月日は過ぎて
あれから、月日が流れた。
とても忙しく、そしてなによりも違和感のある生活を送っていた。
レオはまったく話しかけてこなくなったし、このごろ学園を休んでいる。
そして王子とはまったく校舎内で会うことがない。
リオンも休校中で、リオンを口説いたらしいルーテも休んでいる。
それは実に平穏で少しさびしい部分もあるが心休まるひと時なことは間違いない。
だが、それ以上に、私は仕事に頭を悩ませていた。
私の仕事は家からの問題ごとの解決で頭を悩まし、
ろくに睡眠もとれずに日は一刻とすぎていった。
両親が待つ屋敷には帰らず、別荘のひとつに身を置いている。
そこへ帰るほうが近いからだ。一人のほうが仕事がしやすい。
何も食べず、寝ずの状況が続いて、ついに最終日。
そのせいか、今日はとても頭が痛い。
終業式。
そして、帰りの会と授業。最終日はとても気分も体も最悪だった。
それと同時にもう解放される安堵感がにじみ出る。
すべてが終わって帰るときだった。
もう私の帰るころにはほとんど誰もいない。
誰もいない廊下で、私は壁に手を当てて少し休んでいた。
「・・っ」
思っていた以上に、ぐらぐらする。頭が割れるように痛い。
視界も霧がかかったようにかすんでわからない。
「リュネ・・?」
そんなとき、ふと、前方から聞き覚えのある甘い声がした。
「・・っ!?」
リクト殿下だ。
逃げなきゃ。
いつのまにか反射的にそう思って、
殿下と反対方向を走った。
「ーーリュネッ!!」
だが、全力で走れない。
息がすぐに切れ、足元がおぼつき、視界がはっきりしなくなる。
声も遠くで叫んでるようにしか聞こえなかった。
すぐに追いつかれ、目の前に彼が立ちふさがった。
急に止まることも出来ないのに、方向転換が出来るわけがない。
そのまま彼にぶつかり、意識が薄れていく。
「リュネッ・・!
お前、熱が・・---!!」
体を支えられ、崩れ落ちる前に
肩をつかまれ、彼と視線が交錯する。彼の手は冷たかった。
視界があやふやな私でも、会うのが久しい今日の殿下は
いつも以上に慌てて動揺していることが見て取れた。
まだ、気を失うわけには・・いかない。
「で、・・んか、
だい、・・じょうぶ・・・・で、す・・。ーーー・・ッ”」
声を必死に搾り出すが、かすれて、弱弱しい声になってしまった。
大丈夫なんて自分でも思えないくらい体が動かない。
それは余計に彼を慌てさせるだけだった。
「んなわけないだろう!?こんなに熱いのに・・・!!無理するな・・ッ”!
俺を、見てにげたりなんかするから・・!!」
殿下は私に必死で叫ぶ。意識を保たせるためなのかもしれない。
でも、・・でも、と私は思う。
でも、・・自分を、殿下は自分自身を非難してるかのような響きを込めてた気がした。
今までの自分を責めてるような響きが・・。
そう思い至ると、より、彼に警戒心をとき始めたのかもしれない・・。
意識が遠のいた。
「・・・っ””」
もう・・・だめだ。
「リュネッ!?
おいっしっかりしろっ!!リュネッ!!リュ・・」
目を開けてても闇に包まれつつあった、視界をふさいで、目を閉じ、
私は・・意識を沈めた。