バス旅行
なし
トンネルを抜けるとなんとかかんとか。
遠いどこかで誰かが言っていた。
その静寂とは別に車内はとてもざわついている。
いや、浮かれた雰囲気だ。N県の県境まで行くらしい。
山また山の感じがする。さすがに高速なので、風情は遠い。すうっと流れる感じがする。
バスは何台も連なっているそうだ。
私は、やや寝坊し、本当は行かなくてもいいかと考えた。
しかし、学生課の職員に行かない者は
「お尋ねものになる」「私の言うことを聞きなさい」
30代後半 女性職員 みつこに言われた。
やや高圧的、いやかなり高圧的、というか脅迫か・・・
最後まで抵抗したが、名簿に一つだけ見事にぽっかり
空いている空欄に○をつけさせられた。
大学を続けるか。それとも。それが踏み絵らしい。
担当教官への学生のお披露目もあるので
絶対の参加、服従?だそうだ
大学は自由な思想?ではなかったのか。
そして、来ない者は左遷!!!というのか
村八分の憂き目にあうらしい。
そういった流れ者に憧れる自分がこわい。
しかしながら昨今の少子化大学としてもいきなり退学者を出すわけには
いかないと考えているらしい。それが踏み絵と説得か。
果てしなくだるさを感じる
話をだいぶ前に戻す、実は、入学式でシラバスという
電話帳かと見違う冊子を渡されたこの帳面から
自分の選択する単位教科を選ぶらしい
調子のいいヤツは、そこから単位が簡単に取れるものを
入部しようとしているサークルの先輩から聞き出すらしい
もちろん、私はまだ開いていない
おそかれ、はやかれ、また、みつこに呼び出されるであろう。
もちろん、みつこは私が勝手に付けた名前なので本人の名を知らない。
君の名は誰。どこかで聞いたフレーズだ。
そんな私であるので、自分がどこに所属しているかわからない
発車ぎりぎりのバスで多分私がこないだろうでいらつく
学生課職員 よしおに学籍番号を言いなぜか出発が
最後のこのバスによしおと共に乗り込んだ、いや押し込まれた。
本当に流れ者はいなかったのかあと少しで流れ者になれたかと思うと
また、春休みのやくざを思い出し、少し天をあおいだ。
去る者は追わず。後日談だが去る者が若干名いたそうだ。
永遠にたどりつかない尊敬。
さてそんな私の氣持ちにはおかまいなく、バスはどんどん進んでいく
はじめの頃こそ、携帯片手にぺこぺこ頭をさげ、さも私は悪くないを
演じていたよしおも快調にすすみ、先発隊に近づくことを確認できると
不機嫌さがなくなったようだ、しかしながらそれに反比例しながら
私の心は沈む、何年も前からの親友みたいな顔で座席でしゃべる周りの人々
なぜか、最後尾が空いていて本当によかった
みんなの無言の追い立てか。一人。
しかしそれがかえってすがすがしさもあり
少しの寂しさもあるが、氣疲れするよりはましか
どこでもいるおせっかいなヤツが菓子をまわしながら
情報収集にこないうちに眠ってやろうと眼をとじた
幸い自分のアピールに精一杯の人々だらけで
一握りの偽善者もなく平和に私は深い眠りにつくことができた。
そして、起きるとバスは止まっていた。
車内に人氣はない。誰もいない
はっとするが、どうやらトイレ休憩のようだ
よしおのいびきが最後尾まで聞こえてくる
みんな青空の下、湖畔で戯れている
遠くに名のある山が見える
歓声をあげしきりにデジカメで写真を撮る集団
お互いに撮り合い仲間意識を作っている
偽りの時間
友だちごっこのはじまり
ふと見るとそれらの輪にそまらず、ベンチに座り
はぐれているものをいる
何かのポーズか、誰も声をかけなくても動じない
すがすがしさを感じる
一人を楽しんでいるのが伝わる。すごい感心した
そして、誰も氣づかない
心の強い芯がある
窓からしばし眺める。
遠い山と同じく清々しい。
なし