回復ーーーお誘い
***リュネ視点***
記憶を呼び起こしてから、数日がたった。
なんとか体調のほうは良くなり、いつもの調子を取り戻しつつある身体に
もう看病は必要ない。
「もう、大丈夫なのか?
もう少し、ここで回復を促してもーーー」
「何度も大丈夫だといっています、殿下。
無理はしません。屋敷に帰ります」
「だがーー」
「帰ります」
あれから殿下と眼を合わせるのが怖い。
思い出すからだ、父の・・あのまなざしを。
あのやさしさ、温もり、必死な心配そうな・・感情を宿した
愛とよぶだろうその色を。
だから、眼を合わせない。
向かい合い、
そのまま強く帰ることを強調する。
今日、帰ることにしたのだ。
そばにいることで、貸しは増やしたくないし
なにより、思い出したくない。もうあんなのは。
城の入り口付近で、別れを完全に切り出していた。
「・・わかった。
リュネ、頼むからもう無理はするなよ」
あきらめたように彼がつぶやいた。
「わかってます。」
それにほっとしてうなずいた。
「看病してくださったことは感謝してます。
お礼もいずれ」
「ーーじゃあ、来週の今、どこかでかけないか?」
お礼もいずれする と言おうとしたところで、
彼が切り出した。
「え?なん、で?」
思わず本来の素の口調で問い返す。
こんなことを言う彼は初めてだった。
「俺にお礼をしたいんだろう?
まだ夏休みもある。課題はないのだから遊ぶ時間くらいあるだろう。」
「---」
「まだ助けられたことを負い目に感じるのなら、
その借りをこれでチャラにする」
どこか、言い訳がましく彼は私にyesを求めた。
彼は私になにがしたいの?
わたしは、そばにいたくないのに。
どうして。
お礼なんてこんなことよりももっと他にーーー
「いいの?そんなことに使って。
他にももっと使い道がーー」
「俺はそれでいい。
俺がそういってるんだから、いいだろう?
それとも来週は予定が入ってるのか?」
入ってないとすでに彼は知っていてそう聞いてきた。
ずるい。
わたしには断るすべがない。
なんでなの、わたしは、いたくないのに。怖いのに。
恐怖と不安が渦を巻く。
それから逃げたいのに、逃れられない。
「はいって、ないけどーー」
「だったら、その日、俺がお前を迎えに行くから、
どこか行こう」
「!?」
迎え!?やめてよ!場所が知られてしまう!
「!迎えに来なくてもいいっ
私が城にっっ」
「お前が出向くのは気が引ける。
俺が誘ったのだからーー」
「だったら、どこかで待ち合わせを。
それなら、フェアでしょう?」
屋敷を知られたら、これから先休日、
家にこられてしまう可能性がぐっと高まる。
身分的にもわたしは断るすべがない。
「・・それも、いいな。
じゃあ、城下町の繁華街の入り口集合な」
「わかったけど、--殿下、いったいどこにーー」
「そのときまで楽しみにしてろ。
きっと、お前も楽しめるから」
ふっと意味ありげに彼は微笑み、すがすがしくそう断言する。
「ーーー」
その表情になんでか不安が押し寄せる。
「あぁ、あと敬語はやめろよ?」
たくらんだ笑みに少し甘さが増した。
「え、?」
「今のように普通でいいから。」
やさしいやわらかい声で言われる。
やさしげな少しかげりのある視線が自分に向けられる。
眼はあわせない。だから、感じないはずなのに、わかってしまう。
どう、してー・・?
なぜ、--わた、し、はーー
「う、ん。--わかった」
ことわれ、ないの?
命令ではなかったのに。
「じゃあ、また来週。
リュネ、それまでに回復しとけよ」
すっと、私に近づいて、
チュッ
額にキス、された。
「!!」
「俺の婚約者だからな。
初デートは俺に任せとけ」
耳元で甘くささやかれたその言葉は
私への挑戦とも、婚約者としてのプライドとも
受け取れるものだった。
さぁ、トラウマと愛の長きにわたる決戦が
いざ、スタート!!
「絶対かってやる!!」
「・・勝ち負けって、あるの?
だって、過去は消えないし」
「--そんなもん、現在には勝てないだろ!」
「・・・そもそもわかんない」
「俺が教えてやるから、大丈夫だ。任せろ」
甘く、殿下は彼女にささやいた。
なかなかどうして甘い終わらせ方をしようとするのでしょうな。w
では、次回また会いましょう^