人間!?
私が生活する部屋に案内してくれるというので付いて行く。
廊下の途中で見つけたガラスを覗くと、猫耳らしきものを頭につけて尻尾をピョコピョコさせている姿の私がいた。
うーむ。自分で言うのもなんだが、オプションのおかげで、少し可愛らしくなったように見える。
まあ、標準少女がほんの少し可愛くなったかな?程度の上昇だが。
「聖女様?」
男が振り返りこちらを見ていた。
付いて来ていない事に気づき、足を止めてくれたらしい。
慌てて男の傍まで小走りにかけていくと、また男は歩き出す。
彼の名前はリグという名前らしい。
本当はもっと長い名前をつらつらと述べていたけど、覚えられないから最初の2文字だけで呼ばせてもらう。
だって横文字って難しいんだもん。
世界史が苦手な私には難易度が高い。
それに、ちゃんとは覚えてないけど言われたら、あーそれそれ確かそんな名前だった。
ぐらいには覚えてるからいいだろう。きっと。
リグはどうやらここの国の王様らしく、私のことは彼が面倒見てくれるらしい。
よかった。このまま外にぽいっと出されたら、右も左も分からないよ。
私は細長いタイプの尻尾だけど、リグの尻尾は狼っぽい、もっさりとした尻尾だ。
それが目の前で左右に動くとか。
すっっっごい触りたいんですけど!
触りたい思いが強すぎて、目的地に着いたときには危うく涎をたらす一歩手前でした。
いかんいかん。
聖女様失格になるところだった。
扉のところには女の人が2人と騎士っぽい人が2人・・・・。なんと4人とも人間だ!
王様が普通に獣人だったから、この世界の人は皆、獣人がデフォルトだと思ってましたよ!?
リグに促されて4人の前に立つと一番左の50代と思しき女性が自己紹介をしてくれた。
「私はサエと申します。聖女様の身の回りのお世話をさせていただきます。」
ぺこりと頭を下げてくれたので、こちらもぺこりと頭を下げる。
次に一歩前に出てきたのは、サエさんの隣にいた20代後半に見える女性。
「私の名前はアンリと言います。聖女様に会えて光栄です。」
頬を上気させて言うのがたまりませんな。
キッチリしてそうだけどミーハーな部分も持っていそうだ。
そしてその隣の男性が続ける。
「聖女様の護衛をさせて頂きます。よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
二人はリグよりもさらにガッシリとした体系で壁!って感じ。
私は4人に向けて頭を下げて、よろしくお願いします!と元気よく挨拶をした。
何にでも初めが肝心だからね!
サエさんがドアを開けて私に「どうぞ」と部屋に入るよう促してくれたのだけど
王様であるリグはどうするのだろうと振り向くと、私のほうをじっと見つめていた。
リグさん?と声をかけると、リグは耳をピクピクさせた。
「説明は明日にさせて頂きます。疲れているはずですから、今日はすぐにお休みください。」
確かに。
特に何かしたわけではないのに、ものすごく眠い。感情のリミッターが外れたから?
私がこくんと頷くとリグは身をかがめて私と視線を合わせる。
「また明日、会ってくださいますか。」
「?説明してくれるんですよね。」
「はい。今後のことをお話させていただきます。」
「うん。リグさん、おやすみなさい。」
お休みなさい。と返事を返してくれた後、リグはじっと私を見つめたまま動こうとしない。
私が部屋に入るのを見届けたいそうだ。
王様に見届けられるなんて、なんてビップ待遇。こりゃ目の前の部屋も期待大だぞ。
と思いながらドアを通った向こう側は
想像していたよりも、滅茶苦茶広くてきらっきらした部屋がありました。
ここで生活しろと!?
アンリさんとサエさんは私をベットまで導くと明かりを消して部屋から出て行ってしまった。
3畳分ぐらいあるベッドの真ん中で目をギラギラさせて天井を見つめる私。
寝れるわけがない!!
体育館で一人で横になって夜を過ごせますか!?
いや、体育館ほど広くはないですけど。
とにかく広い部屋は落ち着かないと、半身を起き上がらせて、きょろきょろ周りを見渡してみると
ベットと壁の間を見つけて明案を思いつく。
上にかけてある布を隙間に落とし、数個ある中の小さい枕をひとつ選びその布の上に寝転がる。
視界がだいぶ狭まった。
これなら何とか・・・。
寝れません!
私の夜は友達とのチャットまたはスカイプ、電話をして満足感を得て寝るのがいつもの日課だったのに。
あの萌えトークがないと、いい夢見れないじゃないか!
あんまり萌ポイントは重ならなかったけど、アニメについて熱く語り合うことができた、ふーちゃん。
穏やかに頷いて聞き上手だったけど時々毒を吐く、いっちゃん。
その他にも顔は知らないけどネット上でお知り合いになれた創作オタク友達。
うわーーん。ホームシックになってきたよ。
「ふーちゃん・・・いっちゃん。いっちゃーん・・。・・・ふーちゃーん。」
布団を頭からかぶって、う~、と泣こうとしたら。
喉から出てきた声は
「ミー。」
子猫の鳴き声。
「ミー。ミー。ミー。」
自分で出しといてなんですけど。これ凄く萌じゃない!?
調子に乗って、どれぐらい可愛い声が出せるかミーミー鳴くことに夢中になっていたそのとき。
「私でよろしければ、眠られるまでお傍に居させて下さいませんか。」
!この声は先ほど紹介された人、アンリさん!!!!
聞かれてた!ていうか、いつの間に!
「どうでしょうか。」
恥ずかしい恥ずかしい!滅茶苦茶恥ずかしい。
布団からゆっくり顔を出すと、頬を染めたアンリさんがいた。
私は観念して体を起こし、アンリさんに向かって頭を下げる。
「お願いします。」
一人は寂しいのです。