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第六話

「痛ぁ」

 裏庭まで着いたところで、比呂は盛大に転んでいた。足にモノが絡み付いてきている。転んだ弾みで電話は切れており、裏庭には誰もいない。まずい、と思った。モノが触れている部分から伝わる負の感情。徐々に自分の力が抜けていくのがわかる。自分の気持ちが、暗く、重たくなってくる。縋り付かれる。初めてこんな感覚味わうなあ、とどこか感心しながら比呂は必死に足を引き抜こうとした。

「高杉!」

「先生ぇ!」

 そこへ現れたのは伊坂で、今度は躊躇うことなく小刀を比呂の手元に投げると、自分もすぐにカメラを構えた。情けない声をあげた比呂も、鞘を乱暴に投げ捨て、両手を振りかぶる。自分の足に絡んでいる部分に刃を突き立てると、力任せに自分の体を後ろへ引いた。

「ありがとう先生!」

「よそ見してんじゃねぇアホ!」

 後ろから聞きなれた罵声がして、転んだままの比呂の頭上を何かが掠めていった。直後、パン、とはじけるような音がした。矢だ。光の矢が、モノの体を貫いた。はじけた体はキラキラと散って、そこはまた静寂を取り戻した。

「大丈夫ですか、伊坂先生」

「はい、撮れてます。じゃなくて、そこは高杉の心配をしてあげてください!」

 悠平は比呂のことは気にかけず、伊坂の元へ駆け寄る。足でも捻ったのか、四つん這いで鞘を拾いながら、比呂は、いいんですよ、と笑った。どんどん先に行ってしまう悠平の後を、伊坂と比呂は並んで追い掛けていく。悠平は後ろも振り向かず、携帯電話を取り出すとどこかへ掛け始めた。高田への報告だろうか。

 時刻は午前十時二十分。間もなく一限目の授業が終わろうとしている。


 研究室に戻ると、美恵が湿布と包帯を手に待ち構えていた。

「高杉さん、怪我したそうじゃない」

 時任くんからこっちに連絡があったの。そう言いながら、美恵は比呂を無理矢理に座らせた。

「悠平から? ありがと、悠平」

「別に。報告しただけ」

 ふたりのやり取りを見て、伊坂は口元を緩めた。なんとなく、ほっとした。

「なに笑ってるんです? お疲れさまでした」

 高田に声をかけられ、伊坂はカメラからデータカードを取り出す。

「そういえば、高杉」

「はい」

 データを取り込みながら、高田は自分の後ろ側に座る比呂に話しかける。比呂も手当てされている足をそのままに、首だけ高田の方へ向けた。

「モノに触れたっていうけど。大丈夫だった?」

「大丈夫です。なんていうか、あれが負の感情っていうんですか? 重くて暗いものがゾワッて自分の中に入り込もうとする感じで。縋り付かれるっていうか」

 伊坂先生が来てくれてよかったです。そう言うと、比呂は体勢を元に戻した。ちょうど、美恵の手当ても終わったところだった。

「ありがとうございます」

「あんまり激しく動いちゃだめよ」

 はい、と返事をすると、ゆっくり立ち上がってパソコンの前に向かった。既にデータカード内の写真が展開されており、全員が高田の周りに集まってモニターを見つめている。前回のモノの写真と比べると、大きさや形が少しずつ変わっていた。

 ふむ、と高田が唸る。昔、自分が戦っていた頃はどうだったろうか、などと考えにふけろうとしたところで、研究室のドアがノックされた。

「失礼します」

 高貴の声だ。恐らく洋太郎の授業が終わるのを待って、ここへ連れてきたのだろう。ドアを開けると、高貴の影から小柄な洋太郎がひょこっと顔を出した。

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