孤独
聖女様のお役目の祈りは、例の召還された時の場所でリグと並んでお祈りするという本当に簡単なものらしい。
ただ、私の体調を考えて当分はしなくていいとリグに言われた。
それでは本当にただ飯ぐらいになってしまうので
体には何の問題も無いアピールをしてみたけど、やんわりと断られてしまった。
この世界の人はお優しい。
その後、リグは仕事に戻り、私は体の採寸をとられたりと時間はあっという間に過ぎて
夜。
お風呂から上がって誘導された先はなんと王様の部屋。
えーーっとですね。
確かに寂しいと言いましたが
言いましたが、これはどうなんでしょうか。
若い男女がひとつの部屋で寝ると言うこの行為は!
頭にいっぱいの疑問を抱えながら無駄に広い部屋の中央で呆然としていたら。
お風呂あがりのリグが部屋に入ってきた。
まあ、ここはリグの部屋だしね。
おかしいのは私の方。
何かいわれるかと思ったら、私がいることに何のリアクションも起こさないまま、リグはそのままベッドへ。
え、あれ、無視ですか?それとも私のこと見えてない?
ついに透明人間になってしまったのかと興奮しかけた時、リグに話かけられた。
「聖女様、どうぞこちらに来て下さい。」
ポスポスとベットをたたくリグ。
いやいやいや。
「リグさんリグさん。お年はおいくつですか。」
小さい子じゃあるまいし仲良くおねんねできる年じゃあないでしょう私たち。
「50才になったばかりですが。」
ほらね。いい年をした若い男女が・・・・・・・・・。
「!!!!50!!??」
ま、まさかのおっちゃん!
「えーー!見えない。凄い若作り!」
そこで私ははっとする。
「私、同じくらいの歳だろうなーって思ってたから、口調砕けてたんだけど・・、じゃなく、ですけど。」
これは失礼なことをしてしまった。
「ご、ごめんなさい。最近の若い子は礼儀がなって無いなんて言わないで下さい。」
耳と尻尾をしゅんとさせて言うと、リグが慌ててこちらへ近づいてきた。
「謝らないで下さい。」
「でも。私、20歳の若者ですよ。」
「30歳の差なんて、私たち聖獣には人間にとって、3歳差のようなものではないですか。」
・・・ん?
「聖獣?私たち?」
「はい。私と聖女様は人間ではなく聖獣ですから、だいたい1000年は生きることになります。
30年の差など気にしないで下さい。」
優しく笑うリグ。
そして、また新たな称号がついてしまった私。
もうこれ以上はさすがに重いよ。
リグは私の手を引きベットに向かう。
「聖女様はこの世界に生まれたばかりで、何も知らないでしょうから
寝るまでの間、私がこの世界の話をしても宜しいでしょうか。」
そういうことなら。
ベットの上にささっと乗り正座をする。
「聞きたい!」
早く早くとせかす私を宥めつつ、リグは苦笑しながら横になる。
聞いた話を簡単に纏めるとこんな話になった。
この世界は最初、男と女の2神が力を使い、彼らの子供のために作り上げた世界らしい。
親である2神は龍と麒麟の姿であったが、子供は親よりも力が少し弱いため半獣半人の姿で生まれてきた。
8人の子供は親から1つずつ大陸を貰い、力を行き渡らせて豊かな大地と木々を作り上げた。
「ということは、リグはその8人の子供の中の一人ってこと?」
ファンタジーな話に目がランランの私に比べて、仕事で疲れているリグは眠たそう。
だけど、辛い顔はせずにきちんと質問に答えてくれた。
「いえ、私は彼らの子孫になります。
最初の2神は8人の神が大人になると、寄り添える魂を召還して・・・結婚させたのです。」
「じゃあ、リグはその8人の中の誰かの子供?」
「彼らの子供も同じように大人になると波長があう者を召還して、結婚して、を繰り返しました。
私は初代から5代目となりますね。」
5代目・・・思ったよりこの世界は新しいらしい。
いや、1000年生きるし、文明が出来てからと考えるとそこそこなのかな。
あれ、5代目ってことは。
「聖獣って他にも何人かいる?リグに兄弟っていないの?」
耳と尻尾がついた集団を思い浮かべてニヤニヤしてしまう。
先ほどまで質問するとすぐに返事が返ってきていたのに、この質問にはなかなか答えてくれないから
寝ちゃったのかなとリグのほうを向くと、リグは起きていて天井を見つめていた。
言いたくないのかな。それとも頭の中で数えてるだけかな。
じっと見つめていると、数秒後にリグはこちらを向き、ちゃんと質問に答えてくれた。
「私に兄弟はいますが、兄弟の中に、私以外で聖獣は居ません。
皆人間として生まれました。
生まれた子供の中で一人だけ、大陸を与えられる王となるのです。」
「え。そうなの。あれ、リグが王になったらリグのお父さんやお母さんは?」
リグに全部押し付けて隠居生活とか?
「・・・父は私が生まれたことで人間となり、城から出て行きました。」
「え!?」
「この大陸では、私だけが違う生き物なのです。」
無言で見つめてくる目が寂しそうだったので、何にも考えず近くにあったリグの手を握り締めると、一瞬で体を抱きしめられた。
他の兄弟は人間だから、ちゃんと50歳のおじさんになっているんだろうな。
そんな中、一人だけ取り残されるってどういう気分なんだろう。
無言で抱きしめられる力の強さが、彼の孤独を物語っているような気がした。
だから私は言い出せなかった。
とても痛い放せ、と。