お嬢様と第二王子
父と副隊長は退出した。
お嬢様は、キャロルの弟である第二王子と二人きりになった。
第二王子が何を訊きたいのか、お嬢様にはわかっていた。
だが、お嬢様は何も知らないのだ。
「単刀直入にお尋ねします。兄上、いえ、キャロル殿はどこにおられますか?」
お嬢様は首を左右に振った。
「知りません。私は何も」
第二王子はお嬢様の瞳の奥を窺うようにみつめてくる。
耐えられなくなったお嬢様は目をそらした。
知らない。
本当に知らない。
キャロルは忽然と姿を消したのだ。
どこを探しても、キャロルもフワッポも姿どころか痕跡すらみつからなかったのだ。
お嬢様は悔やんでも悔やみきれなかった。
あの夜、あの場に行かなければ、今もキャロルはここにいたはずだ。
あるいは、あの時逃げ出さずにキャロルと話し合っていたなら、すこしは違っていたのかもしれない。
「わかりました。もうこの件はお尋ねいたしません」
思いもかけない第二王子の言葉に、お嬢様は顔をあげた。
お嬢様は、もっとしつこく問いただされると思っていたのだ。
拍子抜けするお嬢様に、第二王子はさらにつづけて言った。
「教えていただけませんか?キャロル殿はここでどのようなご様子でしたか?」
「様子?」
お嬢様は怪訝な顔で首をかしげた。
「どのようにお暮らしだったか。どのようなことでも良いのです」
第二王子は優しく微笑んだ。
お嬢様はぽつりぽつりと語り出した。
話すことはたくさんあった。
キャロルが護衛として初めて来た日のこと。
大嫌いだった剣術を、キャロルが教えてくれるようになってからは、嫌いではなくなったこと。
退屈なお勉強につき合ってくれたこと。
長時間並ばないと手に入らないお菓子を買ってきてくれたこと。
フワッポのこと。
「ふわ・・・ぽ?」
「ふわふわの尻尾だから、フワッポ」
目を丸くする第二王子の顔を見て、お嬢様は思わずふきだしてしまった。
キャロルもそうだった。
キャロルもこんなふうに、目をまん丸くして絶句していた。
「でも、フワッポは喜ん」
お嬢様の頬にポロリと涙がつたわった。
ポロポロと涙が次々に落ちてくる。
なぜ?
どうして涙が出てくるの?
どうしよう、とまらない。
お嬢様は話を続けようと試みたが、嗚咽がもれるだけだった。
第二王子がそっとハンカチを差し出す。
お嬢様は受け取ると、顔に押し当てた。




