次の日
目を開けると、名前の知らない芸術家が描いた、すばらしく綺麗な絵が天井に見えた。
寝て起きても豪華な部屋にいる・・・夢オチではなかったようだ。
眠気を覚ますために大きく伸びをして起き上がる。
窓から見える日はもう高く、お昼ごろにでもなっているんじゃないだろうか。
さすがに寝過ぎましたか。
その後、特に何もすることが無いので部屋をウロウロしていると、数分ほどでサエさんが部屋に来て朝の挨拶をしてくれた。
寝すぎたことを申し訳なく思い謝ると、サエさんは穏やかに微笑んで、「大丈夫ですよ」と言ってくれた。
癒しだ。
「さあ、こちらにお召し換え下さいませ。」
サエさんが持ってきてくれた服を着て鏡の前に立つと
そこには猫のお嬢様がいました。
いやいや。馬子にも衣装とはこのことですね。
黒色を主体として白いフリルがところどころについている。
大きなリボンでウエストを縛るタイプの可愛いドレス。
女の子ですからね。似合う似合わないは置いといて、可愛いの好きなんですよ。
にんまり微笑んで鏡を見ていると、サエさんが後ろに立って裾を直してくれた。
「聖女様はだまって立っているとお綺麗で、動いてお喋りすると可愛らしくなりますわね。」
サエさん!おだてたって何も出ませんよ。
それに私は知っている。
部屋にある洋服棚を開けると、聖女が来たときのために用意していたのか
びっしり衣装が詰まっていました。が!
ほぼ色気ムンムンのお姉さまが着たら似合うんじゃないだろうかっていう大人っぽーい代物ばかり。
私が今来ているものは、きっと急遽用意したドレスなんでしょう。
なんか申し訳ない。色々と。
洋服棚にあるドレスを用意した人たちは王様を思いながら揃えたんだろう。
リグは色気のあるかっこいいイケメンだから、そんな王様が召還するんだ、似たようなタイプの重厚な雰囲気を持った大人っぽい色っぽい聖女だろう、と。
あー、本当に申し訳ない。
でもいまさら取り返しつかないだろうし、やり直ししましょうと言って私をぽいっと放り出されたんじゃあ堪らない。
だって、きっと地球での私にはもう帰れないと思う。
ブラックアウトするとき魂が体から離れるぞっとする感触がしたから。
思い出すだけでも鳥肌が立つ。
だから、今手を離されたら私は本当に困る。
そうならないように与えられた仕事はキチンとこなしますよ?
「サエさん、祈るのってどうすればいいの?」
サエさんはにっこり笑って
「王と一緒に祈るのです。その前に、まずはお食事をしてお腹を満たしてくださいませ。」
そう言うと私を連れてどこかへ向かって歩き始めた。
後ろからは男の人が付いてきている。昨日紹介された護衛さんの内の1人だ。
目的地に向かっている途中の広い廊下には絵や壷、彫刻などが色々置いてあってきょろきょろしてしまったが
ふと、あることに私は気づく。
「お城なのに人がいないんですね。」
物はいっぱいあるけど人がいなくてやけに寂しい。
サエさんはふふっと笑う。
「ここもお城ですけれど特別な場所で、限られた者しか入れないようにしているのです。」
ほー。じゃあこの建物を出ればいっぱい人に会えるのか。
まあ、王様が寝起きする場所だからね。そりゃ信用できる人しかいちゃ駄目だよね。
ん?
私はいいのか?
まあ、聖女だからいいのだろう。きっと。
聖女様という地位は無条件で信用するに足るものなのだ。
神秘的なものには疑いなど何もないに違いない。ははははは。
と。
思っていたんですが。
食事するために着いた席にはすでに王様であるリグが座っていて
部屋に入ったときから私のことをジーっと見つめてきているんですよ。
何故?
今更私の身辺疑ってるんだろうか。
確かに昨日はハイテンションで、ぶっ飛びすぎてて変なこととか口走っちゃったけどさ。
ちらりと真正面に座っているリグを見てみたけど、先ほどと変わらず探るような視線は私で固定したままだ。
・・・うーむ。
一日たって冷静になってしまったのか。
そして私に疑いを持ったってわけですね。分かります。
私だって聖女なんて柄じゃない事は重々承知しておりますよ。
でもですよ。
勝手に召還したのはリグで問答無用でここに住む事になったのもリグのせいじゃないか。
思いっきり叫びたいけど、リグに捨てられたら生きていく方法が分からないので黙っておく。
こうなりゃ我慢大会だ。
こういうもんは先に口を開いたほうが負けなんだ!
そう思って両手を握り締めたところ、そんな私の勝手ルールなんて知らない対戦相手からすぐに声が発せられる。
「寂しいのですか。」
ん?
意外なことを言われたのでキョトンとしてしまう。
言葉が伝わらなかったと思ったのかリグは再度同じ言葉を言う。
「聖女様は寂しいのですか。」
そりゃあ
「一人になると寂しいですよ。」
顔をこてんと横に倒していうと、リグは目を見開きこちらをじっと見つめた後、同じようにこてんと顔を横に倒した。
なんだなんだ。
でかい男がふいに可愛らしいしぐさをすると結構、いやかなり胸に来ますね!
おもわず呟いてしまう。
「可愛い」
するとリグはふっと笑い。
「よかった。」
そう言うと食事を始めた。
え。
もしかして、可愛いさの追求ですか!?
えーーー!
これからもこういう事やってくれるのなら私かなり嬉しいんですが。
頭の中で次はどんな仕草をやって貰おうかと考えながら、私も食事を始める。
自分では静かに普通に食事を取っているつもりだったのに
尻尾と耳が嬉しそうに動いていたらしいが、私は気づかずパンやスープを黙々と食べ続けた。
少し頬を染めたリグがこちらを見ているのも分からずに。