の中心にしているだけでなく、後で編集まで加えて全員で作品として楽しむことすらある彼らが見逃すはずは無かった。


そんな彼らが常にざわめく様子は遠くから眺めることができたなら、そこは競技場のような場所で行われているのがわかる。


客席には仕切りがあり、それぞれに備えられた「射影の泉」があり、客席で映像を楽しむことが出来るようだ。

しかしそこは競技場のような場所なのに肝心な舞台とも言うべき眼下の場所にはただひとつ大きな穴が空いていた。


1時間ほど経過しただろうか。

スライムたちはもはや泉の映像からはやはり何の手がかりも得られないことを確信していた。

ここを封印しても城下町が困らない理由が誰にもわからないという答えが出たことで意気消沈して、静かに互いの顔を見合っている。


沈黙するスライムはときどき雨粒でも落ちてきたかのように全身に波紋が伝わるも、それで伝播する思考は何もなかった。

アマンレインの洞窟で過去の記録を閲覧して共有される情報を糧に陽気に暮らしてきた彼らにとってはめずらしい瞑想のような状態だった。


そのような空気を知覚した1匹のスライムがこの娯楽室の最下層である大穴のふちに現れる。彼らを見上げる表情はやれやれといった感じだったが、

「ここがこんなに静かなのは珍しいのう!」

静かになった娯楽室に、鐘を鳴らしたような声を響かせた。

ガコン!ゴゴゴゴ・・・

その声を同時に起きる起動音。

その響きと共に客席ごとに溜まっていた「射影の泉」が、水音を立て底から流れ落ち、どこぞに吸い込まれていく。

やがてそれぞれでゴゴゴと鳴っていたものが、今度はスライムたちの足元で重なりながら大きな音響となり、遠くから振動を感じるまでになった。


ドドドッドバーッ

全てのスライムがその変化に気づいて一斉に客室から大きな穴の開いた場所へと身を乗り出した。すると眼下の大きな穴の中央からは大量の射影の泉がそこに集合した印として噴水になって飛び出していた。

この勢いであれば5分もしないうち大きな穴は泉で満たされそうだ。


まだ続く噴水の向こう側にはさきほどの声を発したスライムがいる。

その彼には強烈な光が照らされていた。噴水と光、どちらも目立つものだったが、刻々と穴を埋め、大きな射影の泉へと広がっていく様子を見るよりも、多くのスライムは彼に大きな関心を向けている。


光の中にいる彼の体は半透明ではない黄金色。

そして照らされているわけではなく、自ら光り輝いていた。


水しぶきだけでなく自分の身体に多くの視線を浴びながら

このゴールデンスライムはもういいだろうとばかりに体にローブを被せ、輝く身体を覆い隠してから左右をゆっくり眺めて皆に思考を伝播した。

「さて、柄にも無く沈黙しておる諸君。この封印の理由が理解できないことはわかったようだな。そろそろ話し合いを始めようではないか。このアマンレインの洞窟は今日封印される。だから明日からはどうすべきなのか、今から決めるのだ」


洞窟の入り口から射し込む日差しが封印の作業によって完全に塞がれた頃、娯楽室のスライムたちは明日から始める、新たなるやるべき事を決めることとなった。


そして後に「アマンレインの洞窟終了のお知らせ」と言われたここまでの出来事によって、洞窟に棲むスライムの持っているスケールが今後、ゆっくりと公開されていくことになる。


それはやがて世界を震撼させる出来事に繋がるだろう。

ただその引き金がいま引かれたことをスライムたちでさえまだ知らずにいる。



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