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第七話

「俺、子どもの頃からオバケとか見えちゃうんですよ。もう慣れっこっていうか。いいものと悪いものの区別はつきます」

 人好きのする笑顔でさらっと告げる。楽天家の洋太郎らしい。

「今日見たものは?」

「今まで見たオバケとは違います。いい悪いって言うより、底が見えない感じ」

 初めて見たからゾッとしました、などと笑って言ってのけるので、比呂は、そんな顔してなかったくせに、と口を尖らせた。

「関わらないようにしてるんだ、危なそうなのとは」

 なんともないように比呂に笑いかけるが、なるほど、そういうものが〈見える〉からこそ、苦労してきたこともあったのだろう。そして、危険を回避する術を身に付けてきた。見えても気にしない。触れない。関わらない。それならば、ここで巻き込むのはよくないのでは、と高田は黙り込む。

「高田先生、俺にも武器ください」

「は?」

 にこにこした顔を崩さないままの洋太郎の口から出た言葉に思わず変な声を返してしまった。自分が考えていたのとは全く逆の反応。それも笑顔で。

 右手を差し出したまま笑っている楽天家の教え子を見て、さすがの美恵も尾川くん、と焦った声をかけた。

「関わりたくないんじゃないの? 危ないのよ?」

「なんとなくの話はここに来るまでに広井から聞きました。俺もやりたいです」

 だから俺にも武器をください。笑顔の下にある何かが垣間見えるような言い方に、美恵はゾクリとした。

「本当の俺は、たぶん、おかしいんです。オバケも、生きた人間も、一緒に見える。現実の境もあいまい。本当は怖いんです。だから、よくわからないものをやっつけたい」

 楽天家で、怒らず、語らず、いつもヘラヘラ笑っているその瞳に、一瞬冷たいものが見えた。

「お願いします」

 笑顔のままではあるが、声はいくらか低いトーンになっていた。その場にいる誰もが初めて見る彼の姿。高田はまっすぐに笑顔の奥の瞳を見つめ、こちらこそ、と小さく呟いた。

「よかった!」

 屈託なく笑った洋太郎の顔は、いつもの表情だった。

「では」

 重い音がして、大学の研究室におよそ似つかわしくないものが机に並ぶ。

「太刀と二丁拳銃。洋太郎はどっちがいい?」

 大きく重い刀と、見る機会すらも滅多にない黒光りする拳銃を交互に見て、迷いなく洋太郎は刀の方を手にした。戸惑いなく鞘からスラリと抜くと、うわ、でっかいなー! とはしゃぐようにその刀身を振ってみせる。全員が、その扱いに思わず後ずさった。見た目は大して大柄でもなく力も弱そうに見えるが、簡単に刀を振り回してしまう辺り、なかなかの潜在能力を持っているのかもしれない。いいから早くしまえ、と言う高貴の言葉に頷くと、危なげなく自然に刀を鞘に戻す。そこでふと

「どうして太刀を?」

と、伊坂が問えば、

「銃は撃ったことないけど、包丁なら持ったことあるので」

と、なんとも洋太郎らしい答えが返ってきたのだった。

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