都からの賓客
ある日、館に都から賓客が来ることになった。政治的なことでの訪問らしく、お嬢様には直接関係ないと思われた。
だが、その賓客は独身だという情報が流れてきた。都のそれなりの地位の人物だ。見初められれは玉の輿間違いない。お嬢様の周りは一気に活気づいた。
お嬢様も乗り気のようだった。ウキウキしながら、せわしなく準備をする人々っとは裏腹に、私の心は沈んでいた。
都からの客。しかもよりによって、それなりの地位のある人物らしい。なんとなく嫌な予感がする。願わくば、私のことをほとんど知らない人物であってほしい。私は祈るような気分で、その日を迎えた。
領主をはじめ、館の主だった人々が並んだ。もちろん、お嬢様もいつもよりも美しく着飾って、領主である父親の隣に立っていた。
私は少し離れた後ろに、ひっそりと立っていた。
私の関心はただひとつ。誰がやってくるかに尽きた。
そして、賓客がやってきた。
残念なことに、私の予感は的中してしまった。あろうことか、近衛副隊長だった。私は目の前が真っ暗になった。
いや、まだ望みはある。街道では気がつかれなかったのだ。今度も上手くやり過ごせるはずだ。私は自分にそう言い聞かせた。
和やかに挨拶する一同。
私はなるべく視線をあげないようにしていた。目立たないように。それだけを心掛けていた。
お嬢様は退出するために会釈した。私も会釈して、視線を上げた。副隊長とバッチリ目が合ってしまった。
もしや、気づかれたのか。いや、大丈夫だ。私のこの姿。このメイド服に伊達メガネ。すぐに気がつくはずはない。
私はすぐさま、しかし不自然にならないように細心の注意を払って視線をそらすと、お嬢様の後につづき退出した。