真意
お嬢様は寝台に腰掛け、豪華な天井を眺めていた。
不思議だった。
実感がわかない。
あまりにも色々なことが起こりすぎて、お嬢様は混乱していた。
何があったのだろうか。
お嬢様は、自分の身に起こった出来事を一つずつ思い返してみた。
憧れのお姉様だったキャロルが、実は男で、しかも王太子様だった。
かわいいフワッポは犬じゃなくて霊獣だった。
そのうえ、キャロルもフワッポも自分のせいでいなくなってしまった。
さびしかった。
悲しかった。
でもそれだけではなかった。
真実を誰にも打ち明けることができないことが苦しかった。
あの日、キャロルの弟が館に来た時。
そう。
あの時だけ話すことができたのだ。
でも全てを話せなかった。
もっと話したいことがたくさんあったのに。
その後、王宮から使者が来て、お嬢様は第二王子のもとに嫁ぐことが決まった。
あまりにも突然の出来事だった。
お嬢様は不思議だった。
自分と第二王子とでは身分が違いすぎる。
それくらいの知識はお嬢様にもあったのだ。
だが、お嬢様の戸惑いも周囲の人々の喜びにかき消された。
お嬢様の身辺はにわかに慌ただしくなり、お嬢様はわけのわからぬまま今日という婚礼の日を迎えたのだった。
気がつくと目の前に第二王子が立っていた。
お嬢様は慌てて立ち上がると礼をしようとしたが、それよりも先に第二王子はお嬢様の前にひざまずいた。
「すまない」
第二王子の言葉にお嬢様の動きが止まる。
お嬢様には、第二王子がなぜ謝るのか、わからなかった。
「意に沿わぬ男の元に嫁ぐことになり、さぞやお辛いことでしょう」
お嬢様は、第二王子の言っていることが、すぐには理解できなかった。
「意に……沿わない……?」
お嬢様は繰り返しながら考えた。
それが第二王子のことを指していると気がつき、はっとした。
「ちがう……違う……」
お嬢様はつぶやくように言いながら、首を左右に振った。
「意に沿わないだなんて、そんな……。どうか御手をお上げください」
立ち上がった第二王子に、お嬢様はさらに何か言おうと口を開きかけた。
が、お嬢様は何を言えばいいのかわからなかった。
自分の気持ちをどう表現したらいいのかわからなかった。
しばらく沈黙が続いた。
「あなたは嘘のつけない方ですね」
第二王子はそういうと目を伏せた。
「違います。そうじゃなくて……」
お嬢様は誤解を解こうと必死に言葉を探した。
「私……。わからない。わからないのです。何もかも……。何が起こっているのか。なぜここにいるのか。どうすればいいのか。本当に……。わからない……」
お嬢様が顔をあげると、第二王子が目を見開いて見つめていた。
お嬢様は身体が強張るのを感じた。
怒らせた。
怒らせてしまったのかもしれない。
「正直な方ですね。霊獣が懐くわけだ」
第二王子は表情を緩めると肩をすくめた。
お嬢様はほっと息を吐いた。
「私も正直にお話ししましょう。私はあなたと話がしたかったのです」
第二王子はにっこりと微笑んだ。
「私も」
お嬢様は思わず言った。
同じだ、と思った。
お嬢様ももっと話がしたかったのだ。
「もっとお話ししたくて。キャロルのこと、フワッポのこと、それに……」
お嬢様の頬にポロリと涙がつたわった。
まただ。
なんで?
どうして涙が出るの?
お嬢様の戸惑いをよそに、次から次へと涙がこぼれ落ちてくる。
この方の前だと、なんで泣き虫になっちゃうの?
言いたいことがいっぱいあるのに。
伝えたいことがあるのに。
お嬢様は言葉を続けようとしたが、嗚咽が漏れるだけだった。
そんなお嬢様を、第二王子は優しく抱き寄せて、ささやいた。
「教えてください。あなたのことを」




