お嬢様
お嬢様は館の裏庭に立っていた。
あの晩、なぜ自分はここに来てしまったのだろうか。なぜすぐに立ち去らなかったのだろうか。見てはいけなかったのに。
お嬢様はその場にしゃがみこんだ。
以前なら、お嬢様がこうやって落ち込んでいるときには、フワッポが傍に来てくれた。フワッポはクゥゥンと甘えるような声をだしてお嬢様を慰めてくれた。でも、もうフワッポはいないのだ。そしてキャロルも。
キャロルは剣士であるにもかかわらず、物腰がやわらかで、どことなく品があった。お嬢様はまるで姉ができたみたいな気がして、毎日がとても楽しかった。
でも、もうキャロルはいない。キャロルにもフワッポにも、もう二度と会えない。
何もする気になれなかった。何かをしてても、どこにいても、お嬢様はキャロルとフワッポのことを思い出してしまうのだった。
「お嬢様!!このような所にいらっしゃったのですね。旦那様がお呼びです」
お嬢様は、かなり慌てた様子の侍女に急かされて、応接室へと向かった。
お嬢様は、後ろから押されるように応接室に入った。ぼーっと室内を見回す。
部屋には父の他に二人の男性がいた。一人は見覚えがあった。先日館に訪問していた近衛副隊長だ。
もう一人の長身の若者の姿を見て、お嬢様は息をのんだ。全くの見ず知らずの人のはずなのに、なぜか初めて会ったような気がしない。なぜだろう。お嬢様は若者をじーっと見つめた。
「お客人に失礼ではないか」
父の叱責が飛ぶ。お嬢様は慌ててお辞儀をした。
「娘の非礼を・・・」
「いやいや、気ぜずとも良い」
鷹揚にこたえる若者を、お嬢様はじーっと見つめた。
「キャロル?」
お嬢様は思わずつぶやき、ハッとして口元をおさえる。そんなお嬢様を見て客人は破顔し、お嬢様の前にひざまずいた。
「お嬢様。お初にお目にかかります。私は、そう、キャロルの弟でございます」
ああやっぱり。お嬢様は腑に落ちた。兄弟だから、どことなく似ていたのだ。
そう、兄弟。キャロルの弟。
お嬢様はそこまで考えて、ふと気がついた。キャロルの弟ということは……。お嬢様の頭の中は真っ白になった。




