久々の依頼
読んでくださった方ありがとうございます。
6月頭。梅雨入り宣言が迫っているであろうこの日、予想外の雨に降られながらバイト先である男鹿探偵事務所に到着したのはいつもより30分程遅い17時過ぎだった。
男鹿探偵事務所。5月上旬に僕の身に降りかかったある事件をきっかけに僕が探偵助手としてアルバイトをしている事務所だ。しかし、探偵助手といってもきょうび探偵なんてそんなホイホイと仕事が入るわけがない。しかもこの探偵事務所は大通りから外れた裏路地のさらに奥にある。さらに特殊な事件専門となれば依頼人なんて来るわけがない。実際問題、僕がバイトとして通い始めてから1ヶ月弱、僕の関わった事件以降1つも依頼が来なかった。
じゃあ、何の仕事をしてるかって?それはもちろん、掃除とか掃除とかあと掃除とかだ。おかげで事務所はピカピカに!!・・・まあ、つまり雑用ということだ。
冗談はさて置き事務所に入るために階段を上る。2階は探偵事務所だが、1階は喫茶店になっている。
「おはようございます、早矢さん。」
僕はいつも通りの挨拶をしながら扉を開け中に入る。早矢さんというのはここの社長兼唯一の社員である男鹿早矢の名前である。以前男鹿社長と呼ぶと「男っぽいから苗字嫌いなんだ、あと社長と呼ぶなむずがゆい」という理不尽な理由で殴られて以来、下の名前にさん付けで呼ぶようにしている。
と、そこで気づく。普段なら事務所に絶対にいないであろう人がいることに。そう、依頼人だ。普段ならいないと断言できるのはちょっとどうかと思うが。
「おお、ちょうどいい所に来た。コーヒーを入れてくれ2人分な。」
依頼人と向かい合う形で椅子に座っていた早矢さんが僕に声をかける。僕ははいと返事をしながら奥にあるキッチンへと向かう。向かう途中で依頼人の方を見た僕は驚き腰を抜かしかけた。依頼人は真っ黒のスーツを着て黒い髪をオールバックにしてワックスで固めている。そこまではいい。頬に明らかな銃痕があるのもこの際良いだろう!けど、机の真ん中に普通に拳銃が置いてあるのはどーかと思うなあ僕は!!
僕が驚いている姿を見て依頼人はああと言いながら机の上に置かれたその黒光りしたものを手に取った。
「これは私が護身用に持ち歩いているものでね。職業柄恨まれることが多くてね。ここでは必要ないから手の届かない場所にと思っていたのだが、逆に君を怖がらせてしまったようだ。」
そう言いながら黒スーツを着た明らかにヤ○ザな依頼人はそれを胸ポケットにしまう。僕はその光景をボケーっと観察していたが、早矢さんの「コーヒー」というやる気のない催促で我に返り台所へ急いだ。
インスタントのコーヒーを入れてもう一度2人の待つ机に向かう。コーヒーを入れている間にある程度落ち着いた僕はさっきの場面を忘れるという超画期的な手段を実行し、失敗した。今後しばらくコーヒーを出す僕の手が震えて、周りにコーヒーが溢れまくったことを早矢さんに何回もネタにされたのはまた別の話だ。
僕がコーヒーを出すと、いや出す前から2人は机の上に置かれたいくつかの資料を見ながら何かの話をしていた。断片的に聞こえてきた話では死体がどうのとか凶器がどうのとか何やら刑事ドラマでも見ているような気分になった。
時計の針が6のそばで重なった頃、「それではお願いします」と言いながら依頼人が立ち上がり帰り支度をしている。どうやら話は終わったようだ。テキパキと帰り支度を済ませると携帯電話でどこかに電話をかける。そしてそのままもう一度「あとはお願いします」と早矢さんに向かい頭を下げ事務所から出て行った。その間僕は緊張しっぱなしだったのは言うまでもない。
「さて」と言いながら依頼人が机の上に置いていった資料を集めている。僕は「手伝いますよ」と言いながら机に向かう。机の上で散らばっている資料に目を落とし、そして今度こそ僕は腰を抜かした。
資料の中には生々しい殺人現場の写真などがあった。夜なのか写真は全体的に暗く赤黒い背景でその真ん中にオブジェのように死体が置かれている。だけなら別に腰を抜かしはしなかっただろう。その死体に手足があればの話だが。よくよく考えると赤黒い背景は血の色なのだがその時の僕はそこまで頭が回らずただただその死体の異常性に目を奪われた。
だが、それはあくまで写真だ。さっきの拳銃と比べれば落ち着くのも、なれるのも早い。立ち上がり、その写真を見ないように注意しながらも早矢さんと共に資料を整理していく。と、そこで僕は今までとは別の意味で驚きの声を上げた。
「あの、早矢さんこの人は?」と僕は明らかに隠し撮りであろう女子高生が写った写真を指差しながら早矢さんに尋ねた。
「ん?ああそいつは後で詳しく話すけど今回の事件の重要参考人だよ。」
そういやお前と同じ学校だっかなと早矢さんが続ける。そう、その写真に写っているのは平日は毎日顔を見ているであろうクラスメイトだった。写真の裏にはその人物のものであろう名前が書かれている。
「柊 凛」と
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