衝突と甘い囁き
指輪の指示を受けた次の日、
私はめったに学園に来ない学友のリオンと一緒に、昼休みに資料室に行こうと言う話を教室でしていた。
「リオン、久しぶりだね
体調は大丈夫?」
私は優しく話しかける。
桃色の髪を持つリオンは体が弱く、魔力が乏しい。
本来、人はさほど生きることに魔力は必要ではないのだが、
日々、魔力の補給が必要なぐらい彼女の体は魔力に依存していた。
「だいぶ補給したから大丈夫。
しばらくは通えそうだから心配しないで」
ふんわりと彼女は笑った。
私も安堵してそれなら…と資料室の話を持ちかける。
「ねぇ、
だったら資料室に行かない?
まだ、宿題が終わってなくってさ」
「うん、いいよ。私もたまっている課題やらなきゃいけないし」
という会話で行くことが決まった。
お互いに足りないところが同じだから笑って話せたのだ。
…よかった、これでもう追いかけられない。
私にとってリオンがそばにいてくれることは殿下との接触を阻むことにも繋がるのだ。
殿下は周囲に人がいると手を出してこない。噂などを気にしてくれるのだ。
この婚約はまだ知られてはいけないから。
「まだ終わってないのか?リュネ」
唐突に会話にレオが割り込んできた。
さも上から目線で人を馬鹿にしてくる。
「な…!?
し、仕方ないじゃん!
だって昨日は…。」
慌てて理由を言おうと思ったけどそれは躊躇われた。
「昨日は…??」
いぶかしげに聞いてくるレオ。
「いや、なんでもない。
やるの忘れてただけ」
私は心を沈めてそう答えた。
実際はそうではなかったが、
やるような気力が、体力が残ってなかったのだ。
何故なら
昨晩は叩きつけられた背中と締め付けられた喉が痛みだして耐えられなかったから。
「…ふ~ん。
ま、昼休みに頑張れば?」
いつもしつこいレオも追求はしないままそうにやりと口角を上げて言った。
「…言われなくてもやるよ!」
つとめと明るく言うことで一瞬怪しかった雰囲気をもとに戻し、
会話は終わった。
「昨日何かあったの?」
「まぁ、ちょっとね…」
小さく不安げに問うリオンに私は言葉を濁して頷いた。
そして昼休み。
二人で資料室に向かい、それぞれに資料を探していく。
ズラリとならぶ本や資料の棚は古いものから新しいものまで幅広く並べられていてとても広かった。
人気のない資料室の隅で探していると
自分の身の丈では届かないところに、
「あ…!」
お目当てのものが見つかった。
精一杯背伸びをしても届かない。
「ッー~…ゥ"」
背中に鈍い痛みが走る。
まだ完治していないのだ。
そうやってもたもたしているうちに
誰かの影が私をおおって…
スッー…
と、
とろうとしたものをとってしまった。
そしてそれをそのまま私に差し出してくれた。
これで宿題ができる…。
そんな安堵と共に
「あ、ありがとうございます…ッ!?」
そうお礼をいって受け取ったとき、
グイッと体を隅に引っ張られた。
バンッ
と再びあのときのように打ち付けられる。
「ツ"……ゥ”」
今の衝撃で目の前が一瞬暗くなり
前方へ倒れそうになったところを支えられ、口付けられた。
「…んんぅ!?」
この動作でいったい誰の仕業かわかってしまった。
あの彼だ…!
勢いよく吸い付かれ頭もくらくらしてくるがそんなことはどうでもいい、それよりも…
「や、やめ……ッ"」
「やめない…」
必死に彼の胸元を押して抵抗し睨むが彼は私に甘く囁いてやめようとししない。
「んッ…リ、リオンが…」
私は友達と宿題しに来たのだ。
彼とこんなことをするためじゃない。
そう訴えようとすると
彼は口づけを一旦やめて、
「ああ、あいつか。
リュネといた女なら俺と同じように口説いてるから問題ない」
とあっさりそういって私を抱き寄せると後頭部を押さえつけてキスしてきた。
「な……ツ!?」
な、なんだって!?
あのリオンが?!
そう叫びたかった私の言葉は彼の口の中に消えていった。
「んっ…んぅ、…んんー!」
時折口の中に割り込んで入ってくる彼の舌は私のそれを絡めて弄ぶ。
ちょ、ちょっとまってよ、
さっき口説かれるっていった!?
この状況のどこが口説いてる
っていうのよ!!
