召還
友達と道路を歩いていたら、急に目の前が真っ暗になって
手足の力が抜けて倒れこんでしまった。
「カスミ?!カスミーーー!」
耳には友達が私の名前を呼び叫ぶ声がぼんやり聞こえる。
大丈夫じゃないけどあんまり騒ぎにしてほしくない私としては
友達に向けてにっこり笑顔で落ち着くようにいいたかった。でも、体のどこにも力が入らないや。
これは本当にやばいかも。
意識は朦朧としていき、そのままブラックアウト。
気がつけば神殿のような内装の部屋の祭壇の上でぽつんと一人突っ立っていました。
祭壇の下にはフードをかぶった数人の人と、真正面にいるガタイの良い獣耳を頭につけた黒髪黒目の男の人。
召還キタコレーーー!!
と一気に気分が高揚する自他共にオタクと認められている私。
って獣耳!!??
まじっすか!
さらに倍に興奮する。
ふと自分の体にも違和感を覚え頭に手をあてるとモフモフとするものが。
後ろにもとっさに手を向けると細長いふよふよと動くモフモフのもの。
召還+獣人化ですかーーーー!!!
見た目は冷静に見えていたかもしれないが、内心ではお湯が沸いて沸騰するほど興奮している。
脳内妄想爆発だ。
「聖女様・・・大丈夫ですか?」
自分では冷静な外見を保っているようにしていても他人からはそうではなかったようだ。
黒獣耳の男の人は心配そうに尋ねてきた。
OKOK。全然大丈夫。むしろいつもの2倍は力出せますよ状態だ。今の私にできないことはない!
親指を突き出してにっこり笑って大丈夫!っとハイテンションで答えると。
男の人は一先ずほっとしたようだ。
ていうか、この男の人さっき私に向かって聖女様って言ったよね?言ったよね!
聖女設定きたーーー!
これはあれですか
「召還で聖女ときたら、この世界の誰かとくっつかないとならないって設定も付くとか!?
定番ですよねこれ!ね。ね。」
頭の中の妄想スイッチが入った私を誰もとめることはできない。
親友ならまだしも初対面でこのノリについて行けない目の前の男の人ならなおさら
口を挟むことは到底無理だろう。
「だったら私要望があるんです!」
はいっと綺麗に手を上にあげる。
「まずは身長!私と同じくらいか少し小さいほうがいいの。守ってあげたくなるような可愛い感じ?
あと黒色の髪と目の子!私と並ぶと双子!?みたいな設定で
時々衣装チェンジするとか萌えじゃないっすか?どうですか!?」
祭壇の上から飛び降り、腕を組んで内容を静かに聞いてくれていた男の人の目の前にかけていく。
私が目の前に来ると男の人は冷静に切り返す。
「くっつかないと・・・?夫婦になると言う意味でしたら、その必要は特にありません。聖女様はただ、居てくれればいいだけです。」
わーーーー・・・・・・。ですよねーー。そこまで盛り込まれてないですよね~・・・。
私がシュンとなって耳をペッタンとさせて顔を下に向けると
男の人は言葉を続ける。
「聖女様が望むのなら可能ですが。」
私は落とした気力を少し上げ、顔も上げ、期待をこめた目をすると。
男の人は腰を落とし私より頭を低くする。
「これで聖女様より小さくなれました。私は黒色の髪と目を持っておりますし。
あとは、可愛い感じ・・でしょうか。可愛いとはいったいどうすれば身に付くのでしょうか。」
いやいやいやいや。
そのガタイで可愛いとかないから。
てか、お前かよ。
確かに黒髪で黒目だけど、顔良すぎるから、双子にも見えないしそれに身長クリアしてないしね!
「えーーーーっと・・・・・・・・・。
聖女って何をすればいいの?」
私は何も言わなかったし何も聞かなかった!
すべて流させてくれ。スルーという荒技発動。
「聖女様はこの世界でただのんびり過ごしていただければ。
ああ。あと毎朝祈って頂くだけで、特別にしていただくことはありません。」
おお、楽勝だ!
世界を救うとか、神託を受けるとか、魔王退治とかその他諸々の重荷で胃が悪くなりそうな役割が無いとはラッキー。
私は敬礼のポーズをとり、オッケー!と軽く返事をした。
男は私の目をじっと見つめてくる。何か言いたいようだ。
何だね?聖女様に何でも言ってみなさい。
「先ほどの件ですが、可愛いとはどうすればよいのでしょうか?」
わーー。流れてなかった。