新しい生命
穏やかな日々は続いた。
妻が身籠った。
この喜びをどう表現したらいいのだろう。
私の子が生まれるのだ。
新しい家族ができるのだ。
これで私は本当の意味で、この家の人間、この村の人間になれるのだ。
妻に滋養の良いものを食べさせなくてはならない。
生まれてくる子のために、いろいろ揃えなくてはならない。
私は仕事に励んだ。
村の衆も喜んでくれ、なんやかやと気遣って差し入れなどをしてくれた。
入用のものがたくさんあるだろうと、次の定期便のメンバーに私を加えてくれた。
私は妻や義母はもちろん、村のおかみさんたちのアドバイスを参考にして、買い物リストを作り、定期便の出立日に備えた。
街の様子は、どことなく沈んでいた。
前に来た時は、もっと賑やかに華やいでいたはずだ。
それだけではなかった。
物価が異様に上がっていたのだ。
予備の資金を使っても間に合わないくらいの高騰ぶりだった。
宿で仲間たちと資金の算段をしていると、役所に行っていた仲間が飛び込んできた。
「戦のせいで物資が滞っているらしい」
私はそれを聞くや否や、宿を飛び出していた。
戦の話は本当だった。
最近台頭してきた大国がこの国を手に入れようと、戦を仕掛けてきているらしい。
大国の圧倒的な強さに、この国が呑み込まれるのも時間の問題のようだった。
この国がなくなる。
私には関係ないことだ。
この国が滅亡したとしても、国の名前が変わるだけなのだ。
山奥の集落の生活への影響など、実に微々たるものなのだ。
私には一切関係のないことなのだ。