「んっ、んっ…、んんーー!!」
舌に翻弄されながらも抵抗を諦めない私にちょっと苛ついたのか彼は
一旦深くキスをして中断した。
「なんだ、
またしてないのか、婚約指輪。
しろっていっただろ?」
と自分のを見せてくる彼。
彼のは至ってシンプルなリングだ。
なのに私のは…あのおもたい大きな指輪。不公平すぎる。
「あんなのつけられっこな」
つけられっこないでしょ!!
再びキスされて何も言えなくなってしまったが、再び離れると
「ッ…!!つ、つけられないってあんなの!!でかいし、重いし、似合わないし
第一……」
「リュネ…?」
彼ではない声が彼の後ろの方から聞こえてきた。この声は…
「レ、レオ!?なんで、ここに…」
私は、はッとなって緩んだリクトの腕から逃げ出した。
だが、がっと肩を後方からぎゅっと抱きすくめられ動けない。
レオもまた私とリクトを見て硬直していた。そしてリクトを睨んでいる。
「お前は誰だ?」
リクトの威嚇するような声が
耳元で発せられた。
「俺はレオ。
そいつを離せ」
「何故…?」
そうリクトは問いかけながらも私を離してくれない。むしろ強くなった。
「ィタッ……"」
思わずうめいた。
体が密着して肌でリクトの感情が分かって怖くなった。リクトが怒ってる。
それもどうしようもなく。
「リュネが痛がっている。
それに…
リュネはあなたのものじゃない」
レオはきっぱりと言った。
レオもまた怒っていた。
「いやだね、こいつは俺のものだ」
リクトはそういって私の首筋に口付けた…そして強く吸い付く。
まるで所有物に自分の印をつけておくように。
「ッ"…!」
わたしは顔を歪めて耐えた。
甘いしびれにのせられないように。
「ッ!!
リュネを…リュネを離せ。
そいつは殿下の勝手な都合で振り回せるほど体のいい玩具じゃない」
そういうと、一歩レオが近づいた。
「レオ…!」
たまにはいいこというじゃん。
そうだよ、私は玩具じゃない。
でも…。
「お前に俺のやることを咎められる筋合いはない」
彼は言い切った。
それが当然かのように。
「そうだな。…筋合いはない。
だが、だからといって
見過ごすことなんてできるほど心は広
くないんだよ、殿下」
レオは瞬時に私の肩を抱く殿下の腕をつかんだ。
そして…そこから炎が
ボォォォウ""
と、吹いた。
「ひィ…ッ」
目の前に燃え盛った一瞬の炎。
怖かった。距離感0の殺気の炎は。
「つぅ"ー水よ!!」
リクトがそう叫ぶと
一瞬にして炎はかき消えた。
それと同時にレオが飛び退いた。
「うぅ"」
リクトがうめいて膝をつく。
それと一緒に私も床に崩れ落ちた。
そして一番先に見えたのは
攻 撃 さ れ て も な お
私 を 抱 く 火 傷 を 負 っ た 腕
「リ、…リクト!!」
私は青ざめた。
いくらなんでもこれは……。
そう私に思わせるほど、彼の腕は重症だった。
やりすぎだ…。
柄にもなくそう思った。
「…ッ」
彼は痛みで顔を歪め、動けない。
私はとっさに癒しの呪文を唱えようとした。しかし…
「リュネ、俺がやる。やりすぎた。
お前は離れろ、そいつから」
レオが怒りと後悔の念を抱いて呟いたのがわかった。
私を殿下から離して
片手で彼の腕を直す。
「…。」
リクトはレオを睨んでいた。
だが、
私を取り返そうとはしなかった。
キンコンカンコーン
キンコンカンコーン♪
遠くのようで近くに聞こえた鐘の音が響いた。
「殿下、俺も我慢できない。
次、苦しめてたら…
殿下とて容赦はしない」
「苦しめはしない。
婚約者だからな」
レオの言葉に
フッとリクトは不敵な笑みを浮かべて甘くささやいた。
「…ッ!!」
レオは苦しそうに息を詰めた。
「殿下…?」
今までの殿下とはまた違った雰囲気をかもしだしていたので
私は首をかしげた。
「いくぞ、リュネ」
「うん、まってレオ」
レオに引かれてその場を去るときに、
「リュネ、次は俺のものだからな」
「ぇ…?」
そう囁かれた。
甘く勝利に満ちた声で。
その言葉がずっと私の頭の中で繰り返されていた。
レオがリュネを勝ち取ったぞ!!
だが…
最期にレオ…なんだか負けてない??
「負けたかも、
俺ただの従兄だし」
「ふんっ俺様に怪我を追わせても逆効果だったな^」
「…… 。」