苦悩再び
翌日、私は木の根元に座り、さやさやと揺れる葉を眺めていた。
私はなぜ、領主の娘の護衛なぞになったのだろう。
都からかなり離れているとはいえ、領主は領主だ。
領主である以上、中央との接点がないわけはないのだ。
ちょっと考えればわかることなのだ。
そんな単純なことに、なぜ気がつかなかったのだろうか。
飽きれるほどの馬鹿者だ。
いや、そうなのか?
本当に気がつかなかったのか?
無意識に気がつかないフリをしていたんじゃないのか?
なぜ気がつかないフリをしたんだ?
そんな必要はないはずだ。
そういえば、のどが渇いた。
たしか、あの辺りに泉があったはずだ。
私は立ち上がると、ふらふらと歩きだした。
私は喉を潤すと、しばらく水面を眺めていた。
未練だ。
私には未練があったのだ。
潔く身分を捨てた気でいたが、捨てきれていなかったのだ。
思い切っていなかったのだ。
思い切っていたならば、私はこんなところにいるはずはないのだ。
霊獣に乗れば、この国の領土など一晩で越えられる。
はるか遠い異国へ行くことも可能なのだ。
しかし、私はここにいる。
この国の領土から出ることをしない。
未練があるからこそ、出ていくことができないのだ。
本気でこの国を捨てることができないのだ。
そもそも、私は本当にこの国の行く末を案じていたのだろうか?
良く考えれば、私が城を出ていく以外の選択肢はあったはずなのだ。
やりようはいくらでもあった。
そうだ。
逃げたのだ。
私は国を背負う重圧から逃げ出しただけなのだ。
国のためだと、もっともそうなことを言いながら逃げ出した卑怯者なのだ。
わかってしまえば単純なことだった。
私はただの卑怯者だったのだ。
何もかもが虚しかった。
私は何もする気が起きず、山中で無為な日々を過ごした。




