思い込み
この世界に来て数日はのんびりゆったり聖女様ライフを満喫していたが
ふと、かなり大きな問題があることに気付く。
それは、この世界に漫画やアニメ、ライトノベルが無いことである。
部屋で机に突っ伏して今まで読んだ漫画やアニメなどお気に入りのシーンを回想していると
私の落ち込んだ様子を心配したアンリさんが声をかけてくれた。
「何かお悩みでもあるのでしょうか?私でよければお話くださいませんか。」
心配してくれるのは嬉しいけど、こればっかりはアンリさんでもリグでもどうしようもないことだ。
「本が読みたいんですけど、我慢してるんです。」
ニヤニヤ動画もヨウツネ動画も見たいけど我慢してるんです。
そういえば、もう漫画の続きとか見れないんだよな~。
大きなため息をつこうと思ったら、アンリさんの明るい大きな声にびっくりして収まってしまった。
「聖女様!図書館には本がいっぱいありますよ。
・・・神殿の関係者でない人がいますが。聖女様の悩みが解決するのなら!今からいきませんか。ご案内します。」
図書館に漫画本やライトノベルがあるのですか・・・・。いや、少しの希望を捨ててはだめだ!
あるかもしれないじゃないか!
「城の図書館はどれから読もうか迷うぐらい大きいのですよ。」
にっこりして言うアンリさんに希望を持って
「お願いします。」
と頭を下げた。
結論から言うと、無かった。
文字は読めなかったけど、書かれてる図形や雰囲気から説明書や歴史や図鑑と思われる本ばかりで
文字だけのそれらしいものがあってもアンリさんにどんな内容が書かれてるのか聞くとやはりどれも論文などの堅苦しい本であった。
せめて、オタ友でもいれば、この状況を面白おかしく本にしてお互い楽しめるかもしれないと言うのに・・・。
イベントにも、もう参加できないんだよなあ。
と、ぼんやりしていると、何故今まで忘れていたのかと言う衝撃的な事実が思い出された。
私の部屋にあるオタクグッツ!
どどどどど、どうしよう!
購入したものに関しては、もう目を瞑ろう。
だが、自作の創作物に関してはどうだろう。
親に、兄弟に発見されたら・・・。
・・・ギャーーーーーーー!!!恥ずかしさで死んでしまう。
暴れて、のた打ち回りたいのだけど、ここは図書館で私は聖女様だ。
アンリさんもお茶を用意してきますといったまま、まだ帰ってこない。
私の部屋にあるものすべて、オタ友が壊してくれないかなぁ。
でも、そうなるとオタ友は警察に捕まってしまうことになる。駄目だ。
どうすればいいのか。
無表情で何が書かれているのか分からない本をじっと見つめながら悶々としていると、後ろから低い声の人に話しかけられた。
「本がさかさまですよ。」
慌てて後ろを向くと、格好良い渋いおじ様が居ました。
「こんな所でのんびり本を読む時間と体力があるのに、何故お役目は果たさないのでしょうか。」
こちらを厳しい表情で見つめるおじ様。
急な悪意あるからみにビビる所だったけど、気になることがある。
おじ様の顔立ちは王様によく似ていた。
リグが50歳になったら、目の前の人の雰囲気になりそう。
「・・・もしかして、リグの兄弟?」
おじ様は無表情で頷く。
「はい。」
私がまじまじと観察しているのが癇に障ったのか、声に苛立ちが混じる。
「王からお叱りを受ける覚悟で言いました。返事を頂きたい。」
返事?
何故お役目を果たさないのか~って事についてかな。
「それは、お祈りのことですかね。」
「そうです。」
そうか。
でも、王様であるリグがですね、当分しなくていいって言ったんですよう~。
って、無実アピールしたいのをぐっとこらえる。
本当のことであろうとも、清らかな聖女様は人のせいにするような事は言わないのだ!
私の無言をどう受け取ったのか、おじ様は会話を先に続ける。
「王の力は貴方に半分も移ったと言うのに、帰るでもなく、どこぞの貴族のように遊び呆けていらっしゃる。」
あ、遊び呆ける!?
遊び呆けるって言うのは、仕事にも行かず、学校にも行かず、1日中部屋にこもりっきりでアニメやゲームのことだけ考えている贅沢な時間のことですよね!?
今の私の状況は禁欲生活ですよ!?
いやいや。まて、おちつけ。
聖女様の役割を果たしていないのは認める。ゆったり、まったりしてたしね。
リグにやらなくていいとは言われても、国民の間で聖女様不信任案が出されても困る。
これは早急に解決しなければ!
そう思い、席を立つと、私にまだ言い足りないのだろう、おじ様がさらに言葉を続ける。
「どうせすぐに帰ってしまわれるのだろう。
貴方が帰った後の祭りの用意はすでに終わっているのです。無駄に時間を使わないで頂きたい。」
ん????
私が帰った後にお祭りするの??
それって変じゃない?
普通、聖女様が召還された日にお祭りじゃないの。
召還して帰った後って・・・どんだけ性格悪いんだよここの国民。召還ってサーカスか何かと同じ見世物なの?
・・・じゃなくて!!
「・・・帰る?」
「ゼント様!」
誰かが誰かの名前を呼んで叫んだので、後ろを振り向いてみると。
茶器を手にしたアンリさんが私と話をしているおじ様の方を向いていた。
アンリさんは鬼の形相をしていたけど、私はかまわず疑問をぶつける。
「アンリさん。私、帰れる?」
そんな私の疑問に答えてくれたのはアンリさんではなく、おじ様だった。
「・・・知らなかったのか。」
帰れるって話は本当なのか・・・。
ゾッとした感覚と先入観に邪魔をされて、帰れないって思い込んでいましたよ。
異世界召還で帰れないって王道でしょ!?
私が脳内会議を起こしていると、アンリさんがゼントさんに突っかかっていた。
「ゼント様。先ほどから聖女様に対して失礼な物言いですが、ご自分でお気づきになられませんか。」
アンリさんは私が気にしていることとは別のことが気になったようだ。
「お前こそ、私に対してずいぶん無礼ではないのか。」
「私は神殿の人間です。
使えるべき方は聖獣様だけですから。」
アンリさんは私とおじ様の間に入って、私をかばってくれているけど。
私の疑問を解決しておくれ!
「アンリさん!私、帰れるの?どうやって?」
私の質問にアンリさんの体が強張る。
それを見たおじ様は顔をゆがめながら馬鹿にした笑いをする。
「・・・真実も告げずに、よくも仕えるなどと言えたものだ。」
そういった後、おじ様は馬鹿にした笑いを引っ込め、私に視線を合わせた。
「聖女様、貴方は帰れます。
歴代の王が召還した聖女様と同じように。」
まじっすか!