決意
私を次期国王と認めたくない一派がいるということに、私はうすうす気がついていた。彼らは、弟こそが次期国王にふさわしいと思っている。彼らは私を排斥したいとおもっている。
ある日、私はとうとうみてしまった。弟を次期領主にしたい一派が、弟に立ち上がるように促していたのだ。
私は怒りもおぼえず、悔しさや悲しさなども全くわいてこなかった。「やっぱり」と「とうとうきたか」という気持ちしか浮かんでこなかった。
弟は彼らの願いをきっぱりと退けていた。そんな弟をながめながら、私はやっぱり弟の器量は並大抵ではないな、と感じずにはいられなかった。
このままでよいのだろうか?今は私を次期国王にと考えている者の方が断然多い。
だが、私はあまりにも弟に見劣りする。はっきりいって、私は国王に向いていない。私を支持する者たちは、私個人の能力ではなく、私が長男で母の息子だから支持しているのだ。時間が経てば経つほど、私の能力の貧しさが際立ってきて、私を頼りなく思う者たちがどんどん増えることだろう。
そうなれば、私を支持する者たちと、弟を支持する者たちと、二つに分かれる。
弟を支持する勢力が大きくなれば、たとえ弟に私を害する気持ちはなくても、弟をどうにかしなければならなくなる。
一歩間違えれば内乱となるだろう。内乱になれば領内はどうなる?
それだけではない。周辺には我が領地を狙っている輩がたくさんいるのだ。
最悪の事態に陥る前に、父もしくは私は弟を抹殺しなければならなくなるだろう。
それでいいのか?弟のような優秀な人材を失うことは大きな痛手になるのではないのか?
私は悩みに悩み、ついに決意したここを出て行く。私はそう決めた。
心残りがないわけではない。一番の心残りは母だ。
母には子供は私しかいない。不甲斐ない私がこれまでやってこれたのは、母がいたからだ。産み育ててくれた母。私はそんな母の期待を裏切るのだ。私は父や母、私を支えてくれた全ての者たちを裏切ることになるのだ。
それでも決めたのだ。私は今夜、ここから出て行くのだ。