事案発生
アマンレインには城が出来たころから騎士や貴族も移住して暮らすようになっていた。
その貴族や騎士や引退した冒険者の中から、幼児たちを幼稚園に集めて
初歩的な教育を行うといった施設を利用し始める者もいて、その日は三賢者が知恵と魔法で魔物を退けるという伝説の物語を幼児たちが演じて行う演芸会が予定されていた。
しかしどういうわけか演劇の衣装に着替えた2人が施設から脱走し、いつのまにか園児ではない2人兄妹の遊び友達と合流して外で勇者ごっこをやっていたらしい。
本来なら舞台に上にいるはずだった時間に4人が居たのは、アマンレインの洞窟の入り口。
さらには本物のモンスターと戦いはじめていた。
戦いたくなどないスライムたちの気持ちなど露知らず、三人の親たちはわが子を守る一身で、危機一髪に割って入ることが出来た勢いのままスライムたちを一蹴しようとした。
奇襲の初撃は三人とも外されてしまったが、倒すのが目的ではない。
それで子供たちを取り戻して大急ぎで町に戻ってきたところ、すでに施設のほうでは残っていた子供たちは騒ぎによって集団帰宅済みで、演芸会も中止になっていた。
中止の知らせに申し訳ないという気持ちもあった親たちは慌てた。
誰もいなくなった施設で子供たちを落ち着かせる時間を十分にとることなく、せめて原因だけはきちんと聞きだそうと考えて子供たちに詰め寄ってしまい、逆効果でただただ怖かったと泣きじゃくるばかりになってしまうと、全員が困り果てた。
「冒険者でないものが洞窟などにいってモンスターに襲われたんだ、トラウマだ」と親たちの諦め顔。
しかしトラウマのことを言うなら、この幼児たちが最も怖かったのはモンスターではなく、突然大声で割り込んできた親のほうだった。
まだ何も手は出して来てはいなかったスライムを、まださほど遠くない過去に実戦で鍛え抜いてきた技術で虐殺しようとしたのを見てしまった。
そんな存在が目の前で肩を怒らせたまま怖い顔をしている。
だから泣くのである。
まるで心の中にモンスターでもいるかのように、怖さは一度消えてもまた沸いてきたから、わんわんと泣き続けていた。
ちょうどそこに駆けつけたのが、騒ぎを聞きつけた冒険者登録施設の長だった。汗を垂らしながらやって来てみれば、やや不当で強迫染みたクレームの形で親が子から彼へと指を差し向けられる。
ギルド長は息を整える暇も与えられず、両手で差し迫る壁を押さえるような姿勢でしこたま抗議を受けていた。
アマンレインの洞窟で発見したと聞いたとき、ギルド長は親たちの感情的な言葉に対し、長年に渡って冒険者を登録という形で面接し、様々な人を取り扱ってきただけに聞き手に回って受け流す姿勢でいたのだが、そこにいるのは子供に傷害を負わされそうになり殺気立っている、なんなら元が取れてしまいそうな元冒険者だったから、常に机の前の人だったギルド長はすぐに震え上がったまま、とにかくの謝罪に回るようになった。
そのせいで彼が気を回せば見えてくるかもしれなかったこと、今回のことの真相である、演芸会を羨ましくなった幼稚園に通っていない兄妹が2人を誘い出したという原因や、そのような誘いに安易に乗って舞台に上がらずに遊びに連れて行かれた衣装を着けて浮かれた2人のほうにも問題があったという部分については気づくことも出来なくなって、親のしつけも悪かったというような有利な流れの目も消えてしまっていた。
しかも詰め寄る親の後ろでは泣き声が大きくなるばかりだったから、ギルド長は押し切られてついに、アマンレイン洞窟の封印をきっとすることを親たちに約束する再発の防止策を提案して、親たちの承諾でこの場を収めるということをしてしまう。
監視の目が行き届かなかった非を認めさせることなく彼らの不満を解消する方法を提案した。
したことで、今まで町と共に共存共栄を保ってきたアマンレインの洞窟はこの日、突如として封印されることになった。
このギルド長の判断は、町の成り立ちから考えれば到底ありえないことなのだが、それでも決断が出来る理由があった。
だがそのことについてスライムたちは知らない。
知る由もなく明日を迎えることになった。