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第十話

 大学のキャンパスから最寄り駅を通り過ぎて少し歩くと、運動場がある。昔はよく体育の選択授業をここでやっていたらしいが、新しいグラウンドと運動施設ができたためほとんど使われなくなってしまった。各サークルも活動場所をそれぞれに持っているため、今では大学の催しで時々駐車場として使われるくらいのものだ。

 手入れはされているし鍵がかかった門は簡単に飛び越えられる。溜り場になってもおかしくない場所だが、日当たりがいい割に嫌な雰囲気を醸し出していて、近づく学生はいない。運動場に行くとこの世のものでない何かが見えるとか、得体の知れないものに襲われるだとか、そういった噂は近年絶えなかった。

「モノでも住んでるのかな。俺行ったことないけど」

 穏やかな昼下がり。キャンパス内にある学生食堂のテラス席に集まった五人は遅い昼食をとったり課題を片付けたりと、それぞれに時間を過ごしていた。何の流れか運動場の話題になり、洋太郎が呟いた言葉に四人は手を止める。

「あれって一ヶ所に住み着くものなの?」

 課題を進めていた凛子はシャーペンをクルクルと回しながら問いかける。

「さぁ。でも高田先生のシステムでは運動場に反応ないんでしょ?」

 すっかり課題に飽きている比呂は返事をしながら参考書を閉じた。

「そもそも大学構外でモノに会ったことないしな」

 言いながら悠平は、空になったカレー皿にスプーンをからんと投げ置く。

「一応、構外に現れた場合にも反応は追えるらしいが」

 読んでいた文庫本から視線を上げて、高貴が答えた。

 しばしの沈黙の後、悠平が食器返却口に行くため席を立ち、比呂はそれに着いていきながらコーヒー買ってくるね、と席を離れた。相変わらず悠平はついてくる比呂の方を振り向きもせずに学食の奥へと歩いていく。その背を見送りながら、洋太郎は何度も疑問に思っていることを口にする。

「なんで付き合ってんだろね」

「それ思うよね。悠平って比呂に冷たすぎ。実はふたりきりだとすごい甘えるタイプとか?」

「想像つかないなー」

「そもそも悠平が比呂のこと何て呼んでるかすらわかんないよね」

「うわ、確かに。お前、おい、とかそんなのばっか」

「他人の恋愛って難しいね」

「よくわかんないね」

 ふたりは勝手に納得して話を終わらせている。こっちもいいコンビだよ、と思いつつ、余計なことは口に出さず高貴は文庫本に意識を戻した。すると、会話が途切れたところを見計らったかのように凛子の携帯電話が鳴った。

「はい、あ、高田先生」

 電話は高田からのようだった。一瞬その場に緊張が走る。

「悠平ですか? すぐ戻ってくると思いますけど。一緒に? はい、わかりました。授業が終わったら行きます」

 緊急事態というわけではないらしい。最近、武器の調整などで個別に呼ばれることも多かったため、そのことだろうとふたりは納得した。しかし、悠平の名前が出てきたのが気になる。その本人は、食器を片付け終えて比呂とふたりで席へ戻ってきたところだった。

「悠平、今日は夕方空いてるんだよね」

「空いてる。何かあった?」

「高田先生から、私と悠平に話があるって」

「わかった。四限終わったら研究室行くわ」

 短いやり取りをして、悠平はちらりと隣にいる比呂を見遣った。比呂はコーヒーを冷ましながらうん、と頷く。

「遅かったら帰っていいから」

 終わるまで待ってるか? という目配せだったらしい。比呂は一言、帰らないよ、と返事して机に広げた課題と参考書を片付け始めた。

 なんだかんだ言って意思疎通はできてるんだよな。やはり余計なことは口には出さないが、高貴はそのやり取りにひとり納得して本を閉じた。

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