欲しい?
「!?」
欲しい?
私を、殿下が??
聞き間違えた、と一瞬そう思った。
だって、婚約者というのは
彼が従わない私を従わせるための肩書きで・・--
「最初は、ただお前が思うとおりに
従わせたかったんだ。だけど、今は違う」
「いまは、何?」
ぎゅっとなおも抱きこんでくる彼を押しのけて、聞いた。
「いまは、お前が欲しいんだ。
お前が他の男といるとどうしようもなく苛立つ。
お前が倒れて・・--もうお前を失いたくないと思ったんだ」
他の男と私が苛立つ?倒れたから・・--失いたくない?
一体彼は何を言っているの?
「ーー・・」
「あんな気持ちはもういやだ。
頼むから・・--もう無理はしないでくれ」
「で、んか・・--」
いつになく泣きそうな淋しげな瞳で見つめる彼。
いつもの挑戦的な、憎たらしい眼差しはどこへいったのだろう。
甘くなって、消えてしまったみたい。
でも、
私は、シンジラレナカッタ。
「うそ・・--。信じられ、ない。
だって、殿下は、私が、苦しむのを見て楽しいのでしょう?」
「違う!そんなんじゃない!
今は違うんだっ、嘘じゃない。
リュネ、俺はもうお前に苦しんで欲しくないんだ。」
私に必死ですがるように彼は言った。
なんで、彼は、そう思うの?
「ちが、う?
じゃあ、・・いまは何?」
ひどく冷静で吐き捨てるように
私は問いかけた。
「リュネー・・、俺はお前が欲しいんだ。
俺の物になっってくれ。
俺の全部がお前のものだから、
本当の意味で俺と婚約者になってほしい」
彼は吹っ切ったように、開き直ったように
決意のこもった眼差しで私を見つめてきた。
「本当の意味?
わら、わせないでよ・・殿下。
私はあなたの婚約者よ。
なにも意味なんてない。あなたがそうしたのだから。
そうでしょう?殿下」
意味に本当も嘘もない。
彼はおかしい。
私が彼の婚約者となった時点で、私は否応なくあなたのものなのに。
「ち、ちがう!
そういう意味じゃない。
俺はお前の心が俺に向いて欲しいんだ。」
「たとえば、どうやって」
「お、俺を、好きになって欲しい。
俺を愛して欲しい。ずっと、そばにいたいと思えて欲しい」
「っ!」
好き?
愛して欲しい?
そばにいたい?
頭の中でそれだけがぐるぐるまわった。
その言葉の羅列が
とてつもないナニカを一瞬で呼び起こした。
ヴァアアンッ”
「っ~~--!!」
視界が瞬く間に景色から違う次元に引き込まれる。
息が苦しい。
次第に目の前の意識が遠ざかっていく気がしたーー。
「リュネ!?おい、リュネ!
どうした!?しっかりしろ、おい!リュネーー・・」
声が遠ざかって・・---消えた。
目の前に残るのは、記憶の断片。