矛盾と失敗
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「お、俺を好きになってほしい。
俺を愛してほしい。ずっと、---」
俺は告白まがいなことをした。
急に態度が冷たくなった彼女を引きとめようとするために。
俺を見てほしかった、縛られた彼女を解き放って、自分から決めてほしかった。
彼女の意思が心が自然と俺に向かうように、俺だけを。
でも、それは、彼女の中のトラウマを呼び起こした。
そう、俺は気づいてなかった。
彼女に向ける俺の愛が、彼女に不信感を出させたことを
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「リュネッ!!リュネ!!」
何度も叫んだ。
俺が告白まがいなことをして、彼女の瞳がうつろになる。
こういうとき人は、過去を思い出す。記憶は脳と心を支配する。
体をおいて意識だけ記憶にとんでいってしまったんだ。
彼女を抱き起こして必死に彼女を呼び戻そうと名を叫ぶ。
好きだ!愛してる!頼むから、戻ってきてくれ!リュネ!!
もう俺をおいていかないでくれッ
名前を呼んでも反応しないお前の体だけじゃ無意味なんだ!
お前が目の前にいる。苦しんでる。
名前を呼ぶしか、俺にはできない。でも、お前は応えない。
心に虚しさと焦りが広がった。絶望に追いやられていく気がした。
お前が倒れたときのことを思い出して、もういやだと首を振る。
耐えられない。俺も辛い。
できることなら変わってやりたい。
あの苦しみも、つらさも。すべて。
必死に叫んだ。
言葉にできない感情をすべてこめて。
そして、---
「ッ”!」
瞳に感情が一瞬戻った。目が合って、視線が絡まる。
俺が彼女の瞳に映った。
やっと、聞いてくれた。
やっと、戻ってくれたッ、反応してくれた!!
不安と虚しさに光が差した。
安堵が広がり、もう手放さないと強く思った。
だが、
ガクンッ
「リュネッッ!!」
俺を見て、彼女は恐怖を宿し、虚空へと逃げた。
体から完全に力が抜け、今度は意識を失った。
「リュネッ!---ッくそ!」
俺は唇をかみ締めて悪態をついた。
助けられない。
俺ではーーリュネを。
自分が身勝手にあんなことしたからだというのに、
苦しむ姿は見たくないと思ってしまう。
救いたいと思ってしまう。
どうしたら、お前を救えるんだろうか。
どうしたら、お前は俺に心開いてくれるだろうか。
俺は彼女を抱き寄せて寝台に再び寝転ぶ。
リュネは自分が持つ記憶すべてをトラウマにしてるといっていいくらい、
記憶を思い出すとーーおかしくなる。
狂い、リュネがリュネでなくなる。
俺は今そう悟った。
そして、トラウマを呼び起こしたのは自分。
今回の鍵は、愛。
どうしてこんなにも彼女は混乱するんだろう。
そこまで考えて思い出した。ーー王族のパーティの一件。
なのに、
どうしてこんなにも自分はガマンできないんだろう。
彼女が、パーティのとき、愛という言葉に眉を寄せていたのは
知っていたのに。
俺が自分を止められないがために失敗を繰り返す。
判断と行動は間違える。
自分の心とは反対の言動をしてしまう。
自分が許せない。
失敗することでリュネとの距離は遠くなる。
リュネの心は脆い。
すぐに崩れてしまう。
ひび割れたガラスのように。
繊細で弱くて、でも必死に強がろうとして。
愛してるのに、俺はいつも壊してしまう。壊したくなる。
俺も、頭を冷やさなきゃな・・
「・・」
再び、目を閉じて、落ち着こうとした。
***
翌日。
「んっ・・・」
彼女が目を覚ます。
ぼんやりと俺を見た。
「リュネ、大丈夫か?」
「ぇ?」
パチッと目が合う。
「ッ!」
彼女は一瞬、俺を見て驚愕し、
恐怖し、すぐに目をそらした。
「っ・・」
その行動に俺は傷つけられる。
---いつもと何か違う。
俺を不安に、孤独にさせる。
俺は嫌な予感がした。